この先ずっと必要なものだからこそ、ちゃんとしたものを選びたい。~電子契約サービス選びに欠かせない視点

多くの会社では間もなく終わろうとしている「在宅勤務モード」だが、不自由だの何だのと言われながらこの間に脚光を浴びたサービスは結構あって、特に話題を集める機会が多かったのが「ZOOM」をはじめとするWeb会議システムだし、もう一つ挙げるとすれば「電子契約システム」ということになるのではないかと自分は思っている。

いずれも共通しているのは、サービス自体は以前から存在していたが、それまでの日常の中で使われる場面は限られていた、ということ。そして、今回、皆が物理的なオフィスに集まって仕事することができない、という状況になって初めて、サービスに触れる層、関心を持つ層が大きく広がった、ということだろう。

おそらく、どんな会社でもこの1,2か月の間で100%導入して使っていたであろうWeb会議システムに比べると、電子契約システムを自社で積極的に導入した、という会社の数はまだ少ないのかもしれないが、契約の相手方から「電子契約でお願いします」という依頼を受けて対応を迫られた会社は決して少なくないはずで、その意味で、「電子契約」がこの数か月の間に、「一部のあたらし物好きの人が好むマニアックツール」から、「契約周りの業務を進める上で、避けては通れないツール」に変わったことは間違いないように思う。

このような動きに対してはメディアも好意的で、かねてから、「脱ハンコ」というフレーズとともに、電子契約を先端的な取り組みの象徴として取り上げることが多かった日経紙などは、4月以降、かなりの頻度でこの話題を取り上げるようになっているし、今日の朝刊にも「IT企業発の脱ハンコの波を全産業に」という見出しで、「日本経済のデジタル化に弾みを!」と旗を振る社説が掲載されていたりもする*1

自分もここに来て、自分が当事者の契約に電子サインで対応したり、かかわっている会社でのシステム導入の検討に関与させていただいたりしたこともあって、主要なサービスには一通り触れてみたところではあるのだが、一言で言えば、とにかく便利な代物であることは間違いない。

最近ではよく「ハンコを押すのは手間だから・・・」という語られ方をすることも多いのだが、「ハンコを押す」こと自体は、慣れた人なら一瞬で終わる*2

むしろ、大きいのは、「完成版契約書の文書ファイル打ち出し」、「製本」、「割り印を押す」、「印紙の金額を計算して貼る」、「印紙に消印を押す」、「封筒に宛名シールを貼って、添え書きレターと一緒に押印した契約書を封入する」、「郵便局に持っていって発送する」、「双方押印されて戻って来た契約書を保管用のファイルに綴じる」、「後々の検索用&原本紛失時のバックアップとして契約書をスキャナーで読み込みPDFで保存する」等々の一連の作業が全て省略できる、ということで、この労力削減効果は、契約書一本結ぶだけでも感動的なまでに大きいし、それが数十本、数百本と積み重ねられていけば、かなりの業務圧縮につながることは間違いない。

だから、同じく比喩に過ぎない「ハンコを押すために出社することを避ける」ため*3、という一種の「非常時対応策」を超えてこのツールは広く取り入れられるべきだと思うし、少なくとも民間企業同士の契約においては、よほど高額、あるいは経営の根幹にかかわるような極めて重要な契約を除けば、「電子サイン」で事足りる、という世界になるのが望ましいとすら今は思っている*4

ただ、どんなサービスでも、その需要者層が「一部の愛好家」から「一般の人々」にまで広がるにつれ、それまで目を瞑られていた問題点が顕在化する、という話はあるわけで、Web会議システムの世界で、当初爆発的にユーザーを拡大したZOOMが「セキュリティ上の問題」を指摘されるようになったのと同様*5、電子契約システムに関しても、ユーザー層の拡大とともに一部の会社のサービスに対する不満や懐疑的な声を聞く機会が増えてきたのも事実である。

そんな中、自分が見聞きした問題意識をTwitterで少し呟いたら思わぬ反響があったりもしたので、以下、論点を整理しつつ、「それでも電子契約でいいんじゃないか」という話と、「ただ選ぶときはこういうところは重視したほうがいいよね」という話をちょっと述べてみることにしたい。

