令和初の「春天」、薄氷の連覇の価値はいずこに?

最初の頃は、”当座しのぎ”という感が否めなかった無観客競馬もはや2か月。

「競馬場にもWINSにもお客さんがいない割には健闘してるね」といったトーンで報じられていた馬券の売上も「STAY HOME」の長期化とともにじわじわと伸びていき、4月に入ると、土曜日の売上は3週連続で前年比プラス

課題とされていた日曜日&ビッグレースの売上も、4月19日の皐月賞デーに、阪神、福島が100%超えを達成し、トータルでも95%超となるに至った。

さすがに今週は、前年の3連休発売の反動もあってちょっと伸び悩んだものの、これだけ例年と遜色ない売上が立つようになれば、競馬場やWINSの窓口等でのオペレーションに要する人件費がなくなった分、JRAの手元に残る利益もむしろ大きくなっていても不思議ではないはずで、「コロナ下」のイベントのあり様を考える上では非常に有益な事例を提供してくれているなぁ、と思わずにはいられない*1

そんな中、今週行われたのは春の天皇賞

年2回行われる「天皇賞」の中でも、古来からの伝統と格式を受け継いでいるのは淀の長丁場を駆け抜けるこのレースの方なのだが、昨年はカレンダーのめぐり合わせの関係で、「4月の最終週」、いわゆる「平成最後の」天皇賞として行われたから、「令和」の世になって行われるのは初めて、ということになる*2

3200m、という距離が、「マイルから中距離までの実績で競走馬の価値が決まる」この十年来の世界的な潮流に反することもあって、このレースに見向きもしない古馬の実力馬が増えたのは確かだし、同時期に行われていた海外遠征に行ける馬がほとんどいない、という今の状況の下でもその潮流に変わりはなく、蓋を開けてみたら「14頭立て」という寂しい状況に*3

顔ぶれを見ても、GⅠの主役を張れるのは、連覇を狙うフィエールマンと菊花賞馬(&古馬になっても善戦を続けた)キセキくらいしかいないのに、その一角、キセキは前走の阪神大賞典で思わぬ凡走を見せてしまい、武豊に乗り替わった今回も、半信半疑のファンは多かったはずだったし、一方のフィエールマンは、有馬記念から直行という得意のぶっつけローテ、ドバイ遠征を見送ってこのレースに早々と照準を合わせていたこともうまく作用して人気的には一頭抜けた感じになっていたが、「キャリア6戦目、連対率100%」で優勝を飾った昨年の今頃の前途洋々感は既に失われていた*4

なので、GⅠでは今一歩、ということは分かっていながら阪神大賞典優勝を引っ提げて乗り込んできたユーキャンスマイルに期待を寄せ、さらにここ数年の「必勝ローテーション」を分析した結果、日経賞組を切って阪神大賞典2着のトーセンカンビーナを拾う、という偏った思考に陥ってしまったのも、決して筆者だけではなかったはずである*5

蓋を開けてみたら、観客も入っていないのにスタンド前でかかって暴走し始めたキセキは直線であえなく沈み、ユーキャンスマイルもいつものように最後の伸び脚を欠く中*6、最後の最後まで粘りを見せたのは、なんとなんと日経賞2着のスティッフェリオ。

主役のフィエールマンは、最後の最後でエンジンがかかって、ゴール前ハナの差でやっとこさ交わして「連覇」という結果になったものの、勝ちタイムは過去10年、良馬場の天皇賞(春)では一番遅く、「史上何頭目かの歴史に残る王者誕生!」という感慨よりも、このメンバーでこの勝ち方だと先が思いやられるなぁ・・・という後味の悪さの方が先に来るようなレースとなってしまった。

さらに馬券的にも、上位2頭の後方で、外から伸びてきた日経賞・ミッキースワローが3着に飛び込んでしまったことで万事休す。

過去5年、このレースで馬券に絡んでいなかった日経賞組が2頭も。しかもそのうちの1頭は、中山では強いが西に行くとさっぱりなGⅡ役者、もう1頭は過去のGⅠレースでことごとくペースメーカー役に甘んじていた馬なのだから、データを重んじる者にとってはちょっと手が出ない組み合わせだったような気がする。


おそらく、今、今年の春の天皇賞が、記憶に残すことで「次」以降に役に立つレースだったか?と問えば、首を傾げる人は多いだろうし、前日の青葉賞弥生賞3着のオーソリティをヒューイットソン騎手が操って、激しい競り合いの中、レースレコードでの勝利に導いた)*7や、日曜東京メインのスイートピーS(社台が誇る良血馬・デゼルがキャリア2戦目で快勝。一味違う強さを見せた)の方が遥かに見る価値があった、と答える人すら出てきてしまうかもしれない。

ただ、レースの価値というのは、「終わった直後の印象」だけで固定されるものではなく、一年、あるいは、勝った馬がキャリアを終えるタイミングで振り返った時の位置づけによってまたがらりと変わるものだ、ということを、自分はこれまで散々経験してきたから、フィエールマンには、そういう意味でこの先、「今日のレース後の印象を裏切る活躍」を期待したいものだなぁ、と思うところはある。

そして何より、この状況下において無事レースが行われ、フィエールマンという馬の「連覇」という歴史が刻まれたことそれ自体にも、価値がある、というべきなのかもしれないから・・・。

どんな凡走でも「無」よりはまし。だからこそなるべく寛容な心で、来週も再来週もその次も、罵声を祈りに変えられれば、と思っているところである。

*1:もちろん、瞬時にこういう切り替えができたのは「コロナ以前」から「競馬場、WINSに来られないファン層」を意識した施策を地道に打ってきたからこそ、で、誰にでも真似ができることではないのだが。

*2:もちろん、昨年秋に「令和初の天皇賞」自体は行われているのだが、やっぱり”元祖・天皇賞”はこっちだから・・・。

*3:昨年も13頭、その前もフルゲートに満たない年が続いており、18頭揃ったレースは4年前まで遡らないといけない、という状況である。

*4:当時のエントリーは、贅沢な二重奏。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。この時はあの器用さと瞬発力で、凱旋門賞にも・・・と思い描いたものだが、それは儚き夢にすぎなかったようである。

*5:あるいは、「最強の1勝馬」エタリオウに再び夢を託すくらいしか、今年できることはなかったような気がする。

*6:個人的には、浜中騎手が最後の直線で馬場の悪い最内に入れずに、もう少し外側から追ってくれていたら・・・という思いもあったりして、それだけに岩田康誠騎手が負傷で騎乗できなかったことが悔やまれるのだが、それでも勝ち負けに絡むことまでは難しかったような気がする。

*7:ちなみにこれまで決して相対的な評判は芳しくなかったヒューイットソン騎手も、今回の短期免許最後の週となる今週は5勝の固め打ち。特に日曜日の最終レース、レーン騎手の本命馬が沈む中、人気薄の8番人気・サトノディードを蘇らせた(1年4カ月ぶり勝利)騎乗などは、もう少し見たかったなぁ、という思いを抱かせるに十分なものだったと思う。

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