それは「ローンの組み方」以前の問題。

海の向こうのかの国のみならず、遠く離れた日本まで大統領の一挙一動に振り回される・・・そんな週の始まりになってしまったが、今日、個人的に凄く引っかかったのは、日経紙の1面に大きく掲げられた以下の記事だった。

「定年退職後も住宅ローンを返済し続ける高齢者が増えそうだ。日本経済新聞住宅金融支援機構のデータを調べたところ、2020年度の利用者が完済を計画する年齢は平均73歳と、20年間で5歳上がった。」(日本経済新聞2020年10月5日付朝刊・第1面)

いかにも経済紙らしく、記事はどちらかと言えば「リスクを考えずにローンを組む&組ませる風潮が悪い」という方向でまとめられているのであるが、自分はこの話はそれ以前の問題で、ただ一つ、以下の一言に尽きると思っている。

「なぜ、今、不動産を買うのか?」

自分は、「土地の値段が永遠に上がり続ける」という神話に騙されて辺鄙な土地に家を建て、「家のローンが」の一言で家族に忍耐を強い、さらにはバブル崩壊後、買った時の値段を一度も超えることのなかった自分の土地への恨み言を繰り返し続けた祖父母や親の姿を間近に見てきた世代だからなおさらなのだが、経済的な損得で言えば、ローンを組んで利息まで払い、さらに一定の維持費も負担しながら不動産を所有するメリットなんて、今の時代にはほとんどないと思っている。

長年住んで価格が下がっても、最終的に「売る」ことで多少なりとも価値を回収できればまだよいのだが、今はそれすらままならない。

祖父母が亡くなった後、主を失った土地の買い手を見つけるまでに要した歳月は約10年。曲がりなりにも「首都圏」のエリアの物件である。

売れないならいっそのこと放棄してしまいたい、と思っても、今のこの国の法制度は、そんなに簡単に”ババ”を手放すことを認めていないわけで、どれだけ建物が朽ち果てようが、終わらないババ抜きを続けなければいけない宿命にある。そして行き着く先は、運が良ければ、粗大ごみのように持参金付きで親切な誰かに引き取ってもらう、そんな幸運に恵まれなければ所有者不明土地建物・・・。

そうはいっても、「都心部の物件ならそこまで資産価値が落ちることはないし、ローン減税とか買い替えによる節税効果を考えれば他人の資産に家賃を払い続けるよりはマシだろう」と考える人が多いからこそ、未だにローンを組んでまで手を出す人が後を絶たないのだろうけど、それだっていつまで続くか分からない話だ。

おそらく新型コロナで人の流れが変わり、五輪が終われば、首都圏の不動産の価値は目に見えて下がる。

新築物件なら、供給をセーブすれば何とか価格をコントロールできるかもしれないが、既にここ数年、供給過剰が指摘されている中古物件がどれだけ悲惨なことになるかは想像に難くない。

そう考えると「ローンの組み方」をあれこれ言う以前に、もっと違うところを突っ込むべきだったのではこの記事・・・と、思わずにはいられないのである。


もちろん、自分の見立てが外れるのはいつものことだから、10年後に「あんなこと言わずに、あの時買っとけば・・・」と自分自身が後悔することになる可能性は全く否定しないし、仮に当たったとしても、不動産を何としても持ちたいという価値観に突き動かされている人たちや、短期的なキャッシュアウトを抑えるためにやむに已まれず買う、という事情のある方々を全否定するつもりも全くない。

ただ、家計で大事なのは足元のフロー。そして、資産を持つなら換価の容易性を何よりも重視せよ、という鉄則は、もう少し啓発されても良いのかな、と。

もう、10年、20年も変化のない日常を過ごし続けることができる時代ではないのだから・・・。

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