最高裁判所裁判官・国民審査対象各裁判官の個別意見について(2021年版・その1)

またこの時期がめぐってきた。衆院選の投票と同時に行われる最高裁判所裁判官の国民審査。

ちょっと前までは、「総選挙」の影に隠れて存在自体が地味だったし*1、審査対象裁判官に関する情報も、定型的なものに毛が生えたレベルのものしか出回っていなかったのだが*2、例の「一票の格差」判決をめぐるあれこれを機に*3、僅かながらスポットライトが当たるようにもなってきていて、関連する報道等も、回を重ねるごとにちょっとずつ増えてきているような気がする。

このブログでも、

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

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と、2012年以降、審査対象の各裁判官の判決での個別意見をまとめたエントリーを投票日の直前に駆け込みでアップすることが多かったのだが、今回は丸4年を超えての久々の機会で、対象となる裁判官が全15名の裁判官中11名と非常に多いこともあるので*4、ちょっと早めにアップしてみることにしたい。

第一小法廷

今回4名の裁判官が対象となっているものの、安浪亮介、岡正晶、堺徹の各裁判官は、就任が本年7~9月ということで、現時点では個別意見なし。
また、今年に入って本領を発揮されだした山口厚裁判官*5は、前回就任直後に”洗礼”を受けたこともあって、今回は対象外。

ということで、取り上げることができるのは深山卓也裁判官だけで、元々個別意見が少ない第一小法廷、しかも裁判所の出身ということで、静かな立ち上がりとなることをご容赦いただきたい(以下、見出しでは裁判官の敬称を省略する)。

深山卓也(裁判官出身)

2018年1月就任 2024年退官予定

<補足意見>
■最一小判平成30年10月11日(平成29(受)1496)有価証券報告書虚偽記載に基づく損害賠償額の認定*6
「金商法18条1項に基づく損害賠償請求訴訟において,民訴法248条の類推適用により金商法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額として相当な額を認定することができる」とした法廷意見に賛同の意を示した上で、「法廷意見の採る解釈と同法21条の2第6項との関係」を以下のように説明した。
「金商法18条,19条と同法21条の2は,民法709条の一般不法行為責任の特則として,金商法が規定する開示義務に違反して開示書類に虚偽記載等をした者が有価証券を取得した者に対して負う損害賠償責任について規定する点で共通の性格を有しており,また,同法19条2項と同法21条の2第5項(改正前の同条4項)は,いずれも,有価証券の取得者が提起した損害賠償請求訴訟における損害額の減免の抗弁を規定したものであって,その文言も極めて類似している。そうすると,平成16年法律第97号による証券取引法の改正により金商法21条の2(改正当時は証券取引法21条の2)が新設された際に,金商法21条の2第1項に基づく損害賠償責任については,同条5項(改正前の同条4項)の減免の抗弁を前提として同条6項(改正前の同条5項)の規定が設けられたにもかかわらず,その当時既に存在していた同法19条2項の減免の抗弁については,同法21条の2第6項(改正前の同条5項)のような規定が設けられなかったことの意味をどのように理解するかが問題となる。この点は,次のように考えるべきであろう。すなわち,金商法19条1項と2項は,1項において,同法18条の損害賠償責任に基づく賠償責任額を法定した上で,2項において,賠償の責めに任ずべき者が有価証券届出書等の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情による損害の発生及びその額を証明したときは,その額を法定の賠償責任額から減額して具体的な損害賠償額を算定するという構造になっており,法廷意見が述べるとおり,賠償の責めに任ずべき者が,有価証券届出書等の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情による損害の発生は証明したものの,当該事情により生じた損害の性質上その額の証明が極めて困難である場合には,民訴法248条の類推適用により,裁判所は,減額すべき損害の額として相当な額を認定することができると解される(同条の趣旨の理解に関わるが,この場合に,同条を類推適用するまでもなく,同条が適用されるとする見解もあり得よう。)。これに対し,金商法21条の2第3項と5項は,上記のとおり,3項において,一定の前提事実が存在する場合に当該書類の虚偽記載等と損害の発生との因果関係及び損害の額を推定した上で,5項において,賠償の責めに任ずべき者が推定を覆す反対事実を証明したときは,証明された額を推定された損害額から減額するという構造になっているので,法律上の事実推定を覆すための反対事実の証明は,反対事実の存在について裁判所に確信を抱かせる本証によらなければならないという一般的な考え方を踏まえると,賠償の責めに任ずべき者が,当該書類の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情による損害の発生は証明したものの,当該事情により生じた損害の性質上その額の証明が極めて困難である場合に,民訴法248条を類推適用してその立証の負担を軽減することは許されないと解される余地があるそこで,この場合に,民訴法248条の類推適用がされたのと同様の取扱いがされることを明らかにするために金商法21条の2第6項(改正前の同条5項)が設けられたものと考えられるのである
「したがって,金商法19条に同法21条の2第6項(改正前の同条5項)のような規定が置かれていないことは,同法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額の認定について民訴法248条の類推適用を認める解釈の妨げになるものではないというべきである。」(強調筆者、以下同じ。)


