「3か月以内」に向けた攻防の行方。

昨日のエントリーで取り上げた「決算発表延期」の件、今日も20社を超える会社がリリースを出している。

で、これに関連して今日の朝刊に載っていたのは以下のような記事。

東京証券取引所が上場企業に対し、新型コロナウイルスの感染拡大による影響を早期に開示するよう要請したことが分かった。決算発表の時期が後ずれした場合であっても、業績予想の修正や決算発表日の延期の公表などにあわせ、現時点で把握している情報を可能な範囲で投資家に周知するよう求めている。
「決算発表が大きく後ずれした場合、企業が新型コロナの影響を明らかにする時機を逸する可能性がある。決算発表にこだわらず、業績修正や決算延期の発表時に足元の状況をできる限り開示するよう要請した。」(日本経済新聞2020年4月22日付朝刊・第15面、強調筆者、以下同じ)

まぁ、確かに建前としてはこう言わざるを得ないのだろうけど、投資家の目線で考えてみても、今回のようなケースで急いで開示させることに果たしてどれだけの意味があるのか、首を傾げたくなるところはある。

記事の中でも書かれているとおり、「開示せよ」とされているのは、

主要な拠点の稼働状況影響が顕在化してからの売り上げ実績や今後の見通し開示時点での資金繰りの見通しコミットメントライン(融資枠)の設定状況など」(同上)

といった情報。

でも、どの会社がどこに拠点を持っていて、その国が今どういう状況になっているのか、ということは、わざわざ開示してもらわなくても調べればすぐに分かることだし、現在の「実績」に関しても、ここで開示することを求められているような会社が「今、売り上げベースでは散々な状況になっている」ということは、どんな素人にでも分かることである。

しいて言えば、資金繰りの状況とかコミットメントライン*1に関しては、まぁ見られれば嬉しいかな、というくらいの話なのであるが、これから通期決算作業の詰めに向かって監査法人とハードなやり取りをしている多くの会社に、余計な労力をかけさせてまで欲しい情報か、と言われれば、そこまでのものではない*2

さらに、「今後の見通し」ともなってくると、それこそ開示する側の会社の方が「誰か教えてくれ!」と叫びたいような状況になっている、というのが現実だから、これも開示情報として有益なものが出てくることなど到底期待できるはずがない。

まぁ早い話、今回のような「影響が見えやすい災害」の場合、そこまで丁寧な開示を求めなくても、投資家の側は「どの業界の会社がひどいことになっているか」というあたりを付けることは容易にできるわけだから、それ以上に、建前論で中途半端な状態での開示を促さなくともよいのではないか*3、というのが、いつも通りの東証のスタンスを見ながら感じていたことであった。

そして、決算直前に公表されることが多い精度の高い業績予測修正のリリースを除けば、今出ている「新型コロナウイルス感染症の影響に関するお知らせ」系のリリースは、軒並み「分かり切った話」と、「この機会に乗じた宣伝」のどちらかに分類されるようなものになってしまっていることが多い、ということも、合わせて付言しておきたい。

「3か月」を踏み越えた会社がまた一つ

さて、そんな中、今日もまた一社、「基準日変更」に挑んだ会社が登場した。

スカパーJSATホールディングスである。
www.skyperfectjsat.space

リリースによると、連結決算発表を6月26日に延期、有価証券報告書の提出を7月30日提出予定、とした上で、定時株主総会の基準日を「2020 年 5 月 31 日」に設定。

そして、総会の開催日が「2020年7月30日」になる、ということまで公表している。

ここまできっちりとスケジュールが組めている、ということは、決算確定に向けた作業進捗の見通しもきちんと立っている、と見るべきなのだろうが、剰余金配当を取締役会決議で行っていた会社(基準日も「3月31日」から変更なし、ということが公表されている)であるがゆえに、現在の状況に鑑み、余裕をもってスケジュールを設定した、ということなのだと思われる*4

既に当ブログでも、昨今の情勢に鑑みて、定時株主総会の「基準日変更」に挑んだ会社として、これまで2社ご紹介してきた。

1つは、2020年2月期決算会社である、㈱ディップの事例*5

この会社は、決算発表を「45日以内」の4月7日に行い、2月29日を基準日とする取締役会での剰余金配当決議も行った上で*6、本来予定されていた基準日の2か月後である「2020年4月30日」を定時株主総会の基準日とし、「2020年7月29日」に総会を開催することを公表している。

また、もう1つの事例は、昨日取り上げた東芝*7

こちらは決算発表を「5月下旬以降」に延期する、とした上で、剰余金配当は予定どおり3月31日を基準日として行うこと、そして、定時株主総会の基準日を「2020年5月15日」とすることだけを公表している(総会開催日は非公表)、という点に特徴がある。

こうして並べてみると、三者三様のアプローチで、なかなかに興味深いものがあるのだが、いずれも共通しているのは(今予定されているとおりのスケジュールで決算が確定すれば)「剰余金配当の基準日は変更する必要がない」ということで、そこはうらやましいな、と思って眺めている会社の方も少なからずいらっしゃるのではないだろうか*8

先日、「連絡協議会」が推奨(?)したような、「継続会」パターンの事例は未だ出てきていない状況ではあるが*9、もしかすると、既に決算発表を「6月中旬以降」と予告した会社などはこのパターンになる可能性もあったりする*10だけに、まだまだ目が離せない状況ではある。

