「正義」の所在~2つのガイドラインに関するちょっとした感想。

企業法務の分野で2020年という年を振り返った時に、もっともインパクトの強かったテーマを上げるとしたら、やはり競争政策に関する話題、ということになるだろう。

国外では米国・欧州で、競争当局とGAFAとの戦いが本格的に幕を開けたともいうべき一年となったし、国内ではそこまで目立ったエンフォースメント案件こそなかったものの、様々な分野の出来事に公正取引委員会が顔を出してくる機会は多かった。

このブログでも昨年からの「プラットフォーマー規制」の関連で、楽天市場の話題*1を紹介したり、フランチャイズに関する実態調査報告書の話題などを紹介してきたが*2、9月にトップが交代した後もなお年末まで手を緩めることなく・・・という感じで、ここに来てさらに2本の指針(ガイドライン)案がパブコメにかけられている。

いずれも、単純な思考で一方に「肩入れ」したならばスッキリした気持ちで読めるのかもしれないが、ちょっと立ち止まって考えると、そんな簡単な話ではないぞと言いたくなる、そんなテーマ。既に関連するエントリーを上げているところでもあるが、良い機会なのでここでまとめて紹介しつつ、思うところを簡単に書き残しておくことにしたい。

正義はどちらにあるのか?

まず最初に取り上げるのは「スタートアップとの事業連携に関する指針(案)」公正取引委員会経済産業省)である。
(指針案:https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/dec/201223pressrelease_2.pdf

このスタートアップと連携する(大)企業との関係については、今年の夏に公取委が行っていた調査の中間報告が出されていて、その時にも二言三言コメントしていた。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

その後、先月末に公取委から「スタートアップの取引慣行に関する実態調査について(最終報告) 」が出され*3、こちらの方はメディア等でのバイアスのかかった論調に比べると、まだ比較的中立的で読み応えのある資料になっているなぁ・・・と思いながら感想を書こうとしていた矢先に出たのが今回の指針である。

指針案によれば、「独占禁止法上の考え方及び独占禁止法上問題となり得る事例については公正取引委員会が担当し、各契約の概要並びに問題の背景及び解決の方向性についてはオー
プンイノベーションを促進する観点から経済産業省が担当している」(2頁)という分担執筆になっているのだが、前者に関して指摘されている項目をざっと挙げると、以下のようになる*4

1 NDA(秘密保持契約)
ア 営業秘密の開示
スタートアップが、連携事業者から、NDAを締結しないまま営業秘密の開示を要請される場合がある。
イ 片務的なNDA等の締結
スタートアップが、連携事業者から、スタートアップ側にのみ秘密保持・開示義務が課され連携事業者側には秘密保持・開示義務が課されない片務的なNDA(以下「片務的なNDA」という。)の締結を要請される場合や、契約期間が短く自動更新されないNDA(以下「契約期間の短いNDA」という。)の締結を要請される場合がある。
ウ NDA違反
連携事業者が、NDAに違反してスタートアップの営業秘密を盗用し、スタートアップの商品・役務と競合する商品・役務を販売するようになる場合がある。
2 PoC(技術検証)契約
ア 無償作業等
スタートアップが、連携事業者から、PoCの成果に対する必要な報酬が支払われない場合や、PoCの実施後にやり直しを求められやり直しに対する必要な報酬が支払われない場合がある。
3 共同研究契約
ア 知的財産権の一方的帰属
スタートアップが、連携事業者から、共同研究の成果に基づく知的財産権を連携事業者のみに帰属させる契約の締結を要請される場合がある。
イ 名ばかりの共同研究
共同研究の大部分がスタートアップによって行われたにもかかわらず、スタートアップが、連携事業者から、共同研究の成果に基づく知的財産権を連携事業者のみ又は双方に帰属させる契約の締結を要請される場合がある。
ウ 成果物利用の制限
スタートアップが、連携事業者により、共同研究の成果に基づく商品・役務の販売先が制限される場合や、共同研究の経験を活かして開発した新たな商品・役務の販売先が制限される場合がある。
4 ライセンス契約
ア ライセンスの無償提供
スタートアップが、連携事業者から、知的財産権のライセンスの無償提供を要請される場合がある。
イ 特許出願の制限
スタートアップが、連携事業者から、スタートアップが開発して連携事業者にライセンスした技術の特許出願の制限を要請される場合がある。
ウ 販売先の制限
スタートアップが、連携事業者により、他の事業者等への商品・役務の販売を制限される場合がある。
5 その他(契約全体等)に係る問題について
(1) 顧客情報の提供
スタートアップの顧客情報は営業秘密であるがNDAの対象とはならないことが多いところ、スタートアップが、連携事業者から、顧客情報の提供を要請される場合がある。
(2) 報酬の減額・支払遅延
スタートアップが、連携事業者から、報酬を減額される場合や、報酬の支払を遅延される場合がある。
(3) 損害賠償責任の一方的負担
スタートアップが、連携事業者から、事業連携の成果に基づく商品・役務の損害賠償責任をスタートアップのみが負担する契約の締結を要請される場合がある。
(4) 取引先の制限
スタートアップが、連携事業者により、他の事業者との取引を制限される場合がある。
(5) 最恵待遇条件
スタートアップが、連携事業者により、最恵待遇条件(連携事業者の取引条件を他の取引先の取引条件と同等以上に有利にする条件)を設定される場合がある。