■最大決令和3年6月23日(令2(ク)102)夫婦別氏婚姻届の却下処分不服申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件*7
(岡村和美裁判官,長嶺安政裁判官との連名)
戸籍法74条1号の規定が憲法24条に違反するものとはいえず,平成27年大法廷判決の判断を変更する必要はない、という多数意見に賛同する立場を取った上で、概ね以下のように述べている。
「しかしながら,ここでいう婚姻は法律婚であって,その内容は,憲法24条2項により婚姻及び家族に関する事項として法律で定められることが予定されているものであるところ,民法750条は,婚姻の効力すなわち法律婚の制度内容の一つとして,夫婦が夫又は妻の氏のいずれかを称するという夫婦同氏制を採っており,その称する氏を婚姻の際に定めるものとしている。他方で,我が国においては,氏名を含む身分事項を戸籍に記載して公証する法制度が採られており,民法739条1項において,婚姻は,そのような戸籍への記載のための届出によって効力を生ずるという届出婚主義が採られている。そして,これらの規律を受けて,戸籍法74条1号は,婚姻後に夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項としているのである。民法及び戸籍法が法律婚の内容及びその成立の仕組みをこのようなものとした結果,婚姻の成立段階で夫婦同氏とするという要件を課すこととなったものであり,上記の制約は,婚姻の効力から導かれた間接的な制約と評すべきものであって,婚姻をすること自体に直接向けられた制約ではない。また,憲法24条1項は,婚姻をするかどうか,いつ誰と婚姻をするかについては,当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものであるところ,ここでいう婚姻も法律婚であって,これは,法制度のパッケージとして構築されるものにほかならない。そうすると,仮に,当事者の双方が共に氏を改めたくないと考え,そのような法律婚制度の内容の一部である夫婦同氏制が意に沿わないことを理由として婚姻をしないことを選択することがあるとしても,これをもって,直ちに憲法24条1項の趣旨に沿わない制約を課したものと評価することはできない。したがって,夫婦同氏とすることを婚姻の要件と捉えたとしても,本件各規定が憲法24条1項に違反すると直ちにいうことはできず,平成27年大法廷判決もこの趣旨を包含していたものと理解することができる。」
「そこで,本件各規定が憲法24条に違反するか否かは,平成27年大法廷判決が判示するとおり,本件各規定の採用した制度(夫婦同氏制)の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し,個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきこととなる。」
「現行の夫婦同氏制の下において,長期間使用してきた氏を婚姻の際に改める者の中には,アイデンティティの喪失感を抱く者や種々の社会生活上の不利益を被る者がおり,これを避けるために婚姻を事実上断念する者がいることは,平成27年大法廷判決においても指摘されているところである。このような実情を踏まえ,夫婦同氏制について,婚姻に際し当事者の一方が意に反して氏を改めるか婚姻を断念するかの選択を迫るものであり,従前の氏に関する人格的利益を尊重せず,また,婚姻を事実上不当に制約するものであると評価して,いわゆる選択的夫婦別氏制の方が合理性を有するとする意見があることも理解できる。また,男女共同参画社会の形成の促進あるいは女性の職業生活における活躍の推進という観点からの施策として,選択的夫婦別氏制の導入を検討すべきであるとする意見も存在する。しかしながら,平成27年大法廷判決が判示するとおり,婚姻及び家族に関する事項は,関連する法制度においてその具体的内容が定められていくものであって,当該法制度の制度設計が重要な意味を持つものであり,国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ,それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断によって定められるべきものである。したがって,夫婦の氏に関する法制度の構築は,子の氏や戸籍の編製の在り方等を規律する関連制度の構築を含め,国会の合理的な立法裁量に委ねられているのである。そうすると,選択的夫婦別氏制の導入に関して上記のような意見があるとしても,平成27年大法廷判決が指摘する,氏の性質や機能,夫婦が同一の氏を称することの意義,婚姻前の氏の通称としての使用(以下「通称使用」という。)等に関する諸点を総合的に考慮したときに,本件各規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たると断ずることは困難である。」
「一般論として,この種の法制度の合理性に関わる事情の変化いかんによっては,本件各規定が上記立法裁量の範囲を超えて憲法24条に違反すると評価されるに至ることもあり得るものと考えられる。しかしながら,平成27年大法廷判決以降の上記の事情の変化のうち,まず,国民の意識の変化についていえば,婚姻及び家族に関する法制度の構築に当たり,国民の意識は重要な考慮要素の一つとなるものの,国民の意識がいかなる状況にあるかということ自体,国民を代表する選挙された議員で構成される国会において評価,判断されることが原則であると考えられる。そして,法制度をめぐる国民の意識のありようがよほど客観的に明らかといえる状況にある場合にはともかく,選択的夫婦別氏制の導入について,今なおそのような状況にあるとはいえないから,これを上述した女性の有業率の上昇等の社会の変化と併せ考慮しても,本件各規定が憲法24条に違反すると評価されるに至ったとはいい難い。また,通称使用の拡大は,これにより夫婦が別氏を称することに対する人々の違和感が減少し,ひいては,戸籍上夫婦が同一の氏を称するとされていることの意義に疑問を生じさせる側面があることは否定できないが,基本的には,平成27年大法廷判決が判示するとおり,婚姻に伴い氏を改める者が受ける不利益を一定程度緩和する側面が大きいものとみられよう。」
「もとより,本件多数意見がいうように,選択的夫婦別氏制を採るのが立法政策として相当かどうかという問題と,夫婦同氏制を定める現行法の規定が憲法24条に違反して無効であるか否かという憲法適合性の審査の問題とは,次元を異にするものであって,民法750条ないし本件各規定が憲法24条に違反しないという平成27年大法廷判決及び本件多数意見の判断は,国会において上記立法政策に関する検討を行いその結論を得ることを何ら妨げるものではない。選択的夫婦別氏制の採否を含む夫婦の氏に関する法制度については,子の氏や戸籍の編製等を規律する関連制度を含め,これを国民的議論,すなわち民主主義的なプロセスに委ねることによって合理的な仕組みの在り方を幅広く検討して決めるようにすることこそ,事の性格にふさわしい解決というべきであり(平成27年大法廷判決の寺田逸郎裁判官の補足意見参照),国会において,この問題をめぐる国民の様々な意見や社会の状況の変化等を十分に踏まえた真摯な議論がされることを期待するものである。」