経理担当者、監査法人、さらに承認を得なければいけない「偉い人」の動静等、様々なスケジュールをにらみつつ、国内の「緊急事態宣言」の帰趨や海外諸国の「ロックダウン」の帰趨を見極めて、諸々折り合いを付けていかなければならない、というハードミッション。そんな状況下での「基準日から3か月以内」のゴールに向けた攻防は、ここ1,2週間がまさに佳境だったりもするわけで、人知れず苦労を重ねておられるであろう多くの担当者の方々の汗が、最後には報われることを願ってやまない。

戦いの舞台は総会の場に移った、という話。

最後に、今日の本題からは離れるが、先日のエントリー*11でご紹介した積水ハウス㈱の定時株主総会開催をめぐる仮処分事件に決着が付いた(一部取下げ、一部却下決定)、ということもご紹介しておきたい。

以下は、本日付の会社側のリリースである。
https://www.sekisuihouse.co.jp/company/topics/datail/__icsFiles/afieldfile/2020/04/22/20200422.pdf


申立人がどこに重点を置いた主張をしていたのかは不明だが、

「当社による本定時株主総会の開催場所・開始時刻の変更に違法性はなく、招集手続の法令違反や著しい不公正はないことを主張するとともに、本定時株主総会を開催しない場合には、かえって株主の皆様に重大な影響を生じさせ、当社が回復することができない損害を被るおそれがあることから、本申立ては速やかに却下されるべきであると主張してまいりました。」
(会社側リリースより)

という会社側の主張の前に、裁判所としても定時株主総会の開催自体を禁止するまでの判断はできなかった、というのが実態ではないかと思われる。

会社側からの案内の中では、

「 風邪症状がある方等体調不良の有無に関わらず、ご高齢の方、基礎疾患をお持ちの方、妊娠されている方におかれましても、接触感染リスク低減のため、本定時株主総会へのご出席をお控えいただくことを強く推奨申し上げます。」
「本定時株主総会においては、開催場所の変更、及び、接触感染リスク低減のため座席間の間隔を拡げることから、ご用意できる席数がかなり限られることとなります。席数を上回るご来場の場合、入場制限を行わせていただかざるを得ない場合も想定されますので、予めご了承のほど、よろしくお願い申し上げます。」
(会社側リリースより、強調筆者)

と、今般の状況に鑑み、かなり強いトーンの「参加見合わせ」要請や入場制限予告が出されている中で行われる「対決型総会」。

明日、どのような結末が待っているのか自分には知る由もないが、こんな時に万が一株主が大勢押し寄せてしまったら、中の人がどれだけ大変か、ということも良く分かるだけに、会場には行けなくても少しでも多くの株主が議決権を行使して自分の意思を何かしらか表明できたのなら、それでよいのではないかなぁ、と思ったりもしているところである*12

*1:借入額やコミットメントラインの設定に関しては、それだけで公表する会社も多いが、会社の規模によっては公表されないこともあるので、自分が株式を保有している会社の状況くらいは一通り把握しておきたい、というくらいだろうか。

*2:そもそも、ストレートに「資金繰りが苦しいです」という開示をする会社があるはずもないのであって、開示する=当面は乗り切れる算段が付いた、ということなのだから、ここで出てくる数字は今必要なもの、というよりは、この問題が長期化した時に振り返って気にするべき情報だったりもする。

*3:結局、途中経過のような開示をして、さらに決算発表で・・・ということになれば、それだけ材料視される要素も増え、株価の振れ幅も大きくなるリスクがあるわけで、堅実に予定調和の世界でコツコツ資産を積み上げようとしている個人投資家には、かえって迷惑な話だったりもするのである。

*4:ちなみに、このリリースの中では。「業績予想」に関しても、「メディア事業においては、プロ野球を始めとするスポーツコンテンツの開幕遅延や音楽ライブの中止・延期等により、例年通りの新規加入が見込めない可能性があります。宇宙事業においては、船舶・航空機の減便等により、移動体向けに提供している衛星回線利用が影響を受ける可能性があります。」と比較的丁寧なリスク説明がなされており、まさに東証が求めている基準を満たした模範的なリリースの一例としても評価されるべきもの、といえるだろう。

*5:https://k-houmu-sensi2005.hatenablog.com/entry/2020/04/08/233000参照。

*6:もっとも、昨年までは配当を株主総会決議で決めていた、ということは、以前のエントリーでも触れたとおりである。

*7:https://k-houmu-sensi2005.hatenablog.com/entry/2020/04/21/233000#f-8c352a66

*8:もちろん、取締役の任期を1年にし、定款も変更する、というプロセスを経ているからこそできることなので、自分のところもそうしておけばよいではないか、という話ではあるのだが、いくら頑張っても今年の総会には間に合わない、というのが何とも・・・である。

*9:風雲急。最後の山は動くのか? - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*10:https://k-houmu-sensi2005.hatenablog.com/entry/2020/04/21/233000#f-b6c7b095参照。岩崎通信機㈱の定款には、剰余金配当を取締役会決議で行える旨の規定は設けられていないようである。

*11:こんな時になんで? なのか、それともこんな時だからこそ、なのか。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*12:もちろん、それは議事運営が公正に行われる、ということが大前提になるのではあるが・・・。

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