同期の桜はまだ散らぬ。

今年の競馬開催も残すところあと7週。

毎年のことではあるが、それまで名声をほしいままにしていた古馬たちの「引き時」が気になる時期でもある。

この週末に差し掛かる前に、ジャパンカップでの引退」を発表したのが、言わずと知れた8冠馬、アーモンドアイ

既にコントレイルとデアリングタクト、という牡牝無敗三冠馬の揃い踏みが決まっていた日本最高賞金額レースを”必勝”のラストマッチと定めたところに、

「最強馬伝説を永遠のものにしたい!」

という陣営の意気込みを感じ取ることができるのだが、裏返せば、海外遠征のリスクが格段に上がってしまった2020年において、彼女が勝負できるレースはジャパンカップただ一つしか残っていなかった、というのも正直なところではなかったかと思う*1

3歳時、破竹の勢いで既に奪い取っているタイトルだけに、勝って当たり前、負ければ即、「世代交代」「敗れた女王引退」という見出しが躍ることが分かり切っている厳しい舞台ではあるし、個人的には後者の見出しが躍る可能性の方がかなり高いと思ってはいるが、ここまで既に獲得賞金額12億円超、現役では頭一つ抜けた特別な一頭だけに、最後まで無事に走り終えてくれることを願うばかり。

で、そんなニュースが流れる中、全く同世代のもう一頭の牝馬ラッキーライラックエリザベス女王杯で実に鮮やかな勝利を飾った。

今年に入ってからM・デムーロ騎手の手綱で大阪杯勝利、という実績を残しながらここに来てルメール騎手への乗り替わりを決断した陣営の判断はさすがにえげつないかな・・・というところはあったのだが、蓋を開けてみれば、強引なまでに先行して墓穴を掘ることも多かったこれまでのレースぶりとはうって変わって、大外枠から後方を無理なく追走。

4角手前で巧みにまくって一見早仕掛けにも思える出し抜けをくらわせ、最後まで馬をバテさせずに猛追する後続馬を封じ込める、という、まさに”ルメール神騎乗”で4つ目のGⅠタイトルを勝ち取った。

思えば阪神ジュヴェナイルフィリーズを勝って最優秀2歳牝馬となり、「来年は三冠の主役」と思わせたのは3年前のこと。

その後、突如現れた新星・アーモンドアイに桜花賞で屈したのを皮切りに、1年半以上も敗れ続ける、という苦難の道を歩むことになってしまったが、昨年のエリザベス女王杯でスミヨン騎手の手によって蘇り、香港GⅠの2着などを経て、先述した大阪杯のタイトルを奪取。

それでもアーモンドアイに比べればまだまだ”日陰”感のある立ち位置にいたのだが、この「エリザベス女王杯連覇」によって獲得賞金額もコントレイルを抜き、平地馬では2番目のポジションに付けることになった。

そして、既に有力視されているのが年末の有馬記念出走である。

アーモンドアイと同じく6歳春までには引退しなければならない星の下にいながら、一足早くターフを去る同期よりもちょっとだけ長く現役を続けられる、というのはそれだけでも幸運だし、さらにもう一つのGⅠタイトルを年末のグランプリレースで奪取するようなことになれば、年度代表馬争いも分からなくなってくる*2

三冠馬」が出た世代というのは、傑出した一頭の存在と引き換えに他の同期の馬たちが埋没してしまい、結果的に”弱い世代”に見られがち、というのが、これまでの常だった。

自分の記憶の中では、ナリタブライアンの世代が弱いと言われていた*3のが最初で、ディープインパクトの時もオルフェーブルの時も、はたまた牝馬三冠馬が出ていた時も、少なくとも「3歳時のライバル」たちが後々華々しく活躍した例、というのはあまり記憶にないし*4、今年の3歳陣も既に「弱い世代」というレッテルを貼られつつある。

当たり前のことではあるが、格の面でも賞金面でも、ファンに与えるインパクトという意味でも大きい「三冠」全てを一頭の馬に持って行かれてしまうと、他の同世代の馬は古馬になってからも主役を張るのは難しくなってくるわけで、それが結果的に(三冠を取った馬以外は)「弱い世代」と思われることにもつながってしまうのだろう。

その意味で、”絶対的な主役”だった「8冠馬」アーモンドアイだけでなく、「4冠馬」ラッキーライラックまで生み出した「2015年生まれ世代」の異彩さは際立っている

「連覇」の後、ルメール騎手が語った「アーモンドアイがいなかったら彼女はレジェンドになっていた」というセリフが何とも象徴的ではあるのだけれど、もしかしたら「あと一つ」を取ることで「彼女もまた」レジェンドになる可能性はあるわけだから、このドラマの行く末を最後まで見届けられれば、と思っているところである。

*1:何といっても昨年の有馬記念の走りが、彼女にとって唯一の“汚点”ともいえるようなものになってしまっただけに・・・。

*2:3歳の三冠馬のいずれかがジャパンカップを勝てばそれで確定、という気もするが、この2頭でもアーモンドアイでもない伏兵馬がそのタイトルを奪うようなことになれば、「別路線」の馬にスポットが当たる可能性もあり得るだろうと思っている。

*3:三冠で競り合ったエアダブリンヤシマソブリンといった馬たちの勝負弱さに全ては起因する・・・。

*4:もちろん、3歳時はクラシックに縁がなかったような馬が古馬になって主役に躍り出る、というケースはしばしばみられるのだが。

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