金商法の条文解釈について詳説されている一点目のご意見からは、長年法務省で立法に関与されてきた方ならでは明快さを感じさせる一方で、政治的な色彩も帯びた「夫婦別氏」の話になると、いかにも・・・なスタンスになるのは、さすがというべきか何というか。

第二小法廷

続く第二小法廷は、大谷直人長官と、長官に次いで任期が長くなった菅野博之裁判官を除く3名の裁判官が対象。

元々、鬼丸かおる判事、山本庸幸判事といった論客系の裁判官が活発に個別意見を出していた小法廷だったのだが、今回審査対象となる裁判官も就任が2018年~2019年ということで、まさに三者三様のカラーを出されていて最も興味深い合議体と言えるかもしれない。

三浦守(検察官出身)

2018年2月就任 2026年退官予定

検察官出身の裁判官といえば、刑事事件の判決、決定で時折意見を述べるくらいで、後は黙々と多数派に与する、という印象があったのだが、それを良い意味で覆しているのが三浦裁判官である。

特に2019年参院選の「一票の格差」事件と、夫婦別氏事件に付した「意見」の最初の書き出しに衝撃を受けた方は多かったのではないだろうか。

<意見>
最大判令和2年11月18日(令2(行ツ)78)*8
2019年参議院選挙の議員定数配分をめぐり、3.00倍の較差を「違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず」違憲ではない、とした多数意見に対し、「結論において多数意見に賛同するが,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものと考える」とし、「較差の程度を正当化すべき合理的な事情の有無」等について検討した上で、
「以上に述べたとおり,平成30年改正は,これまでの選挙制度の基本的な仕組みを維持して一部の選挙区の定数を調整するにとどまるものであって,現に選挙
区間の最大較差は,同改正の前後を通じてなお3倍前後の水準が続いており,その不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らし,看過し得ない程度に達していた。また,このような不均衡を正当化すべき合理的な事情も見いだせない。したがって,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものというほかない。」とした。
また、国会の裁量権の限界については、平成29年大法廷判決が具体的な指摘をしなかったこと等を踏まえ、「超えるものということはできない」としたものの、「付言」として、以下のとおり、できる限り速やかな立法措置を求めている。
参議院議員選挙制度については,これまで,限られた総定数の枠内で,半数改選という憲法上の要請を踏まえて定められた定数の偶数配分を前提に,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みの下で,人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大に伴い,長期にわたり投票価値の大きな較差が続いてきた。国会においては,累次の当裁判所大法廷判決を踏まえつつ,平成16年以降,十数年間にわたって継続的に,参議院選挙制度改革や投票価値の不均衡の是正について検討及び協議が行われてきた。そして,一部の選挙区の定数を増減させるとともに,人口の少ない選挙区を合区するなどの法改正が行われてきたが,これらの改正によっても,なお是正されるべき投票価値の不均衡が解消されていない。しかしながら,平成30年改正後は,本件選挙後も含めて,2年以上にわたり,国会において,この問題に関する具体的な検討及び協議が行われていない状況にあることがうかがわれる。そして,平成30年改正法には,較差の更なる是正に向けての方向性等を示す規定も置かれなかったこと等を考え併せると,今後,この問題に関する具体的な議論が進展しないまま推移することが懸念される。他方,前記のとおり,平成30年改正にもかかわらず,選挙区間の較差に関する2.9倍超という水準でみると,投票価値の不均衡はむしろ広がっている状況にあること等からすると,本件定数配分規定が基本的に維持されたまま次回以降の通常選挙が行われる場合,選挙区間における投票価値の不均衡が更に拡大することも予想される。国民の意思を適切に反映する選挙制度は,国民主権及び議会制民主政治の根幹であり,投票価値の平等が憲法上の要請であることや,先に述べた国政における参議
院の役割等に照らせば,今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれる中で,より適切な民意の反映が可能となるように,国会において,都道府県を各選挙区の単位とすることを基本とする現行の方式を改めるなど,較差の更なる是正を図るための方策の検討と集約が着実に進められ,できる限り速やかに,必要な立法的措置によって違憲の問題が生ずる前記の不平等状態が解消されなければならない。」


