今終わらせるのが吉か、それとも・・・

とうとう世界感染者数では250万人突破、国内だけでも10,000人を軽く超えてまだまだ収束の兆しすら見えない新型コロナウイルス禍。

そして言論の世界(?)では相変わらず「感染拡大阻止のためなら何でもやれ」派と、「経済を守れ」派が、飽きもせず不毛な論争を続けている。

自分が、今の状況を目の前にして一番大事なものは何か?と問われれば、感染拡大の抑制に決まってるだろ!というのは、このブログでもちょっと前に書いた通りだし*1、今世の中で流布されている「経済への悪影響」に関する様々な言説の中には、明らかに”過剰”と思えるようなものも多い。

確かに身近なところで飲食店が閉まる、人の移動量が減る、工場まで閉鎖し始めた・・・といった様子に触れてしまうと、悲観的なトーンの論調ばかりが浮かび上がってくるようになりがちだが、その一方で、報道されない活況、報道されない好業績を既に公表している企業もあるし、まだ数字としては表に出てきていなくても、うねりのような引き合いに嬉しい悲鳴を上げている業界もあったりする。

そして、ちょっと前まで金融機関が貸し手探しに困るくらいお金がだぶついていた昨今の状況を考えれば、「大胆に借りる勇気」さえあれば、半年、1年乗り切ることも不可能ではない、というのが今の現実だったりもするわけで*2

もちろん、今回のコロナ禍が長引けば長引くほど、これまでの日本経済を主役級で支えていた会社、業界の一部の中に、奈落の底に突き落とされるところが出てきても不思議ではない。

ただ、そういう会社、そういう業界が1つや2つ出てきたところで、それをもって「経済の破壊」だとか「破綻」だとかいうのは、ちょっと違うだろうと思うし、数々の山と谷を超えて、新陳代謝を繰り返してきた結果、築かれているのが今の経済であり、この国の「産業基盤」だったりもする。

要は、「経済」ってそんなに薄っぺらいものではないでしょう、というのが、ここで言いたかったことの一つ。

そして、先走って「アフターコロナ」のことまであれこれ考え、景気の先行きまで心配するのは勝手なのだけど、

「そもそもここで感染を食い止めて自分たちが生き残らないことには、『その先』もへったくれもないだろう!」

ということだけは、改めて確認しておく必要があるような気がする*3

たとえ外出していようが、自らリスクを避けて賢く行動する意思を持ち合わせている人(そして、こんな状況下でもほんの少しは豊かな生活を送ろうと考えている人)まで矛先を向けるのはさすがにやり過ぎで、そういった意味で「何でもやれ」厨な人々に与する気も全くないのだけれど、殊更に「経済」を持ち出して、今やるべきことをやらない、というのもまた論外だと思っているので、緊急事態宣言をGW明け早々に解除するようなことはしてくれるな、と心の底から願っているところである。

相次ぐ決算発表の延期の裏に見え隠れするもの

さて、そんな話の中で、本日のエントリーの中で取り上げておきたいのが、ここのところ相次いでいる「決算発表の延期」についてである。

本来なら、まさにこれからの時期、4月から5月にかけての時期は、3月期決算会社が通期の決算短信を公表し、それに合わせて新役員人事やら何やらを発表した上で、6月の定時株主総会に向けてひた走る、という、総務・管理系の人間にとっては一年で一番慌ただしい季節のはず。

ところが、今はまさに”厳戒態勢下”、しかも先週、金融庁をはじめとする関係機関がこぞって「良い子は延期しろ!」というスタンスを前面に出し始めたこともあって*4、先週くらいから手始めに決算発表の延期を発表する会社が相次ぎ、今週に入ってからも昨日30社超、今日も40社超、と、適時開示の4つに1つくらいは「決算発表延期」のリリースになっている、という状況だったりもする。

昨日の日経紙の朝刊には、手塚正彦・日本公認会計士協会会長のコメントが掲載されており、その中で、

「このまま例年の日程を変えなければ監査が行き届かず、精度の低い決算書類での報告が相次ぐことを最も恐れている。」
「いま重要なのは、できるかぎり時間的な猶予を確保することだ有価証券報告書の提出期限は9月末まで一律延長が認められた。ただそれで十分ではなく、同様の計算書類を報告する株主総会の日程についても、柔軟な対応を望んでいる。」
日本経済新聞2020年4月20日付朝刊・第3面、強調筆者)

といったコメントが出てきているのを見て、「やっぱり監査法人の声が大きかったんだろうな・・・」という感想を漠然と抱いたものだった。

というのも、多くの会社にとって、決算確定から総会開催、有価証券報告書提出、といった一連の決算スケジュールは、早く終わらせられればそれにこしたことはないものなのであって、あえて遅らせてまでしっかりやろう、という動機はなかなか生まれにくいものだから。そして、仮に今月、あるいは来月上旬の決算発表を予定していた会社が5月の中下旬にスケジュールをずらしたからといって、4月中にやるべき作業を5月に先送り、なんてことができるはずもなく*5、結局、担当者が這いつくばって出社して所定に近いスケジュールで作業を終わらせた上で、プロセスに欠けている部分が埋まるのを待つ、というスタンスになっている会社がほとんどである以上、むやみにスケジュールを先延ばしするメリットはそんなにないから・・・である。

