いつかターフで会える日まで。

この3連休は、最近すっかり恒例になった感がある「JRAアニバーサリー」の3日連続開催。

ダービーも同じ年のジャパンカップも、夜行に乗って駆け付けたWINSのテレビモニターで見届けて喝采を挙げた記憶が昨日のことのように残っている者としては、特別レースにその馬の名が「ジャングルポケット記念」などと銘打たれてしまっているのを見て複雑な気持ちになるのだが、振り返ればあれはもう20年前。

最近競馬に親しみだした若者たちにとっては、かの馬はとうに「歴史上の名馬」という存在になってしまっているわけで、言うなれば自分にとってのハイセイコーみたいなものか・・・と思うと、嬉しいやら悲しいやら・・・*1

とはいえ、通常の番組に目を移せば、3歳未勝利馬たちの季節は夏とともに過ぎ去り、今はそれに代わって連日怒涛の如く出走するキャリアの浅い2歳馬たちと、サバイバルレースを勝ち抜いて「最後の一冠」、あるいはさらにその先を目指す3歳馬たちが駆け抜ける季節。

やがてGⅠレースが始まれば、それが年末の有馬記念に向けてのカウントダウン、ひいては今年のカウントダウン、ということで、一年もあっという間だなぁ・・・という気分にどうしても襲われてしまうのだが、そこに行くまでの数週間は、「まだこれから」という感覚が残っている分、爽やかな秋風と相まって、結構好きな季節だったりもする。

個人的な話をすれば、これまでは、かれこれ15年近く「一口馬主」というやつをやっているにもかかわらず、この時期に主役になれるような馬を持てることは少なく、勝てなかった3歳馬があえなく引退の憂き目にあった上に、頼みの2歳馬は育成が遅れて初出走はいつになることやら・・・という状況で、”見てるだけ”という状況になることも多かった。

ところが、今年はどうしたことか、この時期になっても妙に賑やかで、この3連休こそ静かだったものの、来週以降は毎週のように出走の予定が入っている。

おそらく大方の読者の方は、「一口」などに手を出されたことはないだろうから、ここでシステムを説明しておくと、大体出資の募集がかかるのは、馬が生まれた翌年、デビュー前年の「当歳」の夏から秋にかけてのこと。

自分が入っているようなクラブだと、一頭の馬の価格を400口くらいに細分化して出資を募る(一部2000口、というものもあり)仕組みになっているから、ガチで一頭所有することを考えれば遥かにハードルは低いのだが、それでも相手は下手すれば会社一つ買えてしまうくらいのお値段は付く高価な経済動物だから、「たかが一口」でもそれなりのコストにはなる。

ゆえに、募集の時期になると、その時々の財布の中身とにらめっこしながら、家族まで巻き込みつつ「その世代でどのクラスの馬を何頭くらい揃えるか*2」で逡巡を繰り返すのが自分的には恒例の風物詩なわけで、逆に言えば後から世代ごとの出資馬の頭数を見ればその時々に考えていたことまで思い出せてしまう。

例えば、研修所に入って初任給以下*3の月給に逆戻りした年に出資したのは超安価な1口だけ*4

ここ数年でも、会社に籍を置いていた時の募集では、比較的高価な馬3頭に同時出資する、という豪胆なことをやったりもしていたのだが、フリーになった直後の一昨年の募集(現在の3歳世代の募集)の時は、まだまだこの先どうなるか分からない・・・ということで、中程度のレベルの馬に一口だけ出資する、という少々弱気な対応をしていたりもした*5

だが、人間、誰にでも「反動」はある。

昨年、財布の紐を緩めた結果、出資した馬は実に5頭。金額も考慮するとかなり大胆な投資だが、こういう時の誘惑に勝てるほど自分は強くない。
そして、それが今年の2歳世代である。

幸いなことに、自分史上最高額で出資したエース格の古馬は勝ち星を積み重ねて未だ現役。層が薄かったはずの現3歳世代は3頭すべてが奇跡的に勝ち上がり、いつもならデビューが遅れてやきもきする2歳世代も今年は既に1頭が新馬勝ち、2頭もデビュー戦で勝ち負け、で先々のメドが付いてきた。

だからこその活況、10頭近い出資馬の次走での雄姿をシミュレーションしてワクワクしながら週末を待てるなんて、何と幸せなことか。


残念ながら、いいことばかりが続くわけではない。

今年も昨年と同じ、いや、それ以上の勢いで出資馬を申し込んだ某クラブの抽選では、「最優先」で指名した1頭を除き、全て落選の憂き目にあった。

長年このクラブの会員をやっている中で年々出資馬を手に入れる難しさを感じるようになってはいたものの、全体的にここまで極端な結果になったのは初めてのことだったから*6、さすがに結果を見た時は言葉を失ったのだが、良い方に考えるならこれも何かの天の導き、ということなのかもしれない*7


そしてもう一つ。

初めて出資した一頭には、入厩前、牧場にいるときから会いに行き、デビュー戦も新潟まで駆け付けたものだった。

その馬に限らず、中京、京都、はたまた小倉と、勝っても負けてもレースの週に追いかけて行ってた時はいつしか遠くに過ぎ、競馬場に会いに行こうと思えば行けるのに、「結果を見て満足するだけ」になっていた時に新型コロナの嵐が来た。

自分の馬なのに容易には会いに行けない悲しさ。

馬券の売り上げを減らすどころかむしろ伸ばしたJRAのDX戦略を批判するつもりなど全くないのだけれど、こと「馬主」視点で見た時には、やっぱり寂しさが募る。

予約なしに気軽に競馬場に足を踏み入れられる日が、いつ戻ってくるのかは分からないけど、愛すべき出資馬たちがターフで体を張ってくれている間に、せめて一度は近くで、願わくば口取り写真を・・・という思いがいつか叶うことを、今は願うのみである。

*1:某有名教授の民法の概説書の初版に「ハイセイコウ」が出てきたのを見て、自分は”著名な歴史上の名馬”を例え話で使ったのだろう、と長年思っていたのだが、書かれた先生の感覚は決してそういうものではなかったのかもしれない、と今さらながらに思う。

*2:同じクラブ内の募集でも高額なものは数十万の価格になるし、安ければ4,5万円で手が届く。ただし、そこに付けられた価格は、血統背景や馬の”出来”も考慮したものだから、価格の低い馬の場合、勝ちあがって活躍する確率は当然低くなる。もちろん、高額なら常にGⅠ級の活躍をするとは限らないしその逆もまた然り、というところに一口出資の”博打”としての面白さもあるわけだが、そういったスリルを味わうにはいささか贅沢な投資ともいえる。

*3:それでも今の修習生に比べればはるかに恵まれてはいたのだが。

*4:その馬は3戦未勝利であえなく引退した。

*5:その後、ある程度余裕が出てきたこともあって2頭ほど追加出資したが、いわば時期を逸した”売れ残り”の馬たちだった、ということもあり、出資額としてはささやかなものだった。

*6:以前は、第一次募集で人気のある上位5~6割の馬が「満口」となり、その後の二次募集で空きのある馬を見繕って2頭目、3頭目を手に入れる、というパターンが多かったのだが、最近は第一次募集の段階で、8~9割くらい埋まることも多くなっており、今年はとうとう、全ての馬が一次募集で早々に「売り切れる」という事態となってしまった。

*7:調子に乗って浪費するな、ということなのかもしれないし、今年は「外れ年」だからほどほどにしておけ、ということなのかもしれないし、あるいは、そろそろ投資するならもう一つ上のステージに行ったら?ということなのかもしれない。最後のは維持費まで考えるともうちょっと待って・・・というところではあるが。

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