■最大決令和3年6月23日(令2(ク)102)夫婦別氏婚姻届の却下処分不服申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
「結論において多数意見に賛同する」としつつも,本件各規定に係る婚姻の要件について,法が夫婦別氏の選択肢を設けていないことは,憲法24条に違反すると考える」として、以下のような論理を展開されている。
平成27年大法廷判決は,本件各規定に係る夫婦同氏制の趣旨,目的に関し,複数の点を指摘しているところ(同判決の第4の4 ア),それらについては,婚姻及び家族に関する法制度における相応の合理性があるといえる。しかし,ここで問題となるのは,夫婦同氏制がおよそ例外を許さないことが婚姻の自由の制約との関係で正当化されるかという合理性である。夫婦同氏制の趣旨,目的と,その例外を許さないこととの実質的な関連性ないし均衡の問題といってもよい。このような観点から検討すると,夫婦同氏制の趣旨,目的については,以下のような疑問がある。」
「第1に,社会の構成要素である家族の呼称を一つに定め,それを対外的に公示して識別するといっても,現実の社会において,家族として生活を営む集団の身分関係が極めて多様化していることである。」
「第2に,同一の氏を称することにより家族の一員であることを実感する意義や家族の一体性を考慮するにしても,このような実感等は,何よりも,種々の困難を伴う日常生活の中で,相互の信頼とそれぞれの努力の積み重ねによって獲得されるところが大きいと考えられる。これらは,各家族の実情に応じ,その構成員の意思に委ねることができ,むしろそれがふさわしい性質のものであって,家族の在り方の多様化を前提に,夫婦同氏制の例外をおよそ許さないことの合理性を説明し得るものではない。」
「第3に,婚姻の重要な効果である嫡出子の仕組みを前提として,嫡出子がいずれの親とも氏を同じくすることによる利益を考慮するにしても,そのような利益は,嫡出推定や共同親権等のように子の養育の基礎となる具体的な権利利益とは異なる上(児童の権利に関する条約(平成6年条約第2号)にも,そのような利益に関する規定はない。),嫡出子であることを示すための仕組みとしての意義を併せて考慮することは,嫡出子と嫡出でない子をめぐる差別的な意識や取扱いを助長しかねない問題を含んでいる。また,婚姻の要件についてその例外を否定することは,子について,嫡出子に認められる上記の具体的権利利益を否定することになる。家族の在り方の多様化を前提にして,上記の利益について,法制度上の例外を許さない形でこれを特に保護することが,憲法上の権利の制約を正当化する合理性を基礎付けるとはいい難い。」
(略)
「以上のような事情の下において,本件各規定について,法が夫婦別氏の選択肢を設けていないことが,婚姻の自由を制約している状況は,個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らし,本件処分の時点で既に合理性を欠くに至っているといわざるを得ない。したがって,本件各規定に係る婚姻の要件について,法が夫婦別氏の選択肢を設けていないこと,すなわち,国会がこの選択肢を定めるために所要の措置を執っていないことは,憲法24条の規定に違反する。」
「本件各規定について,上記の違憲の問題があるとしても,婚姻の要件として,夫婦別氏の選択肢に関する法の定めがないことに変わりはない。婚姻における氏の在り方は,婚姻及び家族に関する法制度全体において関連する仕組みが定められる。本件各規定は,そのような仕組みの一部として,夫婦同氏に係る婚姻の効力及び届書の記載事項を定めるものであり,その内容及び性質に鑑みると,それらが一つの選択肢に限定する部分については違憲無効であるというにしても,それを超えて,他の選択肢に係る婚姻の効力及び届書の記載事項が当然に加えられると解することには無理がある。また,婚姻の届出は,婚姻の要件であるとともに(民法739条1項),戸籍の編製及び記載の根拠となるものであるところ(戸籍法15条,16条),戸籍は,一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに編製するものとされ(同法6条),夫婦別氏の選択肢を設けるには,子の氏に関する規律をも踏まえ,戸籍編製の在り方という制度の基本を見直す必要がある。その上で,夫婦の氏に関する当事者の選択を確認して戸籍事務を行うため,届書の記載事項を定めるとともに,その届出に基づいて行うべき戸籍事務(同法13条,14条,16条等参照)等について定める必要がある。国会においては,速やかに,これらを含む法制度全体について必要な立法措置が講じられなければならない。こうした措置が講じられていない以上,本件各規定の内容及び性質という点からみても,法制度全体としてみても,法の定めがないまま,解釈によって,夫婦別氏の選択肢に関する規範が存在するということはできない。したがって,夫婦が称する氏を記載していない届書による届出を受理することはできないといわざるを得ない民法740条)。このような届出によって婚姻の効力が生ずると解することは,婚姻及び家族に関する事項について,重要な部分に関する法の欠缺という瑕疵を伴う法制度を設けるに等しく,社会的にも相応の混乱が生ずることとなる。これは,法の想定しない解釈というべきである。以上のとおりであるから,抗告人らの申立てを却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。」

