日本シリーズが終わった日。

2020年11月25日、という日は、標題のとおり「終わった日」として先々まで語り継がれることになるのかもしれない。

単にイベントのスケジュールが終了した、というだけではなく、プロ野球に2リーグ制が採用されて以降長年親しまれてきた球界の一大イベントの存在意義が失われた、という意味で。

先週の土曜日に始まったばかりなのに、週末の2日間で完膚なきまでに打ちのめされ、舞台を移して巻き返しを図った昨日の試合ではあわやノーヒット・ノーランリレーを食らう始末。

そして、元・球界の盟主のプライドをかけて挑んだ第4戦も、初回組み替えた打線で初めて先制点を奪うところまでが精一杯。その裏と次の回に浴びた2ラン2発で”一矢”の思惑は完全に打ち砕かれ、あれよあれよという間に4連敗でゲームセット、という結末になってしまった。

今年の数少ない娯楽の一つ、楽しみにしていたファンも多かっただろうに、1週間持たずに最大のイベントを終わらせてしまうこの体たらく。試合が終わる前からSNS上は、怨嗟と嘲笑の声であふれかえっていた・・・。


2年続けてソフトバンク対巨人、という二大金持ち球団の対決となったこのシリーズだが、昨年も(記憶にはほとんど残っていないが)ソフトバンクの4勝0敗で、長年「セ・リーグ主、パ・リーグは添え物」という価値観で生きてきた世代の者たちにとっては屈辱的な結果で終わっていた。

これが一昔前の日本シリーズなら、「去年の雪辱」とばかりに負けたチームが目の色を変えて向かっていき、新しい歴史を作れたはずなのだが*1、今年に関して言えばそんな気配は微塵も見られず。

むしろ、前年の「大きな差」が「絶望的な差」に開いてしまった感すらある。

強いて敗者をかばうなら、今年はなぜか本拠地をアマチュアの社会人に明け渡して関西拠点に動かないといけなくなっていた、という事情があったし、全ての試合でDH制採用、というそうでなくても打線が強力な敵方に塩を送るようなルールも採用されていたことが試合展開に与えた影響も大きかっただろう*2

勝敗に直結する話ではないが、昨年、ラグビーW杯の影に隠れて失態にあまり注目が集まらなかったのに、今年は何だかんだ言って、プロ野球Jリーグと並んで久々に「娯楽の王様」に返り咲いていたものだから、その分、日本シリーズが人目に付く機会も増え、失態が目立った、ということもある。

さらに言えば、今年のセ・リーグは最初から最後まで、昨年以上に巨人がぶっちぎって飛ばしており、、原監督以下のコーチ陣も含めてシーズン中は持ち上げられる機会が多かった、ということも、最終盤での罵声をより大きなものにしてしまったのかもしれない。

ただ、どんな事情があるにせよ、「(ほぼほぼ)無抵抗で4連敗」というのは、いくら何でも、という話なわけで、リーグを代表して日本シリーズに出ておきながら*3、リーグの弱さを天下に晒すような試合を連発されたのでは、他チームのファンだってたまったものではない。

ソフトバンクは、これで日本シリーズ4連覇。さらに1シーズン挟んでその前に2連覇していたりしていて、この10年で実に7回の優勝を経験している、ということになる。

加えて、2018年に悲願の日本一奪回を目指した広島との第3戦を制して以降、4連勝を3回続けて12連勝、というまさに椿事。

なぜ、ここまで強いのか、理由を一つで言い表すことは難しいのだが、単純にまとめれば、「資金力に物を言わせて有力外国人選手をかき集められるチームが、育成にも力を入れたらこうなるのは当たり前」ということなのだろう。

そして、リーグを代表するチームがこれだけ圧倒的な力量を示してくれると、どこが出ても「パ・リーグ代表」なら日本一になれるのではないか、という錯覚すら芽生えてきてしまう*4

何といっても、2013年に楽天が仙台の地で劇的な日本一に輝いて以降、セ・リーグのチームが日本シリーズを制したことは一度たりともないのだ。

かつて80年代後半~90年代にかけて、森祇晶監督が率いる西武ライオンズが、破ったチームの選手の”野球観”を変えてしまうくらい強かった時代もあったのだが、あの時ですら4年も経てば一度は覇権を譲っていたわけで、8年もの長きにわたって一方のリーグが相手のリーグを凌駕し続ける、ということは、そう簡単に許容されるべきことでもない*5。そしてもし仮に、来年までセ・リーグのチームが優勝できない流れが続くとすれば、まさにパ・リーグ連合軍が「V9」の歴史に並ぶことになる。


こういった状況を打開しようと思うのであれば、クライマックス・シリーズをリーグを超えたトーナメント形式の場とするしかないのではないのでは?という気もする。

もしかしたら、毎年セ・リーグのチームが日本シリーズまで足を進める前にシーズンを終えてしまうことになってしまうかもしれないが、それでも、今よりは良い試合になるカードを増やせるはず。そして、いずれにしても、「このままではいけない」という危機感をセ・リーグ側が持たない限り、「日本シリーズ」のブランド価値自体もまた失われていってしまうような気がして・・・。

できることなら、10年先、20年先にも残っていてほしいイベントだけに、セ・リーグ側が勝負で勝てるようになることをただ待つだけではなく、仕組みを変えることで変わられる何かがあるのではないか、ということまで信じて、来年以降、「何かが変わること」を期待していくことにしたい。

*1:93年のヤクルトとか、(戦った相手は変わったが)96年のオリックスとか、前年の悔しさを晴らすためにリーグを連覇し、見事に頂点に立ったチームの輝きは別格だった。

*2:「打順」を気にしなくてよいからこそ、工藤監督の細かい継投も冴えるわけで、単に「DHが使える」ということ以上に勝敗に与えた影響は大きかったような気がする。

*3:しかも今年のセ・リーグ覇者はCSの洗礼すら免れている。

*4:これはあながち「錯覚」ではなく、4位くらいまでのチームなら、日本シリーズセ・リーグ優勝チーム相手を倒すことも、そう難しくはないような気がする。

*5:言うまでもなく、同一リーグによる日本一が一番続いたのはV9時代の巨人である。1964年に南海ホークスが制してから1974年にロッテオリオンズが日本一になるまで、ちょうど10年ブランクが空いていた。

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