「ショーケース」は誰のため?

今年の初めにはオーストラリアで話題になっていたし、フランスなどでもかなり激しいバトルが繰り広げられている様子は報じられていたから、てっきり海の向こうだけの話かと思っていたのだが、それはいきなりこの国でも始まった。

「米グーグルは16日、報道機関のニュース記事を集めて配信する新サービスを、同日付で日本で始めたと発表した。新聞社や通信社など40社以上の記事を配信し、使用料を支払う。グーグルなど「プラットフォーマー」が報道各社のコンテンツに対価を支払う一歩となるが、料金算定の不透明さなどに課題も残る。」(日本経済新聞2021年9月17日付朝刊・第1面、強調筆者、以下同じ)

「グーグル・ニュース ショーケース」と題したこのサービス。
確かにグーグルのトップページから入っていくと専用のページが設けられていて、複数の新聞社のコーナーが設けられている。
https://news.google.com/showcase?hl=ja&gl=JP&ceid=JP%3Aja

報道を見る限り、

「グーグルは報道各社とそれぞれ記事使用について契約を結び、使用料を支払う。新サービスに配信する記事は報道各社が選ぶ。」(同上)

ということだから、Google検索エンジンが集めてきた記事を無作為に眺める、というこれまでのパターンとは異なるのは間違いない。そして、記事にもあるような「算定基準が!!!」といった話はまだ残っているにしても、プラットフォーマーたるGoogle自身がメディアに記事利用の対価を支払う、ということが、インターネット上のコンテンツ流通に関する大きな転換点になることは間違いないだろう。

ただ・・・

自分が気になったのは、ユーザ―の視点で見た時に、「このサービス、誰がどういう目的で使うんだろう?」ということである。

自分の場合、今現在の国内のニュースを一通り見たい、という時は、とりあえずブックマークしている日本経済新聞社のサイトに飛ぶ。
もう少し柔らかいニュースを見たい時はYahoo!ニュースとか47NEWSのサイトに行くし、スポーツ系のニュースならSportsnavi。
もう何年もこの行動パターンは変わらないし、現時点で変える必要があるとも思えない。

また、特定のトピックに関連するニュースを調べたければ、Googleのサイトの検索窓に行って「ググる」のが一番手っ取り早いし、そこで出てくる記事は、少なくとも今の時点では「ショーケース」のそれではなく、これまでどおり検索エンジンが引っ張ってきたものに他ならない。

そうなると、新しいサービスが始まったところで自分がそれをわざわざ見に行く動機はないし、果たしてこれを見に行く人がいるのか・・・?という疑問も当然に湧いてくる。

世界中で様々な逆風が吹きつける中で、既存メディアとの関係を少しでも良くするためにサービスだけは用意して見たけど、実際に使う人は少なく、その結果、いつの間にか消えていく。そんな未来図さえ浮かんできてしまうのだけれど・・・。


個人的には世界中でよく見かける「Googleがメディアコンテンツに”ただ乗り”している」という言説はどこか違和感があって、特にGoogleのようにリンクを通じて当該記事の掲載ページまで読み手を引っ張ってきてくれるプラットフォーマーであれば、検索結果として表示されることでメディア側にも「商機」が生まれるわけだから、それをうまくマネタイズできなかった責任をGoogleの側だけに押し付ける、というのは本来お門違いともいえる*1

だから、「対価還元」という文脈だけで「ショーケース」のような試みを持ち上げるつもりはないし、参加するメディアの方も「対価」だけに目を奪われてしまうようだと、このサービスを長持ちさせることは難しいだろう。

ただ、それでもなお自分がこのサービスに僅かな可能性を見出すとしたら、それはネット上に流通する情報の「質」を取り戻すための契機として、だろうか。

スマホタブレットGoogleのアプリを立ち上げた時にいくつかのニュース記事が出てくる、というのは今に始まったことではないが*2、ここ最近は、見出しだけは派手なのに中身はスカスカだったり、中身以前に日本語が・・・という記事がとみに増えてきてしまっている気がする。

「見出し」さえキャッチ―にしておけば注目を集めてページビュー数だけは増える、その結果、”現在のトレンド”として誰のスマホタブレットにも登場するようになる(そしてさらにページビューが増えて露出機会も増える)という理屈は分かるにしても、良質の情報を求める側にしてみればそんなサイクルは迷惑でしかないし、これが進んだ結果、きちんと書かれた記事が一目に付かなくなってしまうなんてことになると、社会全体が不幸になるだけだ。

だが、「ショーケース」でメディア側に流通させる情報を厳選させ、Googleもそこに出てきたコンテンツを優先表示するようにすれば、そんな状況も多少は変わるかもしれない。

冷静に考えれば、Google側にPVが伸びることでより多くの対価を払わないといけないコンテンツを優先的に表示するような動機は普通に考えればないから、「ショーケースは別モノ」として、検索で出てくる記事の中にショーケース向けの記事を載せない、という判断をGoogle側がする可能性は十分にあるだろうし、メディア自身が「対価」目当てに”見出しだけで釣る”チープな記事を載せるようになってしまったら、結局は何も変わらない、ということにもなりかねないのだが、自分はそれでもまだ一縷の望みを託している。


ちなみに、「ショーケース」のページの各メディアの枠の右上には、メディアごとに「フォロー」のボタンが設けられていて、これをクリックすることでどういう効果が発揮されるのか、パッと見た限りでは良く分からないのだけれど、自分はひとまず日頃なかなか目にする機会が少ない(そして純粋なPV数では上位に出てくることが少ないがゆえに、自動的に表示されることも少ない)地方メディアに「フォロー」の印を付けてみた。

それが何の役に立つのか今は分からないが、これまで様々な”驚き”を実現させてくれた世界随一のプラットフォーマーのことだから、ここでもさらに”次の手”は用意されているのではないか・・・そう信じてしばらく待つことにしたいと思っているところである。

*1:ネットで簡単に記事が検索されるようになった結果、紙の新聞の売上が落ちたとしても、自社のWeb版の記事に惹きつけられる”人流”を生かしてそれを補うことは決して不可能ではないはずである。

*2:本来なら、検索履歴等を元に最適化されていて然るべきなのだが、長年使っているにもかかわらず未だに見出しの時点で”外れ”の記事は多い。とはいえ、頻度的にはクリックする機会が一番多くなるのは、ここで出てくるニュース記事だったりもする。

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