いずれも、結論においては多数意見に反対せず、ドラスチックな帰結を回避しようとされているところは、いかにも司法行政の一翼を担われてきた方だな、という印象を受けるのだが、意見の内容の鋭さとそれを基礎となる考え方からしっかり組み立てていく丁寧さは、反対意見のそれを上回るのではないか、というくらいの迫力であることは改めて指摘しておきたい。

また、いくつか出されている補足意見も、短いながらも論点をしっかりと突かれたものが多く、実務には効果的に刺さるのではないか、という印象を受ける。

<補足意見>


■最二小決平成30年10月31日(H30(し)585)勾留の裁判に対する準抗告の裁判に対する特別抗告事件*9
勾留取消を認めた原決定の結論を支持する法廷意見に同調しつつも、原審決定の理由に対しては以下のとおり明確に異議を述べている。
「本件は,大麻の密輸入に関し,いわゆるクリーン・コントロールド・デリバリーによる捜査が行われ,被疑者は,本件の勾留請求の前に,規制薬物として取得した大麻の代替物の所持の被疑事実により勾留され,その後,大麻の営利目的輸入の被疑事実により本件の勾留請求がされたというものである。本件の被疑事実と前件の被疑事実とは,一連のものであって密接に関連するが,社会通念上別個独立の行為であるから,併合罪の関係にあるものと解されるところ,両事実の捜査に重なり合う部分があるといっても,本件の被疑事実の罪体や重要な情状事実については,前件の被疑事実の場合より相当幅広い捜査を行う必要があるものと考えられる。」
「したがって,原決定が,両事実の実質的同一性や,両事実が一罪関係に立つ場合との均衡等のみから,捜査機関が,前件の被疑事実による勾留の期間中に,本件の被疑事実の捜査についても,同時に処理することが義務付けられていた旨の説示をした点は,刑訴法60条1項,426条の解釈適用を誤ったものというほかない。しかし,本件の証拠関係,捜査状況のほか,被疑者が原決定により釈放され,既に相当の日数が経過していること等も考え合わせると,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められるとすることについては,わずかながら躊躇を覚えるところであり,同法411条を準用すべきものとまでは認められない。」


