どれだけ手綱を取る者が変わっても。

「無観客」のまま、いよいよ本格的な春のGⅠシーズンがフィナーレに向けてのラストスパートに入った。

ここ数週間くらいは、中央のレースであまりに結果が出ないために、12レースまで終わった後に(あるいは翌日に)地方競馬にまで手を出す、という愚挙を冒しているのだが、どの競馬場でも淡々とレースが行われ、普段と変わらない実況が流れ、でも映らない観客席、そこには誰もいない。という予定調和的な光景があるわけで、正直この世界に関しては、何が「正常」だったのか、ということさえもう忘れかけてしまっているのだが、まだまだ油断は禁物。何とかダービーまでは無事たどり着けることを願っている。

さて、今週は、6週連続GⅠの2週目。NHKマイルカップ

3歳牝馬たちが「桜花賞を最後に道を違える」という路線は、もうすっかり定着してきたような気がするし、牡馬勢も、これまでなら皐月賞トライアルになるはずだった毎日杯スプリングSからこちらに直行する、という路線がだいぶ板についてきた印象を受ける。

ノーザンファームを中心とした大牧場産の馬が、ビッグレースでどうしてもかち合ってしまうがゆえに、1頭でも多くGⅠタイトルを取らせるために”棲み分け”を図る必要がある、といった大人の事情は見え隠れするとしても、それぞれの馬がもっとも得意な分野でパフォーマンスを競い合える環境が整ってきた、と考えれば、それを一概に批判する必要もないような気がする。

スピード勝負のマイル路線、しかも3歳前半のレースで仕上がりが早かった馬に有利、ということになれば、当然「巨人」ノーザンファームの生産馬が18頭中半数を占める、という事態にもなるわけで、さすがにそこはもう少し多様性があっても良いと思うところだが、裏返せば、一時に比べると「マル外」をほとんど見かけなくなっても、このレースが高いクオリティを発揮できている背景には、スピードを磨き上げた一流牧場出身内国産馬の活躍もあるわけで、レースが面白ければそれでいい、というのが行きつく結論だったり・・・。

結果的にレース前の予想では、桜花賞2着馬・レシステンシアを筆頭に、2番人気・タイセイビジョン、4番人気・ルフトシュトローム、5番人気・サクセッションとノーザンファーム勢が人気上位もほぼ独占。

自分はひねくれて、この流れに一石を投じようと思ったものの、今回のメンバーで日高地方や、浦河・新冠エリアの生産馬に手を出す勇気はなく、3番人気・サトノインプレッサ(千歳・社台ファーム)を本命に指名する、という本当にささやかな抵抗を試みるのが精いっぱいだった。

サトノインプレッサを指名した理由はもう一つあって、それは、武豊騎手を擁して制した毎日杯のレースぶりがかなり惚れ惚れするものだったから、というのもある。

もちろん、武豊騎手といえば、桜花賞でレシステンシアに騎乗し、同じ逃げでも前走(チューリップ賞)とは全く次元の異なる魅力を引き出した実績もあったから、そっちに乗る姿を見たかった、というファンは多かっただろうが、こちらは結局ピシャっとルメール騎手に乗り替わり*1

アーリントンカップ馬とニュージーランドトロフィー馬の両方の手綱を取っていた石橋脩騎手は、前者、朝日杯FS武豊騎手の騎乗で2着に入ったタイセイビジョンに乗ることになったのだが、後者・ルフトシュトロームにはすかさずレーン騎手を騎乗させるのだから、やはり隙はない。

本来であれば、自分はレースごとに鞍上が乗り替わるような展開は決して好ましくないと思っていて、強い馬であればあるほど、極力長く同じ騎手とコンビを組んでほしいな、と思っている人間ではあるのだが、今回ばかりはまぁ仕方あるまい、と腹を括るしかなかった。

で、ゲートが開けば、鞍上が変わっても引き続き水を得た魚のようにスイスイと逃げたレシステンシアを、ラウダシオン、タイセイビジョンという馬たちが追走する展開に。

そして、最後の直線で満を持して前を捉えに行き、レシステンシアをねじふせたラウダシオンが、第25回のこのレースのチャンピオンとして名を残すことになったのである。

1着と3着(ギルデッドミラー)に「シルク」の馬が入り、2着は「キャロット」と、ノーザン系の一口馬主クラブが上位を独占、さらに勝ち馬を除く2~5着はノーザンファーム生産馬。レース後に見慣れた勝負服の馬たちが上位を独占しているのを見て、「これこそが今の日本馬産界の縮図」と思わずにはいられなかった。

ただ、強いて違いを挙げるなら、ラウダシオンの生産牧場は社台系でも「社台コーポレーション白老ファーム」であること、加えて、種牡馬が昨年デビュー組が初年度産駒となるリアルインパクトで、桜花賞を産駒が制したエピファネイアと並んで「来たれ世代交代!」を強く意識できるような血統でもある、ということにも一応言及しておきたい。


ちなみに、昨年に続いてNHKマイルC連覇を達成する、という栄誉に輝いた騎手は、ここ2走ほど武豊騎手が手綱を取っていたラウダシオンの手綱を引き受け、レースでの騎乗は初めてだったこの馬できっちり結果を出したミルコ・デムーロ騎手

ここしばらく「不振」と言われながらも、こういう大きいレースではきちんと結果をだしてくるところはさすがの一言だし、乗り替わりが多かった今日のレースの中でも(前走と同じ騎手が騎乗した馬はわずか6頭)、結果的にはもっともよい馬を引き当てることになったのだから、まだまだ終わった騎手ではないな、ということも改めて感じさせられた次第。

一方、武豊騎手にとって、「手放した馬が1着、2着」という今回のレースは本当に気の毒というほかない。

今年ここまで好調で現在でもリーディング3位に付けている状況に変わりはないのだけれど、今回の「選択」が運気を変な方に持っていかなければよいけどな、と願うばかりである。

*1:ここで北村友一騎手に手綱を戻す、という”情”的な判断は決して行わないのがノーザンのノーザンたるゆえんだろう。

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