ホントは旅人が悪いわけじゃない。

東京都下での感染者数急増に始まった新型コロナ”第2波”騒動は、ここ数日の間に、あちこちで伝えられるクラスタ情報とともに、すっかり全国へと広がる気配を見せている。

そして、そんなタイミングに、そうでなくても一部業界のゴリ押しをうかがわせる「繰り上げ」で批判を浴び始めていた「GO TO Travel」キャンペーンがすっぽりとハマってしまい、まさに今、全国津々浦々で集中砲火を浴びている状況である。

自分も、こと「政策」としての見地でみれば、この「GO TO Travel」キャンペーンは、センスのない施策が乱発されている一連の新型コロナ対応の中でも、相当な愚策の部類に入ると思っていて、最初にこの話を聞いた時、今は亡き忌野清志郎

「空から降って来たカネで どこ行くんだ ベイベ~」

とシャウトする姿が幻想で思い浮かんできてしまうくらいの不快感に襲われたものだ。

この話が出始めて以来、いろんなところで言い続けていることではあるのだが、こういう場面で、「生活が苦しくなった特定の『個人』を救済すること」と、「経営が苦しくなった特定の『業界』なり『会社』なりを救済すること」とでは、全く意味が異なると自分は思っている。

前者に関しては、多少バラマキ気味になったとしてもできるだけのことはやったほうが良い。

未知のウイルスに罹患して亡くなる、という話と、生活に困窮して・・・という話は自分は全く別の次元の話だと思っているが*1、それでも窮屈な世の中が貧しさを命に直結させてしまう現実があるのだとしたら、それを救うのが政策の力だと思うから。

だが、後者に関しては全く事情が異なる。

自営業にしても、大きな規模の会社にしても、経済活動の一丁目一番地は「自己責任」。景気だって常にいいわけじゃないし、自然災害に見舞われることもあれば経理不正や横領のような「人災」を食らうことだってある。それでも、多少の想定外の事象があったとしても、ギリギリのところで耐えきるのが「経営」ってもんじゃないのか、と*2

今回の新型コロナ禍が、一部の業界にとって想定をあまりに超えたリスク要素になってしまった、ということを否定するつもりはない。

でも、既に倒れてしまった会社、大きなダメージを受けている業界、そういったものを眺めれば眺めるほど、

「負けに不思議の負けなし」

という名将の言葉が蘇ってくるわけで、巧みに危機をしのいでいる会社や業界がある中で、特定の業界に事実上現ナマを突っ込むような施策を打つのは、相当に慎重でならねばいかんだろう、と自分は思っている。

今の状況下で旅行業界が厳しいのは、わざわざ説明されなくても分かる。

旅館から、観光地の物産販売・飲食店、そしてそこへ人を運ぶ事業者まで、そもそも「観光」というカテゴリー全体が今ぶっ壊れている、というのも当然承知はしている。

それでも、この業界に並々ならぬ愛着があるからこそ、自分は「GO TO Travel」的なやり方に賛同することは決してできない。


誤解を恐れずに言えば、旅人たちが一人、二人と連れ立って、ささやかに観光地に足を運び、ささやかに地場のものを楽しむ、というだけであれば、本来は、感染症対策の観点からも決して大きな脅威にはならなかったはずだ。

ふらっと知らない土地に降り立った旅人が、旅先の地で持てる「接点」などたかが知れているし*3、当地で慎ましやかに過ごしている限り、危険な飛沫がそうあちこちに飛ぶこともない。

もちろん、大人数の修学旅行とか職場旅行のような、それ自体がクラスタになりかねないようなイベントになってくると、さすがに勘弁してくれ、という話になるだろうが、個人旅行の客であれば、東京から来ようが大阪から来ようが、感染していようがいまいが、どんちゃん騒ぎする地元の学生や農協の青年部の客に比べても、よほど本来的なリスクは低い。

しかし、これだけ「Travel」のリスクが取りざたされ、槍玉に上がってしまった今、そういった冷静な思考で、本来なら貴重だったはずの客人を招き入れることのできる「観光地」がどれだけあるか、一見すると過激と思われるような反応をした青森県内の若い市長を、もはや誰も笑えない状況になっているのが今、である。

流行が始まって半年近く経ち、感染するパターン/しないパターンもかなり特定できているように思われるのに、それを的確に伝えてこなかったがゆえに、未だに「ただ人が動いただけで流行が広まる」かのような言説がまかり通るリスクコミュニケーションの失敗とか、「規制」から「容認」まであまりに大きすぎる政策の振れ幅とか、そういったものを背景に、6月になってもなかなか回復軌道に乗り切れていなかった観光業界に、今回の愚策がとどめを刺してしまうのだとしたら、本当に残念、の一言に尽きる。


もはやディスブランディング効果しか生じさせないこのキャンペーンをきれいさっぱりリセットしてもらって、それでもなお、たとえ旅先で石を投げられようとも自分は旅に出る、という強い意思を持った旅人たちの力でじわじわと苦境を下支えできるなら、それが理想。

そして、それじゃもうどうしようもない、という状況だったとしても、ここは安易な”麻薬”に飛びつくことなく、正攻法で耐え抜いてほしい。一時の撤退を挟んででも、もう一度「観光の力」を胸張ってアピールできる日が戻ってくるまで生き抜いてほしい。

心からそう願う。

*1:前者は否応なしに免れ得ない話だが、後者は間に自らの意思が確実に介在する話で、政策次第でいくらでも回避できる話だから、「経済回せ!派」が頻繁にこの両者を一緒こたにしてああだこうだ言っているのを見ると、非常に腹立たしい気持ちになる。

*2:自分自身、リスクをとって飛び出した側の人間だからこそ、なおさらそう思うところはある。収入ゼロでどれだけ回せるか、というシミュレーションはホントに頭が痛くなるほどやり切ったし、だからこそまだこうして生き延びられているわけだし・・・。

*3:そもそも、「一人旅」なんてものは、密すぎる環境から離脱するためのイベントなのだから、都会を離れて出かける、ということ自体が理想的な対策ともいえる。

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