"Go To" はどこへ行く?

ふと気づけば世間はいわゆる”お盆”のシーズンに入ったようで、今年のこの状況下においても、多少は街を歩く人の数、都市圏の電車に乗っている人の数は減ったような気がする。

自分の場合、元々帰るような田舎はなく、一年で一番、移動の交通費も宿泊料金も高く設定されているこのシーズンに「国内旅行」に出かけるほど算数が苦手なわけでもないから、基本的には普段と変わらず仕事をしていることが多かったし*1、年末年始と同様、この期間になると日常の生活圏内でちょっとだけ快適に過ごせるようになる、というのをささやかな楽しみにしていたりもしたのだが、今年に関してはなおさら・・・ということで、巣籠もりならぬ「東京ごもり」で、いつもに増して暑い夏を満喫したいと思っているところである。

で、そんな時に、昨日の日経紙の記事を見てふと思い出したのが「Go To トラベル」キャンペーン。

そうでなくてもスキームをめぐってキナ臭い話がいろいろと出ていたところで、実施を前倒しするとか、キャンセル料を負担するしない、とか、挙句の果てには「東京除外」等々、悪いブランドイメージがすっかり定着してしまった感があるのがこのキャンペーンで、自分自身もこんなものを使おうという発想は全くなかったのだが、それでも、全国津々浦々の旅館・ホテル等々が潤うのであればまぁ良いのかな、という思いはあった。

ところが、である。

「国内旅行の需要喚起策「Go To トラベル」に登録した旅館・ホテルが全体の3割程度にとどまっている大手旅行会社の商品に組み込まれた大型旅館・ホテルなどが中心で、中小・零細の宿泊施設の登録は進んでいない。直接予約の旅行だと施設と旅行者の手続きが煩雑になるためだ。1兆円を超える巨大事業の恩恵が大手事業者に偏りかねない。」(日本経済新聞2020年8月12日付朝刊・第5面、強調筆者、以下同じ。)

まぁ何というか、自分も最初にこの制度の概要*2を見た時に、手続きがややこしすぎて、個人手配の旅行でこの制度を使うのはちょっと難しいんじゃないか? と思ったのは事実なのだが、それにしても「3割」とは・・・。


今のように、どんな業界でもそれなりに影響を受けている場面で、特定の産業だけに肩入れするような施策を打つこと自体に自分は賛同できずにいるし、ましてやその手法が「利用者側にキャッシュバックする」というものであることにも不可解さを感じざるを得ない*3

そして、百歩譲って、「観光産業が日本経済、地域経済にとって大事なので、肩入れしないといけないんです。」という謳い文句に耳を傾けるとしても*4、隅々までお金がめぐらないこの仕組みの前では説得力も色褪せる。

結局、このキャンペーンで恩恵を受けるのは、旅慣れない人々を相手にするJTB等の旧来型の旅行代理店とそのパック商品に組み込まれた輸送機関、大手ホテル・旅館だけで*5、迎え入れる地域全体を含めた「観光」の基盤全体の下支えにはつながらないのではないか?

だとすれば、そこに多額の国費を投じる意味は果たしてあるのか?

既にキャンペーンが始まって1か月近く経っているが、このキャンペーンを一度白紙に戻してもう少しまともな救済リソース配分の方法を考えるべき、という思いには何ら変わりはない。

なお、ちょうど1か月前のエントリーでも書いた通り*6「旅」を求める人々の心に自粛を求める必要は何らないと思っているし、都会の近郊都市での過度の密集を避ける、という意味でも、このシーズン、少人数での旅行は積極的に慫慂されるべきだと自分は思っている*7

現に自分も先月の三連休、国内では実に久しぶりに仕事と関係なく遠くに出かけたが、移動の交通機関から滞在先での行動まで、(対同行者との関係を除けば)、都会で普通に日々を過ごすのに比べれば、はるかにリスクは低く快適だったな、というのが素朴な感想であった。

当然ながらキャンペーンは対象外、全て自腹、ということではあるが、それでも宿泊施設が地元飲食店のクーポンを付けてくれたり、”閑散期”ならではのお得感もあったり・・・*8

今もどこもそんなに状況は変わっていないと思うので、この夏の間に、是非どこかへ足を運んでみることをお薦めしたい。

そして、こんな時だからこそ、単なる「消費財」ではない、全国津々浦々の”観光地”のありように触れることができるはずだし、そこで見たもの、感じたものが伝播されていくことによって、本当の意味で観光を支える無形の資産が蓄積されていくことになると思うので。

*1:そして、航空券と宿をうまく押さえれば国内旅行よりリーズナブルで、気候的もはるかに快適に過ごせる海外の旅をこの前後で楽しむことも多かった。

*2:https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001358665.pdf

*3:旅行などというものは、行く動機があれば少々値段が張ろうが行くものだし、動機がなければどんなに値引きされたって飛びつかない代物である。また、そもそも、旅に出るかどうか、の動機は札束で生み出すものではなく、純粋に”行き先”の人を引き付ける力によって生み出されるものだと自分は思っているから、日常消費財のごとく「割引」で旅行商品を買わせようとするのは、極めて品のない施策だという感想しか出てこない。

*4:もっとも、JATA等がこれまで喧伝していた「経済効果」の数字(https://www.jata-net.or.jp/data/stats/2019/pdf/2019_sujryoko.pdfの資料に出てくるような「観光消費額26.4兆円」といった数字など)は、いろんな数字の寄せ集めでしかなく、純然たる「観光」がもたらす経済効果がどの程度のものか、ということについては、もう少ししっかり検証する必要があるように思われる。

*5:大手のOTAのサイトを通じて宿泊施設のダイレクト予約をした場合に、キャンペーン対象として割引を受けられるのであれば、まだ多少裾野は広がるのかもしれないが、そうでなければ旧態依然とした「身内のカネの回し合い」で終わってしまうことは避けられない。

*6:ホントは旅人が悪いわけじゃない。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*7:一方で「帰省」は全く別の話で、家族で、それもマイカーなどで移動しようものなら、かかっている人が一人でもいれば全滅だし、戻れば戻った先で人と会う、密な飲食をする、ということが避けられない以上、よほどのことがなければ今はやめておけ、というのが正しい所作だというほかない。

*8:パッケージではなく個人手配の場合、総費用の約6割が移動の交通機関に落ちるお金で、宿泊施設に支払うお金が約2割。結果、行く先々の飲食店や土産物店のために落とせるお金というのは、どうしても費用全体の2割くらいのレベルにとどまってしまうのが何とも残念なことではあるのだが、それでも少しでも多くの人が足を運んで、Instagramなり何なり、人目に付くところにアップすることで通販で火が付く商品なんかもあったりするわけで、感度の高い人が率先して現地に行く、ということが大事なのではないかな、と思うところである。

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