15年の時を超えて。

”ワンマンショー”という言葉がふさわしい、”らしさ”全開の就任会見だった。

www.youtube.com

最近は、いろんな会見がそのままの形でインターネットに載せられることは多いのだが、50分近くの時間、ずっと見続けていたいと思うようなスリリングな会見と問答ができる人は、芸能人でもそういるものではない。

オーナーと球団社長の真面目な挨拶の後に、初っ端から飛び出す新庄節。

長年テレビの世界でキャスターとして使った流暢な話しぶりが印象的だった前監督に比べると、決して話し方が上手、というわけではないが、インパクトのある言葉が次々と飛び出してきて、まぁこれは飽きない。そして、奔放に話しているように見えて、大事なことは節々に散りばめられている。

メディアを通じて、自分の言葉がどう伝わるか、ということも意識した上で、それでも”計算づく”とは思わせないナチュラルなトーンで攻めてくるのは現役時代から変わらんなぁ・・・と思いながら眺めていた。

もう既に、様々な媒体で報じられているが、以下のNHKスクリプト*1を参考にこれは!と思ったものを挙げると、ざっと以下のような感じだろうか。

www3.nhk.or.jp

(新庄)「優勝なんか、一切目指しません、僕は。あのー、優勝、高い目標をもちすぎると選手っていうものはうまくいかないと僕は思っているんですよ。1日1日、地味な練習を積み重ねて、シーズン迎えて、それで何気ない試合、何気ない1日を過ごして勝ちました。勝った勝った勝った勝った。それで9月あたりに優勝争いをしてたら、さあ!優勝目指そうって、そこの気合いの入り方っていうものが違うと思うので、そういうチームにしていきたいなと。優勝なんかは目指しません。はい。」(強調筆者、以下同じ)

(質問)「引退後は野球とどのような距離感だったか。」
(新庄)「全くないです。引退して野球を見ることはほとんどなかったですね。だからある意味、今のプロ野球、若い子が時代が時代が、時代がって、もう。なんか時代に逃げてる感じがするんですよね、僕は。だからある意味、いい意味でも悪い意味でも、16年間むこうにいて、時代をわかっていないんで、新庄剛志らしくどんどんどんどん、時代の怖さなんか関係なく、突き進んでいけたらいいなと思っています。」

(質問)「ファイターズをどう変えてどう新庄色を出していくか。」
(新庄)「(略)やっぱり気持ちの面ですね。このプロ野球という世界に入ってくる選手というのは、一緒なんですよレベルはもうほぼほぼ一緒。ただメンタル的な問題であって、それをメンタル的に伸ばせないコーチ、監督がいたと思うんですけど、僕はそのメンタル的なものに関してはものすごく引き出す力が自分にあると思うので、そのメンタル的なものを鍛えながら、あとはチームにピッチャー3人、野手4人のタレントを作りあげていけば、楽しいチームになるし、そういうタレントが生まれることは、全国に名前も背番号も顔も名前も覚えてもらえるんで。その時にはもう強くなっていると思うので、そういうチームを作っていきたいと思っているし、ことしドラフトで80人弱とったんですよね?全員がドラフトでかかった選手と思ってるんで、レギュラーなんか1人も決まっていません。(略)」

(質問)「選手の生活面にも目を光らせるのか。」
(新庄)「もちろんです。やっぱり人間性というものは大事であって、人の悪口を言わない、いただきます、ありがとうございましたの言える選手を育てていきたいですね。僕はちゃらんぽらんにしてますけど、そういう上下関係はもうタイガース時代から、ちっちゃい頃から親の教育でしっかりしたものをもってたので、そういうものをずっと続けて、皆さんに納得してもらってこういう立場に立たせてもらったんで、やっぱり選手には日々のプライベートの生活は後に役立つよっていうのを本当に教えていきたいなって思うし、まあプレーはね、実はみんなすごくうまいんですよ。あるきっかけをつかんでもらえれば、どっかんと期待はしてるので、あとは人間性というのはなかなか変わらないと思うんで・・・(略)、」

