「8枠」が演出した波乱なき天皇賞・春。

レースが始まる前、「何でこの馬が2番人気なんだろうか?」と不思議で仕方がなかった。

そして、今年の第165回天皇賞(春)のゲートが開いてからの約3分16秒は、そんな違和感を裏付けるに十分な「独壇場」だった。

今どき「3200m」のGⅠ。同格のレースでこのレベルの距離、となれば、基準になるのは3歳牡馬クラシックの3冠目のレースしかない。

昨年のワールドプレミアから遡って過去10年振り返れば、連覇したフィエールマンにキタサンブラック、その前のゴールドシップ、と菊花賞のタイトルを持つ馬が圧倒的に実績を残しているし、3歳時にはタイトルを取れなかった晩成型の馬たちですら、レインボーラインは2着、ビートブラックは3着と菊花賞で馬券に絡む実力は見せている。

唯一菊花賞に縁がなかったフェノーメノは、単に3歳秋シーズンのレース選択を間違えただけ*1、と考えれば、菊花賞で上位3頭に入っていることがこのレースに勝つための必須条件ともいえるわけで、その点で、今年1番人気に支持されたキズナ産駒の人気者は、「大外枠」という以前に勝つまでの目はなかった。

そう、

タイトルホルダー一択で良い。

というのが今年のこのレースだったわけで、ゲートを出るなり影も踏まさずマイペースで逃げ切って7馬身差圧勝、という結果がそれを見事なまでに証明したといえる。

元々は弟が乗って「親子3代」の夢を叶えた馬が、今度は代わって手綱を託された兄に初めてのGⅠをプレゼントし、さらに再び「親子3代」の偉業を実現した、というところに、競馬ならではの”血縁のドラマ”を堪能したファンも多かっただろうが、それも、長距離で逃げて結果を出せるこの馬の傑出したキャラクターあってこそだと思うだけに、兄弟のいずれが手綱を取ろうとも、今年はこのまま長距離GⅠだけを一気に駆け抜けて、さらに歴史を作って欲しいなぁ・・・と思うところである。

ちなみに、個人的に興味深かったのは、”不利不利”と言われながらも大外枠のディープボンドが地力の差できっちり2着を確保したことと、スタート直後に騎手を振り落としながらもゴールまで走り続けたシルヴァーソニックが、そのディープボンドの前でタイトルホルダーに唯一絡む激走を見せた*2、ということ。

勝った馬と合わせて、いずれもピンクの帽子の8枠からのスタート。

もし”2番目”にゴールした馬が最後まで騎手を乗せていたら、まさかの8枠ワン・ツー・スリーという驚愕の結果になったのかも・・・というあり得ない妄想をしつつ、力のある馬なら枠順の有利不利とか関係ないんだよね、という当たり前のことを改めて認識したレースでもあった。

一番外の枠で、この3頭が仲良く走るなんて機会はもう二度とめぐってこないのかもしれないが、こと長距離のレースに関する限り、評論家たちが何を言おうが、馬の実績と地力が全て、ということは忘れずにいたいと思っているところである。

*1:といっても天皇賞・秋で2着に入っているから、その名の通り距離不問の”怪物”だったということなのだが。

*2:この大一番で名手・川田騎手すら御せない躓き方をしたあたりに父・オルフェーヴルの血の発露を見たが、その一方で最後まで逸走することなく走り切ったところには”らしくない”印象もあった。

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