こんな年だから、なのか、今年はこれまでしばらく気にしていなかったようなニュースにも目を向けることが増えた。
典型は、これまでシーズン終盤の数試合と日本シリーズくらいにしか興味が湧かなかったプロ野球の結果がなぜか毎日気になるようになってしまったことで、いつもなら長いシーズン、他のイベントもあっていろいろと関心が分散したり、そもそもしばらく海外にいるから日本で何が起きてたかなんて知らん・・・となっていたりすることも多かったのに、今年は凝縮された日程、しかも”新型コロナ集団感染”といったハラハラさせられるようなイベントも間に挟んだりしていたもので、なんだかんだとここまで結果だけはずっと見ていたような気がする。
で、その流れで、ここ数年は、次の日の新聞見て「あ、昨日だったのか」と気づくくらいの関心度だったのに、なぜか週末からワクワクさせられてしまったのが、ドラフト会議。
もちろん、小さい頃は「甲子園で活躍したカッコいいお兄さんたちがどこのユニフォームを着るんだろう?」と子供心にもワクワクしたものだし、中高生になればなったで、物好きな奴が買ってきた専門雑誌に群がって、このチームの指名戦略はこうあるべきだ等々、今思えば何ら生産性のない議論を滔々としたあげく、(自分の学校から誰が指名されるわけでもないのに)授業中にパンチョ伊東氏の美声を授業中こっそり教室で盗み聞きして怒られる・・・そんな記憶もまだ生々しかったりする。
ただ、ある時から、一部の球団のメディア戦略が功を奏したのか、有識者が「くじ引きで所属球団を決めるなんて職業選択の自由の侵害だ」とあちこちでのたまうようになり、「戦力均衡」という制度の意義を没却するような「逆指名」という悪しき制度が導入されたことで、少なくとも「ドラフト会議当日」への興味は一気に冷めた。
それから10年以上の時を経て、再び全ての選手が「クジ引き」の対象になる、というルール自体は復活したものの、そのきっかけが二度の不幸な「栄養費」問題だったこともあって、依然、どことなく冷めた気持ちが残っていたのも事実。「逆指名」の期間中もそれ以後も、名の売れた高校生に指名が殺到して話題になるのは横目で見つつも、何となく話題先行型だな、と思ってしまうところもあり、引き気味に淡々と眺めて終わり、というのがこのイベントだった。
それがなぜか今年は気になった。
甲子園で春夏ともに選手権が開催されなかった、という特殊な一年だったこともあって、高校生よりも即戦力になりそうな学生野球の選手たちに話題が集中していた、というのが、関心を引く要素としては大きかったのかもしれない。
特に、早大の早川隆久投手は、高校時代から見ていた選手だが、フォームがとにかく美しいし、左腕で球速150キロ台のストレートを投げられるまでに成長したとなれば、獲りに行かない理由がないだろう。何より、大学1年からコンスタントに試合に出つつ、大学4年になって才能全開、というのが素晴らしくて、このタイプの選手はまず失敗しない、と自分は見ている*1。
4球団競合してくじを引いた結果、勝ったのが楽天と聞いて、「またか!」と思ったのは確かだが*2、ここ3年は話題の高校生を外し続けていたようだから、確率論的にはちょうどうまい具合に、絶好の選手を引き当てる運がめぐってきた、ということなのだろう。
もう一人の話題選手、近大の佐藤輝明選手も、映像を見る限りでは相当スケールはでかそうな選手。
ただ、引き当てたのが我らがタイガース、というのが何ともため息なわけで、個人的には「巨人とソフトバンクに獲らせなかった」ということ以上の感慨は今一つ湧いてこない。
直近のドラフト1位組、大山悠輔選手、近本光司選手が活躍しているので、さらに柳の下もう一匹、を狙ったのかもしれないが、その前の高山俊、伊藤隼太といった鳴り物入りで入団したドラフト1位組の「今」を見れば、まだ懲りないか・・・というのが率直な感想。そして、
なぜこんな素晴らしい左ピッチャーがいるのに獲りに行かない?
