微かに見えてきた光と、このまま変わってほしくないもの。

週が変わって月曜日。

今日も先週からの流れそのままに、決算発表延期の適時開示に埋め尽くされた一日だった。ざっと手元で数えたところで65社くらい。

5月の連休明けに予定していたスケジュールを1週間、2週間延ばす、という会社が多いのだが、中には今日、明日に予定していた発表日を急遽キャンセルして代替の発表日は未定、という会社もあり、先週末から今日にかけて、会社上層部と財務担当者、そして監査法人というトライアングルの中で様々なやり取りが繰り広げられたことは想像に難くない。

延期に至った背景は、各社各様だと思うが、共通するのは、「決算発表」というのは多くの会社で取締役会の日程とセットで決まっているものだ、ということ。

特に5月に決算発表を行う会社は、同じタイミングで株主総会に向けた取締役の改選だとか定款変更といった様々な重要な決定も一緒に行った上でリリースするのが常だから、簡単に「ちょっと1週間ずらせばいいじゃない」というような話ではない。

そうでなくても物理的に会合を設定しづらいこの時期に仕切り直して社外役員も含めた日程調整を行い、場合によってはテレビ会議のインフラまで整えた上で改めて取締役会を設定する。その作業だけでも事務方にとっては大きな負担になる。

だからこそ、ギリギリまでスケジュール通りの発表を目指し、でも、結局作業が間に合わず、監査法人には「無理です」と撥ねられ、上には怒られ、財務部門と取締役会事務局で喧嘩を始める、といった散々な思いを味わった人も決して少なくなかったのではなかろうか。

今日は延期を発表する会社がある一方で、淡々とスケジュール通りに決算発表を行っていた会社もそれなりの数あっただけに、なおさら様々な景色が思い浮かぶことになった*1

また、株主総会の基準日変更は本日は1社、多くの方が存在を知っているであろうサマンサタバサジャパンリミテッドである。

https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200427400301.pdf

この会社は、2月期決算企業でありながら、未だに通期の決算発表を行えていないという状況もあり、例年行っていた5月中の株主総会開催を断念して、2020年5月12日を新たな基準日に設定6月下旬の定時株主総会開催を目指す、というリリースを行っている。

例年は株主総会で配当決議を行っていた会社だし、有名ブランドの会社だけに株主数もそれなりに多いからさぞ大変だろう、と思いきや、この1年で経営不振が深刻化し、第3四半期の報告書でも「継続企業の前提に重要な疑義」あり、とされてしまっているような状況だけに、幸か不幸かその心配は全くの無用(既に今期は「無配」の予想も公表している)。

ただ、今日公表されたスケジュールだと、3月期企業の総会の開催時期と思い切りバッティングしてしまうわけで、昨年までホテルオークラで華やかに定時総会を開催していたこの会社が、果たして会場選択でどのような選択をするのか、ということは、ロジ回りに関心のある者としては気になるところである*2

* * * * *

幸いにも、昨日、今日、と東京の新規感染判明者数は大幅に減少している

明日になれば、検査数との関係でまたそれなりの数を回復してしまう可能性も高いのだが、それでも東京都内を生活圏とする多くの人々が、ここ2,3週間、「外出自粛」「在宅勤務」で多数人との接触を極力避けてきた結果はそれなりに出ていると考えて差し支えないような気がして、こうなると、「もうちょっと頑張れば・・・」という気にもなってくるというものだ。

残念ながら周辺自治体での感染者増加ペースはまだまだ高止まりしているし、東京だって、ちょっと気が抜けて人が動き始めた瞬間に再び「感染拡大」の勢いが活発化するリスクは到底避けることはできない。そして何よりも、命を救おうとする医療従事者の思いが届くかどうかの瀬戸際で戦っておられる重症者の方々も病床にたくさん残っておられる。

ただ、それでも、これまで感染者増加の一途、明るい話題を見つけてくることさえなかなか難しかったこの国の状況に、ほのかに光が差してきたことは間違いないだろう。

そして、もしかしたら、思いのほか早く、あと1か月経つか経たないかくらいのタイミングで、それまでの「日常」が戻ってくる可能性も浮上してきたような気がする*3

「宴会」まではできなくても、外で美味しいものを食べる、というちょっとした贅沢や、どこのカフェでもコーヒー一杯で一息つけるささやかな幸福が戻ってくることには両手を挙げて賛成するほかないし、これまで中止、中断を余儀なくされてきた様々なイベントがちょっとずつ戻ってくる、ということへの期待もある。

だが、その一方で、この1カ月、2か月近く、平時とは異なる環境で過ごしてきたことで、「全て元通り」になることが良いことなのかどうか、疑問を持ち始めた人々も増えてきたのではないか?という気がして・・・。

在宅で仕事をしている人なら、朝夕の通勤に時間を割くことなく、朝ゆっくり起きて、仕事に集中し、ほどほどで切り上げればまともな時間に夕食がとれる。

まだ通勤を余儀なくされている人も、少なくともそれまでのような不快な車両内の環境に煩わされることはないし、昼食時、混雑するお店に並んでまで入店する必要もない。

何よりも、貴重な時間を奪う無駄な会議、打合せ、仕事後の諸々の会合、といったものがなくなったことで、すっきりした日々を過ごしている人も多いはず。

今の状況では、「平常」に戻った後に、何が残り、何が失われるのか、ということを予測することはなかなか難しい状況にあるのだが、できることなら「不合理」が極力排された今の状況は極力そのままに、そして、これまで長い月日をかけても動かなかったこと(行政手続きにおける印鑑の廃止、省略等)が大きく動き出している、という状況もまたそのままに、と、心の底から願っている。

ちょっと気が早い話。でも、これまでの2か月があっという間だったのと同様に、油断するとこの先もあっという間に過ぎて行ってしまうような気がするので。残された”非日常”の時間の中で、良い変化を少しでも不可逆的なものにする、ということにも知恵を絞っていくことが大事なのかな、と思っている次第である。

*1:先週の金曜日、夜遅い時間に適時開示サイトに上がってきた某メーカーが、発表延期の理由として「新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐため、1 都 3 県共同キャンペーン「いのちを守る STAY HOME 週間」における、企業に対する連続休暇の取得の呼びかけを受け」という理由をわざわざストレートに記載したあたりにも、その背景にある様々な苦労の跡を見てとったところである。

*2:何といっても6月総会の会社は、鮮烈な陣取り合戦(?)の末に定着した会場を1年前から予約して使用しているような状況であり、そこに割って入るのはそうたやすいことではない以上、コロナウイルスの蔓延状況にかかわらず規模縮小を余儀なくされるのかもしれない。

*3:「withコロナ」等々の論調が最近やたら流行しているが、スペイン風邪の時代と今とでは医学のレベルもまるで異なるわけで、そうそう何年にもわたって同じレベルの感染の波に人間が負け続ける、ということはちょっと考えにくい。また日本の場合、五輪の一部種目を開催都市から追いやるくらい忌み嫌われる酷暑&猛烈な湿気が、ことウイルスとの戦い、という点においては、他の国以上に有利に作用する可能性があることも頭に入れておくべきではないかと思っている。大概のことは、多くの人が「予測」し、「前提」に組み込み始めた時点で肩透かしに終わるのが常なのである。

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