消えるべきは「ハンコ」だけではない。

今年の春以降、これまで何度か取り上げてきた話題ではあるのだが*1、遂にここまで来たか、ということで、スピードの早さに驚かされるばかり。

「政府と経団連など経済4団体は8日、書面、押印、対面作業の削減を目指す共同宣言を発表した。3つの作業は企業の契約や行政手続きなどで法制度や慣行により続いてきた。新型コロナウイルスの感染防止で広がる在宅勤務の妨げになるとして、官民一体で削減を目指す。」(日本経済新聞電子版2020年7月8日21時配信、強調筆者、以下同じ)

公表されているリリース文(経済同友会のサイトより)はこちら。

https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/uploads/docs/20200709.pdf


こういう形で官民の「共同宣言」が出されること自体、滅多にないことではあるし、民側で経団連から新経連まで4団体すべてが名を連ねる、というのもなかなかない話で、リリース文に並んだ団体名、肩書、そしてそれぞれのお名前を眺めるだけで、何とも言えない趣を感じる。

新型コロナウイルス絡みの「新しい生活様式」をここで持ち出すことの是非はひとまず措くとしても、

「社会課題として顕在化した「書面、押印、対面」を原則とした制度・慣行・意識を、デジタル技術の積極活用によって社会全体で転換し、時代の要請に即した行政手続・ビジネス様式を速やかに再構築すべきである。」

という方向性には何ら異論のないところなので、(槍玉にあげられた業界の関係者の皆さまのご苦労は察するに余りあるにしても)ここまで大見栄を切ったからには、是非短期間のうちに貫徹してほしいものだと思わずにはいられない。

そして、やたらと「民民」側に話が振られた感のある一連の話題ではあるが、何よりも押印主義に固執してきたのが「官」なのは間違いないところなので、行政手続における押印は「全廃」するくらいの気合で臨んでほしいものだな、と*2

さらに言えば、民に関しても、取り組みの順番として、電子署名等の電子認証の活用の促進」の前に「押印廃止の取組を推進する」というテーマが先に来ている、ということは常に念頭に置いて、

単に「ハンコを電子署名・電子サインに置き換えただけ」ということには決してならないように

もろもろの取り組みを進めていってほしいものだな、と、願わずにはいられないのである*3

*1:これまでのエントリーとしては、この先ずっと必要なものだからこそ、ちゃんとしたものを選びたい。~電子契約サービス選びに欠かせない視点 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~や、「押印」論争をめぐる痛烈な意趣返し。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~など。

*2:地方自治体の手続書類などは、ここ数年でかなり簡素化され、本人が手続きをする限り押印も省略されるケースが増えたと思うのだが、なぜか中央官庁周りの書類は未だに押印、しかも”それっぽい印鑑”の押印を求められることが多い。そもそも押印以前の話として「提出書式そのものを減らせ」という積年の課題もあるところなので、セットで取り組んでいただき、劇的な環境変化が起きることを期待したいところである。

*3:ちなみに、世の多くの会社が在宅勤務体制に入っている頃に、先方の担当者に気を使って「請求書をPDFで送りましょうか?」と投げかけても、ほぼ例外なくすべての会社から「いや、経理がNGなので、押印版を郵送で・・・」と切り返された記憶が生々しく残っていて、まずはどの会社も経理部門の意識改革が何より必要なのではないかな、と個人的には思っている。客観的にみれば、印鑑の有無だけで請求書の信頼性に大きな違いが出てくるわけではないのだから(不正請求かどうかも含めてそれ以外のポイントで十分チェックできるわけだから)、そこに常にハンコを求めるのは、それまでと同じことをしていないと不安になる、という悪しき官僚主義の発露に他ならないし、そもそも金銭の支払いを「請求書」ベースで行う文化自体、そろそろ変化させる時期に来ているような気がしてならない。

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