それはコロナのせいじゃない。

そういえば・・・ということで、過ごしている間はすっかり頭の中から抜け落ちていたのだが、さる三連休の真ん中、日曜日は、本当なら東京五輪が閉幕する日だったようである。

半年くらい前までは、五輪のスケジュールとか大体は頭の中に入っていて、それを逆手にとって国外脱出しようかどうしようか・・・といった類の計画まで立てていたのに、そんなこともすっかり吹き飛んでしまっていた。

今年に関しては、輪をかけて空にも祟られ、7月の終わりまで長雨が続いていたり、いつもなら本格的な夏の到来を告げる名物花火大会もなければ、高校野球も地方によって日程がバラバラ、その辺の子供たちの夏休みも始まったり始まらなかったり、というような状況だったりもするから、自分ならずとも、いったい今がいつなんだ!という状況に陥っている人は少なくないはず。

そんなわけで、それまで我々の頭の中に染みついていた日常のカレンダーを全部吹き飛ばしてくれたCOVID-19のインパクトの強さにはただただ呆れるしかない*1

だが、そんな具合に何でもかんでも「新型コロナ」のせいでいいのか?と感じたのが今朝の日経紙1面の記事である。

「上場企業、純利益36%減 今期見通し 6割が減収減益 事業見直し不可欠」という仰々しい見出しで始まるトップ記事。

新型コロナウイルスの影響で遅れていた上場企業の2021年3月期の業績予想の開示が広がってきた。7日までの開示を集計すると、純利益は前期比36%減となり3期連続の減益となる見通しだ。上場企業全体で赤字となったリーマン・ショック時の09年3月期以来の落ち込みとなる。秋以降の回復力を高めるため、踏み込んだコスト構造の見直しや事業改革が欠かせない。」(日本経済新聞2020年8月11日付朝刊・第1面)

最近、企業業績、それもひどい業績開示に関する記事になればなるほど、枕詞のように「新型コロナの影響で・・・」というフレーズがくっついてくる。

確かに先月末から続いている決算発表では、飲食、レジャー、旅客輸送という悲劇の3業種に、自動車、鉄鋼、重機械・工作機械といったセクターの会社が、良くて減収減益、デフォルトは3利益全て赤字、といった状況になってしまっているのだが、先週のエントリーでも書かせていただいたとおり、4~5社に1社くらいは美しい「増収増益」で着地しているのも、この4~6月期決算のもう一つの特徴である。

自分の記憶が正しければ、これは、リーマンショックの影響がもろに出ていた2009年の期末決算や、東日本大震災直後の2011年4~6月期決算の「軒並み討ち死」といった状況に比べると、実にバラエティに富んだ展開ともいえるのであって、「上場企業」とすべてひとくくりにすることが適切だとは到底言えないような気がしてならない。

そして、上の記事のミソは、太字で強調した「3期連続」というところにある。

年明けから新型コロナの影響が長く続いているために、忘れてしまった方も多いのかもしれないが、元々2019年度の各社の決算は、出だしから決して芳しいものではなかった。

製造業に関していえば、2017年度くらいで業績がピークアウトして、下り坂に差し掛かっていた会社も多かったし、2019年度に入ってからは米中摩擦が深刻化してきたこともあって、自動車にしても鉄鋼にしても工作機械にしても、前年比で売上、利益ともに大幅減となっていた会社は結構目立っていた。

この数か月の「悲劇」ばかりが強調されるレジャー、旅客輸送、高級小売といった業界にしても、訪日外国人客数は昨年くらいから完全に頭打ちモードに入っていて、免税店の売上は伸びず、ホテルは過当競争が懸念されていた状況。それでも五輪までは何とか・・・というムードは残っていたが、それが終われば需要の崖が訪れることは火を見るより明らかだった*2

