長らく「コロナ不況」一辺倒だった日経紙のトーンもようやく変わり始めた気がする。
今朝の朝刊、第2面に掲げられた見出し。
「コロナ下高値、進む二極化 環境適応力で差」
(2020年11月7日付朝刊・第2面)
記事の中身に目を通せば、どちらかといえばまだ「株価」の方に話題がフォーカスされていて、なぜか29年ぶりの高値を記録してしまった、という1面のネタのおまけのような雰囲気もあるのだが、
「 コロナ禍を自らの成長機会にしようと挑む企業は強く、一段と市場の評価を高めている。一方で非接触化など生活様式の変化が逆風となる企業は苦しく、その差が大きく開いている。」(同上。強調筆者、以下同じ)
という分析自体はまぁ的を射ている、というべきなのだろう。
振り返れば、まだ「経済が死ぬ~」と騒ぐ人々であふれていた4-6月期決算発表の頃からこの兆候は明確に見えていて、このブログでもエントリーを上げていたところ。
k-houmu-sensi2005.hatenablog.com
そこでコメントした「2桁増収&全利益増益(黒字)」の会社の数はざっと400社を超えたし*1、先週、今週で決算発表があった会社のうち、現決算期のここまでの累計で「増収&全利益増益(黒字)」で開示した会社は262社、2桁増収の会社だけでも118社だから、潮目は大きく変わって来た、と見るべきだろう。
前期との比較で言えば、大きく数字を落としている会社でも、連結営業利益の予想を2.6倍に引き上げた上に中間配当の増配まで発表したトヨタ自動車に代表されるように、「上方修正」ラッシュは続いている。
ここのところの株価上昇をいぶかしがる人はまだまだ多いように思われるのだが、(上げる前の基準となる価格水準が妥当だったかどうかはともかく)当初の悲観的予想からはかなり上振れしているのが実情なのだから、トレンドとしては上がらない方が不思議、だと言えるだろう。
実体経済がどうこう、という話もあるが、ごく一部の会社を除けば、大企業に職を得ている人々の懐にはほとんど変化がない(むしろ在宅勤務になり、余計な出費も減って手元に残るお金は増えている、というパターンも多い)上に、地方では、これまで長らく不振をかこっていた地元密着型の小売業界の「特需」が依然として続いていて、パート従業員に特別ボーナスが支給されているようなケースも見聞きするところだから、そこもプラス。
飲食業や観光業に従事している人たちはどうなる?という話もあるが、この辺の業界で、この手の浮き沈みは日常的にある話で、当然のことながら現場で働くスタッフたちの流動性も極めて高い*2。
もちろん、様々なめぐり合わせが最悪の方向でかち合ってしまう、という人はどこの世界にもいるので、どこかの大臣のように「お金に困っている人などいない!」的なトーンのことを言うのはさすがに憚られるが、一部の識者が騒ぐほど家計レベルでは状況は悪化していない、むしろ皆「消費の出口」を探している、というのが現状の素直な理解と言えるような気がしている。
で、こうなってくると、今の政策が向かっている方向は正しいのか?という議論も当然出てくるわけで、奇しくも日経紙は「二極化」を報じたその日の紙面に、以下のような観測気球を掲げた。
「異業種に転職する人が減っている。総務省の労働力調査から推計すると、4~9月は1394万人と前年同期比87万人減った。新型コロナウイルス禍で人員が過剰な業種と足りない業種の差が広がっているが、雇用の維持を狙った手厚い雇用調整助成金が移動を阻んでいる面がある。」(日本経済新聞2020年11月7日付朝刊・第5面)
いくら需要の繁閑、業績の良し悪しが二極化しているからといっても、昨日まで航空機の整備をしていた人がすぐにIT系サービスの営業に転じたり、小売店でレジ打ちに転じたりすることができるわけではないから、こういった議論を乱暴に進めるのは好ましいことではない。
ただ、かたや引き合いが多すぎて悲鳴を上げている事業者がいる中で、社員の多くを「自宅待機」にせざるを得ない事業者もいて、しかも前者が求人をかけてもどうにも動きが鈍く、後者からの流入が起きるわけでもない・・・という状況がこのまま続くのが良いことだとも思えない。
この先、財源の話も含めて、「補助金をいつまで続けるのか」「続けざるを得ないとして仕組みをどう変えるのか」という話はいたるところで出てくるだろうし、それによって多くの事業者、そしてそこで仕事をしていた人々が翻弄されることになるのだろうけど・・・。
今一つだけ言えることがあるとすれば、ちょっとでも今と違う環境で生きられる可能性がある人は周りより一足先に動くべし、ってことだろうか。
希望退職の募集が始まれば退職金上乗せされるじゃないか・・・等々を期待して待つ、という感覚を全否定するつもりはないけど、たかだか数パーセントの「上乗せ」よりも、一歩先んじて動いたことで得られるメリットの方が遥かに大きかった、ということは、自分自身が身に染みて感じていることでもあるので。
「座して死を待つな」というと大げさかもしれないが、今は一人でも多くの人々が、取り残されずに活路を見出せることを願うばかりである。