初めて吹いた逆風・・・だが、そこまで大きな意味はない「署名の効力」論。

既に書いてきた通り、今、「電子契約」には基本的に追い風が吹いているわけだが、そんな中、数日前の日経電子版にちょっと違うトーンの記事が載ったのが、そもそも自分の呟きの始まりだった*6

新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が進み、「ハンコ文化」見直しの機運が高まるなか、クラウド上で結んだ電子契約が抱える法的リスクが懸念材料として浮上している。20年前に制定された電子署名法が現在の技術を反映し切れていないとして、法的裏付けを持たせるよう改正を求める声が上がっている。」(日本経済新聞2020年5月30日付朝刊・第7面、強調筆者、以下同じ)

この記事の中で書かれているのは、ざっとまとめると、「現在の電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)が電磁的記録の真正性推定の要件としているのは、『本人による電子署名』(当事者が電子証明書を取得して行うタイプの電子署名)。だが、現在主流となっているのは、当事者が電子証明書を取得することなく、システムを提供する第三者が署名の有効性を担保する、というものなので、そのようなサービスに基づく電子サインが施されたものは、電子署名法によって真正性が推定される電磁的記録の射程外となってしまっている。」ということなのだが、これ自体は、以前から当のサービス提供者自身が認めていることだし、今さら・・・という話でもある。

もしかしたら、この記事を書いた人、あるいは書かせようとした人(?)は、「今の古い電子署名法が、今のトレンドのサービスを十分担保するものになっていないのはけしからん。改正すべきだ。」という頭であえてこの話を持ち出したのかもしれないが、このような手法(「今やっていることが法に適合しないから法を変えるべき」という論法で押す手法)は、「民泊」の例を引くまでもなく危うい手法に他ならないし*7、そもそもこの記事自体、

「海外では利用しているが、日本では法的根拠があやふやなので導入を断念した」

等々の関係者のコメントや、

電子署名法3条に基づく推定効(文書が有効だと推定されること)は働き得ないと認識している」

という記事中で紹介された法務省の見解と相まって、これから導入を検討しようとしている企業の関係者に「ん?大丈夫か?」といらぬ不信感を抱かせるトーンになってしまっているような気がして、何か逆風だな・・・と。

実のところ、「法に基づく真正成立の推定を受けられるかどうか」という話が、通常の企業の取引実務の中で問題になるケースはほとんどないし、裁判実務においてすら、一定の格を備えた企業同士の取引紛争で、契約書等の処分証書の形式的証拠力が正面から争われるようなケースは極めて稀である*8

もちろん、印鑑の印章による「二段の推定」の話は事実認定の教科書には必ず出てくるし、研修所の起案でも一度や二度ならず論じさせられるテーマではある。

個人の方や自営業者同士が争っているような事件であれば、文字が書き殴られたノートの切れ端のようなものが証拠提出されて、ハンコがあるのないの、誰の筆跡だの、ということで喧々諤々争われるケースもなくはない。

だが、企業間の紛争、それも、突発的な事故等の類ではなく、通常の企業間の取引の過程で作成されたものであることが外観上明らかな文書(電磁的記録)について、そこに刻まれているのが「当事者型の電子署名」ではなく「第三者認証による電子サイン」だったからといって、「これは当社の者が合意した真正な電磁的記録ではない」等々の形式的証拠力を争うような筋悪な主張をする当事者、代理人が果たしてどれほどいるのだろうか?

取引上何らかのトラブルが生じた場合の当事者間のやり取りのほとんどは、成立した契約書の存在を前提としつつ、そこに書かれた条項の解釈だったり、「書かれていないこと」に関する合意の存否をめぐって争われるものである。仮にそれが訴訟の場までもつれ込んだとして、そこで初めてそれまでの前提をひっくり返して「契約自体がなかった」などという主張に切り替えることなど、そうそうできるものではない。

唯一可能性があるとしたら、後述する「無権限者による電子サイン冒用」の主張くらいだろうが*9、そういった主張は、民訴法や電子署名法で「推定効」が働くかどうかにかかわらずなされる主張だし、それが認められるかどうかは、法の推定効以前にシステムの管理実態や、作出されていた外観等によって決まる話なので、電子署名法による推定効が及ばない」ことによる影響がそれほど大きいとも思えない

