いつかは来る日だと分かってはいても。

自分にとっては、あまりに唐突に訪れたニュースだった。

日本中央競馬会JRA)は8日、2023年度の新規調教師試験の合格者を発表し、日本ダービー(G1)で3勝を挙げた福永祐一騎手(栗東・フリー)など7人が合格した。46歳の福永は来年2月いっぱいで騎手を引退する。」(日本経済新聞2022年12月9日付朝刊・35面、強調筆者)

今の中央競馬界は、53歳になってもなお現役第一線で引っ張る武豊騎手の存在が時空を歪めているところがあり、それにつられてか、1期上の横山典弘騎手から、御年56歳・最高齢記録更新モードに入っている柴田善臣騎手や、いつまでも”若手”のイメージが抜けない田中勝春騎手等々、前世紀からしのぎを削ってきた騎手たちが50歳代になってもなお現役で頑張っている、という状況だから*1、まだ40歳代、しかも自分がデビューから見始めたほぼ最初の世代でもある福永騎手が調教師転向、引退、というのは、どうしても早すぎるのでは?という錯覚に陥ってしまう。

だが、冷静に思い返せば、かつて関西騎手会長を務め、伝説の天覧競馬(ヘヴンリーロマンスが勝った天皇賞・秋)の頃には既にベテランの風格すら漂わせていた松永幹夫(現)調教師が騎手を引退したのは38歳の時、今や「大和、大河兄弟の父」としての方が有名かもしれない角田晃一(現)調教師も39歳の時には引退している。

最近では、四位洋文騎手や蛯名正義騎手が、40歳代後半~50歳代で引退して調教師に転向した例があるとはいえ、本来は、岡部幸雄騎手のような「超越したベテラン&生涯騎手」を除けば、プロ野球選手と同様に、40歳の声を聞く頃には引退して、新たなステージで活躍する、というのが、この世界でも普通だった。

そう考えると、福永騎手の引退も決して「早い」とは言えないし、開業してから調教師定年まで20年ちょっと、という限られた期間で結果を出す、というミッションは、かなり厳しいことのようにも思える。

福永騎手の中央での通算成績は、既に2613勝。蛯名騎手を抜いて歴代4位に付けている。

技術の拙さや勝負弱さを指摘され、「単にいい馬に乗せてもらっているだけ」と一部で揶揄されていたのも、とうに昔の話。

特に、40歳を超えてからは、何かをつかんだかのように大舞台で勝ち続け、過去5年で3度(20年、21年は2年連続)のダービー制覇を成し遂げたかと思えば、昨年は異なる馬でGⅠ年間4勝。今年もフェブラリーSに、クラシック一冠目のジオグリフで、GⅠタイトルを掴んでいる。

現時点でもリーディングトップ10に入り、年間100勝に迫る勢いで勝ち星を重ねていることを考えれば、このまま現役を続けて岡部幸雄横山典弘といったレジェンドたちの数字を抜き、少なくとも「武豊に次ぐ騎手」としては競馬史に名を刻むこともできたはずだ。

にもかかわらず、何が福永騎手を違う方向に向かわせたのか・・・。

JRAの公式ウェブサイトには、他の試験合格者と並んで、「令和5年度新規調教師 福永祐一」の志望動機と目標、コメントが掲載されている。
https://www.jra.go.jp/news/202212/pdf/120803_04.pdf

他の試験合格者と比べても一味違う「動機」は、既に報道でも使われているし、これだけでも十分思いは伝わってくる。

ただ、本当にこれだけが全てなのか?ということについては、自分には半信半疑なところもあって、この先、ポロポロと出てくるかもしれないこぼれ話は聞いておきたいな、というのが一つ。そして、今年福永騎手に託された600近い騎乗依頼が、この先、誰の元にチャンスとして回っていくのか、という点は、少し注意深く見守ってみたいと思っているところである。

*1:さらに負傷で長期療養中の熊沢重文騎手もいるし、地方からの移籍組である内田博幸小牧太といった大物騎手たちも的場文男騎手が現役であり続ける限りは・・・といわんばかりにローカル参戦も厭わず奮闘を続けている。

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