今年も多くの会社で年に一度の大イベント、「株主総会2022」の季節が佳境に差し掛かろうとしている。
かくいう自分は、といえば、今、様々なルートで送られてくる総会招集通知の山に埋もれてあたふた・・・というところ。
仕事の関係で送っていただいたものもあれば、純粋に自身の勉強も兼ねた分散投資の結果、というものもあるのだが、後者に関しては、隅々まで目を通して議決権行使・・・というにはちょっと厳しい状況だったりもする。
今日の日経紙には、
「3月期決算企業の株主総会シーズンが始まる。2022年は6月29日がピーク日にあたり、全体の26%が開催する。東京証券取引所によると、ピーク日への集中率は1983年の集計開始以降で最も低かった21年(27%)を下回り、過去最低を更新する。」(日本経済新聞2022年6月8日付朝刊・第18面、強調筆者)
などという記事も載っていて、一見良い傾向のようにも思えるのだが、「会場で総会に出席することが前提ではない」投資家にしてみれば、一日、二日開催日がずれているからよい、という話では全くないわけで、多くの日本企業が未だに脱し切れていない、
「3月期決算、6月中~下旬に定時株主総会開催」
という慣行を何とかしないことには、どうしようもないんじゃないか、という気はしている*1。
もちろん、それでもアクティブな株主はいるもので、この6月総会では、自分が確認できた限りでも50社以上の会社で株主提案が議案として出されており「株主提案花盛り」というのが、現時点での「株主総会2022」の最大の特徴になっている、といえるだろう。
創業家内の紛争が持ち込まれたようなケースもあれば、アクティブなファンドや投資運用会社が仕掛けてきた、というケースもあり、内容も今はやりの「気候変動」絡みの提案から、株主還元大幅増、さらに現取締役の解任、といったところまで実に様々。
個人的には、一寸先を見通すのも苦労するような今の経営環境下で大幅な株主還元を求めるような提案を出す株主はあまり好きではないし、東芝に限らず、公の会社で特定の株主の色が強い取締役候補者を出す、というパターンの提案にも賛成票を投じるのは難しいと思っているところだが、ストラテジックキャピタルのように、わざわざ特設ウェブサイトまで開設して(https://stracap.jp/proposal)、丁寧に株主提案の趣旨を説明しようとする姿勢を見せている株主を見ると、好き嫌いはともかく、まぁこれも一つの形なのだろうな、と思うところはある。
今のところこのテーマに関して言えば、「普通株式1株につき金61円」という株主からの期末配当の提案*2に対し、会社側が「期末配当65円」とそれを上回る打ち返しを行い*3、最終的に株主提案を撤回に追い込んだ*4ヤマウホールディングス、という剛毅な会社が「今年のMVP」と言えるような状況だが*5、定時総会当日の賛成率なども含め、まだまだ何が起きるか分からない領域だけに、もうしばらく様子は見てみたい。
それ以外の点としては、(元々予想された展開だが)どこの会社も「株主総会資料の電子提供」を可能とする定款変更を改正会社法施行に向けて行っている、というのが今年のもう一つの一大トピック。
それと合わせて「バーチャルオンリー」総会を実施可能とするための定款変更まで行っている会社もチラホラ見かけるが、こちらの方はまだ「多数」というところまでは達していない*6。
既に世の中が、新型コロナの影響など気にする必要がないレベルにまで達している状況で、法務省、経産省の「確認」という謎手続きを経てまでこの定款変更をする必要があるのか、個人的には大いに疑問にも感じるところだけに、今くらいの落ち着きがちょうどよいのではないか、と思ったりもする*7。
あと、例年と異なるところでもう一つ気になったのは、今年の総会での「継続会」の予告の多さ。
理由としては、中国でロックダウンが徹底された結果、決算を締められなかった、という会社もあれば、不祥事、不正会計が発生してとてもじゃないが現時点で決算を確定させるのは無理だ、というヘビーな状況の会社もある。
要因は様々とはいえ、各社で早々と「継続会」という選択肢がとられている背景には、2年続いた新型コロナ禍下の定時株主総会で「継続会」の開催というリスク回避手法のノウハウが相当程度蓄積されたこともあると推察されるわけで、様々な関係者のご苦労が株主総会の運営に新たな地平を切り開いた、と考えれば、新型コロナ禍も悪いことばかりではなかったのかな、と思うところである。
試されるInvestor Relations
ということで、こういった定性的な傾向の話だけで終われればよかったのだが、それだけでは済まなかったのが、波乱の「株主総会2022」。
