マイナー、だからこそ。

いつから、冬季五輪はこんなにエキサイティングなイベントになったのだろうか。

ここ最近、同じようなことばかり書いているのだが、今週に入ってからもバタバタは続いていて、落ち着いてテレビに向き合える日は限られる。
夜も深まった時間帯の競技は辛うじてLIVEで見ているものの*1、日中時間帯の競技は先に結果を目にして、深夜に動画で振り返る、そんな日々はまだ続いている。

だが、この北京2022に関して言えば、目にするもの、耳に飛び込んでくる情報、すべてが結構な確率で良い絵になり、心賑わすトピックになっている。

既に前回大会に並ぶ過去最大のメダル数、ということで、日本人選手が活躍するニュースが多いことが気持ちを盛り上げている面はもちろんあるのだが、とにかく一つ一つの戦いの中身が濃い。

もっとも象徴的なのは、スピードスケートの高木美帆選手で、既にとった3つのメダルは同じ「銀」でも色合いが全く違う。
悔しい銀メダル、嬉しい銀メダルと続いて、いよいよ金メダルか・・・と誰もが思った瞬間、崩れた隊列。
どんなシナリオライターにも書けないような悲劇と喜劇のシーソーゲーム。

執念でジャッジまでねじ伏せたスノーボーダーがいれば、メダルは取れなくても大技で感動の渦を巻き起こしたスノーボーダーもいる。
自ら「魔物」を名乗ったスキージャンパーがいるかと思えば、”悲運”を絵にかいたような展開で競技を終えたスキージャンパーもいる。

ノーマルヒルで振るわず誰もがこれまでか・・・と思った次のレースで、あわや金メダルか!と思わせてくれるようなところまで奮闘したベテランの複合選手。
これまで以上に明るいテンションで連日和ませてくれながらも、試合をじっくり見ると常にハラハラさせられるロコ・ソラーレ

そして、毎回、何かがあるとはいえ、今回はこれまで以上に深い闇と霧で包まれているフィギュアスケート

テレビ局はいつものように、あれこれと盛り上げようとしているのだが、今大会に関して言えばそれも不要。
それぞれの選手たちのこれまでのストーリーに思いを馳せ、この大会の中でリアルに表現しているものを見るだけでもう十分、というくらいの充実感は味わえるような気がする。


これはもう何度も書いていることではあるのだが、誰もが一度は親しんだことがあるメジャースポーツで構成される夏季五輪とは異なり、冬季五輪の競技に本格的に取り組んだ経験を持つ人々は極めて少ない。

上まで登って見下ろすだけで心臓が止まりそうになるジャンプ台。スキーを装着したまま生きて下りられるとは思えないコブ斜面。
人生で決してとることはない極端な前掲姿勢で走り続けるスピードスケート選手。

スケート靴を履いたことはあっても、氷の上でジャンプして3回転も4回転もしようなんて大それたことは誰も考えないし、スノーボードに触ったことはあっても、あんなに高く空に飛んで次元の壁を超えるような真似は到底できっこない。

何となく軽く見られがちなカーリングも、普通にやればストーンをまっすぐ投げることすらままならないし、滑る氷の上で踏ん張ってブラシを動かそうものなら次の日まともに歩くことさえできなくなる。

唯一「できるかも…」と誤信しそうなのは距離スキーだが、凍てつく寒さの中、あの距離を走り切ることは並みの人間にできることではない。

要するに、どの競技も雪が滅多に降らない都会で普通に暮らしている者が取り組むにはハードルが高すぎるのだ。

だから、冬季競技の選手たちの出身地域には偏りがあるし、力の抜けた選手となると何大会も続けて出場し、複数の種目にエントリーしてくる。
本格的に競技を続けようと思ったら、日本国内の活動だけでは到底無理だが、かといってメダルを取ったところでスポンサーの数も、CMの本数も爆発的に増えるわけではないから、そんな環境で競技に取り組む人々、というのは本当に限られてくる。兄弟姉妹での出場が多い、ということの背景には、そういった事情も当然あるだろうと思っている。

どこまで行っても、競技の世界では「神」レベルにまであがめられる存在になったとしても、世間一般ではいつまでもマイナー。
4年に一度、一瞬のスポットライトを浴びても、それが終われば次の「4年後」が来るまで、選手たちの動静が伝えられる機会は数えるほどしかない(しかも冬のごく限られた時期にだけ、である)。

でも、だからこそ、4年に一度のこの晴れ舞台での姿が、見る者には新鮮に映り、やる側にとっても持てる力の爆発につながっているんじゃないか、と思うところはあって・・・。

もう終盤戦とはいえ、まだまだあと何日か、さらなる興奮が呼び起こされる気配は満ちている。

↑のNumber誌で紙面を飾った選手たちは既に皆一度は登場しているが、それでもまだもう一度見られるチャンスが残っている、というのも冬季五輪ならではだったりする。

見る者に与える感情の振れ幅も大きい今大会のラストがどちらの方に振れるのかは分からないけれど、依然緊迫が続く欧州情勢や、緊張感と倦怠感に満ちている国内のモヤモヤの隙間を縫うように、心を揺さぶるエピソードを届け続けているこの大会に対しては、もはや感謝しかない。

そして、昨夏以来、何かとアスリートに向けられる目も厳しくなりがちな今日この頃ではあるのだが、選手団の中では未だ「年少」に分類されるはずの川村あんり選手や、村瀬心椛選手の場慣れした、かつ丁寧なインタビューの受け答えに接して、「若い頃から一流の世界を経験することは大事だな」というあまりにベタ過ぎる感想を抱くとともに、今どきの10代の精神的な成熟度は、自分たちの世代を大きく超えてしまっているのかもしれない、という感銘を受けたことは、忘れてしまわないように、ここにきっちり書き残しておくことにしたい。

*1:とはいえ、大体別のことで手を動かしながら・・・である。

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