■最二小決平成31年1月23日(H30(ク)269)性別の取扱いの変更申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件*10
(鬼丸かおる裁判官との連名)
「生殖腺がないこと」等を要件とした性別取扱い変更の運用を合憲とした法廷意見を補足し、性別適合手術を受けることを要件とすることが憲法13条により保障される自由の制約にあたりうる、という問題提起をした上で、以下のとおり、憲法13条違反の「疑い」にまで踏み込んだ。
「本件規定の目的については,法廷意見が述べるとおり,性別の取扱いの変更の審判を受けた者について変更前の性別の生殖機能により子が生まれることがあれば,親子関係等に関わる問題が生じ,社会に混乱を生じさせかねないことや,長きにわたって生物学的な性別に基づき男女の区別がされてきた中で急激な形での変化を避ける等の配慮に基づくものと解される。しかし,性同一性障害者は,前記のとおり,生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず,心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的な確信を持ち,自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であるから,性別の取扱いが変更された後に変更前の性別の生殖機能により懐妊・出産という事態が生ずることは,それ自体極めてまれなことと考えられ,それにより生ずる混乱といっても相当程度限られたものということができる。また,上記のような配慮の必要性等は,社会的状況の変化等に応じて変わり得るものであり,特例法も,平成15年の制定時の附則2項において,「性別の取扱いの変更の審判の請求をすることができる性同一性障害者の範囲その他性別の取扱いの変更の審判の制度については,この法律の施行後3年を目途として,この法律の施行の状況,性同一性障害者等を取り巻く社会的環境の変化等を勘案して検討が加えられ,必要があると認めるときは,その結果に基づいて所要の措置が講ぜられるものとする。」と定めていた。これを踏まえて,平成20年,特例法3条1項3号の「現に子がいないこと」という要件に関し,これを緩和して,成人の子を有する者の性別の取扱いの変更を認める法改正が行われ,成人の子については,母である男,父である女の存在があり得ることが法的に肯定された。そして,その改正法の附則3項においても,「性同一性障害者の性別の取扱いの変更の審判の制度については,この法律による改正後の特例法の施行の状況を踏まえ,性同一性障害者及びその関係者の状況その他の事情を勘案し,必要に応じ,検討が加えられるものとする。」旨が定められ,その後既に10年を経過している。特例法の施行から14年余を経て,これまで7000人を超える者が性別の取扱いの変更を認められ,さらに,近年は,学校や企業を始め社会の様々な分野において,性同一性障害者がその性自認に従った取扱いを受けることができるようにする取組が進められており,国民の意識や社会の受け止め方にも,相応の変化が生じているものと推察される。以上の社会的状況等を踏まえ,前記のような本件規定の目的,当該自由の内容・性質,その制約の態様・程度等の諸事情を総合的に較量すると,本件規定は,現時点では,憲法13条に違反するとまではいえないものの,その疑いが生じていることは否定できない。」
「世界的に見ても,性同一性障害者の法的な性別の取扱いの変更については,特例法の制定当時は,いわゆる生殖能力喪失を要件とする国が数多く見られたが,
2014年(平成26年),世界保健機関等がこれを要件とすることに反対する旨の声明を発し,2017年(平成29年),欧州人権裁判所がこれを要件とすることが欧州人権条約に違反する旨の判決をするなどし,現在は,その要件を不要とする国も増えている。性同一性障害者の性別に関する苦痛は,性自認の多様性を包容すべき社会の側の問題でもある。その意味で,本件規定に関する問題を含め,性同一性障害者を取り巻く様々な問題について,更に広く理解が深まるとともに,一人ひとりの人格と個性の尊重という観点から各所において適切な対応がされることを望むものである。」


■最二小判令和元年12月20日(H30(あ)437)覚せい剤取締法違反における追徴*11
追徴の対象となる薬物犯罪収益の考え方について、以下のように述べられた。
麻薬特例法2条3項の「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」は,薬物犯罪の犯罪行為を原因として得た財産をいうものと解されるが,ある財産の取得が犯罪行為「により得た」といえるか否かは,一般に,財産の取得の趣旨及び状況を踏まえ,財産の取得と犯罪行為との結び付き等の点から判断すべきものと解される。規制薬物の有償譲渡については,譲渡行為の前に代金が支払われることもあるが,その先後にかかわらず,譲渡に関する当事者間の約束において代金の額等が定められ,これに従ってその代金を得たという場合,当該譲渡に係る犯罪が成立する限り,当該代金は犯罪行為「により得た」財産に当たるものと認められる。本件のように,規制薬物の譲渡の約束に基づいて前払代金を得ながら,その約束の一部の規制薬物の譲渡が行われ又はそれが未遂に終わった場合も,犯罪行為に係る約束に基づいて財産を得た上で,その約束に沿う犯罪を行ったという点では基本的に同じである。この場合,犯罪行為の範囲と財産の範囲に差異が生じるようにもみえるが,この財産は,その約束に係る規制薬物の対価として一体的に犯罪行為と結び付いており,その財産の全体について犯罪行為により得たものということができる。」
「刑法19条1項3号の没収は,犯罪行為による不正な利得の保持を許さないなどのために,これを剥奪するものであり,その趣旨を徹底するために,同項1号,2
号の没収と異なり,その対価として得た物も没収の対象とする(同項4号)とともに,これらを没収することができないときはその価額を追徴することができるものとしている(同法19条の2)。麻薬特例法の薬物犯罪収益等の没収・追徴(同法11条1項,13条1項)も,これと同じ趣旨によるものであって,その趣旨を更に徹底するために没収対象財産の拡大等を図っている。犯罪行為の基礎となる約束に基づいて取得した財産の全体を没収・追徴の対象とすることは,このような犯罪行為による不正利得の剥奪という法の趣旨に沿うものであることは明らかである。」