数日前の日経紙夕刊に躍った記事が、総会運営クラスタの界隈を異様なまでにザワザワさせている。
「企業の株主対応支援を手掛けるアイ・アールジャパンホールディングスの元役員が、同社の未公表情報に基づいて知人が発注した不正な同社株の取引に関与した疑いがあるとして、証券取引等監視委員会は6日までに、元役員の関係先を金融商品取引法違反容疑で強制調査した。」(日本経済新聞2022年6月6日付夕刊・第9面、強調筆者)
アイ・アールジャパンHDといえば、言わずと知れたわが国最大のIR・SR活動支援コンサル会社で、1年前の定時総会では、いち早くバーチャルオンリー総会の実施に向けた定款変更議案を提出し、ISSの反対推奨も堂々と切り返して名を上げた*8会社である。
k-houmu-sensi2005.hatenablog.com
本エントリーの前半でご紹介した通り、多くの会社で株主提案が出されているような今年のような状況下ではコンサルファームとしての真価も思う存分発揮できるはずだったのだが、まさかその「株主対応」のリソースを自社のために割かなければならなくなる事態になろうとは・・・
ハイブリッド出席型での開催を前提に、「本店会議室」で予定していた総会会場も今日になってすかさず総会シーズン定番の大手ホテルに変更されている*9。
急遽の会場変更によるタフなオペレーションと、それ以上に厳しいことになりそうな出席株主からの質問攻めへの対応。想像しただけで気が遠くなりそうな話ではあるが、それでも今年の総会が「バーチャルオンリー」で実施する予定になっていなかったことは不幸中の幸いといえようか・・・*10。
このタイミングでの「不祥事」発覚が会社にとって良いことか、と言われれば全くそんなことはないのだが、逆に言えば、これを機に、自社の「危機」での対応ノウハウをさらにブラッシュアップできるなら、”転んでもただでは起きぬ”の世界になるわけで、ここからの10日間で会社が何をどこまでできるのか。そこはしっかり見届けたいと思っているところである。
*1:この先経営と執行の分離が進み、執行側でボードメンバーに入るのは会長、社長クラスのみ、という会社が多数になれば、人事異動サイクル等の業務執行カレンダーをずらさずに総会の時期をずらすこともできるようになるはずだから(剰余金処分は取締役会に権限を移してしまえばよいし・・・)、もう少し各社の定時総会の開催時期もフレキシブルになるんじゃないかな、と期待しているところではあるのだが・・・。
*2:ヤマウホールディングス[5284]:株主提案に関する書面の受領および当社取締役会の意見に関するお知らせ 2022年5月11日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞
*3:ヤマウホールディングス[5284]:2022年3月期配当予想の修正(増配)に関するお知らせ 2022年5月11日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞
*4:ヤマウホールディングス[5284]:株主提案の撤回に関するお知らせ 2022年5月26日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞
*5:一応、会社としては65円中35円を「特別配当」という整理にして「恒久的にこの配当を続けるわけではない」という姿勢は示している。
*6:日本有数の大手企業の中でもこの定款変更をする会社が一定数出てきているのは確かだが、メイントレンドというには程遠い。
*7:そもそもハイブリッド出席型総会の運営もやったことのないような会社が、いきなりバーチャルオンリー開催を可能とするような定款変更に飛びつく、というのは妙な話だし、実際に参加する可能性のある株主の数が多くても十数名くらい、という会社だと、コスト面からも経済合理性を欠く判断、ということになりかねない。
*8:以下のエントリーにも書いた通り、会社が示した見解があまりに優等生過ぎてバーチャルオンリー総会を現実に行うためのハードルが高くなりすぎたのではないか、という懸念すら生じるくらいの切り返しだった。
*9:アイ・アールジャパンホールディングス[6035]:第8期定時株主総会会場及び開会時刻の変更に関する重要なお知らせ 2022年6月8日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞
*10:会場での開催であれば、敵対的株主が少々暴れても、その場にいる多くの”与党株主”の「圧」で何とか収めることができるが、完全バーチャルだとおそらくそんな技も使えないと思われるだけに・・・。