復活の時は、突然に訪れる。

このタイトル、もちろん都知事選とは何も関係なく*1、今日の阪神メイン、冠名のテレビ局の名前を見れば分かる通り、いつもの年なら中京で行われていたはずのCBC賞(GⅢ)で起きた、ちょっとした物語を取り上げたくて付けたものである。

CBC賞といえば、かつてスプリンターズSが年末に行われていた頃は、本番に直結するトライアルとして、一時は国際GⅡのステータスまで得ていたレースだったのだが*2、今は、”荒れる夏競馬”を象徴するようなハンデ戦

ここ数年の結果を眺めても、人気になったGⅠ出走組をオープン別路線組や条件戦からの昇給組が蹴散らして波乱を演出、というパターンが続く下克上レースとなることが多くなっていた。

今年1番人気になったのは、前走の高松宮記念の痛恨の1着入線降着を食らったクリノガウディ―*3だったのだが、決してレースとの相性は良くないGⅠ直行組だったうえに、58キロもハンデを背負わされてしまっては、いかに名手・横山典弘騎手を乗せているといってもきつかろう・・・というところまでは容易に予想はできたから*4、自分が選んだのは、ここ数戦絶好調で、前走もオープン格の鞍馬Sを制しているタイセイアベニールだったし、別の馬に目を付けるなら条件戦を3連勝してここに臨むミッキースピリットあたり*5に目を付けて、その辺りからローテーションとハンデを見ながら相対的に確率の高そうな馬に適度に流していく、というのが素直な選択だったのではないかと思われる。

だが、我々が目撃したのは、そんな常識的なデータ党には到底想像も及ばないような結果だった。

5歳牝馬ラブカンプーが、ゲートを出るなり飛び出して、ハイペースで逃げに逃げまくり、そしてそのまま影すら踏ませず最後まで逃げ切ってゴール。鞍上の斎藤新騎手とともに初重賞制覇を成し遂げてしまったのである。

出走16頭中13番人気、丸2年5カ月近く勝利から見放されていた馬がまさかの・・・という展開。


実はこの馬、かつては自分も注目していて、特に2年前の夏競馬でブレイクし、勢いそのままにセントウルSでも2着。そして、低評価だったスプリンターズSでも、稍重馬場をものともせず、小さい体で2着に食い込んだ時のを見た時は、わざわざエントリーのタイトルにしてまで取り上げた馬だった。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

「一生懸命走る」と調教師にまで絶賛されていた馬で*6、レースぶりを見ただけで応援したくなるような魂の走りをする馬だったから、順調に進んでいれば、翌2019年には、ファインニードル引退後、新・最速スプリンターとしてスター街道を歩んでも不思議ではなかったはずだ。

ところが、休養が明け、悲願のタイトル奪取に向けてリスタートを切った途端に運命は暗転する

・復帰戦のシルクロードS、2番人気に支持されるも18着惨敗。
・続くオーシャンS、増えていた馬体が絞れ、今度こそ、と思わせるも再び大失速で16着惨敗。
・そして臨んだ大舞台・高松宮記念でも、同世代のミスターメロディに2秒離される18着惨敗。

いずれのレースも出走全馬中「最下位」という惨状で、この不名誉な記録は続くアイビスサマーダッシュまで4戦連続で続く。

この間、ゲートを出て前に付け、先頭で競り合いながらコーナーを回っていく、というレースぶりそのものはそれまでと全く変わりはなかったのに、直線に向くか向かないか、というくらいのところでガス欠を起こして信じられないような減速を見せる・・・そんなレースの繰り返しで、「今度こそ」と信じて馬券を買っていたファンの心も負けが込むたびに離れていく。

結局、2019年は8戦連続2ケタ着順を繰り返し*7、人気もセントウルSで9番人気になった以外は高松宮記念以降すべて2ケタ。

今年に入ってからも5戦連続2ケタ着順で、差し競馬を試みたり、名古屋競馬場の地方交流戦に足を伸ばして初めてのダート戦に挑んだりしていたものの、全く結果らしい結果は出せていなかった。

この馬に限らず、繊細な競走馬、特に牝馬の場合、何かのきっかけで急にレースで走る意欲が見られなくなって不振に陥る、というケースはままある。

どこも故障はしていないし、カイバ食いも良い、調教では普段通りしっかり走って良いタイムを記録している、それにもかかわらず、レースになるとスタート直後に他の馬を追いかけていかずにポツンと離されたところから追いかける形になってしまったり、好位置で走っていても直線で急に走るのをやめてしまったり・・・。