暗黒時代のタイガースファンにとって、新庄剛志、というプレーヤーは、数少ない希望の光だった。

92年の熱狂が去って再びの暗黒が訪れた後も、彼の美しいスイングとそのバットがボールを捉えた時の見事な弾道を見れば、どんなにひどい負け試合でも清々しい気持ちになれた*2。そして、ホームランどころか出塁すらできなかった日でも、試合に出ていれば、イニングの合間のボール回しでの華麗なグラブ捌きと内野返球だけは見れたからそれで満足、ということも度々あった*3

他のどの選手よりもずば抜けた身体能力を持っているように見えながら、それがチームの勝敗にも、個人成績にもなかなか結び付かず、グラウンド外の”奇行”ばかりが記事になってしまうことにもどかしさを感じていたのは自分だけではなかったと思うが、名将・野村克也監督の下でようやく気持ちよくプレーできるようになり、「主力」と呼ぶにふさわしい活躍も見せてくれた。

たとえメディアを通じてではあっても、かつてそういう過程を何年か越しに見てきた者としては、就任会見で飛び出した、「開幕当初から高い目標を持ちすぎるな」とか*4、「メンタル」や「人間性」といった話も「ああ、あの頃の経験が元になっているのだろうな・・・」と懐かしく聞こえる*5

しがない弱小球団の一ファンだった身としては、MLBに行ってから札幌で復帰して球団の歴史に名を刻む活躍を見せて引退するまでの「新庄剛志」は、もはや別世界の存在で、特に最後の3年間の神がかった活躍ぶりだけで”プレイヤー新庄”を語られると、ちょっと複雑な気分になったりもするのだが、彼の地で新球場移転を目前に控えた大事な時期に「監督」というポストを請け負う上では、その名声がプラスに働くことはあっても、マイナスになることはない、といってよいだろう。

そして、年々レベルも注目度も高まっているパ・リーグの中で、ここ数年ちょっと置いていかれている感もあった北海道の球団に今何が必要か、ということを考えた時、就任会見だけで耳目を集められる”BIG BOSS”の成功は、現時点では約束されたに等しい。

当然ながら、来年のシーズンの開幕が近付くにつれ、あるいは、開幕してからもしばらくは、「あんな奴に監督が務まるのか」等々の雑音は至るところで飛び交うだろうが、それをも計算に入れた上での新庄劇場。球団がコーチ陣の人選をよほどひどく間違えない限り、興行面はもちろん、チームの成績面でも、1年目からかなり良い線までは行けるはず。

個人的には、”新庄流”の独特な手法の成功と比例して、彼の決して報われることばかりではなかった「選手生活最初の10年」の意義に光が当てられることを願っているし、新監督と球団のこれからの取り組みの中から、「個」の強さと組織の成功を両立させるための何らかの示唆が得られると良いなぁ・・・と思ったりもしているのだが、まずはここからの一日一日を、フロントの動きと合わせて目を離さずに見守っていければ、と思うところである。

*1:50分弱の会見の内容にほぼ忠実に作られているが、「すみれ」や「味の時計台」のラーメン、マルセイバターサンドに言及したくだりがカットされているのは、公共放送だから・・・なのかもしれない。

*2:実際に観戦に行ってその瞬間を見届けることができるのは、宝くじに当たるくらい奇跡的な確率でしかなかったが・・・。

*3:だから当時神宮球場に行く時の観戦の定位置は、バックスクリーン脇、と決まっていた。

*4:毎年のように開幕前に「今年こそは優勝」と煽られつつも、結果的には「定位置」で寂しくシーズンを終えていた在阪時代の記憶がここには色濃く反映されているように思われる。

*5:藤田平監督時代の”確執”は当時から有名な話ではあったが、幻の”引退”会見でストレートに監督批判をしていたら、彼のその後の野球人生もおそらくなかったわけで、その辺に「何も考えてないようでしっかり考えている」新庄という野球人の本質があるような気がする。

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