情報提供サイト上での商標使用をめぐる”紙一重”の判断。

諸般の事情で、今年に入ってから商標法26条1項各号周りの判例、文献を調べる機会がやたら多くなっているのだが、最近アップされた裁判例の中にも、商標法26条1項6号をめぐって興味深い判断が示されている事例を見つけたので、備忘代わりに挙げておくことにする。

最初に見た時は、なんでこれで事件になってしまったんだ・・・という印象すら抱いた事件だったが、争われているサイトでの商標の使い方をよくよく見ると、逆にこの結論で良いのだろうか・・・という疑問も浮かび上がってくる事件である。

大阪地判令和4年9月12日(令和3年(ワ)6974号)*1

原告:株式会社トーリン
被告:株式会社エス・エム・エス

原告は「セレモニートーリン」の名称で葬儀場を運営する会社。
被告はインターネットを活用した情報提供サービス業等を目的とする株式会社であり、「安心葬儀」という名称のウェブサイト上で、「葬儀希望者が選択した地域に応じて、その条件に見合った葬儀社ないし葬儀場(以下「葬儀社等」という。)を一覧表示して情報提供することにより、葬儀希望者と葬儀社等とのマッチング支援を行うサービス(以下「被告役務」という。)」を提供していることが、前提事実として認定されている。

本件では、被告が、本件ウェブページを表示するためのhtmlファイルのタイトルタグ及び記述メタタグに原告の登録商標である「セレモニートーリン」を含む記載をすることで、検索サイト(Yahoo!)で「セレモニートーリン」とキーワード検索した際の検索結果等に(本件ウェブページに関する検索結果として)原告登録商標と同一の標章を含む内容を表示させる等したことに原告の商標権の効力が及ぶかどうかが争点となっており、原告の請求も、

「被告は、そのウェブサイト(https<以下略>。以下「本件ウェブページ」という。)のhtmlファイルの<meta name="description" content=">及び<title>から、別紙被告標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を削除せよ。 」(強調筆者)

と、メタタグにおける商標の削除を求めるものとなっている*2

判決文の中で、「前提事実」の項に記載されていることからも明らかなように、ここでは、被告のウェブページのhtmlファイルのタイトルタグ、記述メタタグに「セレモニートーリン」という標章を含む記載がされていること自体は争われていない。

ただ、被告自身は、単なる情報提供サービス事業者であって、葬儀会館の運営等の葬儀業自体を行っているわけではないこと、そして、今の時代、グルメの世界から病院、はたまた法律事務所の紹介に至るまで、似たようなサイトが至るところにあふれていることを考えると、被告が原告のサービスを紹介する目的でメタタグ等に原告商標を含めたからといってそれを商標権侵害だといって争うのはちょっとどうかな・・・というのが、自分の最初の感覚だった。

ところが、判決文にも添付されている実際のメタタグの記載や、「セレモニートーリン」で検索して出てくる被告ウェブサイトのページを見ると、そこまで単純な話でもないように思えてくる。

まず、記述メタタグの記載は、以下のようなもの。

(判決PDF・別紙2、強調筆者)

「セレモニートーリン」の紹介ページであることを示すための表示であることは間違いないが、その後に切れ目なく続くのは、紹介先の葬儀社とは必ずしも関係しない被告の葬儀社の見積・紹介サービスの記載。

そしてその構図はウェブページ上でも同じで、紹介先である原告のざっくりとした特徴や地図、情報一覧や口コミレビューの掲載こそあるものの、ページの後ろの方に行くと、被告独自の見積・紹介サービスの案内が始まり、さらに「近くにある他の斎場」大阪府で経験・実績の多い葬儀社」、他の葬儀社の「葬儀事例」等々、原告にしてみれば腹立たしいコンテンツへのリンクが続く*3