■最二小判令和2年2月28日(H30(受)1429)被用者の使用者に対する求償請求事件*12
貨物運送会社の従業員が自ら負担した対第三者損害賠償額を使用者に求償することを認めた法廷意見に続き、「求償することができる額の判断に当たり考慮すべき点」として以下のように述べられた。
「貨物の円滑な流通は,我が国における経済活動及び国民生活の重要な基盤であり,貨物自動車運送事業は,その流通の中心的な役割を担うものであるから,その健全な発展を図ることは,我が国社会にとって重要な課題である。そのため,貨物自動車運送事業法は,この事業の運営を適正かつ合理的なものとすること等を目的として(1条),一般貨物自動車運送事業国土交通大臣による許可制とし(3条),その許可基準の一つとして,「その事業を自ら適確に,かつ,継続して遂行するに足る経済的基盤及びその他の能力を有するものであること」を定めている(6条3号。平成30年法律第96号による改正前は「その事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものであること」と定められていたが,基本的な趣旨は変わらないものと解される。)。そして,国土交通大臣は,その審査に当たり,貨物の運送に関し支払うことのある損害賠償の支払能力を審査することが省令で明確化されたが(令和元年国土交通省令第27号により追加された貨物自動車運送事業法施行規則3条の6第3号),これは,貨物自動車運送事業が,その事業の性質上,貨物自動車による交通事故を含め,事業者が貨物の運送に関し損害賠償義務を負うべき事案が一定の可能性をもって発生することを前提として,事業者がその義務を十分に果たすことが事業を適確かつ継続的に遂行する上で不可欠と考えられることによる。したがって,事業者がその許可を受けるに当たっては,計画する事業用自動車の全てについて,自動車損害賠償責任保険等に加入することはもとより,一般自動車損害保険(任意保険)を締結するなど,十分な損害賠償能力を有することが求められる(「一般貨物自動車運送事業及び特定貨物自動車運送事業の許可及び事業計画変更認可申請等の処理について」(平成15年2月14日付け国自貨第77号)参照)。このことは,この事業の遂行に伴う交通事故の被害者等の救済にとって重要であることはいうまでもないが,それとともに,貨物自動車運転者である被用者の負担軽減という意味でも重要である。日常的に使用者の事業用自動車を運転して業務を行う被用者としては,その業務の性質上,自己に過失がある場合も含め交通事故等を完全に回避することが事実上困難である一方で,自ら任意保険を締結することができないまま,重い損害賠償義務を負担しなければならないとすると,それは,被用者にとって著しく不利益で不合理なものというほかない。その意味で,これは,この事業を支える貨物自動車運転者の雇用に関する重要な問題といってよい。事業者である使用者に対し,事業用自動車の全てについて十分な損害賠償能力を求めることは,任意保険又は使用者の負担において,その損害賠償を行うことによって,被用者の負担を大きく軽減し又は免れさせ,ひいては,この事業の継続に必要な運転者の確保に資するという意味でも重要な意義がある。上記の許可基準は,以上のような趣旨を含むものと理解することができ,法廷意見が述べるような,被用者が使用者に対して求償することができる額の判断に当たっては,こうした点も考慮する必要がある。特に,使用者が事業用自動車について任意保険を締結した場合,被用者は,通常その限度で損害賠償義務の負担を免れるものと考えられ,使用者が,経営上の判断等により,任意保険を締結することなく,自らの資金によって損害賠償を行うこととしながら,かえって,被用者にその負担をさせるということは,一般に,上記の許可基準や使用者責任の趣旨,損害の公平な分担という見地からみて相当でないというべきである。」


■最二小判令和2年10月9日(平成30(受)2032)家裁調査官論文事件*13
家裁調査官が少年保護事件を素材に論文を公表したことが違法なプライバシー侵害に当たらない、とした法廷意見を踏まえ、少年保護事件における情報の取扱いについて、以下のように補足した。
少年審判の非公開及び少年保護事件の記録の開示の制限等は,多数意見が述べるとおり,少年の健全育成を期するため,少年の改善更生や社会復帰に悪影響が及ぶことがないように配慮したものと解される。また,憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり,個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される。したがって,少年保護事件の記録の内容,とりわけ社会記録の内容をみだりに第三者に開示し又は公表することは,少年保護法制の根幹に関わるとともに,個人に関する情報に係る上記自由に関わる問題ということができる。そして,家庭裁判所調査官は,裁判所の命令により,少年の要保護性や改善更生の方法を明らかにするため,少年等の行状,経歴,素質,環境等について調査を行うことを職責とするものであるから,自己の担当した少年保護事件の調査について,適切な配慮をすることなく,みだりにその内容を公表することは,それが私人としての論文発表であっても,公務員としての法令上又は倫理上の義務に関わる問題が生ずることになる。」
「その一方で,少年法家庭裁判所調査官の行う調査について(9条),少年鑑別所法は少年鑑別所において行う少年の鑑別について(16条1項),そして少年院
法は少年院において行う少年の処遇について(15条2項),いずれも,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的知識及び技術を活用して又はこれらに基づい
て行う旨を規定している。少年の非行に影響を及ぼした資質上及び環境上の事情等を明らかにして,少年の健全育成に資する保護処分及び処遇を行い,その改善更生及び円滑な社会復帰を図るためには,これらの規定を適切かつ効果的に運用することが不可欠であるが,それは,この分野における専門的知識及び技術の充実・発展によって支えられるものといわなければならない。特に,少年を含め再犯・再非行の防止が我が国社会の重要な課題とされる中にあって,少年保護や再犯の防止等に関係する官民の様々な機関,団体その他の関係者の連携及び協力は極めて重要であり,上記の専門的知識及び技術についても,関係者の間で,適切な配慮の下に,必要な情報が共有され,効果的な処遇の在り方等に関する調査及び研究が深められることが必要である(再犯の防止等の推進に関する法律5条,20条等参照)。」
「以上に述べたことは,裁判所だけでなく,少年の鑑別や処遇を行う矯正施設その他の機関においても重要な課題というべきであり,少年の健全育成,個人に関する情報に係る自由の重要性に鑑み,それぞれの組織において,その実情を踏まえ,少年保護事件に係る情報等の取扱いに関し,適切な指導等の在り方を検討する必要があるものと考えられる。」