別に電子契約サービス事業者に過度に肩入れするつもりはないのだが、法務省が規制改革会議で出された要望に対して示した回答*10にも明確に書かれているとおり、「推定」はあくまで推定にすぎないし、一部の議論好きな法律家が問題にするほど実務サイドでは「推定効」など気にしてはいない、ということは、はっきりさせておいた方が良いと思うし、本当にここだけが引っ掛かって導入をためらっている、という会社がもし存在するのであれば*11、それはもったいないんじゃないか、ということもここで申し上げておきたいところである*12

どちらの立場でも、もっとも恐れるべきは「うっかり締結」のリスク。

ということで、実務からは遠いところにある「問題点」は潰したつもりだが、それは、「それなら、どんな電子契約サービスを使っても大丈夫」ということを意味するわけではない

文明の利器をフル活用して、労力をかけずに契約書の作成、締結ができるようになった、ということは歓迎すべき「変化」だし、積極的に取り入れるべきことでもあると思うのだが、こと企業間の取引においては、記名押印であれ、署名であれ、電子署名・電子サインであれ、契約文書を締結するという意思表示が「会社を代表して行われるものである」ということには何ら変わりはないし、まっとうな会社として事業を継続していきたいのであれば、そこは絶対に「変化」させてはいけないところでもある。

そのような観点で見た時に気になるのは、最近、一部の電子契約サービスの「受け手」になった会社から時々伺うことがある、

「先日、当社にも、契約の相手方から『電子契約で』ということでメールでの署名依頼が来たんですが、全く権限を持っていない若い担当者が確認ボタンだと思ってクリックしたら、「契約締結」というステータスになってしまったみたいで、その部署の上司がカンカンに怒ってまして・・・」

といった類の”笑い話”である。

見慣れないサービスに最初に接した時にはつきもののハプニング、といえばそれまでだし、どんな会社でも、素直に謝ってお願いすれば、事後的に「電子サイン」の正統性は社内的には担保してもらえることが多いだろう。

ただ、逆の立場になって考えた時に、「送ったメールをすんなり開封して電子サイン完了で返って来たは良いが、本当に相手方の会社できちんと手続きが踏まれているのだろうか?」ということにまで思いを馳せると、だんだん笑い話では済まなくなる。

先ほど書いた通り、契約の成立を裏付けるのは「電子署名」のありなしだけではないし、例えば事前の打ち合わせに相手の担当者だけでなく上司も同席していた、契約締結後のやり取りにも上司や他の部署の関係者が入って、契約内容通りに取引が進んでいた、といった状況が揃っていれば、相手のサイン者が万が一権限を与えられないままサインしていたとしても、後になって「当社がそんな契約を結んだ覚えはない」とちゃぶ台返しされることはまずないだろう。

だが、それまでの「記名押印」であれば、当然に踏んでいたプロセス(まず直属の上司がチェックして、さらにその上長くらいまで目を通した上で決裁完了→押印に進むプロセス)*13を踏まずに「既成事実」が先行してしまった契約、というのは、概してトラブルの種になりやすい。

特によほど大きな取引以外は、法務部門が契約審査に絡まないような会社*14の場合、経験の浅い営業担当者だけでやり取りした契約書だと、自社に不利な条件が見過ごされていたり、それ以前に誤字脱字等々、あれ?と思われる箇所もたくさん出てくる*15

そして、本来、そういったミスや見落としをチェックすべきプロセスが欠けた状態で締結された契約書を「それでも締結されてしまった以上は、書かれていることを忠実に遵守しよう」などと殊勝な心持ちで扱ってくれるようなお人よしの事業部門の人々などいるはずもなく、特に担当者がチョンボした部分で何かおきようものなら、「いや、それ、こちらが合意した覚えないし」と、話が蒸し返されることは避けられない*16

まがりなりにも「電子契約書」として完成し、締結されている以上、裁判所に持ち込めばこっちの勝ちではないか!という意見もあるかもしれないが、日常的な取引でそんなレベルの話まで行ってしまったら、その時点で「負け」だ。