というのが、打たれるガルシア投手の姿を見続けてきたファンの偽らざる気持ちではなかろうか*3。
狙いに行った選手を引き当てたチームと、そうでないチーム。毎年のことではあるが、「外れ1位」ですら競合して2度もチャンスを逃したチームは今年も出ている。
ただ、クジで勝てば勝者で、負けたら敗者か、と言えば全くそんなことはない、ってことは、長年外し続けている自称・球界の盟主が、今シーズン首位を独走していることからも明らかなわけで、入団した選手が育ってナンボ、そしてどこかが育てた選手を運よく引っ張って来られるような資金力、ブランド力まで備えてナンボ、というのがこの世界の宿命だったりもするわけだから、「クジを引き当てる運」だけで終わってほしくないな、と思わずにはいられない*4。
なお、全体的にみれば、今年は高校生以上に社会人の指名があまりに少なく、大きい大会が軒並み中止、延期になったあおりをもろに食らってしまったような印象はあるし、育成枠での指名選手が増え、しかもそこに結構な数の大学生が混じっている、というところにも、いろいろと考えさせられるところが多かったりする*5。
今は、一昔前と違って、「「○○」球団でないと行かない」といったことを公言する選手は随分減った気がして、それが、全12球団がそれぞれでブランド向上に力を入れるようになってきて、戦力面でも人気面でも以前ほど上位、下位の差がなくなってきたことによるものなのか、あるいは、トレードもFAも活発化して、「どうせ同じ球団に一生いるわけじゃないし」という意識が浸透してきたことによるものなのか*6、は分からないが、いずれにしても良い方向での変化であることは間違いない*7。
だが一方で、「どこの球団の指名でも価値は同じ」という時代になればなるほど、「何番目で指名されるか」とか、そもそも「支配下選手として指名されるかどうか」という問題の方がよりシビアになってくるような気もして、今日のこの日の指名発表を、穏やかならざる心持ちで眺めていた選手たちも少なからずいたのだろうな・・・というのは何となく思うところ。
大学生の場合、「社会人に進めばいい」と割り切ろうとしても、目下の経済状況を考えると、下手すると入社早々廃部の憂き目にあうことだって想定しなければならないから*8、特に、育成枠で指名を受けてしまったような選手の場合、極めて悩ましい判断を迫られることにもなりかねない。
ここで出会ったは幸運の神様、と信じて、たとえそれが波平でも一本の前髪(?)に飛びつくか、それとも、低評価は頑として蹴飛ばして、本当の幸運がめぐってくるまで辛抱強く待ち続けるか。
今日のこの日だけを見れば、ごく一部の世界の人々だけが関係するプロスポーツ界の一イベントに過ぎない話なのだけど、ちょっと視点を変えれば、働く者全てにつながる話だけに、今日クジを引き当てられた人も、否応なく順番で指名された人も、そして指名されなかった人も、全ての人々にちょっとずつ幸運が訪れるような世の中であってほしい、と(そんないい話はないことは承知の上で)ささやかに願っている次第である*9。
*1:逆に最終学年だけ爆発的に活躍した、という選手は結構当たりはずれが大きいし、さらに入学した当初は旋風を巻き起こしても上級生になって伸び悩んだ、というタイプの選手がプロに入ってからもう一伸び、というケースとなると、ほとんど見かけない気がする。もちろん典型は2010年の日ハムのドラフト1位の選手だが・・・。
*2:何といっても田中将大投手を引き当てた印象が未だに残っており・・・。
*3:2位で社会人の即戦力左腕が取れたからよい、ということなのかもしれないが、個人的には早川投手を狙いに行ってほしかったな、と。
*4:なお、入団1年目からリーグ新人最多安打、盗塁王のタイトルまでかっさらった近年まれにみる成功例、近本選手は「外れの外れの1位」だったことも為念で。
*5:有名大学の選手だと、しばらく故障で苦しんで姿を消していたり、これまで大きい舞台での登板機会になかなか恵まれていなかったような選手も結構いるようだから、そこにも試合数が減った最終学年のシーズンの影響がそれなりに出ているような気はする。
*6:トップ級の選手ともなれば、そもそも「日本球界自体が所詮通過点」なのかもしれないし。
*7:そしてこのような変化が、”普通の人々”の就職活動の世界にも浸透してくれることを願うばかりである。
*8:毎年都市対抗等に出場していた名門チームを持つ会社ほど一連の新型コロナのネガティブ・インパクトを受けている、というのは、どう見ても明らかな事実だから、もしかすると来年以降は、一気に独立リーグに好選手たちが流れ込む、そんな転機になっても全く不思議ではない。
*9:そして、渡米前も帰国後も、未だNPB球団からの愛を感じられていないであろう田沢純一投手にも、どこかで必ずもう一度大舞台で輝く機会がめぐってくることを願ってやまない。