再び燃え上がった「柿の種」

今日の法務業界は、夕方に飛び込んできた関西スーパーの臨時株主総会をめぐる大阪高裁の逆転満塁ホームラン(=抗告認容決定)の話題一色、という感がある。

確かに自分も関西スーパー側の一発目のリリース*1を見た時は心底びっくりしたし、決定文が公表されたら是非読んでみたいと思っているところではあるのだが、それ以上に今日一番の企業発法務系ニュースが何だったかといえば、新潟が誇る米菓業界の雄が繰り出した↓である。

www.nikkei.com

同じ仮処分事件でもこちらの舞台は東京、請求も「不正競争防止法等に基づく製品の製造・販売の差止め」、争われているのは「柿の種」である。

で、このリリースを見た時、自分はちょっとした既視感に襲われたし、同じような感想を抱いた方は他にもいらっしゃったことだろう。

そして、歴史を掘り返してみたら、やっぱりあった。

かつて2012年から2013年にかけて、亀田製菓が株式会社宮田を相手取って起こした「柿の種」パッケージ訴訟である。

折しも時代は、同じ新潟拠点の佐藤食品工業が、同郷の越後製菓相手に特許侵害訴訟を仕掛けたり、北の雄、石屋製菓が「面白い恋人」を訴えたり、と、それまでお世辞にもメジャーとは言えなかった伝統的食品業界にまで知財紛争の波が来た、と感じさせるようなときだったから、その流れの中で、この訴訟もそれなりに注目を集めたものだった。

今、検索すると、真っ先に出てくるのは、日栄国際特許事務所の田口健児弁理士の解説(↓)なのだが、実際この解説と、そこで紹介されているパッケージデザインの比較を見ていただけると、なぜ紛争になったかは一目瞭然。
p-nic.com

最終的には和解で終わっているものの、金銭支払いがなかったことを除けば、ほぼ原告だった亀田製菓の思惑通り*2の結果となっているように思われ、そりゃあそうだろう…と言いたくなるくらいギリギリのところを攻めてきていたのが、この時の被告の製品でもあった*3

それから8年。

今回も亀田製菓が請求の元にしたのは、今も昔も変わらない「6袋詰」の「柿の種」のパッケージ*4

そして、相手が地元の企業ではない関東圏の会社(株式会社久慈食品、戸田市)である点も共通している。

だが、ただ一つ、8年前と違うところを挙げるとしたら、不競法上の商品等表示の類似性で争うにしては、

「あまりに似ていなさすぎる」

ということだろうか(相手方製品との比較については亀田製菓のリリースの2頁参照)。

確かに背景で使っている色や組み合わせは何となく似ている。

「柿」で始まる特徴的な文字色や、字体、レイアウトなども、似ていると言えば言えなくもない。

ただ、パッケージの中で最も重要な要素である文字に関して言えば、「柿の種」と「柿ピー」で全く異なるし、それ以外のパッケージの構成要素にも、強調できそうな相違点はそれなりにある

そう考えると、このレベルの類似度合いでここまで仕掛けるのか・・・ということに、素朴に驚いたところはあった。

現時点では、この仮処分申立てに至るまでの間に当事者間でどのようなやり取りがあったのか、その詳細までは分からないし*5、申立人側でどのような主張の組み立てをしているのかも不明である。

もしかしたら、陳列状況や消費者調査の結果等を踏まえ、「完全なパッケージ同士の比較では似ていないように見えても、店頭では誤認されやすい」という主張立証を申立人が行おうとしているのかもしれない。

いずれにしても、ここからうかがえるのは「お客様の誤認混同を防止し、当社製品のブランドを保護する」ことに向けられた申立人の執念であり、そのために使える手段は最大限活用する、という積極的なスタンスだったりもするわけだが、結果はどうあれ、これも”看板商品”を抱える会社の一つのあるべき姿勢だ、ということ、そして、無駄なく簡潔に、だが整然とわかりやすく自社の立場を説明しているお手本のようなリリースを見て、子供の頃から製品に親しんできたこの会社の良さを改めて感じた、ということはここに書き残しておきたいと思っている。

できることなら一度は裁判所の判断を見てみたいな、と思うところだが、果たしてどうなることやら・・・。

*1:www.nikkei.com

*2:被告側の「柿の種製品」の販売を一定期間差し止め、問題となった商品包装も破棄させる、というもの。

*3:なお、栗原潔弁理士も提訴時にこの事件を取り上げておられる。【小ネタ】「切り餅」訴訟の次は「柿の種」訴訟? | 栗原潔のIT弁理士日記 大変ありがたいことに、この栗原弁理士の記事の中で当ブログのエントリーもご紹介いただいていた(佐藤食品工業の話の方だが)ことを自分は10年近く経った今、初めて知ったような気がする。

*4:もっともよく見ると、容量が230→190gになっていたり(この点に関しては、内容量の変遷について追いかけているサイトまで見つけてしまった。亀田の柿の種 スーパーフレッシュ6袋詰の値上げ情報)、今のパッケージにちょっとしたキャッチコピーや外国人を意識したと思われる「No.1」表示が入っていたり、と時代の流れとともに当然モデルチェンジはしているのであるが、基本的なパッケージのデザインコンセプトは何ら変わっていないように見える。

*5:一応、亀田製菓側のリリースの中に「再三警告したが相手方が応じなかった」という趣旨のことは書かれているのだが・・・。

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