だからこそ、契約の締結に際しては、双方がきちんと納得できるプロセスを踏み、社内的にもあとから横やりを入れられないように正統性を担保しなければいけないのであり、その機会を阻害するような方向に働くサービス/システムは、(その欠陥を修正しない限り)一時的には流行っても、多くの会社に、長く浸透するものにはなりえないと思う*17

もちろん、それはサービス提供側が責めを負うべき話ではなく、使う側のリテラシーの問題、というべきなのかもしれない。

一担当者にも権限を与えて独任制でガンガン仕事を回させているような会社の担当者だと、相手の会社の担当者に向かっても、悪気なく「そのままクリックしていただければ結構ですよ」と案内してしまうかもしれないし、受けた担当者がそれを真に受けてクリックするのは、「日頃からきちんと教育をしてないからだ」と言ってしまえばそれまでである。

だが、「脱ハンコ」を掲げ、印鑑に代わるものとしてサービスの展開を図るのであれば、押印に代わる「電子署名」なり「電子サイン」の機会も、

「ここで自分が簡単にクリックしてしまって大丈夫なのだろうか?」

と一度立ち止まって考えるくらい仰々しいものであってほしい、と自分は思う。

自動更新条項付きで、10年も20年も続くかもしれない「取引基本契約書」に会社を代表してサインする、という行為は、個人が無料の、あるいは月額数百円、数千円レベルのサブスクリプションサービスの利用規約にクリックボタンを押して同意する、という行為とは本質的に異なるのだから*18


日本の稟議システムの良さを生かそうとすれば、単に「署名画面」を見て立ち止まった担当者から「上司に丸投げ転送できるようにする」とか、「自分の上司への直接送信をリクエストさせられるようにする」というだけでもまだ不十分*19、といったこともあり、どうしても注文は多くなってしまう(しかも「契約文化」が会社の数だけ存在する以上、その注文の数も会社の数だけ存在する、ということになりそうである)が、そこに応えられた会社だけが最後に生き残るというのが理想的な姿、のはずである。

「システム戦国時代」に選択の決め手となるのは何か?

以上、いろいろと書いては来たが、今は、導入するサービスを選択するためにじっくり考えるいとまも、自社にマッチした仕様の開発を待ついとまもなく、取引先から送付されてきた電子サインの依頼に応じ、あるいは自社でも何らかのシステムの導入を迫られる、というせわしない時代になりつつある。

また最近は、

「自社でいろいろ比較検討した末に、もっとも自社内の体制にマッチしそうな電子契約システムを採用し、契約して使い始めたのに、いざ契約を締結する段になると、相手方からも『うちで使っているやつでお願いします』と言われて、取引における立場上も、なかなか自社のシステムを活用することができずにいる。」

という話もしばしば耳にするようになった。

本来なら、「実務者目線で見たもっとも優れたシステム」に全てのサービスの仕様が共通化されれば、それに越したことはないのだが、この市場拡大期に易々と合従連衡を図るような会社があるとは思えないし、市場での競争に委ねた時に、必ずしも良貨が悪貨を駆逐できるとは限らない。

ということで、なかなか悩ましい状況ではあるのだが、やはり今、サービスを選ぶ手掛かりになるものがあるとすれば、それは、

「それぞれの会社の『契約文化』に、いかにきめ細やかに寄り添ってくれるサービスか?」

ということに尽きるのではなかろうか。

サービス事業者の中には、あたかも自社のサービス、システムに合わせて社内の仕組みを構築することが是であるかのように説く人々もいるが、「ツールが使い手の組織文化に介入する」というのは主従逆転現象で、本来あるべき形ではない*20

仮に、ユーザー側で「使い手」に合わせて社内の決裁システムを変えようと思ったところで、オーナーが頭一つ抜けていて部門長や部門スタッフが育っていないベンチャー系企業でそれをやるのは一朝一夕にはいかないし、先に述べてきたような問題は、最初から「分権」が進んでいる大手企業の人たちの事業部門の方々の方がむしろ問題視していることだ*21、ということも指摘しておく必要がある*22