■最二小判令和2年11月27日(令和元(受)1900)監査事務所登録不許可処分開示禁止処分請求事件*14
基準不適合事実に該当する事実の有無につき高裁で再度の審理を命じた法廷意見を受けて、上場会社監査事務所登録制度の趣旨について述べた上で、以下のとおり品質管理委員会の合理的な裁量を尊重すべき旨を強調した。
「本件においては,被上告人らの上場会社監査事務所名簿への登録を認めない旨の決定につき,その前提となった事実の有無等が争われているものであるが,前記のとおり,上場会社監査事務所登録制度が,公認会計士の監査業務の専門性及び独立性を踏まえ,公認会計士等によって組織される上告人の制度として運用される趣旨等に鑑みると,上記事実があるとした場合には,これを前提としてされた品質管理委員会の決定については,その専門性,独立性を踏まえた知見に基づく判断として,その合理的な裁量が尊重されるべきものと解される。差戻審における審理においては,以上のような点も踏まえた審理,判断がなされるべきである。」


■最二小判令和3年4月26日(令和元(受)1287)集団予防接種B型肝炎感染事件*15
発症時を除斥期間の起算点とした法廷意見を踏まえ、特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法との関係について、以下のとおり説明した。
「集団予防接種等の際の注射器の連続使用により,多数の者にHBVの感染被害が生じたことについては,その感染被害の迅速かつ全体的な解決を図るため,特措法の定める枠組みに従って,特定B型肝炎ウイルス感染者給付金(以下「給付金」という。)等を支給する措置が講じられている。そして,特措法においては,特定B型肝炎ウイルス感染者の区分に応じて給付金の額が定められているところ,慢性B型肝炎にり患した者については,当該慢性B型肝炎を発症した時から20年を経過した後にされた訴えの提起等に係る者(6条1項7号及び8号)とそれを除く者(同項6号)とが区分されている。これは,慢性B型肝炎による損害についての除斥期間を前提とするものと理解される。本件のように,HBe抗原陽性慢性肝炎の発症後のセロコンバージョンにより非活動性キャリアとなり,その後,HBe抗原陰性慢性肝炎を発症した場合,法廷意見が述べるとおり,HBe抗原陰性慢性肝炎を発症したことによる損害については,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症の時が除斥期間の起算点となるから,その時から20年を経過する前にその損害賠償請求に係る訴えの提起をした者は,特措法6条1項6号に掲げる者に当たることになろう。」
極めて長期にわたる感染被害の実情に鑑みると,上告人らと同様の状況にある特定B型肝炎ウイルス感染者の問題も含め,迅速かつ全体的な解決を図るため,国において,関係者と必要な協議を行うなどして,感染被害者等の救済に当たる国の責務が適切に果たされることを期待するものである。」

ということで、まだお二人しか紹介できていないが、更にボリュームが出てくるのはこれから・・・ということで、今日のところはいったんここで切って、残りの裁判官の方々の個別意見は明日以降に取り上げることとしたい(次回のスタートは、あの草野耕一裁判官から・・・)。

*1:それは今でも変わらないかもしれないが・・・。

*2:2005年当時の嘆きが最高裁判所裁判官国民審査 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~である。当時はまだ裁判官が揃って戦前のお生まれだったのか、と思うといろいろ感慨深いところもある。

*3:2009年の忌まわしい異様な意見広告 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~が始まりだった。

*4:といっても、うち4名は今年の夏以降就任された方々で個別意見を表明される機会は事実上なかったのだが・・・。

*5:特に最一小判令和3年6月9日(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/383/090383_hanrei.pdf)での反対意見は、かつて結果無価値論一本で答案を書いていた人間にとっては実に懐かしく感じられるものだった。

*6:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/040/088040_hanrei.pdf

*7:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/412/090412_hanrei.pdf

*8:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/841/089841_hanrei.pdf、令2(行ツ)28においても同趣旨の意見あり

*9:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/095/088095_hanrei.pdf

*10:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/274/088274_hanrei.pdf

*11:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/109/089109_hanrei.pdf

*12:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/270/089270_hanrei.pdf

*13:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/764/089764_hanrei.pdf、出版社に対する令1(受)877事件判決でも同趣旨の意見あり。

*14:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/873/089873_hanrei.pdf

*15:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/269/090269_hanrei.pdf

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