「ここからが正念場」というタイトルをエントリーに付けるのは、今年に入ってから2度目のことである。
前回は2月も末に差し掛かる頃の話。
k-houmu-sensi2005.hatenablog.com
いま改めて見返すと、見通しが楽観的に過ぎたなぁ・・・と思うことも多々ある一方で、想像していた以上にここからの半年強で世の中が変わったところもある。
あの頃は決まっていたイベントがバタバタと中止、延期になって、ザワザワしていた頃だったのだが、その後暫しの沈黙の時を経て、セミナーにしても、会議にしても、はたまたちょっとした打合せにしても、今やWebでやるのが当たり前の時代になってしまった*1。
これまでは前後の予定だの、時間帯だの、といった様々な事情で泣く泣く断念していたようなセミナーでも、フレキシブルに聴講しやすくなった、というのは間違いなく大きな進歩*2。
一方で、「会って話すのが目的」のような会合を無理やりWeb会議でやるのに付き合わされたりすると、少々げんなりするところがあるのも事実で、何を重視するか、というところのバランスも難しいな、ということを日々痛感させられている。
で、少し脱線してしまったが、今再び迎えようとしているのが「正念場」。
個人的には、今、この国が置かれている状況、客観的にみて差し迫る危機のレベル感は、2月下旬から3月下旬にかけてのそれに限りなく近いと思っている。
欧州や米国で大きな「波」が来て、海の向こうの話、と高みの見物をしていると、自らもどわっと波にのまれる。油断が招いた不用意な行動がクラスタを発生させ濃厚接触者を通じて一気にウイルス感染者を拡大させていく。どこからどう見ても、ここまで繰り返してきたシナリオと同じ展開になっていることを考えれば、あながち的外れな指摘ではないはず。
そして当時と異なるのは、あの頃は(クルーズ船を除けば)まだ十数名から増えても100名ちょっとくらいのレベルに留まっていた感染判明者*3は、今日の時点で既に700名超*4にまで達している、ということ。
さらに「春から夏」という季節を味方に付けられた当時とは異なり、今は日増しに寒さが厳しくなる、まさにウイルスが大喜びしそうな乾燥した季節に近づいている、ということである。
そんな状況なのに、予防のためのワクチンはもちろん、COVID-19にターゲットを絞って開発されてきた新薬の投入もまだ間に合いそうにない。
客観的にみれば、2月、3月と比べてもあまり良い材料はなく、むしろ悪い材料の方が多い、というのが正直なところだろう。
にもかかわらず・・・
世の中のムードはどう見ても弛緩している、というか、目の前にあるリスクをあたかもないかの如く振る舞うことが推奨されているかのような風潮さえ感じられる。
予算がなくなったのならサッサとやめれば良いのに、増額してまで続けられようとしている「Go To」シリーズ。
「トラベル」では、OTAとそれを販路にしている大手有名ホテルは潤っているようだが、今のやり方ではそこから先にお金が回らない。
「イート」にしても、関心が集まっているのは予約サイト経由の裏技ばかりで「店」が主役になれていない。
今週も学生たちであふれる安めのチェーン店を避け、地元客向けに長年愛されている近場のお店に行ってみたのだが、予約サイトとのタイアップを基本的にしていないゆえなのか、緊急事態宣言が明けた頃よりも客の影はまばらだった。
自分は、「旅行に行くのが良くない」とか「飲食に行くのが良くない」なんてことを言うつもりは全くない。限られた人数で節度をもって振る舞う限りはほぼノーリスクに近いわけで、何より、東京の人々がまだおとなしく”自粛”ムードの真っただ中に留まっていた時期にガラガラの居酒屋、ガラガラの観光地で我が世の春を味わっていたのは筆者自身だったりもする。
だが、それができたのは、観光地はもちろん飲食店でさえ、無関係な他のお客さんとの間で安全すぎるほどの距離をキープできたからこそ。
平時と同じ手法で”賑わい”を生み出すような集客手法を用いる、というのは、「コロナ前」のやり方だし、緊急事態宣言の波を超えて、賢い会社は「個」をターゲットにした新しい施策を次々と打ち出している。
それなのに、本来なら一番工夫して生き残る道を探らないといけないはずの業界が、それまでの成功体験から抜け出せず、安易な集客手法に頼り切っている、という悲しい現実がここにはある。