いずれにしても、自社内では、きちんと必要最低限のワークフローが組める、という機能が標準装備されていることが大前提になるし、送信先に関しても「署名依頼送りつけ」ではなく、適切なワークフローを組めるように促す機能があることが望ましい。

そこまで行かなくても、「うっかり」相手がサインしてしまうようなミスは、デフォルトで排除されるようなシステム設計になっていないと、長期間安定して稼働するサービスとして使い続けることは難しいと思われる。

そして、もう一つ別の視点で指摘するなら、これだけ多くの会社がサービスを使うようになってくると使う側の目も肥えてくるわけで、それまでは「うっかりサインを誘発させかねないシステム」を「そういうものなのかな?」と半信半疑で使っていた人たちも、「しっかりと署名(サイン)させるシステム」の存在と確実性を知れば、前者を許容することは到底できなくなってくる。

今ですら、署名依頼メールを送ってくる相手方会社の担当者の軽さと相まって、「社内で『××××(サービス名)で契約送ってくる会社は、ちょっとお行儀悪いよな。大丈夫か?』って話になりがちなんですよね・・・」という話も耳にするくらいなので、この先、サービスの細かい「差」が浮き彫りになってくると、よりその傾向が強まっても不思議ではない。

たかが契約書締結ツール、されど取引相手に与える印象の重要性にはプライスレスな価値がある、ということで、導入に際しては、そういったところにも目配りした配慮が必要なはず。

これ以外にもAdobe Acrobat Reader 上の表示にストレスがない方が良い*23とか、擬似であっても使える印章やサインのバリエーションは多い方がいい、とか、自社のクラウドサーバや証明書システムを使っている会社の方が安心、とか、何よりも使い続けることでコストが膨らまないサービスがいい、といった細かいところまで入り込んでいくと選択するサービスは自ずから決まってくるのだが*24、その辺は好みの問題もあるので、ここで優劣を強調することはしない。

また、最近では「文書(契約)管理」システムとの紐付けをアピールするサービスもあるようだが、これだけサービスが乱立している状況では、特定のサービスプラットフォームに契約書の管理を委ねても、かえって管理効率が悪くなる可能性は高いので、当面は従来の自社での契約管理手法を維持したまま(ただし、自動的にPDFが生成される以上、紙ではなくデータ管理に委ねる、というのは必須だと思うが)、様々なサービスを通じて生成された契約書ファイルを管理していくのが穏当だと思われる。

ということで、長々と書いてしまったが、冒頭でも書いたとおり電子契約サービスはこの先絶対に必要なサービスだし、いずれ社会のインフラ化しても不思議ではないものである

だからこそ、ユーザー側が冷静な視点でサービスを選別し、何年か経った後に残るべきものだけが残る、という結果になることを自分は願ってやまないし、狭い自分の仲間たちの世界の殻の中に閉じこもることなく、広く現場のニーズを拾うことにもっと汗をかくサービス開発者が出てくれば、そのうち、より一段と質的に進化した素晴らしいサービスが生まれることもあるのではないか、ということを期待して、本エントリーの締めとしたい。

*1:日本経済新聞2020年5月30日付朝刊・第2面。

*2:もちろん、押印する書類の数によってはそれなりの時間は食うが、それでも実際に費やす時間の割合としてはたかが知れている。

*3:現実には「ハンコを押す」ためだけに出社していた、という人はほとんどいないはずだし、会社に行ってやることが本当にハンコを押すことしかなかったのだとしたら、合理的な会社なら「合意したやり取りの証拠だけ残しておいて。契約書の押印は落ち着いた後にやるから。」という形で切り抜けることもできたはずだから。ちなみに、この期間中は、請求書に関しても「押印はひとまず省略で結構です。後で送っていただいたものと差し替えます」というありがたいお申し出をいただくことも多かった。

*4:さすがに役所に提出する書面にまで、そこまで劇的な変化を求めるのは酷だと思っているし、下手に「電子化」を標榜されて、何でもかんでも法務局の電子認証システムのような厳格過ぎて使い勝手の悪いものにされてしまっても困るので、官公署提出書類に関しては、電子化以前に「極力印不要」の慣行を定着させる方向に持っていってほしいものだと思っている。