こうやって各項目を並べてみると、ちょっとでもこの辺の実務をかじったことのある方なら、「玉石混交だな・・・」という感想を抱くのではないだろうか。

「販売先/取引先の制限」のような話は、「スタートアップとの連携」という前提を持ち出すまでもなく、取引上常に独禁法違反のリスクを気にしなければいけないところだから、いかにも公取委ガイドラインの定番記述だな、という印象だし、指摘の法令上の根拠も一般指定第11項(排他条件付取引)と第12項(拘束条件付取引)だから、これまでの他のガイドラインの運用等を踏まえた相場観もある程度掴めるところである*5

また、「NDA違反」とか「報酬の一方的減額、支払遅延」という話になってくると、そもそも独禁法の適用以前に明確な契約違反でしょう、ということになるわけで*6、スタートアップ側の泣き寝入りで終わらないように、あえて強行法規の存在を明記する意義があることは理解するものの、実務上のインパクトはそこまでないような気がする。

一方で、以下のような記述は、連携事業者側の実務者としては、非常に気になるのではないだろうか。

イ 片務的なNDA等の締結
独占禁止法上の考え方
スタートアップと連携事業者の間で片務的なNDAが締結された場合には、NDA期間内であっても、スタートアップの営業秘密が連携事業者によって使用され、又は第三者に流出して当該第三者によって使用されるおそれがある。また、スタートアップと連携事業者の間で契約期間の短いNDAが締結された場合には、NDA期間後において営業秘密が陳腐化する前に、営業秘密が連携事業者に使用され、又は第三者に流出して当該第三者によって使用されるおそれがある。
取引上の地位がスタートアップに優越している連携事業者が、取引の相手方であるスタートアップに対し、十分に協議をすることなく自社のNDAのひな型を押し付けるなど、一方的に、片務的なNDAや契約期間の短いNDAの締結を要請する場合であって、当該スタートアップが、将来再度の事業連携がなされる可能性がなくなるなどの今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるおそれがあり、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)として問題となるおそれがある。(7頁、強調筆者、以下同じ。)

イ 名ばかりの共同研究
独占禁止法上の考え方
共同研究の大部分がスタートアップによって行われたにもかかわらず、その貢献度を超えて、共同研究の成果に基づく知的財産権を連携事業者のみ又は双方に帰属させる場合には、スタートアップは貢献に見合った成果を享受できず、連携事業者は貢献を超えた成果を享受することとなる。
取引上の地位がスタートアップに優越している連携事業者が、知的財産権が事業連携において連携事業者に帰属することとなっており、貢献度に見合ったその対価がスタートアップへの他の支払に反映されているなどの正当な理由がないのに、取引の相手方であるスタートアップに対し、共同研究の成果の全部又は一部の無償提供等を要請する場合であって、当該スタートアップが、共同研究契約が打ち切られるなどの今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるおそれがあり、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)として問題となるおそれがある。(16~17頁)

スタートアップ側がどういう意図で一定の条件を受け入れたか、なんてことは、実際に紛争、事件になるまでは取引の相手方には知る由もないことだし、取引上の地位が「優越」していると認められてしまえば、それだけでスタートアップ側が「受け入れざるをえなかった」と認定される可能性は十分にある。

そう考えると、これまで当然のように使ってきた片務的なNDAや、成果共有がデフォルトの契約書式は、相手がスタートアップの時に限っては、使用を差し控えないといけないのか・・・とザワザワする人も多そうである。

