「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」いよいよ始まる。

表に出てきただけでも2年越しくらい、喧々諤々議論された末に、昨年、コロナ禍の序盤、緊急事態宣言まっただ中の通常国会で審議され可決成立となったのが、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(以下、本エントリー内では「新法」と記載する)*1

そして、(業界関係者には概ね周知の事実だったようだが)再びの緊急事態宣言の下でバタバタと施行日政令閣議決定され、本日2月1日から施行、と相成った。

この議論が始まったタイミングは、それまで「時代の寵児」と持ち上げられてきたGAFAに逆風が吹き始めた時期、まさにこの10年くらいの歴史の転換点とも重なっていたりするのだが、今回施行される法律が議論されている間にも、それが出来上がった後も、そういった「巨大プラットフォーマー」に対する時代の逆風は海の向こうでますます勢いを増しており、昨年の後半くらいからは、連日、米国や欧州での彼らを巡る動き(と、それをワンテンポ遅れて取り上げる国内の論説)を新聞紙面で見かけない日はないのではないか・・・という状況にすらなってきた。

だから、この時期の新法施行は、実に絶妙なタイミング、と言えるような気がするし、メディアでも「巨大IT取引透明化法」などというおどろおどろしい見出しとともに、あちこちで華々しく取り上げられている。

注目されていた「適用対象」に関しては、新法と同じタイミングで、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律第四条第一項の事業の区分及び規模を定める政令が施行され*2「(新法第4条1項による)指定が必要な最小限度の範囲に限って行われるよう定め」られた一定の数値基準が明らかになった。

<事業の区分>
1 商品等提供利用者が一般利用者に対して商品等(法第二条第一項に規定する商品等をいう。以下同じ。)を提供する事業であって、次のいずれにも該当するもの
 イ 商品等提供利用者が主として事業者であり、かつ、一般利用者が主として事業者以外の者であること。
 ロ 広く消費者の需要に応じた商品等を提供するものであって、当該商品等に食料品、飲料及び日用品が含まれていること。
 ハ 商品等の提供価格その他当該商品等に関する情報を一般利用者に対して表示して行うものであること。


<規模>
年度(四月一日から翌年三月三十一日までの期間をいう。以下同じ。)における次に掲げる額の合計額が三千億円
 イ 商品等提供利用者による商品等の提供(当該事業に係る場におけるものに限る。ロにおいて同じ。)に係る国内売上額の合計額
 ロ デジタルプラットフォーム提供者による一般利用者に対する商品等の提供の事業(商品等提供利用者が提供する商品の破損が生じた場合において当該商品の修理に要する費用を負担する事業その他のデジタルプラットフォームの提供と一体として行う事業として経済産業省令で定める事業を除く。)に係る国内売上額

<事業の区分>
2 商品等提供利用者が一般利用者に対してソフトウェア(携帯電話端末又はこれに類する端末において動作するものに限る。以下同じ。)を提供する事業及び当該ソフトウェアにおける権利を販売する事業であって、次のいずれにも該当するもの
 イ 商品等提供利用者が主として事業者であり、かつ、一般利用者が主として事業者以外の者であること。
 ロ 広く消費者の需要に応じたソフトウェアを提供するもの及び当該ソフトウェアにおける権利を販売するものであって、当該ソフトウェアに電子メールの送受信のための機能を有するもの及びインターネットを利用した情報の閲覧のための機能を有するものが含まれていること。
 ハ ソフトウェアの提供価格、当該ソフトウェアにおける権利の販売価格その他当該ソフトウェア及び当該権利に関する情報を一般利用者に対して表示して行うものであること。


<規模>
年度における次に掲げる額の合計額が二千億円
 イ 商品等提供利用者によるソフトウェアの提供及び権利の販売(当該事業に係る場(ロにおいて単に「場」という。)におけるものに限るロにおいて同じ。)に係る国内売上額の合計額
 ロ デジタルプラットフォーム提供者による一般利用者に対するソフトウェアの提供及び権利の販売の事業(場を提供するソフトウェアを提供する事業その他のデジタルプラットフォームの提供と一体として行う事業として経済産業省令で定める事業を除く。)に係る国内売上額

この種の政令特有のまどろこっしい書きぶりになっているが、経産省のリリースによれば、

物販総合オンラインモール 3,000億円以上の国内売上額
アプリストア 2,000億円以上の国内売上額

とざっくり考えて良い、ということらしい。

ルールとしては、3月1日までに、新法4条2項に従って、「上記事業の区分及び規模に該当するデジタルプラットフォームを提供する事業者からの届出」が行われ、それに基づいて経済産業大臣が「指定」する、ということになっているが、物販系のモールで「3000億円」を超えるとか、アプリストアで「2000億円」を超える、といった事業者となると、あてはまりそうな事業者はごく限られたものになるはずで、実際の届出、指定を待つまでもなく、そんな限られた事業者を念頭に置いた、様々な憶測が飛び交うのだろうな・・・と、個人的には予想している。


自分は、正直に言えば、ここ最近の海外での急激な風向きの変わり方が心底気持ち悪い、と思っている側の人間だし、純粋な競争の結果出来あがった独占状態の”不健全さ”よりも、そこに素人が人工的に手を突っ込んでかき混ぜる方が「不健全」さという点では、より世の中への弊害が大きいと思っていたりもするから、今回の新法を契機に日本の関係当局が欧米の猿真似のような「口出し」をするようになったら嫌だな・・・と思わずにはいられないのだが、果たしてどうなることやら。

そしておかしなエンフォースメントが繰り返された結果、伸び盛りの会社の経営者の頭の中に「売上3000億円は超えないようがお得だな」などという感覚が刷り込まれないことを願ってやまない。

いずれにしても本番はこれから。

世界の”横綱”たちが、この小さな島国日本が作ったささやかな”ちょっかい”ツールに、どうやって大人の切り返しを見せるのか、というところも含め、楽しみに見守っていきたいと思っている。

*1:とりあえず当時の雰囲気を感じさせるエントリーとしてはあれから1年、「プラットフォーム規制」の現在の到達点。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~あたりを。

*2:新法の第4条第1項では、「経済産業大臣は、デジタルプラットフォームのうち、デジタルプラットフォームにより提供される場に係る政令で定める事業の区分ごとに、その事業の規模が当該デジタルプラットフォームにおける商品等の売上額の総額、利用者の数その他の当該事業の規模を示す指標により政令で定める規模以上であるものを提供するデジタルプラットフォーム提供者を、デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の自主的な向上に努めることが特に必要な者として、指定するものとする。」と定めており、これにより指定されたプラットフォームを「特定デジタルプラットフォーム」と定義して(新法2条6項)、提供者に対して「透明性及び公正性の向上」を求める対象とする、というのが新法の建付けである。

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