*5:自分はそれでも、重くてハウリングもひどくて、データ量消費も激しい他のシステムより、ZOOMを使う方が遥かにメリットが大きいと思っているので、よほどのことがない限り、乗り換えることはないだろうと思っているが。

*6:この記事は、その後、土曜日の紙面にも掲載された。

*7:この手のやり方は「今行われていること」が誰もが疑念を抱かないくらいに世の中に浸透していたり、既存のサービス(商品)との緊張関係が生じないくらい斬新なものであったりするときは効果を発揮するのだが、そうでない場合には、逆に「法が改正されるまでの足元の弱さ」を浮き彫りにし、対抗勢力からのバッシング材料に使われかねない、という重大な問題をはらんでいる。

*8:自分の経験の中では、印章がある処分証書の効果不帰属を主張したことも一度だけあるが(しかもその主張が認められた・・・)、それはかなり特殊な事例であった。

*9:これはそもそも、形式的証拠力を争う話なのか、それとも形式的証拠力を認めた上で代理権の存在を争う、という話なのか、説も分かれていてややこしい話になるので、法的見地からはこれ以上触れずにおく。

*10:https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/seicho/20200512/200512seicho05.pdf

*11:おそらく、これを理由に挙げている会社の多くは一番もっともらしい方便としてこの論点を持ち出しているだけで、現実には後述するような実務フローとの整合性の問題や、そもそもそれを検討することさえ面倒、という理由で、サービス受け入れを拒んでいるのではないか、と自分は推察している。

*12:もちろん、今行われている規制改革要望があらぬ方向にリバウンドした結果、将来「本人の電子証明書」に基づく電子署名の効力と、それ以外のタイプの電子サインの効力とで法的な位置づけが大きく変わってしまう可能性もあるので、「電子証明書」付きプランを備えたサービスを利用できるならそれに越したことはないと思うが。

*13:なお、歴史が浅く上場審査がいろいろと細やかになってからIPOを行ったような会社や、オーナー社長の権限が強く全ての契約を代表者名で締結させるような会社だと、通常の稟議プロセスに加えて(あるいはそれとは別に)押印のための決裁ルートを組んでいる(そして総務、法務といった部署を通る)ケースも時々見かけるが、歴史のある会社、規模の大きい会社だと、事業部門や支店単位で権限が与えられているため、内容の稟議が押印決裁を兼ねている方がむしろ一般的だと思われる。

*14:これも以外と知られていないのかもしれないが、規模の大きい会社であればあるほど、「法務は頼まれた契約しか見ない」というのが所定だったりする。当の事業担当部署内ですら、皆、自分の仕事をもって慌ただしく動いている結果、「担当者以外の者が契約書をチェックするのは稟議の時だけ」という会社は決して少なくないはずである。

*15:大抵、そういう契約書は、数年後トラブルが生じたときに、当時の上司に恵まれなかった事業部門の担当者がすごすごと法務に持ちこんで、皆でため息をつくものだったりする。

*16:そもそも、相当長期間協議して叩き合って、やっとこさ妥協して作った契約書ですら、自分たちに不利な内容だと、ああだこうだ言って履行を渋る海千山千の人たちは山ほどいるのだから、ましてや・・・である。

*17:なお、時々、日本特有の稟議システムが不効率を招いている、といった類の言説に接することもあるが、少なくとも多くの伝統的な会社では、契約締結場面での「稟議」は、契約上会社の代表者として記されている経営トップなり部門責任者なりが契約書の細かいところまで目を通せる余裕などないことを前提に、末端の実務者レベルに実質的な契約内容の審査権限、締結可否の判断権限を与え、それを上の何層かが(あるいは総務部、財務部等の関連する部署が)異なる角度からレビューして実務者レベルの判断の正統性を担保する、というものとして機能している。「分権」的な実態に必要最低限の統制を加える、というのがこのシステムの肝であり、日常的な契約締結の場面では極めて効率性の高いレビューシステムでもある。これが会社の命運を左右するような重大案件の稟議になってくると、途中のプロセスで、皆、それぞれの関心を持ってああだこうだ言って、行ったり戻ったりするものだから、外国企業との提携案件等では「何でそんなに時間かかるの?」という突っ込みを受けたりもするのだが、彼ら(特に米国系企業)の場合、契約に署名する責任者が全部自分できっちり目を通して判断する代わりに、末端の営業担当のような実務者には契約に触らせることすら許さず、その結果、「大きな話が決まるのは早いが、些事になればなるほど判断者のリソースの限界が露呈してやたら時間がかかる」という事態に陥ることも多い。少なくとも日常的な業務を効率的に捌く、進める、という点や、現場の実務者を育てる、という点に関しては、日本のやり方も決して捨てたものではないだろう、と自分は思っているし、日本でサービスを展開するからには、それに合わせたカスタマイズをしていただくことも不可欠だろう、と思うところである。