NDAに関しては、コンタミネーションリスクまで考慮すれば、連携事業者の立場からも、極力双方向のNDAを使うことがお勧め、と言わざるを得ないし*7知財の帰属に関しても、無駄に特許の出願登録費用や維持年金の半分を負担させられるくらいなら、「その都度協議」で良いのでは?というのが個人的な意見ではある*8

ただ、取引上の様々な要素を考慮して結ばれるはずの契約の中身、それも、通常の取引においては決して珍しくない契約条件に対して「優越的地位の濫用」という名目でいきなり強行法規が介入してくるのだとしたら、取引当事者としてはたまったものではない

おそらく指針(案)を作成した公取委経産省としては、「いやいや、そうはいってもひどい事例はあるので・・・」(そして、現実に適用されるのはそういう事例だけなので・・・)という反論も当然用意していることだろう。

だが、この指針(案)で度々登場する「事例」(スタートアップが一方的にいじめられている、という構図の事例)を単なる机上設例ではなく、現実の事例*9として持ち出そうとするのであれば*10、客観的にみて本当にそうなのか、ということは、もう少し慎重に吟味したほうが良いのではないだろうか。

この点、先月の「スタートアップの取引慣行に関する実態調査について(最終報告) 」の構成は比較的バランスの良いものとなっていた。

具体的に言うと、スタートアップ側の回答だけでなく、「経済団体やその会員の事業者(大企業等)からの意見」というものも取り入れている点が評価できるところで、例えばNDAに関しては、

○ 初期の情報交換の時点から,NDA締結を要求してくるスタートアップがいる。大企業としては,スタートアップの技術概要が全く分からない段階でNDAを要求されると,事業連携に向けた議論がしにくくなる場合がある
○ 3年くらいの長期間の守秘義務を制約するNDAを結んでも,その期間内に技術内容も日々進歩することや,大企業内部での研究開発により,スタートアップの技術を追い越してしまうケースがあるなど,大企業側としてはスタートアップとのNDAにおいて長期間の守秘義務を結びにくい事情はある。
(最終報告書40頁、強調筆者、以下同じ。)

というコメントが紹介されているし、PoC契約に関しては、

○ PoCをスタートアップに依頼してみると,スタートアップの技術レベルが従前の説明ほど高くないケースも多い。実態以上の過大なプロモーション活動で資金集めに奔走しているスタートアップも多い。
○ 大企業は,自社の技術開発を進めるに当たり,PoC契約を結んだ上で複数の技術を検証し,最適な技術を採用することとなる。スタートアップの技術も選択肢の一つとはなるが,検証した結果,採用するかどうかは分からない。一方でスタートアップは,自社の技術が唯一かつ最適であると考えており,両社の考え方に違いがある。
(最終報告書42頁)

共同研究契約に関しては、

○ 共同研究で開発した技術の所有権がスタートアップとの間で問題になる。自社で開発した技術は,自社の競争力を高めるためだけに使いたいが,スタートアップ側としては,その技術を他社も含めて広く普及させることを望んでおり,立場の違いがある。
○ 共同研究開発を目的としてスタートアップへ出資しても,当該研究開発が進捗する中でスタートアップが資金難に陥るケースが多々あり,研究開発の支援だけでなく,スタートアップの経営自体を財務的に支援しなければならないなど,順調に共同研究が進まないケースもある。
(最終報告書44頁)


といったコメントも書かれている。

当然、反論したくなる方はいらっしゃるだろうが、少なくとも自分の目から見れば、そこまでおかしなことを言っているとも思えない。

これまで、メディア等でこの問題が取り上げられる時には、決まって「自分たちの技術を大企業側に勝手に使われた」、「一方的に不利な契約を結ばされた」というようなスタートアップ側の声だけが一方的に取り上げられることが多いのだが、スタートアップの会社が提案するような技術ニーズは提携する企業の側でも当然前々から分かっていたことで、他にも複数の会社と平行して開発を進めていることも稀ではないし、場合によっては10年近く社内で開発を続けていた、なんてこともあるから*11、提携したスタートアップの技術をわざわざ盗用しなくても、提携解消後に同じもの、あるいはそれ以上のものが出てくることなんて普通にある*12

また契約協議に関しては、(出資契約に関する意見として出てくるものではあるが)最終報告書の中に大企業側のコメントとして記された、

「通常,大企業は他社と契約書のやり取りをする場合,最初は自社に不利にならないような契約書を提示し,その後,法務部署を通じて,相互に平等な契約内容となるようにすり合わせていくのが一般的である。大企業である出資者はスタートアップに対しても同様の対応を行うが,スタートアップは,法務に詳しい人間がいないためか,そのまま締結しないと出資をしてもらえないと思ってしまうことがあるのではないか。」
(最終報告書56頁)

