レジェンドは時空を超えた。

ついこの前、2022年の中央競馬のカレンダーが始まったくらいの感覚だったなのに、気付けばもう「日本ダービー」の週だった。

ここ最近のGⅠの例に違わず、今回も「混戦、混戦、本命不在・・・」という声はあちこちで飛び交っていたが、ある意味予想するのはオークス以上に簡単、というか、「第一冠」との関係で明確な法則性があるのがこのレースで、

皐月賞で2ケタ着順に敗れた馬はまず来ない。巻き返せても7,8着くらいの馬まで。
・1番人気に支持された皐月賞勝馬は確実に馬券に絡んでくる。逆に距離等が不安視されて人気を落とした皐月賞馬は消える*1
有力視されていた皐月賞2着馬、3着馬は、1着馬以上に確実に馬券に絡んでくる。

といったこれまでのデータに従うなら、イクイノックスドウデュース確実に「買い」となる一方で、スピードが勝り、2400mまで持つとは思えないドレフォン産駒のジオグリフは、(皆同じことを考えて)4番人気になってしまった時点で「切り」。

さらに、いつもならちょっと取捨選択を迷うかもしれない皐月賞4着のダノンベルーガも、押し出されて1番人気になってしまった上に*2、馬体重‐10キロとなるともう切るしかない、ということで、これが普通のレースなら、本線にした皐月賞2,3着馬が見事1,2着に来てめでたしめでたし、というだけの話だったのだが・・・。


想像を超えたところでドラマが起き、様々な記憶を呼び起こすのが「日本ダービー」こと東京優駿の舞台である。

武豊騎手が2013年のキズナ以来しばらくこのレースのタイトルから遠ざかっていたのは自分も知っていたし、昨年、初めて朝日杯FSのタイトルを武騎手にプレゼントしたドウデュースという馬が、そのまま順調に冬を越し、クラシック戦線でも好走を続けたままここまで来ていた時点で、「武豊騎手がここでダービーを勝つ可能性もあるかもな」くらいことは思っていた。

だが、岩田康誠騎手がデシエルトで作り出した1000m58秒9のハイペースで縦長になった馬群が最後のコーナーを回って横に広がり、誰よりもレースというものを熟知している武豊騎手ともう一人の名手・ルメール騎手が、自分たちの馬を一番馬場の良い外側に持ち出して仕掛け始めたのを目にしてからの数十秒、そして、縮まりそうでなかなか縮まらない差が結局ゴールまで変わらず、ドウデュースがクビの差一つで駆け抜けた時の興奮といったら・・・

テレビ画面越しですら血が沸き立つようなレースなのだから、その場にいた人々が熱狂しないはずもなく、マイクが拾い上げたのはゴールした瞬間の万雷の拍手とウィニングランの途中で起きた(本当はまだタブーなはずの)「ユタカコール」の大絶叫だった。

新型コロナの闇を超え、数万人単位の観衆がようやく競馬場に戻ってきたタイミングでこんなレースをやってのけるジョッキーを「レジェンド」と言わずして何といえばよいのか・・・


勝った直後から勝利騎手に関して繰り返し報じられた「史上最年長勝利」とか「50代初」といった見出しには、正直ピンとこないところもある。

自分の中でダービーを勝ったベテラン騎手、といえば、今も昔も1993年ウイニングチケット柴田政人騎手で、実際、当時の映像などを見ても、今の武豊騎手より数段ベテランとしての風格があったから、あの時の柴田(政)騎手がまだ44歳だった*3ということを知って驚愕しているのも事実だったりする*4

ただ、そんな年齢による”ラベリング”などどうでもよくなるくらい、今日、ダービー馬から上がり33秒7の脚を引き出したダービージョッキーの手綱さばきは見事だった。

そして、今日勝った馬が、この不世出の名騎手とともに世界で夢を追うことを公言している松島正昭氏のキーファーズの所有馬だった、という事実は、当然ながら、さらに次のステップに向けた夢を我々に見させてくれるに十分だったりもするわけで、まずはこの秋、さらなる熱狂の渦に巻き込まれることを祈念しつつ、もう一晩くらいは今日の歴史的好勝負の余韻に浸りたいと思っている。

*1:たまに2018年のエポカドーロのような例もあるが・・・。

*2:今年の競馬界において、「1番人気」というポジションは”呪われた席”に他ならない。

*3:結局、柴田騎手はその翌年の落馬負傷で引退を余儀なくされることになる。

*4:なお、これまでの最年長記録は、鉄人・増沢末夫騎手の48歳7か月(1986年ダイナガリバー)。この騎手も自分に競馬心がついた時には既に「大ベテラン」だったから、武豊騎手が既に騎手生活晩年の増沢騎手と同じくらいの年齢になられている、ということ自体、未だに信じられずにいる。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html