*18:ここで、「どっちも契約行為であることに変わりはないし、同意するかどうかを聞いて「同意」のボタンを押せばそれは契約締結の意思表示に他ならないではないか」と突っ込んでくる人もいそうだが、それは、日本のみならず万国で共通する契約文化・取引文化を軽視した「法律屋」の小賢しい理屈に過ぎないように思えてならない。

*19:なぜなら、契約書が対象としている取引の内容を一番理解しているのは最初に受け取った担当者であって、契約書の名義人である部門長なり、さらにその上の人が契約書をいきなり見ても俄かにはジャッジできない(そもそも大きな会社だと「これ何の話だ?」ということになっても不思議ではない)から、そこは本来「順番に」ステップを踏ませなければならないところである。

*20:電子契約に限らず、最近、リーガルテック界隈でこの手の発言をしばしば見かけるのだが、そこには開発側の一種の”傲慢”とも受け止められかねないリスクがある。そしてその姿は、かつて世界を席巻した日本有数の電機メーカーが「プロダクトファースト」的思考に陥ったことで、ユーザーの真のニーズを見失い、凋落の一途を辿った、という歴史的事実とも符合するような気がする(だからこそ、今は、どの会社もきめ細やかに世界各国の市場のマーケットニーズを拾うことに力を注いている)。Appleスマホのような革新的なサービスであればともかく、並のプロダクト、並のサービスでユーザー側の何かを変えよう、などというのは元々無理がある話なのだから。電子契約サービスの文脈でも、現状のサービスレベルを考慮すれば、「ハンコを電子署名&タイムスタンプに置き換えること」以上のことをあれこれ語るのは時期尚早だと自分は思っている。

*21:法務部門のスタッフなら「リーガルテック」的なものに関心を持っている人も多いし、「印鑑」が形式的担保手段に過ぎない、ということも理解している(さらに言えば、契約の中身の巧拙によって、今日明日の実入りが変わってくるわけでもない)から、多少の”笑い話”があっても、まぁ長い目で見てやれよ、と寛容な気持ちでどうしても受け止めてしまうのだが、一つ一つの契約が自分たちのノルマ、部門の存続に直結する事業部門の目は極めてシビアである。いくら「リーガルテック」といったところで、彼らにとっては、ただの有象無象のシステム業者の一つに過ぎない、ということも肝に銘ずべきことだと思う。

*22:他にも、以前は、総務・法務系の部門が主導して「システム」を導入して管理者権限を持つことで、結果的にこれまで事業部門の中で完結していた契約書まで全社的管理下に置かれる(これ自体は、会社全体で見れば決して悪い話ではない)ことに事業部門側が難色を示している、という話も聞いたことはある。さすがに「ハンコ押し出社」が問題になった今、「自分たちで抱え込みたい」というニーズよりは「手放したい」ニーズの方が先に来ているのではないかと推察するところだが、それでも会社ごとに様々な風土があり、様々な思惑がある、ということは心に留めておく必要があるような気する。

*23:「少なくとも1つの署名に問題があります」などという表示は出てこないに越したことはない。

*24:Twitterにも書いた通り、自分のお勧めはこちら(https://www.gmo-agree.com/telework-support/)。そもそも、「タダほど安いものはない」のだから、試しに使ってみたいなら、とにかく申し込みだけでもしておくのがいいんじゃないのかな、と思うところ。本日18時まで、ダービーが終わった後も2時間くらいはまだ余裕があるぞ(笑)、と。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html