こういった状況を踏まえると、以下のような原告の主張にも腹落ちするところは多い。

「原告は、被告が、安心葬儀において、被告役務を提供していることを争うものではないが、少なくとも本件ウェブページにおいては、被告が葬儀希望者と葬儀社等とのマッチング支援をするサービスを提供しているとはいえない。すなわち、被告は、本件ウェブページに本件葬儀場の情報を記載しつつ、一方で、「安心葬儀/葬儀相談コールセンター(無料)<省略>」との記載を際立たせて表示し、葬儀を希望する需要者をして、安心葬儀の電話番号である「<省略>」に架電させ、葬儀の執行をさせようとしているところ、かかる被告の行為は、葬儀を希望する需要者と、本件サービスサイトへの掲載や提携に応じた葬儀場とを直結させ、需要者による葬儀の執行に至るまでの一プロセスを担うものであるから、葬儀の執行を行う葬儀場と同一の業務と評価することができる。 したがって、被告役務は、本件商標権の指定役務である葬儀の執行と同一又は類似である。 」(判決PDF5頁、強調筆者)

もちろん、仮に被告が原告の「競合事業者」に当たると評価されるとしても、被告による原告商標の使用が常に商標権侵害にあたる、ということにはならず、商標の本質的機能とされる出所表示機能が害されず需要者に出所の誤認混同が生じない限り、「商標的使用」に当たらないから違法性は認められない、というのは、商標法に26条1項6号が設けられる以前からこの国に長く定着した法理でもある。

本件訴訟においても、裁判所は、以下のとおり、かなり丁寧な説示で、被告の使用態様が商標法26条1項6号に該当し、原告の商標権の効力が及ばない(結論としては請求棄却)という結論を導いている。

「本件サービスサイトは、その構成において、需要者である葬儀希望者に対し、その条件に見合った葬儀社等の情報提供を行い、また希望者には葬儀の依頼や相談、一括見積を行うことなどを通して、葬儀希望者と葬儀社等とのマッチング支援を行うサービス(被告役務)を提供するものであることが容易に看取できる。 そして、本件ウェブページは、これを単独でみても、そのドメインや本件ウェブページのタイトル部分や末尾の「安心葬儀」等の表示、競合し得る近隣の斎場等の情報も表示されることに加え、本件葬儀場の情報については、ホールの外観、特徴や所在地、アクセス方法、設備情報等の客観的な情報が記載されているにとどまり、これを超えて本件葬儀場の利用を誘引するような記載はみられないこと等の事情からすると、本件ウェブページに接した需要者は、「セレモニートーリン」を、葬儀場を紹介するという本件サービスサイトにおいて紹介される一葬儀社(場)として認識するものであり、原告が本件葬儀場において提供する商品ないし役務に関し、被告がその主体であると認識することはないものというべきである(本件ウェブページを含め、本件サービスサイトの運営者が原告であると認識することがないことも同様である。)。さらに、原告が問題とする本件ウェブページのhtmlファイル中のタイトルタグ及び記述メタタグに記載された内容は、検索サイトYahoo!において「セレモニートーリン」をキーワードとして検索した際の検索結果において基本的に各タグに記載されたとおり表示されると認めることができるが、その内容は、いずれも本件サービスサイトの名称が明記された見出し及び説明文と相まって、原告の運営するウェブサイトとは異なることが容易に分かるものと評価できる上、一般に、検索サイトの利用者、とりわけ現に葬儀の依頼を検討するような需要者は、検索結果だけを参照するのではなく、検索結果の見出しに貼られたリンクを辿って目的の情報に到達するのが通常であると考えられるところ、需要者がそのように本件ウェブページに遷移した場合には、前記のとおり、被告が運営する本件サービスサイトの一部として本件ウェブページを理解するのであって、やはり、被告標章を本件ウェブページの各タグ内で使用することによって、原告と被告の提供する商品または役務に関し出所の混同が生じることはないというべきである。したがって、被告による被告標章の使用は、商標法26条1項6号の規定により、本件商標権の効力が及ばないというべきである。」(判決PDF10~11頁、強調筆者)

確かに、被告のウェブページにおける原告斎場の記載は、”勝手情報提供サイト”特有の薄い記述にとどまっているから、原告自身が運営する「公式」ページと見比べれば、到底似ても似つかぬものであることは間違いなく、この点、「被告は、本件ウェブページの見出しやその説明文において被告標章を表示させ、需要者をして本件ウェブページにアクセスするよう誘引し、本件ウェブページにおいて本件葬儀場の建物の写真や情報を表示させることで、需要者をして、本件ウェブページが原告ないし本件葬儀場のウェブページであると誤認させ、出所の混同を生じさせている。 」(判決PDF6~7頁)という原告の主張にも、いささか無理があることは否定できない。

