「終電」が無意味になる日。

季節外れの大雨に祟られた週末。

落雷やら強風やらで、影響を受けた路線も多かったから、すっかり霞んでしまった感はあるのだが、一応、13日は首都圏でも年に一度のダイヤ改正の日だった、ようである。

JR東日本は13日にダイヤを改正し、首都圏の18路線で最終電車の出発時刻を繰り上げる。一律に終電時刻を早めるのは1987年の民営化以降初めて。夜間作業に充てる時間を確保し、作業効率化と労働環境を改善する目的だ。新型コロナウイルス禍による深夜帯の利用客の減少も一因となった。」(2021年3月13日付夕刊・第7面)

この話題自体は、随分前から出ていたし、既に今年に入ってから終電時刻の繰り上げは実際行われていたわけだから、今さら改めてどうこういう話でもないだろうと思っている。

夜間作業のタイトさと、それに対応できる人工を揃えることの難しさはかねてから指摘されていたことではあるので、ポジティブに理由づけするとしたらこういうほかないのだろう、というのは分かるとしても、子供でも察しが付きそうな「コスト削減」という一番の理由を公式プレスでは意地でも出さない当事者と、表面的にそのリリースを垂れ流すだけのメディアの在り方に対してはいろいろ思うところはある*1

さらに言えば、少なくとも新型コロナの流行が始まるまでの世界の潮流は、むしろ「24時間運行」の方に向かっていたわけで、いかに目先の状況が苦しいからといっても、このタイミングでの「繰り上げ」施策には、正直チグハグ感は否めない。

世の中全体を見れば、これが、青息吐息になりかけていたタクシー業界、バス業界にとっての追い風になればよいな、という思いはあるし、今回は「大手」に追随せざるを得なかった民鉄各社が、どこかのタイミングで「逆」を行くことへの期待もあって*2、五輪を挟んだ半年後の状況がちょっと楽しみではあるのだけれど・・・


ちなみに、このニュースを報じる記事に添えられていたのは、これもありきたりな「街の声」が多くて、飲食店関係者に「困る」と言わせ、「シフト勤務者への影響」を語らせ・・・という感じだったのだが、一方で「普通のサラリーマン」から拾われていたのは、むしろ”冷静な声”が多かったりもした。

実際には、今でも遠隔地からオフィスに連日出勤して、終電ギリギリまで残業、という人々がまだまだたくさんいるはずだから、全く影響がない、と言えば嘘になるはず。

自分の場合、様々な失敗を踏まえた自分の中のルールとして、勤め人時代は「0時を過ぎたら電車に乗らない」というルーティンを徹底していて*3、「残業」とか「通勤」という概念自体が消失したこの1,2年も、飲み会の時に限っては、どんなに家から距離があろうが(少なくとも23区内であれば)「自分の終電は23時台」と割り切っていたから、今のレベルの「繰り上げ」であれば、どちらにせよ影響は皆無、といえるのだが、どんなに稼ぎが良くても諸般の事情で「終電」を気にする人は確実にいたことを考えると、「電車がなければタクシーに乗ればいいじゃない」などと軽々に言うのは憚られる。

ただ、そうでなくても「働き方改革」で長時間労働が確実に減っていた流れの中で、今やリモートワークが標準化している会社あり、出社していても以前のように連日帰り際に一杯、というわけにもいかない、という状況だから、仮に1年半前に同じ話が出ていたら?ということを想像して比較すると、影響が確実に「軽微」なものになっているのは間違いない。

そして、一連の新型コロナ禍の中で、一見矛盾するような「遠隔地からリモート」と「職住近接」の二極化傾向がより一層強まっていることを考えると、この先、鉄道会社が終電時刻を繰り上げようが、繰り下げようが、もう誰もそんなこと気にせず、社会面の話題にすらならない、という時代は近いうちに確実にやってくる。

BtoCの産業の施策が消費者から注目されなくなってしまったら、それは一巻の終わり。

そんなことは当事者自身が一番分かっていることだと思うのだが、こと、今の話題に関しては、「騒がれるのもこれが最初で最後かもしれない」という思いがよぎるだけに、後で懐かしく振り返ることができる程度にはフォローしておこう、と思った次第である。

*1:夜間作業の話にしても、20分、30分間合いを延ばしたところで、「夜間」に作業をする以上、労働環境の改善にも人手不足の解消にも決定的な材料にはなりえないわけで、あくまで主流になるのは「日々のメンテナンスは車両のIT化で、大規模工事は休日日中帯で」という方向へのシフトだから、”終電繰り上げ”は一種のおまけに過ぎない。

*2:特に東京メトロには、コロナ明けのダイ改で逆に終電時刻を従来より繰り下げるくらいの気概を見せてほしいところである。

*3:その結果、一時は「平日は全てタクシーで帰る」ことを余儀なくされる懐にはなかなか厳しい月が続くこともあったのだが、それでも、体も壊さずにその状況を無事乗り越えることができたのは、深夜帯の通勤の緊張感や、飲み会後の酩酊による事故リスクを、そういう形で自腹を切って回避できたゆえだと思っている。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html