ということに尽きるのではないかと思う。

きちんと調べていけば「契約段階で自社の言い分を主張したのに提携先に押しきられて不利な契約を結ばされた」というケースより、「契約の時はとにかくイケイケで良く読まずに締結したけど、あとでトラブルになって見返したら実は自分たちが不利だったことに気付いた」というケースの方が遥かに多いということだって十分考えられる*13

本来なら、スタートアップ側の意見に、こういった「反対側」からの意見をぶつけた上で、現に起きているトラブル事例を打開するための最適解を考えていく、というのがあるべき姿のはず。にもかかわらず、今回の指針(案)では、このような反対側からの意見は1ページの脚注1にチラッと書かれているだけで、スタートアップ側の言い分だけで構成されているように思えてしまうところに違和感を抱く。

先に述べたように、「悪質な事例のみをターゲットにする」ということであればそれでも良いのかもしれないが、それなら指針の射程が広がり過ぎないように、もう一工夫あってしかるべきではなかろうか、という思いもある。

いずれにしても、「スタートアップこそ正義」という価値観だけで指針を作られてしまっては、スタートアップ企業以外の関係者にはとんでもないことになってしまうわけで、それぞれの「正義」をじっくりと比較衡量しながら、指針の良しあしを検討していく、というのが、正しい在り方のように思えてならないのである。

何が正義なのか?

ということで、スタートアップの話を長々と書きすぎてしまったので、簡単に済ませようと思っているのが、次のフリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(案)」内閣官房公正取引委員会中小企業庁厚生労働省)である。

これなどは、つい先日のエントリーで触れたばかり。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

ガイドライン(案)の中で、予想通り、「フリーランス」の定義も書かれていて、

「本ガイドラインにおける「フリーランス」とは、実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者を指す1こととする。」(ガイドライン2頁、強調筆者、以下同じ。)

という記載を見た時に、「おお!」と思ってしまったのだが*14、今日のエントリーのテーマとの関係で、重要になるのは以下のくだり。

独占禁止法は、取引の発注者が事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用されることから、事業者とフリーランス全般との取引に適用される。また、下請法は、取引の発注者が資本金 1,000 万円超の法人の事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用されることから、一定の事業者とフリーランス全般との取引に適用される。このように、事業者とフリーランス全般との取引には独占禁止法や下請法を広く適用することが可能である。」(ガイドライン2頁)

これでこのガイドラインの紹介は終わり、としても、そんなに怒られることはないだろう。

メインのガイドラインの標題に合わせて少しアレンジはされているものの、それ以降に公取委(&おそらく中小企業庁)が担当したと思われるパートの記述は、ほぼほぼ「下請法の適用要件を示したもの」に他ならないわけで、元々のルールをきちんと把握している方々の目で見れば、そんなに新しいことが書かれているわけでもない。

なので、ここでこのエントリーを締めてしまおうかとも思うのだけれど・・・


個人的には、この「ガイドライン」の中で一番気になるのは、「雇用」に該当するかどうかが微妙な事例(「雇用」と認定されても不思議ではないような境界線上にいる人たち)において、独禁法と、労働基準法等の関係法令のいずれを適用する方向で実務が動くのか、ということである。

そして、「雇用」に当たる場合に、独占禁止法や下請法上、事業者の行為を問題としない、ということは書かれているものの(ガイドライン2頁)、「事業者の行為が雇用に該当する」と認定されるまでの間にどういう動きが出てくるのか、ということについては、ガイドラインには何も書かれていないから*15、そこは始まってからのお楽しみ(?)なのかな、と。

ここで、労働関係法令を幅広く適用することこそが正義だ!と唱える人は世の中に比較的多いのかもしれないが、労働基準法はあくまで使用者を規制するための法律であって、労働者に「契約当事者」としてのポジティブなアクションの機会を与えるものではないし、その規制内容自体、画一的、硬直的なものであることを考えると、競争法が適用される前提で自分の意思でアクションを起こせる法が魅力的、かつ、正義にかなう、と考え方も当然あり得る*16

今は大急ぎで、各省庁、機関の分担に忠実に縦割りで作った感のあるこのガイドラインだが、ひとえに「フリーランス」といっても、実際の働き方から、働いている人間のマインドまで、現実は実に多様な世界でもあるだけに、(表に出すかどうかはともかく)より、エンフォースメント面も含めた法執行場面での連携の在り方、そして、ここでもいかなる「正義」を重視するのか、ということは、しっかり考えておく必要があるのではないかな、と思うところである。

