遂に歴史は動いた、のか?

年末の”いじりネタ”として定着して久しい日経新聞「企業法務税務・弁護士調査」

昨年は企画の名称が変わって仕切り直し、となったものの、中村直人弁護士が「企業が選ぶ弁護士ランキング」の首位、という予定調和的結末に変わりはなく、長年の一ファンとしては大いに安堵したものだった*1

だが今年、そんな「企業法務全般(会社法)」のカテゴリーで遂に大きな順位変動が起きた。

日本経済新聞は19日、2022年の企業法務税務・弁護士調査の結果をまとめた。22年に活躍した弁護士を主要企業の法務担当者に聞いたところ、企業法務(会社法)分野で太田洋弁護士が初めて首位になった。」(日本経済新聞2022年12月19日付朝刊・第15面、強調筆者、以下同じ。)

長年、わが国の最大手の事務所で看板弁護士として活躍され、特にここ数年はアクティビストとの戦いで名を上げられていたことを考えると、太田洋弁護士がトップに立った、という結果にも全く違和感はなく、むしろ遅きに失した、と言えるくらいではないかと思う。

ただ、和田アキ子がトリで「あの鐘を~」と歌わなくなってから紅白歌合戦が迷走を深めたように、他にどんなに”旬”なヒトがいても、やっぱり締めるのはこの人でないと・・・というのは、どんな世界でもよくあること。

特にこの企画に関して言えば、「権威あるランキングでトップだから中村直人先生は凄い!」というよりもむしろ、中村直人先生がトップにいるからあのランキングは(いろいろ揶揄されても)まぁある程度信頼はできる」というのが、企業法務界隈の”内側”の素朴な声だったりもしたから、これから果たしてこの企画はどうなってしまうのだろう・・・というのが、現時点での率直な感想である*2

<企業法務全般(会社法)>
1.太田洋(西村あさひ)18票
2.倉橋雄作(中村・角田・松本)13票
3.中村直人(中村・角田・松本)12票
4.柳田一宏(柳田国際)11票
5.野村晋右(野村綜合)10票
5.武井一浩(西村あさひ)10票

なお、今年も昨年同様、企画を2週にまたがってじっくり消化する、という日経紙&電子版の連動企画に乗っかって、エントリーを上げるタイミングを随分と引っ張ってしまったが、その過程で思ったのは、(今に始まったことではないが)企業法務の世界で「分野」を殊更に細分化してランク付けすることに、どれだけの意味があるのかなぁ・・・ということ。

大学での講義や、机上のテスト問題ならともかく、現実に企業法務担当者が直面する問題のほとんどは分野を超えて様々な問題が絡み合っている代物だし、そこでわざわざ”縦割り”にした検討&アウトプットしかなされないのだとすれば、事務所側はともかく、企業側にとってはほとんどメリットがない*3

もちろん、特定の分野で優れた実績を残されている弁護士に光を当てる、という点では一応の意味はあるとしても、それとは別に、分野を超えて「企業法務」の相談をする場合にもっとも頼りになるのは誰か?という観点から「総合」のランキングがあってもよいのではないか、というのが自分の意見である。

前年に引き続き視点を変えたランキングとして行われた、「企業が『頼りがいがあると思う』法律事務所」の部門で、昨年まさかの「トップ3漏れ」だった長島・大野・常松法律事務所が見事に巻き返して首位にたった、というドラマティックな出来事もあれば、「法務に強い企業」改め「法務力が高い企業」の部門で*4「社内弁護士が多い」という自分から見たら何の裏付けにもならない理由*5で票を入れた弁護士がいることに唖然とさせられたり・・・と、今年もいろいろ書きたいネタ、突っ込みたいネタはあったが、その辺は適度に切り上げ、最後は今年も年末に興味深い素材を投下していただいた日経法務面の関係者の皆様に感謝しつつ、本エントリーを終わらせることにしたい。

*1:昨年の状況については、k-houmu-sensi2005.hatenablog.com参照。

*2:もちろん、この先10年、太田洋先生や倉橋先生が新たな”レジェンド”として君臨することになれば、またこの企画にも違う色合いが出てくる、ということになるのだろうが、しばらくは「初めてMISIAが紅白でトリを務めている姿を見た時の違和感」と同じような何か、が胸に残るような気がする。MISIAが本邦屈指の歌い手であることに何ら疑いの余地はないが、それとこれとは・・・という話なのである。

*3:現実には、様々な専門分野の知見を統合して「今、まさに会社がとるべき対応」に的確な解を示すコーディネーター的存在の弁護士がいるからこそ「企業法務」が回っているわけで、それができる弁護士、法律事務所にスポットを当てて初めて「企業法務税務調査」として意義のあるランキングになるのではないか、と自分は思っている。

*4:そもそも「法務力」ってなんじゃい!と日本中の法務担当者が突っ込んだであろうことは容易に想像がつくところだが・・・。

*5:ある程度のレベルまでは、弁護士の数がその会社の「法務」の力につながるところもあるだろうが、一定数を超えてくるとそれに比例して「力」が上がるどころか、むしろ弱める方に働く場合もあるので、これを理由に挙げるのはどうなのかなぁ・・・というのが率直な思いである。

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