そう考えていくと、今、業績悪化で苦しんでいる業種の中に、「コロナさえなければ・・・」というところはほとんど見当たらない、というのが自分の素朴な感想である。

もちろん、何もなければ1割減、2割減で済んだ減収減益幅が、疑義注記が付いてしまうようなレベルにまで下振れした理由が新型コロナ禍にあるのは疑いないところだし、逆に、堅実に対前年100%台くらいで守っていたいくつかの業種で、「バブル」的な現象が起きているのも確かだから、新型コロナウイルスが多くの企業の業績に影響を与えていることは間違いないのだが、それは上り調子だった会社と下り坂に向かっていた会社の「差を広げた」だけで、状況を逆転させたわけではないというのが自分の見立て。

強いて言えば、消費増税で苦戦が予想された中、大幅に売り上げを伸ばした地方のスーパーマーケットや、マスク、衛生用品を製造する会社の中には「一転増収増益」となったところもそれなりにあるのだろうとは思うが、ドラッグストアが伸びて百貨店が沈む、とか、通信、半導体系のメーカーが伸びて重厚長大型のメーカーが沈む、などという傾向は、ここ数年ずっと変わっていなかったから、「事業改革を」という話をするにはちょっとタイミングが遅かったのではないか、という気もしている。

おそらく、まだニュースで新規感染者数の話題が取り上げられている間は、どれだけ現場が落ち着いてきたといってもまだまだ世の人々の多くはコロナの呪縛から逃れることはできないだろうけど*3、そんな状況が続くことで、これまでいろんな人が旗を振っても動きが鈍かった「電子化」が様々な分野で不可逆的に進められるようになってきているし、そういった特需の波に乗ってますます伸びていく会社はこれからどんどん出てくるはず。

出遅れ気味のスタートとなったBtoBのメーカーや商社等の中にも、7月以降、活発に動き回って、それまでの数か月間のマイナスを一気に取り戻そうとしているところは数多くありそうだし、現に世の中、様々な取引が猛スピードで動き始めている状況。また、前年度の4Qから今年度の1Qまでは仲良くそろって大きな赤字を叩きだしていた業界でも、ビジネスを工夫して進めた会社とそうでない会社との間で、四半期のたびごとに差が広がっていくことは十分考えられる。

できることなら、次の四半期決算発表の時期くらいまでには、あれだけ恐れられた新型コロナウイルスの影響がピタッとなくなり、どの会社も明るい顔で通期予測を開示していただけるようになればな、と思うのだが、そこまで行かなくてもよりはっきりと(同じ業種内の事業者との間ですら)”濃淡”、”明暗”が分かれるのがこれからの数か月だと思うだけに、ここはしっかりと「歴史の変わり目」を見届けられればな、と思っているところである。

*1:正直、一日単位で見れば、朝起きてから夜寝るまでの間にすることは、コロナ前後でほとんど変わっていなかったりもするのだが、週単位、月単位といった具合にスケールを広げていくと、やっぱり「普段とは違う」という感覚がどうしても湧いてきてしまう。

*2:誤解している人は多いが、五輪に伴う観光需要が一番盛り上がるのは「始まる前」までで、期間中は日頃頻繁に日本を訪れているようなヘビーユーザーは高騰したホテル代とセキュリティを嫌ってあえて訪日を避けるし、終わった直後も潮が引くように観光客がいなくなる、というのは、これまでいくつもの五輪開催地で見られた傾向である。もちろん五輪開催で世界中に都市名が連呼され、歴史にもその名が刻まれることで、将来の安定した観光収入につなげることができる、というメリットがあることは否定しないが、短期的にみれば、2020年7月以降は厳しい、というのが冷静な見立てだったように思う。

*3:個人的には、ここにきて感染者数の数字以上にメディアでの取り上げられ方がだいぶ落ち着いたな、という印象もあるので、感染者数がこのまま増え続けようが、そうなるまいが、秋の声を聞く頃にはいったん話題から消えてしまう、ということも十分考えられるのではないかと思っていたりする。ちょっと願望を込めすぎかもしれないが、一方で今日本の外側で起きているうねりは、正直「コロナにかまってる場合じゃない」と言いたくなるくらい大きなものになりつつあるのも事実だったりするので。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html