民事訴訟法改正のささやかな余波。

「民事裁判手続IT化」を旗印に進められてきた民事訴訟法の改正が、国会での改正法の可決成立により一つの節目を迎えた。

「民事裁判をデジタル化する改正民事訴訟法が18日の参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。訴状の提出から口頭弁論、裁判記録の閲覧までIT(情報技術)で運用できるようになる。」(日本経済新聞2022年5月19日付朝刊・第34面)

研究会レベルで議論され始めた頃の話は、それなりにフォローしていたつもりではあったのだが、法制審部会での議論に突入した頃からちょうど別の法改正の議論が佳境に差し掛かったこともあって、こちらの方はちょっとなおざりにしてしまったことは否めない。

とはいえ、争点整理をWeb会議で・・・という話が出始めて試験的にTEAMSであれこれやっていた頃は、裁判所側も弁護士会側もぎこちなさが否めなかった状況が、その後この国を襲った新型コロナの副次的効果で、今や実務でもすっかり定着し始めているわけで、そんな劇的な変化を経て、さらに法改正レベルで「IT化」へ一気に舵が切られた、というのは実に感慨深いことだと思っている。

もちろん、議論の過程で耳にする話の中には、「なぜそれを・・・?」的な首を傾げたくないようなエピソードも多かった。

中でも一番の問題は、かなり前にこのブログでも書いたファスト・トラック制度に関する問題*1で、結果的に「法定審理期間訴訟手続」という形で改正法にも取り込まれてしまったが、個人的には絶対にクライアントの企業の方々にはお勧めできない代物である*2

だから、日経紙の、

「裁判終結までの期間を原則7カ月と定めて使い勝手も高める。」(同上)

という一文には、当然、おい待て・・・というツッコミは入ることになるのだが、今日の本題はそれではない。

今国会で成立したのは、民事訴訟法等の一部を改正する法律」だが、ここは基本法改正のあるある、で、「民事訴訟法」の後ろにくっついている「等」が結構曲者だったりもする。

今回の改正でも、いわゆる民訴法ファミリー(民事執行法や民事調停法、人事訴訟法家事事件手続法など)を除いても改正される法律の数は実に80近くにも上っており、民法に始まり、地方自治法公職選挙法といったところから、古くは担保付社債信託法、最新のものでは「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」に至るまで、裁判手続きが何らかの形で関わる箇所にはすべて改正が加えられている*3

そんな中、自分がおおっ・・・と思ったのは、著作権法に加えられた以下の改正だった。

(裁判手続における公衆送信等)
第42条の2  著作物は、民事訴訟法(平成八年法律第百九号。他の法律において準用し、又はその例による場合を含む。)の規定により電磁的記録を用いて行い、又は映像若しくは音声の送受信を伴つて行う裁判手続のために必要と認められる限度において公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行い、又は受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

現在、第42条に設けられている「裁判手続等における複製」にかかる権利制限規定に続けて枝番で置かれた一条。

裁判手続において用いられるものが「文書」だけではなくなった以上、電磁的記録の公衆送信についても権利制限の対象とする、というのは十分合理的な対応だと思う。

ただ、注意すべきは、第42条が、あくまで「裁判手続・・・」となっていて、条文上も「裁判手続のために必要と認められる場合及び立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合」とかなり広めにカバーする作りになっているのに対し、今回創設された枝番の条文は、民事訴訟法の規定により」行われる「裁判手続」だけを対象としている、ということ。

もちろん、立法、行政手続きに関しても、いずれは電子化の流れが加速していくはずだから、こういう形で条文が切り出されるのは一過性の話だと思う(というか、そう信じたい)ところだが、当面は、ややこしい”使い分け”が求められることは避けられない。

そして、それ以上にややこしいかもしれないのが、今回、第42条の2に、この裁判手続における公衆送信等の規定が入ったことにより、従来の第42条の2(行政機関情報公開法等による開示のための利用)と第42条の3(公文書管理法等による保存等のための利用)の条文番号が一つずつ繰り下がった、ということだろうか。

なんだそれくらい・・・と思われるかもしれないが、該当する条文の箇所だけにとどまらず、出所明示やら目的外使用やら、といった、この後に出てくる規定の中でも繰り返し引用されるのが、著作権法の権利制限規定の条文の宿命なわけで、一つ条文番号がズレることで、ちょっと前の解説書やら何やらの様々な箇所で”読み替え”なければいけない、という手間も当然出てくる。

個人的には、「42条の4」に新設条文を追加する方が合理的だったのでは?という気がしないでもないのだが、そんなことを言ったところで、既に成立してしまった法律が変わるわけでもないので、やがて訪れる(?)著作権法全面リフォームまでの間の一過性の小ネタ、として、しばらくこの枝番とも付き合わないといかんな、と思っているところである。

*1:民事裁判「審理迅速化」の落とし穴 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*2:この点については、法制審部会での審議経過等も追いつつ、またどこかで機を見て何か書き残しておくことにしたい。

*3:多くは「書面」に「電磁的訴訟記録」を付け加えるだけのテクニカルな改正なのだが、得てしてそういうところで微妙な言い回しの修正もセットで入っていたりもするから、きちんと見ておくにこしたことはない。

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