悪い数字に騙されるな。

新型コロナウイルス感染判明者が全国で連日1000人を超える中、先月末から四半期の決算発表シーズンに突入している。

日経新聞には、このシーズンの出だしから、連日のように派手な減収減益、巨額の赤字、といった類の記事が掲載されていたし、今月に入ってからも全体としてはその傾向に変わりはないのだが、今朝の朝刊になって、ようやくちょっと毛色の違う記事も出た。

新型コロナウイルスによる生活様式の変化を捉えた企業が利益を伸ばしている。2020年4~6月期の純利益が過去最高となったのは、5日時点で41社となった。テレワークの普及や在宅時間の増加によって、パソコンや食品などは需要が増えている。全体では3社に1社が赤字という逆風下で、最高益はわずか約4%にとどまる。」(日本経済新聞2020年8月6日付朝刊・第2面、強調筆者)

これを眺める限り、「良い業績になったとはいえ、「巣ごもり」「テレワーク」といった特殊要素によるものに過ぎず、それもほんの一部に過ぎない、全体としては依然不景気」というトーンに変わりはないから、読み飛ばしてしまった人の方が多いかもしれない。

だが「最高益」というキーワードを離れ、純粋に「この四半期末時点で前年と比較して業績が良くなかった会社」を探していくと、さらに異なる現実が見えてくる。

先週の決算発表で、増収増益(純利益ベース、業績が好転していても依然赤字、というタイプの会社は除く)だった会社が、だいたい150社ちょっとあった、という話はこのブログでもしたところだが*1、今週、ここまでのところで自分が拾えた数を挙げるなら、今日まででざっと130社超。そのうち2桁増収になっている会社が60社ほど存在する。

もちろん、上場企業全体の中で見ればほんの一握りじゃないか、という突っ込みはあるだろうが、今週の月~木に決算発表を行った会社がざっと750社程度であることを考えると、5~6社に1社、という割合だから、決して”超レア”な存在というわけでもない。

そして、増収増益企業の中には、何かと新型コロナの話と結び付けられがちな食品、ゲーム、Webサービス系の会社だけではなく、半導体電子材料といったところから、官公需に強い建設会社まで、比較的幅広い業種が含まれている、ということにも目を向けるべきだと自分は思っている。

今回のコロナ禍の「直撃」を受けた、旅行、旅客輸送、ホテル、飲食、アパレル、娯楽施設運営といった業種のダメージが激烈なのは疑いようもない事実だし、今の状況を見る限り、おそらく最終の期末まで行っても、よほど逆境耐性が強い会社でない限り、これらの業種の中で浮き上がる会社は出てこないだろう、という予想もおそらく外れることはないのだが、少なくとも上場している企業のレベルで見れば、これらの事業を営むプレイヤーの市場での存在感は、これまでも決して大きなものではなかったわけだし、これらのセクターに生じた出来事が経済全体にインパクトを与える、という事態もちょっと考えにくいところはある。

また、自動車産業を中心に、これまでわが国の「基幹」産業とされてきた機器、機械製造の分野で大きなマイナスが出ていることも確かだが、こういった分野に関しては、ここ数か月の間に需要が消失していたとしても、社会的ニーズが消えない限り、再びそれは戻ってくるのであって、今の状況は「壮大な期ズレ」に過ぎないのではないか、というのが自分の感覚だったりもする。

既に、前年比では芳しくない内容の決算を出した会社でも、3月頃に出した業績予測と比較するとかなり”好転”した、というリリースが様々なところから出てきており、場合によっては、今「通期赤字」で見通しを開示している会社でも、今の四半期で取り返し、次の四半期で追いつき、最後の四半期で増収増益に結論をひっくり返す(少なくとも「減収増益」というところにまでは持って行く)、というケースはそれなりに出てくるはずだ。

マイナスインパクトがある一定の閾値を超えてしまうと、減損だの何だので損失の谷が一気に広がってしまう、というのが今の会計制度だから、特に大きい企業であればあるほど、こういうときに決算に出てくるマイナスの数字の幅が天文学的に大きくなってしまう傾向はあるのだが、よく見ると現実にはそこまで収益構造が悪化しているわけでもなさそうだ、という会社は多かったりもするわけで・・・。

このブログでは、こと「経済」の問題に関しては、自分自身の体感を元に、「一部で騒がれているほど世の中の景気は悪くないぞ~」とか「だから政策選択を間違えるな~」といった強気のスタンスで一貫してエントリーを上げてきたところだったが、今続いている決算発表を見て、なおさらそれは決して間違ってない発想だったのだ・・・ということを改めて感じた、というのが正直なところだろうか。


「年内の最後の四半期で、日本全体の景気が好転する」とか、「結果的に年度が終わってみたら通年で大幅なプラス成長になっていても不思議ではない」という今の自分の戯言が、全て的中するとまで思い込んでいるわけではないが、「悪い方」の話ばかりを誇張して取り上げるより、頑張って結果を出した会社をきちんと取り上げていく方が、心理的にはポジティブな方に繋がりやすいと思うだけに、特にメディアには頼むぞ・・・という思いしかない。

そして、このシーズン最大の山場である明日(7日。同日には720件超の会社の決算発表が予定されている)、少しでも多くの”サプライズ決算”が来週以降の市場を賑わせてくれることを願いつつ、今週の残されたあと一日を楽しめれば、と思っているところである。

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