「インバウンド神風」はまた吹くか?

先週の後半くらいから回復基調にあった株式市場は、米国CPIの上振れとそれに起因する引き締め観測により、一瞬にして冷え込んだ。

日経平均も水曜日に800円近く下げ、今日になってもリバウンドには程遠い、という状況である。

だが、そんな中、資源系と並んで逆風に立ち向かっているのは、新型コロナ禍に突入してから長らく不振をかこってきた鉄道、航空をはじめとする”インバウンド銘柄”たち。

無理もない。ここ数日、日経紙には連日のように、”ポストコロナ”とばかりに、「入国時の水際対策緩和」「訪日外国人観光客受け入れ再開」といったニュースが流れている。

訪日外国人に関しては、あくまで”意向表明”のレベルにとどまっていて、政策転換が実際に効果を発揮し始めるのはいつのことやら・・・という感じではあるのだが、気の早い投資家たちはここぞとばかりに”インバウンド銘柄”に飛びついている。

確かにCOVID-19などという魔物が現れる前、「五輪」という言葉がまだ汚職の代名詞になっていなかった頃までは、「訪日外国人」は年々猛烈な勢いで増加し続けていて、「インバウンド」というフレーズはあたかも”金のなる木”のように、多くの人々を惹きつけていた。

だから、これでようやく・・・と先走る人々の存在を嘲笑することなど決してできないのだが・・・。


人為的な”円安”傾向に、周辺アジア諸国の富裕層・中流層増加、といった様々な偶然が重なって生まれた「インバウンド神風」。

東京の街を歩けば、どこに行っても外国人観光客の姿があったし、空港はもちろん、百貨店や家電量販店、大型ドラッグストアなど、「免税」のカウンターがある店では、海の向こうから来た多くの人々が行列を作っていた。

国内の消費が落ち込み、本来なら右肩下がりになっても不思議ではなかったお店や飲食店の中には、海外から訪れた人々の売り上げで命脈を保っていたところも多かった。それは、停滞したこの国の希望を微かにつなぐ奇跡のような出来事だった。

だが、新型コロナ禍ですべてが吹っ飛び、様々な衣が剥がされた姿が白日の下に晒されて分かったのは、そんな「神風」はいいことばかりでもなかった、ということ。

本来であれば、「先細り」になる国内市場の状況を見据えて、世界に視野を広げ、時代を先取りしたビジネスモデルへの切り替えを急がねばならなかった状況だったにもかかわらず、「今のままでもなんとかやっていける」と勘違いして事業戦略のかじ取りを誤った会社を自分は知っている。

おそらく大なり小なり同じような過ちを犯した会社は他にも存在するのだろうけど、元々の図体が大きい会社であればあるほど、かじ取りを誤った代償は大きい。

もちろん、コロナ禍の試練は、経営の”挽回力”を試す場でもあったわけで、早い段階でコスト削減、徹底したキャッシュ流出最小化に頭を切り替え、売れる資産は買い手がいるうちに売り飛ばすなり証券化するなりし、新しい柱を立てるくらいの必死さでそれまでとは違うビジネスモデルの構築に励んだ会社であれば、この先、リバウンドの恩恵に預かることも決して不可能ではないだろう。

しかしこの間、「いつかは人も戻るだろう」とばかりに、外から見ている限り何ら効果的な手を打ってこなかった会社が、再び「神風」の恩恵に預かれることはおそらくないだろうと思っている。

戻るところには人は戻る。急回復した売上が「コロナ前」を超える会社も、これからそれなりに出てくる。

でも、神風による”奇跡”を呼び込めるのも、日々の地道な努力とビジネスモデルの磨き上げがあってこそ。

それがない限り、この先、いかに同業他社が好調を取り戻しても、自分たちだけは取り戻せない、という会社が出てくることは十分にあり得るわけで、自分が一番よく知っている会社も、おそらくそんなカテゴリーに入ることは容易に想像がつく。

「神風はたぶん吹く。だが、それは局地的に吹くものでしかない。」

という現実の重みを深く受け止めつつ、本当の「差」が付くこれからの対応の巧拙をじっくりと見守っていきたいと思っているところである。

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