日本にいる時から一流の資質を備えた選手だ、ということには気付いていたつもりだったのだけれど・・・。
プレミアリーグのブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンFC所属、三笘薫選手の快進撃が止まらない。
川崎から欧州に渡り、W杯予選では天王山のアウェー・オーストラリア戦で途中出場から2ゴールをたたき込む活躍。ベルギーで実績を積んで無事レンタル元への復帰も果たし、選手としてのキャリアは順風満帆、ただし、世界的な知名度は決して高いとはいえず、”欧州組”が揃う日本代表の中ですら「主役」を張るにはまだまだ、という雰囲気だったのがW杯前の彼だった。
それが、ドイツ戦の途中出場で一気に流れを変えて勝利を手繰り寄せ、スペイン戦では「奇跡の1ミリ」を演出。
クロアチア戦では、疲労で足が止まった日本選手たちの中で延長戦に入っても可能性を感じさせた唯一の選手となった。
そして、大会終わって復帰したところから始まったプレミアリーグでの怒涛の快進撃・・・。
殻を破った選手の進化のスピードほど恐ろしいものはない。
もはや代名詞となった左サイドのドリブル突破は試合を重ねるたびに凄みを増し、さらに新しい才能を引き出していく。
前の週末のFA杯、リバプール戦で見せたフェイントからの美しい決勝ゴールが多くの人々の脳裏に焼き付けられ、観衆の熱い視線と相手チームの徹底したマークが集中した土曜日、ボーンマス戦の試合終了間際に、まさかのヘディングシュートで再び決勝点を奪ったシーンを目撃して、これはもう、とてつもない「確変」が起きていると感じたのは自分だけではあるまい。
ちょうど今週、日本で発売されたNumber誌に、カタールW杯の総括と「4年後」に向けた日本サッカー界の展望を語る特集が組まれていたのだが、そこで表紙を飾っていたのは、同じ「東京五輪世代」でも堂安律選手のほうだった。
確かにあの大舞台での2ゴールは、当時のインパクトとしては絶大なものがあったし、その余韻が残る中で企画を組んだのであれば、堂安選手が「主役」に据えられていたとしても、本来何ら違和感はなかったはず。
だが、今、まさにリアルタイムで起きている現実を眺めながらこの雑誌を開くと、思わず「なんでトップ記事が三笘じゃないんだ?」と感じてしまう、それこそがこの数週間のうちに起きている出来事のインパクトを如実に表している。
涙もろい日本人は、コンディション不良でベンチ入りすらままならなかった東京五輪で最後の最後に見せた意地が今日のこの活躍につながっている、と思うだけで感慨に浸ってしまうのだけれど、当の本人にしてみれば、おそらくまだまだなんてことはない通過点。
このままの勢いでシーズン終了まで走り切ったら、次に待っている世界はビッグ4か、はたまた巨星たちが集うさらなるビッグクラブか。想像はいくらでも膨らんでいく・・・。
サッカー選手の旬は決して長くはない。
同じように欧州に渡って大ブレイクし、プレミアリーグでも看板選手になるはずだった香川真司選手が、紆余曲折を経て13シーズンぶりに大阪に帰ってくる、という報道に接すると、なおさらその感は強くなる。
今は飛ぶ鳥を落とす勢いでも、ひとたび環境が変われば別人のように結果が出なくなり、やがて居場所を失う。
そんな厳しい光景もこれまで散々目撃してきたから、海を渡った選手が活躍すればするほど祈るような気持ちになる。
ただ、一つだけ言えることは、今、三笘選手が放っている輝きは、世界中の、他のどんなビッグクラブの選手たちにも負けも劣りもしない、ということ。そして、この先の結果がどうあれ、この瞬間輝いていた事実は決して消えることはない、ということである。
W杯からすっかり定着したABEMAで毎週末の輝かしい瞬間を目に焼き付けつつ、こんな幸福が一日でも長く続くことを願って、今は声援を送りたい。