だが、Googleで検索すれば「公式」サイトの次に登場し、Yahoo!検索だとゴチャゴチャした広告の後に「公式」サイトとフラットに並ぶような形で見出しが登場するのが被告運営のウェブページだけに、「公式」サイトを見ることなく、そこにいきなり飛び込んでくる閲覧者も決して少なくないのでは? というのが自分の印象で、加えて、日頃からこの手のサイトに馴染みがない閲覧者も決して少なくないことを考えると*4、「原告の運営するウェブサイトとは異なることが容易に分かる」とまで言い切ることは躊躇せざるを得ない。

そして、「セレモニートーリンの近くにある他の斎場」といったような、明らかに当該ページの”主役”とは異なる斎場を紹介していることがわかるリンクならともかく、大阪府の火葬式の葬儀事例」大阪府家族葬の葬儀事例」といった見出しでのリンクや、大きく表示された被告のフリーダイヤルの電話番号は、ともすれば、「セレモニートーリン」を探しに来たはずの需要者を、気付かぬうちに原告とは全く関係ない葬祭場との契約に連れ去ってしまう可能性も十分秘めているように思える。

裁判所は、原告の主張に応答する形で、被告ウェブページの”自社サービスへの巧妙な誘導”の違法性も否定している*5

「原告の主張は、要するに、原告を紹介する本件ウェブページに被告の電話番号等が表示されることにより、原告が、その潜在的需要を失う不利益を被っていることをいうものと解されるが、そのような結果が仮に生じているとしても、前記認定に係る本件サービスサイトの性質及び本件ウェブページの記載(なお、反対にこれを参照して原告に依頼する需要者も在り得ると考えられる。)からすると自由競争の範囲内のものというべきである。原告の前記主張は採用の限りでない。 」(判決PDF11~12頁、強調筆者)

だが、「Yahoo!ロコ」のような単純なエリア紹介ページとは明らかに異なる、特定の事業者への検索ニーズを利用した商業サイトを、常に「自由競争の範囲内」と言い切れる自信は自分にはない

冒頭でもふれたとおり、この種の(勝手)情報提供サイト、口コミサイト、比較サイトの類は、あらゆる分野でネット上にあふれており、そこでは、紹介する施設等の名称その他の標章を使うことも当然のように行われている*6から、それがいちいち商標権侵害で争われるようなことになったら大変、という価値判断はどこかで働いたのかもしれない*7

ただ、一般論としてはそれで良くても、個々のサイトを細かく見ていけば、どこかで「地雷」が爆発する可能性はあるし、特に他人のビジネスを取り込んで、自分たちが独自のビジネスを展開しているような場合はなおさら注意を要する場面も出てくるのではないかな、と思った次第。

本件が高裁まで争われるのかどうかは分からないが、過去に当ブログで取り上げた「商標的使用が争われた事例」と同様、本件も商標の機能について考える上での好素材だと思われるだけに、今回の地裁判決の結論だけを過度に一般化することなく、今一度冷静に世の使われ方を眺めてみることとしたい。

*1:第26民事部・ 松阿彌隆裁判長、 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/411/091411_hanrei.pdf

*2:この他に損害賠償請求として540万円の支払いを請求している。

*3:本件で争われたものと思われる、セレモニートーリン(大阪府)の斎場詳細 | 安心葬儀のウェブページ参照。

*4:特に「葬儀場」でネットを検索する人々の世代層を考慮すればなおさらである。

*5:なお、正面から判示しているわけではないが、ここで「自由競争」というフレーズを持ち出していることから、裁判所も被告のウェブサイトが原告の事業と競合関係に立ち得るものであることは否定していないのではないかと思われる。

*6:中には、掲載先と広告宣伝に関する契約を交わした上で、商標使用も含めた許諾を取り付けて掲載しているサイトもあるだろうが、純粋な数で言えば、無許諾で掲載しているもののほうが圧倒的に多いようにも見受けられる。

*7:判決PDFの記載を見る限り、本件では原告側に訴訟代理人がいないようなので、なおさら裁判所も「ネットの常識」側に傾いた可能性はある。

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