ここまで何度か襲ってきた波を、海外に比べれば相対的に小さな犠牲で切り抜けることができたから、なのか、「欧米と違って日本人はコロナに罹ってもただの風邪。恐れずに突き進もう」みたいな威勢のいいことを公然とおっしゃっている人々もよく見かけるのだが、科学的、医学的にそう言えるような根拠が果たしてどれだけあるのか、ということを考えると、そんなものを信じる気にはとてもなれないし、前回のエントリーにも書いた通り、季節の端境期と再流行の始まりが重なったことで、今回の波はおそらくこれまでのようなレベルの傷の深さでは済まない可能性だってある*5。
幸運はそう何度も続かない。
これまで自分も家族も、周囲の人々も、皆”無傷”で乗り切ってきたからといって、ここから数か月そのまま乗り切れるかどうかは、引き続き1%のリスク感度と99%の運にかかっているということは、改めて心に留めておく必要があるのではないかと思う。
もちろん、最悪のシナリオは回避されるためにある。
ところどころで不幸な集団感染が生じているところもあるとはいえ、何かと手探りだった春先に比べれば、医療機関での感染者対応は、初期の対処から治療薬の選択まできちんと確立されたものが出来上がってきているように思われるし、我が国の医療従事者の高度な技術と使命感によってしっかりと支えられている限り、最後の堤防が決壊することはない、と期待しても良いのかもしれない*6。
「感染者数が増えた」といっても、今日くらいの水準を天井にしばらく粘っていれば、やがて、異例のスピードで改良、開発が進められた治療薬が市場に投入され、「新型コロナ」が「インフルエンザ化」する日も訪れることだろう*7。
だから、これまで同様、自分が書き散らかしたあれこれは、今回も全て杞憂に終わる、ということになるのかもしれないが、そうはいっても「日常を守りつつ、正しくリスクを恐れ、合理的な方法で避ける」ことの徹底に勝るものはない、ということは改めて強調しておきたいと思っている。
なお、最後に、もうこの半年以上、ずっと見続けていたJohns Hopkins Universityのダッシュボード*8上で、今日、とうとう日本の感染者数が中国の数字を抜いた。
今に続く疫病禍の全ての発端であり、かつ、このウェブサイトを最初に見始めた頃、断トツで大きな数字を叩きだしていたのがかの国だったことを考えると、何とも言えない複雑な気分に襲われてしまうのだが、不名誉な数字とはいえ、今やあらゆるところで抜かれてしまった隣国を追い抜くことができた数少ない機会、ということで、自らを慰めるしかないな、と思っているところである。
*1:2月、3月にキャンセルになった研修等の予定も、主催者のご尽力で夏以降Web等を使いながら無事行っていただいたこともあり、全部取り返してさらにお釣りまで来た。ありがたい限りである。
*2:もちろんそれは、講演者が本来享受できるはずの有形無形のメリットの犠牲の上に成り立っているものである、ということにも聴講者は思いを向ける必要はあるわけだが・・・。
*3:もちろん、検査がきちんとできていなかっただけで、実際にはもっと存在したはずだが。
*4:東京都内は8月下旬以来の水準に戻っている。
*5:数日前の自分もそうだったが、この時期は気温の急激な変動とも相まって「ちょっと風邪気味」という人は決して少なくないはず。その一方でその症状で病院に行くか?と問われれば、大抵の人は「行かない」と答えるだろう。99人の「タダの風邪」の中に1人の「タダの風邪じゃない」人が混じっていて、結果的により本人も周囲も症状が重くなって初めて、あぁしまった・・・というパターンがこれから激増したとしても全く不思議ではない。
*6:いつまでもそういった現場の力に頼り続けることが良いことなのかどうか、というのは別として。
*7:インフルエンザ同様、「ワクチン」にはそれほどの効果は期待できないと思っているのだが、「かかってもこれを処方すれば・・・」と多くの人が認める薬が登場するだけで、状況は一変するはずである。
*8:https://gisanddata.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/bda7594740fd40299423467b48e9ecf6