40年以上の歴史を持ち、過去には競馬史に残る名勝負も繰り広げられた「ジャパンカップ」から「国際競走」の香りが消えて久しい。
外国勢の勝利、というと、17年も昔まで遡らないといけなくなったこのレース。
年々高速化する日本の馬場に太刀打ちできなくなった欧州勢からは回避され、他の地域の馬も香港に流れる。
これも、凱旋門賞が日本馬から遠い存在になってしまったのと軌を一にする競馬の世界の「分断」の表れ、と言ってしまえばそれまでなのだが、大人しく他の地域を目指し始めた欧州勢とは異なり、日本の一線級の馬たちが10月にフランスに遠征する傾向はむしろ強まっていたりもするので、結果的にこのジャパンカップでは、海外勢だけではなく、国際レーティングで上位にいる日本の有力馬も揃いにくくなった。
それでも、ここ数年は、アーモンドアイ、コントレイル、という千両役者たちが勝っていたし、新型コロナ禍で海外遠征がしづらかった2年前などは、国内組による「オールスター」戦のような様相を呈していたから、本質的な”層の薄さ”が見えづらくなっていたのだが、今年のダービー馬以下、歴戦の勇者たちがロンシャンに勢ぞろいした今年のメンバーは、到底「国内最高額賞金レース」の冠にふさわしいものではなかった。
一応、昨年のダービー馬・シャフリヤールはいるものの、昨年同じレースで力負けの3着、今年も前哨戦の天皇賞・秋で離された5着、ということで、「主役」に推すにはインパクトに欠ける。
そして2番人気が三冠で一度も3着以内に食い込めなかった3歳のダノンベルーガ。3番人気が前走初めて重賞を勝ったばかりのヴェラアズールなのだから、”層の薄さ”は歴然としていた。
個人的には、今年に関しては、凱旋門賞から直行してきたオネスト、グランドグローリーや、ドイツでGⅠ含めて5連勝中のテュネスといった外国勢たちが一泡吹かせるチャンスもあるんじゃないか、と思ったくらいで、それならそれで、このレースが再び「国際競走」として蘇る良いきっかけになったかもしれないのだが・・・。
残念ながら、盛り上がった天皇賞(秋)とは異なり、パンサラッサのような自己主張の強い逃げ馬がいなかったことが、平凡な顔ぶれのこのレースを余計に平凡なものにしてしまったような気がする。
”代役”になるかとひそかに期待していた矢作厩舎のユニコーンライオンは、(逃げはしたものの)終始抑えめのスローペースでの逃げ。
その結果、馬群が向こう正面からコーナー2つを廻って来るまでの間、先頭からしんがりまでかなり詰まった形で進行することになったし、4コーナーに差し掛かった時点で、「これは直線よーいドンの競馬だな」ということを予感させるような状況にもなっていた。
だから、そこからは高速馬場での最後の決め脚勝負で圧倒的に「地の利」がある日本勢の独壇場。
上位4頭中3頭が上がり33秒台、という展開では外国勢たちが付け入る隙など、どこにもなかった。
逆に鞍上に関しては、馬群を捌くテクニックでは一枚も二枚も上の短期免許の外国人騎手たちにとって絶好の舞台。
先に抜け出したダノンベルーガ&川田騎手が、最後の直線で寄せられて大失速する、という後味の悪さ*1もあったものの、それも含めて「直線の攻防」である。
結果、一瞬の間隙を縫って進出したムーア騎手のヴェラアズールが優勝、C・デムーロ騎手のシャフリヤールが2着に食い込み、3着はレーン騎手のヴェルトライゼンテ、4着のデアリングタクト(マーカンド騎手)まで短期免許勢で、これで日本所属の騎手たちは3週連続、GⅠ優勝騎手の栄誉を短期免許勢にさらわれる、という屈辱を味わうことになってしまった。
今年の初戦は、まだダートの2勝クラスにいた1口4万円のエイシンフラッシュ産駒が、賞金4億円をかっさらっていく、というのは、それはそれで一つのロマンだから、結果についてあれこれ言うのはやめておく。
ただ、広い東京コースらしからぬ最後の直線のごちゃつきを見ると、「キセキ」が引退してしまったことの重さを感じざるを得なかったのもまた事実なわけで、せめて来年はパンサラッサを出走させてでも、「日本の国際レース」らしい趣を取り戻してほしいものだな、と思ってしまった、ということは正直に白状しておきたい。この歴史あるレースが、これ以上国内外からスルーされる存在にならないように・・・。