最後に勝ったのは「紅」だった。

3歳牝馬クラシック、最後の一冠はまたしても、金子真人ホールディングス紅白馬合戦」だった。

美しき白毛馬・ソダシ単勝1.9倍、という人気を集める一方で、桜花賞4着、オークス2着と来て、母の名に懸けても最後の一冠を、と意気込むアカイトリノムスメも夏を越して順調に参戦し、オークス馬・ユーバーレーベンを上回る4番人気に付けていた。

紫苑Sから滑り込んだミスフィガロと合わせて3頭出し、というのは羨ましい限りの状況だったのだが、オーナーにしてみると、この日のレース結果への感想は、ちょっと複雑なものだったのかもしれない。

Number誌の表紙まで飾り、「GⅠ2勝」という実績以上の”国民的人気”を博しているアイドルホースとなってしまった以上、ソダシに消極的なレースをする選択肢はなかったと思われるし、1000m通過61秒2、というペースを考えても2番手追走、というのは絶好のポジションだったはず。

ただ、映像を見る限り、この日のソダシは、向こう正面では折り合いを欠いているように見えたし、コーナーを回り始めたあたりからの行きっぷりも明らかに悪く、そうこうしているうちに、最後の直線、見せ場を作る間もなく後続の馬たちに次々と飲み込まれていく。

そしてそんな混乱状況の中、外目を通った万全のコース取りで力強く差し切ったのが、三冠馬アパパネを母に持つアカイトリノムスメだった。

デビュー時から良血として期待され、オークスでも2番人気に支持されていた(そしてしっかりとそれに応えた)馬にしては4番人気、というのはいかにも低評価だったと思うが、最後の一冠は紛れなき力強い差し脚で堂々の完勝。

その一方で、断トツ人気を背負った白き大本命馬は巻き返す気配すらなく、最後は同じ勝負服のミスフィガロにさえ交わされて10着に沈む・・・。

あまりに残酷な運命のコントラストがそこにはあった。


今日の大本命馬は、元々「距離の壁」を指摘されていた馬で、オークスでもそんな評判を打ち破ることなく馬群に沈んでいたから、オークス1,2着馬と同様に、そのまま夏を休養に充てて秋華賞に直行していたら、(声援の量は変わらなくても)おそらくここまで馬券で人気を被ることはなかったかもしれない。

だが、夏の札幌記念で名だたる古馬たちを押しのけて優勝を遂げたことが、彼女を再び「強いスターホース」に引き上げ、秋華賞のオッズも一気に引き下げた。

あのレースを見れば、「2400mはともかく2000mなら大丈夫だろう」というのは、素人ならずとも思ったはずで、ましてやコースも波乱多き京都内回りではなく、得意の阪神コースとなれば、「二冠」の夢が脳裏をよぎっていたとしても全く不思議ではない。

だからこそ、その夢が早々と潰え、でも先頭を駆け抜けたのは自分の別の馬・・・という展開をどういう思いで見ておられたのか。

最後の直線は、クイーンカップからずっと、”アカイトリ”を本命で追いかけてきた自分ですら、白馬の行方に気を取られてライブ映像では思わず勝ち馬を見逃しそうになったくらいだから、オーナーがどちらを見ていたか、というのは、ちょっと気になるところでもある。


ちなみに、個人的なことを言えば、このレース、ソダシはバッサリと切っていた。

俗に言われる「距離の壁」の方ではなく、古馬相手にGⅡを戦った後に秋華賞を戦うのはさすがにキツイだろう、という理由で。

今日の敗因は、もう少し時間を置かないと分からないことも多いだろうが、レース展開でないことは明らかだし*1、距離の壁というには失速するのが早すぎたから、夏場のストレスが何らかの形で影響した可能性は高い。

それでいて、本命が”アカイトリ”だったのだから、本当なら「予想的中!」と大喜びしても良いところなのだが、何となく嬉しさ半分なのは、ソダシだけでなく、新冠町・ビッグレッドファームが誇るオークス馬にとっても全く見せ場のないレースになってしまったから、だったりもする*2

自分が推した”伏兵”には勝ってほしい、でも実績馬総崩れだとちょっと白ける、というのは贅沢すぎる話ではあるのだが、それも、それだけ桜花賞オークスも、良いレースかつロマンのあるレースだったことの裏返しだったりするわけで、昨年とは打って変わって3頭の馬が「一冠」ずつ分け合う形になった2021年の牝馬三冠レースも十分に記憶に残るものだった、ということは後世まで語り継いでいきたいと思っている。

そして、今日、最後の一冠、スタートしてからの直線数百メートル、秋の爽やかな陽射しに照らされながら、風を切って馬群を引っ張る白馬の姿が実に美しかった、ということも、無念の結末とともに心に留め、いつかまた語れる日が来れば・・・と思っているところである。

*1:時計を見てもペースはゆったりで、何よりも果敢に逃げを打ったエイシンヒテンが4着に残っている、という事実が「前に行った者勝ち」だったこの日の展開を雄弁に物語っている。

*2:オークス以降、前記Number誌でも、優駿誌でも、数多く語られていた故・岡田繁幸氏の”人生”に改めて触れて感じ入るところが多かっただけに、2着、3着に飛び込んできた馬が安平町の牧場の馬ではなくユーバーレーベンだったら、もっと幸福な気持ちになれていたことだろう。

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