新型コロナ禍はようやく終息に向かいつつあるものの、欧州の戦火は止まず、この2年の間の「経済対策」とサプライチェーンの歪みが世界的なインフレを招き・・・と、依然として落ち着かないのが各国の金融、株式市場。
そして、まさにその犠牲、とも言えるような話が、今週の日経紙で報じられている。
「東京証券取引所が「プライム」「スタンダード」「グロース」の3区分に市場を再編した4月4日から半年が経過した。焦点となってきたのが上場基準を満たさぬまま経過措置として新市場に上場した549社の「暫定組」だ。企業価値向上の取り組みを進め、うち約1割が基準を超えた。暫定組全体は6割が時価総額を減らしており、投資家の目はなお厳しい。」
「4月時点で、基準を満たさないままの企業は3市場で549社あった。東証によると9月末までに、うち約1割にあたる65社が基準を超えた。」
(日本経済新聞2022年10月4日付朝刊・第3面)
「東京証券取引所は7日、東証株価指数(TOPIX)の算出方法を見直して493社の構成比率を引き下げると発表した。TOPIXを構成する旧東証1部上場の2168社のうち2割強が対象になる。流通時価総額が100億円を下回った企業で、プライム市場は205社、スタンダード市場は288社。対象企業はTOPIX運用の資金流入が減り、株価の下押し要因になる。」(日本経済新聞2022年10月8日付朝刊・第7面、以上強調筆者、以下同じ)
まず、昨年からさんざんこのブログでも取り上げている「新市場区分」の話で言うと、4日付の日経紙の記事は間違いではないが、今起きていることを正確に伝えきれているとはいえない。
基準をクリアした会社が一定数あるのは事実*1、計画書を更新した会社の多くで流通時価総額が減少しているのも事実だが、それ以上に今問題になっているのは、
「21年6月末の段階では基準をクリアしていたのに、この一年の相場低迷で基準を割り込んでしまった会社が出てきている」
という事態だからだ。
既にこれまでに「基準不適合」を新たに公表した会社だけ見ても、プライムで12社、スタンダードで9社、グロースで3社。
目下の相場の低迷状況を考慮すれば、これから9月、12月・・・と決算期を迎えるたびに、新たに「計画書」の公表を余儀なくされる会社が出てくることは疑いようがないし、来年の3月期を迎えたときにどうなるか、ということは容易に想像がつく。
それでもプライム上場会社であれば、恥を忍んでスタンダード市場に鞍替えすればよいだけの話だが、スタンダード市場の上場企業で基準をクリアできない、となれば、あとはどこかにTOBしてもらうなり、MBOで自ら退場するなり、といった出口を探すほかなくなってしまう。
永遠に続く市況低迷はない。
楽観的なシナリオの下、世界中のお金のめぐりが良くなって、相場が活況を呈するようになれば、今決して少なくない会社が抱えている「基準適合」に向けられた悩みもいつしか雲散霧消するのかもしれない。
ただ、問題なのは、そういった自らではコントロールできない相場環境による株価の上下動、という事態に、企業経営者が一喜一憂しなければならないことではないかと自分は思っている。
机上でしかものを考えない学者の視点でみれば、「良い経営をして資本効率を向上させ、利益率を引き上げれば自然に株価は上がる」ということになるのかもしれないし、自ら事業を営まない証券業界関係者も同じことを言うのかもしれないが、長く投資をしていれば、現実の市場の株価がそんな単純な理屈で動いていないことはよくわかるはずだし、何より、上記のような「教科書的な経営」が常に企業とそのステークホルダーに幸福をもたらすわけではない、ということも数々の歴史が証明している。
オフィシャルな存在に見えて、その内実は一民間機関に過ぎない、というのが「証券取引所」というプラットフォームだから、その上場基準をどう設定しようが自由、といわれてしまえばそれまでなのだが、それでも日本を代表する「市場」として、この国の企業文化をどういう方向にもっていくのか、特に、社会を下支えしている中堅企業の経営者たちに、何を目標に「経営」をさせるべきなのか、ということは、よくよく考えていただきたいな、と思う次第である。