そして、多くの場合、その原因は人間がコントロールすることの難しいメンタル的なもの、と言われており、ひとたびそのサイクルに陥ってしまうと、以後、再び良い時の走りを取り戻すことができないまま引退していく馬も決して少なくない。

だから、自分だけでなく多くのファンが、2年前の秋のGⅠでの激走以来15戦、まともに勝負に絡むことめていなかったラブカンプーをそういうカテゴリーに属する馬として眺めていたはずだし、いくらハンデが出走馬中もっとも軽い「51キロ」だったからといっても*8、この日単勝馬券を買っていたのは「本当にこの馬が好きで好きでたまらない」というコアなファンくらいしかいなかったんじゃないかと思う。

だがそこで彼女は勝った。

それも、彼女の一番良い時の、ポンと出て必死で逃げてそのまま根性で粘り切る、という勝ち方で・・・

強いて「復活」のきっかけになったものを探そうと思えば、いろいろと出てくるのかもしれない。

前走から着用していたブリンカーの効果*9だとか、あるいはその前走、駆け引き不要の新潟直線1000mでスタートのタッチが柔らかく最後までしっかり追ってくれる藤田菜七子騎手が乗って7着に入ったことがきっかけ、だとか、あるいはやっぱり昨年の最多勝新人、斎藤騎手とのコンビが良かったんでしょう*10・・・などなど。

でも、どんな理由を付けてもそれは所詮ただの後付けでしかないような気がする。

そして、今日の結果から言える唯一のことは、

ずっと真摯に走り続けていれば、突然、重賞の舞台で勝てることだってあるんだよ。」

ということなのかな、と。

もちろん、彼女が既に2勝を挙げ、重賞、GⅠ2着の実績も残していたからこそ今日のこのレースに出走できた、という事実を捨象することはできないのだけど*11、ともすれば「同じ土俵で戦える資格はあるのに、そこで勝負しない諦め境地の傍観者」になってしまいがちな我ら人間にとっても、実に刺激的な勝利だったなぁ、ということは、蛇足ながら最後に付け加えておくことにしたい。

どんな時代でも、競馬は、人生の映し鏡だから・・・。

*1:4年に一度のお祭り、ということで、候補者名簿の中に「懐かしいお名前」が並んでいたことは確かだが、結局誰一人”復活”することなく、圧倒的な人気を誇る現職の前に敗れ去ってしまったのだから、わざわざエントリーを立てるほどのものでもない。

*2:自分にはその頃のイメージが未だに染みついていたので、(季節が変わったことにはさすがに慣れてきたが)GⅢのハンデ戦、と言われても、未だにピンと来なかったりする・・・。

*3:重なった春の椿事。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*4:結局、中団に控えるも良いところなく12着、という結果に終わってしまった。

*5:ゴール前の坂がキツイコースと、湿った馬場への相性が今一つだろう、ということで自分は外したが。

*6:【スプリンターズS】ラブカンプー森田師「何をされても最後まで一生懸命走ってくれます」/ねぇさんのトレセン密着 | 競馬ニュース - netkeiba.comの記事など参照。

*7:最後の京阪杯だけが辛うじて18頭立ての9着だったが、それ以外のレースは2桁でも特に「大きな数字」の結果に終わっていた。

*8:GⅠで2着にまで入っている馬にこのハンデ、というのも、普通ならなかなかあり得ないことではある。

*9:もっとも、これは一度2019年高松宮記念で使って効果が出なかった、とされていたものでもある。

*10:もっとも斎藤騎手自身は今年決してここまでの調子は良くなく、同期の岩田望来騎手や団野大成騎手に大きく水をあけられていた状況だった。岩田望騎手が病気で乗り替わりとなり、団野騎手が不運な落馬事故で重傷を負った週に、斎藤騎手が久々に話題をさらうような重賞制覇を成し遂げた、というのは、運命のいたずらにしてはあまりに・・・という気はするが、彼自身には全く罪はないし、腕も品格もある騎手なのは間違いないところなので、これをきっかけに後半戦再びブレイクしてくれることを願っている。

*11:そもそも5歳になっても現役競走馬として走ることができている、という事実自体がこの世界では一種、エリートの証だったりもする。もちろんずば抜けた存在の馬は”アーリーリタイア”してさっさと種牡馬なり繁殖牝馬なりに上がってしまうし、一定の歳を超えても走り続けていると逆に同情を集める”かわいそうな”存在になってしまうのが、この世界の難しいところではあるのだが・・・。

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