「発表延期」をリリースした会社の中には、決算発表日の延期のみならず、定時株主総会基準日まで変更する、という大胆な手を打ってきた会社もあるし*6、マレーシアの連結子会社の決算、監査業務の遅れを理由に「6月中旬以降」という、これまた大胆なスケジュールを発表した会社もある*7が、そういった会社はごく少数派で、それ以外の会社が設定している延期の期間は1週間、長くてもせいぜい2週間くらい、というケースがほとんど。

その理由が、海外拠点の締めの作業が遅れているから、なのか、監査法人のスケジュールを確保できなかったから、なのか、それとも、日本の本社の経理担当者が効率的に作業を進められる状況にないから、なのか、あるいは、その全部なのか、発表資料からすべてを窺い知ることはできないのだが、「時世に合わせて念のため」という雰囲気に留まっている会社も決して少なくないような気がする。

だが、果たしてそれが良策だったのかどうか。

自分は預言者ではないので、来月、これらの会社が余裕をもって設定したはずの5月中旬~下旬くらいのタイミングで果たして世の中がどうなっているのか、断定的な予測をすることなど到底できないのだけれど、冒頭の話に引き付けて言えば、この辺の時期は「まだまだ緊急事態宣言の下で緊張感を持って過ごさないといけない」時期であるべきだと自分は思っているし、仮にうっかり「宣言解除」などされてしまった暁には、強烈な「第2波」に翻弄される可能性も否定はできないわけで、後々、「やっぱり4月のうちに無理やりにでも終わらせておくべきだった」ということにならないと良いけどなぁ・・・と思わずにはいられない。

そして、もしかしたら、金融庁東証監査法人には白い目で見られるかもしれないけれど、執念の作業(?)で、予定どおり決算発表をこなした会社とその担当者には、盛大な拍手とその後の暫しの「避難&休養」の機会を差し上げたいな・・・と*8。もちろん、3月期決算会社ならその後に定時総会は来るし*9、有報の提出まで予定通り進めようと思えば、そこで仕事の切れ目なんてあるわけないだろう、と言われることは承知の上で。

*1:そこにあるのは、「本当に必要なことをピンポイントで訴えかけられない切なさ」かもしれない。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*2:もちろん、カツカツのキャッシュの流れの中でお店を営んできたような個人経営者に何が何でもお金を借りて事業を継続しろ、なんていうつもりはなく、今の状況が長期化する可能性も踏まえて、たためるなら早めにたたんでおく、という判断も十分検討に値すると思うところ。そして、飲食店の経営者にしても、それ以外のモールビジネスの経営者にしても、自分が知っている範囲の方々は、皆、ちゃんと考えて賢い手を打っているな、と(同じ個人事業主という立場で話を聞いても)感心させられることの方が多かったりもするので、生身の経営にかかわったことのない人々が上から目線でああだこうだ言うのは、ちょっと違うんじゃないの?と思うのである。

*3:おそらくはパニックを防ぐことを重視したゆえなのだろうが、感染拡大初期に「高齢者じゃなければ大丈夫」「基礎疾患がなければ大丈夫」みたいなことが散々喧伝されたことが、未だに世の中で危機感が共有されず、社会の分断を招いている最大の原因になっているような気がする。外を歩いていて交通事故にあって死ぬ確率より、コロナウイルスに感染して死ぬ確率の方がはるかに高いのだから、それを軽視できるはずがなかろう・・・というのが、諸々のデータから導かれる自分の率直な感想なのだが。

*4:概略については、風雲急。最後の山は動くのか? - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~を参照のこと。

*5:なぜなら、今できないことが来月になればできる、なんて保証はどこにもないし、先送りすればするほど苦しくなるのがこの手の作業だから・・・。

*6:東芝のリリース、http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20200418_1.pdf この資料を土曜日に見た時のインパクトはかなりのものがあった。

*7:岩崎通信機㈱、https://www.iwatsu.co.jp/ir/pdf/2020/enki20200420.pdf 他にも「発表日未定」というリリースを出している会社はそれなりにあるのだが、ここまで遅いスケジュールで「予告」した会社は、今のところこの会社くらいだと思う。

*8:「避難」といってもどこに逃げるんだ、という突っ込みはあるだろうが、少なくとも台湾、韓国あたりはその頃の日本よりもはるかに安全な状況ではないかと思っている。もちろんすんなり入国できれば、の話だが。

*9:もしかしたら、今の状況でスケジュール通りに進められて当惑するのは株主総会担当者の方かもしれない、と思ったりもする。スケジュールを先送りにすれば、様々な筋も全部組み直しになるし、何よりも改めての会場探し、というハードミッションに挑まないといけなくなったりもするのだが、一方で、予定どおり開催した場合は、これまで以上にハードな「非常時オペレーション」への備えを求められるプレッシャーを味合わされることにもなりかねないので、まさに延ばすも地獄、留まるも・・・といった感がある。

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