*1:「違反のおそれ」が独り歩きする不可思議 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*2:これがビジネスモデル転換の第一歩になることを願って。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*3:https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/nov/201127pressrelease_1.pdf

*4:なお、後者に関しては相変わらずちょっとピントがずれた記述も多いし、そもそも「余計なお世話」の世界なので、ここではあえて取り上げない。仕事をしたくてうずうずしているのは分かるが、様々な背景が絡む「契約」というセンシティブな領域に役所が知った顔で踏み込むのは、そろそろやめた方が良いのでは・・・というのが素朴な感想である。

*5:この手の「制限」に関しては、露骨なものはともかくとして、「競合他社に販売してもいいけど、その時はロイヤリティ頂戴ね」というような条件を付けることも、相手の規模や取引によっては実質的な制限になるのではないか、という話もあり、深く考えていくと知的財産権の帰属の話ともリンクしてなかなかややこしくなってくるのだが、この指針ではそこまでは踏み込んでいないようなので、ここでもとりあえず措いておく。

*6:これも、「契約上認められたオプションを連携事業者側で行使しただけだが、それが著しくスタートアップに影響を与える」(NDAで連携事業者が受領した秘密情報の利用目的や第三者開示の範囲を広くとっているケースや、成果にちょっとでも瑕疵があれば大幅減額できるようなオプションが盛り込まれているケース等)という場合はどうなのか?という疑問は当然出てくるのだが、今回の指針(案)に挙げられている例を見る限り、そこまで微妙なところには公取委も立ち入っていない、という印象を受ける。

*7:その代わり、後になってスタートアップ側から変ないちゃもんを付けられないように、外形的な要件をクリアして初めて秘密情報、とするパターンを選択することになるが。

*8:かつては、規模の小さい会社の方が業界で名の知れた大企業と共有特許を持ちたがって、それにお付き合いで乗ってあげる、ということも多かった。最近のスタートアップのマインドがどうなのかは分からないが、特許を取ったところでそれを維持して、さらに使える武器として行使するためには、途方もない労力とコストが必要になるわけだから、スポンサーとしての大企業をそこでも生かす、という発想は依然として出てきても不思議ではないように思うし、逆にそれをせずに”やせ我慢”する風潮があるのだとしたら、それは決して賢い戦略ではないように思う。

*9:指針(案)の中では、「実態調査報告書に基づく事例」とされている(2頁)。

*10:公取委などは、いやいやそうではない、あくまでこれは違法となる「例」を示しただけであって、現実に生じている事象に独禁法が適用されるかどうかはケースバイケースだ、とコメントするのだろうが、今回の指針(案)を見た人の多くはそういう受け止め方はしないような気がする。

*11:それならなぜ外部のスタートアップ企業と提携するのか?という疑問は当然抱かれてしかるべきだし、当然社内でもおいおい、となるわけだが、「ブームには勝てない」というのが、コロナ以前のスタートアップ連携の現実だったりもした。

*12:ある一定のトレンドに合わせて技術開発を行う場合、最終的にはどの会社も大体同じ方向に技術を収斂させていくことになるし、一定のレベルに到達するまでのスピードもそんなに変わらない。だからこそ特許は一刻も早く出せ、というのは、実務に入った最初の入り口のところで教わったことで、それはスタートアップが絡む場面でも何ら変わりはないはずである。

*13:数多ある契約の中には、スタートアップでなくてもこういうパターンで結んで後で後悔する、というようなものはごまんとあるが、そういった契約の内容に事後的に法が介入する、というのは、これまで相当限られた場合に留まっていたはずである。

*14:「実店舗」がどこまでのものを指すか、ということにもよるが、まだ自分自身が堂々と「フリーランス」を名乗れる余地はあるような気がしている。

*15:現実には、「フリーランス」の側がいずれを根拠に取引相手に対するアクションを起こすか、ということに左右されるところが大きいだろうが、いずれの法を適用するか、という判断を純粋に「フリーランス」側のアクションだけに委ねて良い、という話にもならないような気がして、現実にどういう判断過程、省庁間の調整過程を経るのか、という点は気になるところである。

*16:少なくとも自分はこの考え方に立ちたい、と思っている。自分の意思で選んだ契約形態にいきなり、「これは雇用契約です」というラベルを貼られたところで嬉しくもなんともないのである。

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