2年ぶりの「球春」とその片隅のエピソード。

気が付けば、春のセンバツ高校野球が始まっていた。

昨年は未知の感染症がもたらした混乱の中、球児たちの夢が幻と消える、という残念なことになってしまったわけだが、今年は緊急事態宣言解除を目前に控えた追い風ムードの中での開幕。

加えて、連日伝えられるプロ野球のオープン戦のニュースが、”戻りつつある日常”の雰囲気を感じさせてくれる。

もう何年も興味の枠外に消えていた「野球」というスポーツへの関心を取り戻した理由は、挙げればそれなりにあるのだが*1、やはり一番の理由は、他のスポーツ、特に国際的なスポーツイベントが軒並み中止、延期に追い込まれる中で、

「昔からあるローカルスポーツ」

の存在感が相対的に高まり、加えて、試合のテンポもペナントレースの構図も昔からそんなに変わっていないがゆえに*2、しばらく見ていなかった人間でも安心して見られる、ということが大きかった気がする。

喩えて言えば、「こんな家にいられるかよ!」と都会に出ていった若者が、いろいろ大変な目にあった末に、戻った実家の布団で一息ついた・・・*3といった感じだろうか。

いろんなことが変わってしまっていた世の中で、少なくともテレビやラジオで接している限りはそれまでと何ら変わらない世界がある、ということだけで昨年は貴重だったのだ。

で、その流れを引き継ぐような形で、今年も何となく開幕が気になっている。

良くも悪くも「巨人」を中心に回っていた歴史の記憶が染みついている世代の人間にとっては、Numberの特集がいきなり「パ・リーグ」から始まる、というのが未だに新鮮だし、時代が変わったところだな、とも思うのだが*4、確かにページをめくれば、日本球界8年ぶり復帰の田中将大投手にはじまり、投手陣だけを見てもスケールの大きな選手たちの記事が並ぶ。

自分の場合、どうしてもセ・リーグの方に気になるチームがあって、そこのルーキーがオープン戦からホームランを打ちまくっている、というニュースなどに接してしまうと、いわゆる「持ち上げられて落とされる」いつものパターンにはまってしまうのではないかな、とそわそわしてしまうから、そこに半分くらい関心を持っていかれている気もするのだが、それでも、今、お金を出してみたいカードは?と聞かれた時に挙げるカードの中に、セ・リーグの試合は多分出てこないだろう。

それくらいリーグ間のレベル差が開いてしまっている中で、ここに至るまでの歴史も紐解きながら、「制すれば日本一」の戦国パ・リーグの行く末を予測するのもなかなか楽しかったりする*5

実際に球場まで足を運ぶような機会があるのかどうかは分からないけど、新型コロナがなければ取り戻せなかった縁だけに、今年も試合を追いかけるのをささやかな楽しみとして、自分の中に温めておきたいと思っている。

なお、今回、Number誌に掲載された記事の中で、現役の選手について書かれた記事以上に印象に残ったのが、鈴木忠平氏が書かれた「永遠の100マイル。」という記事(56頁)。

90年代の千葉ロッテマリーンズで燦然と輝いていた剛腕・伊良部秀輝投手が覚醒していく姿を、バッテリーを組んでいた青柳進捕手や、彼にバトンを渡した牛島和彦投手、そして同期生だった大村巌外野手の証言を通じて描くノンフィクションだが、実に生き生きとした”好漢・伊良部”の姿が浮かび上がってくるだけに、その後の彼をめぐる様々な不幸な出来事と重ね合わせると、涙なしには読めないし、10年前に受けた衝撃と切なさも改めて蘇ってくるような記事だった。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

自分は、彼の大きな後ろ姿を外野スタンドから眺めていただけ。それでも、彼が投げる試合は、勝っても負けても爽快だった。

気が付けばマリンスタジアムでの最後のシーズンからはや四半世紀。今年は、タイプこそ全く違えど、しばらく不在だった”強風を切り裂く快速球”の持ち主が、そろそろベールを脱ごうとしているシーズンだけに、塗り替えられる球速の記録とともに、再び”伊良部”の名前が蘇ってくれることを願わずにはいられないのである。

*1:前にも何かのエントリーで書いた気がするが、今更ながらスポーツナビのアプリを入れて、結果速報はプッシュ通知で来る、ダイジェスト映像は見たい時に見られる、となったのはかなり大きい要素だったと思う。

*2:もちろん、選手の顔ぶれは変わっているし、技術面、戦略面でも変化は遂げているのだが、独特の試合運びの間合いやベンチワーク、実況中継のテンポ、といったものは、本質的にはあまり変わっていない気がする。

*3:なお、残念ながら自分には、そのような「実家」は存在しない。

*4:ちなみに次号はさすがに「原巨人」の特集を組むようである。

*5:「昔からの名前」ではあるが、楽天の投手陣(先発に田中将、涌井、岸、則本、ブルペンを見回せば、松井裕樹に加えて牧田投手の名前もある)の充実ぶりは、久々の快進撃を予感させるに十分かな、と思ったりもしている。

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