「9・11」という日付を聞くと、何年経っても心がざわつく。
そして本来なら秋の夜長、当時を振り返っていろいろと考えに耽りたくてもそれを許さないのが、この季節のスピード感でもある。
世の中のペースが緩みがちな7月、8月を超えて一気に様々なものが動き出すから、なのか、それとも、適度にまぶされる「祝日」の分、平日の密度が高まるからなのか、は分からないけれど、会社にいた頃から9月といえば”息つく間もない”という形容詞がぴったりくるような感覚を長らく味わっていたし*1、それはフリーになっても変わらない。
昨年は、ちょうどオーバーワークが重なって熱出して寝込む*2、という苦い経験をしたこともあって、新しい仕事を受けるにしても、なるべく余裕をもって慎重に・・・と念じてはいるのだが、それでも瞬間的にクビが回らなくなる時はどうしても出てきてしまう。
そんな時に読みたい本。
コウペンちゃんとおべんきょうする『幸福論』 アランとおともだちになろう (KITORA)
- 作者:富増 章成
- 発売日: 2020/01/30
- メディア: 単行本
この本の出版社の株主優待*3のリストに入っているのを見て申し込んだのがきっかけで我が家に来た本なのだが、「絵本」だと思って侮るなかれ。
アランの『幸福論』を意訳したフレーズとその解説を各ページに散りばめつつ、それぞれに誰もがご存じの、るるてあ氏のキャラが添えられた本書は実に味わい深く、そしてとにかく癒される。
例えばこんな感じ。
「うまく生きていくためには、まず、自分とけんかをしないことです。」(45頁)
そうそうこれですよ、と解説に目を落とし、そこにある「どんな道もいい道なのだ」と思いましょう、というフレーズに再び勇気づけられる。
「あなたを肯定してくれる言葉」の一つとして出てくる、
「本当に幸福な人は、世間が自分のことを忘れていても平気なのです。」(28頁)
というフレーズにもドキリとさせられるところはあって、「今は、自分が世間でどう思われているかなんて考えないで、自分の好きなことに集中しましょう!」という解説にうなづく。
”肯定ペンギン”はどこまでも優しい。
ちょっと長いけど、
「空砲の中にも時として、人を傷つけてしまう弾がひそんでいます。ロシア語で悪口を言われたとしても、私はかまいません。ただ、たまたまロシア語を知っている可能性もあるのです*4。」(86頁)
なんていうのは、今のSNS社会にぴったりなフレーズなわけで、ボカして陰口を叩くくらいなら最初から言うな、という話かな、と。
批判するなら正面から、そうでなければ黙っとこ、というのが自分の流儀なのでこれもしっくり。
そして最後に、
「働くことはもっとも楽しいことであり、また、もっともつらいことでもあります。」(10頁)
という言葉にじんと来る。
脳内で”Get Wild”鳴らして退社するのも結構だけど、自分のオフィス爆破してしまうと次の日から生きていけなくなるのが自営業者の悲しい性でもあるわけで、楽しさもつらさも表裏一体なのだから前向いて頑張らんと、と思わせてくれるペンギンのイラストが何とも粋である・・・。
ということで、万人への効能は保証しかねるが、疲れる秋だな、と思った方には、騙されたと思って手に取ることをお薦めする次第である*5