筋違いな議論はもういらない。

先の統一地方選前半戦で、まさに「維新」一色に染まった大阪に、とうとうIRの神が舞い降りた。

「IR」といっても、このブログでお馴染みのInvestor Relationsではなく、Integrated Resortのほう。

「日本初のカジノを含む統合型リゾート(IR)が実現に向けて動き出した。政府は14日、2029年の開業を目指す大阪府大阪市の整備計画を認定した。10年開業のシンガポールをモデルに観光消費や民間投資を取り込む。IRを巡る国際競争は激しく、ギャンブル依存症の問題が指摘されるカジノに収益の大半を依存するリスクもある。」(日本経済新聞2023年4月15日付朝刊・第1面、強調筆者、以下同じ)

個人的には、いつまでたっても定着しない「IR」という言葉が耳障りであることを除けば、事柄自体はまぁいいんじゃない、という話である。

↑の記事にもあるとおり、この手の話が出るたびに、「ギャンブル依存症」という言葉が枕詞のように使われるのだが、

パチンコ、パチスロが市中堂々営業している国で、こういう時だけ「依存症」を持ち出すなんて片腹痛し・・・

というのが率直な感想なわけで、一般庶民になけなしの金を使わせる巷のそれと比べれば、全然マシ、というのが正直なところだろう。

加えて、カジノを作れば、運営する会社も誘致した自治体も大概儲かる、という事実も否定するつもりはない。

「大阪では大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)にカジノや国際会議場、高級ホテルなどをつくる。29年秋~冬の開業を目指している。来訪者は年2000万人、年5200億円の売上高を見込む。」(同上)

という皮算用は、いささか盛りすぎている気がしなくもないが、大阪万博が終わった後、広大な敷地を廃墟にしてその維持費に税金をつぎ込むくらいなら、税収を期待できる施設を作る方がよほど賢いと思う。

ただ、これが、純粋な「カジノ推し」の話ではなく、「観光」戦略と結びつけるとなると話は別で、今回の記事にも出てくる以下のような”期待”をそのまま当て込んでしまうと、いずれ目も当てられないことになるのは明々白々。

「大阪IRは成功例とされるシンガポールを参考にする。10年開業の「マリーナベイ・サンズ」と「リゾート・ワールド・セントーサ」はテーマパークや水族館、劇場などを併設。同国の19年の外国人客は約1900万人と10年比で6割程度増えた。IRを軸に国際観光都市の地位を確立した。」


シンガポールは確かに楽しい国だし、自分の中でもプライベートで時間ができたら行きたい国のトップ5には常に入っているが、それは別にカジノがあるから、というわけでは決してなく、かの国の明るい陽射しと、空港から街中までひたすら洗練された景色が旅心を誘うからに他ならない。

マリーナベイ・サンズがシンガポールのアイコン的存在になっていることを疑う余地はないが、それも、それを引き立てる近代的な街並みと南国の華やかさがあるからこそ、違和感なく受け入れられるものになっているのであって、単に凄いカジノ、凄いホテルがある、というだけで存在感を確立しているわけではないのである。

逆に言えば、シンガポールと比べれば遥かに歴史もあり、それゆえに様々な景色と世界が混在するこの日本で、あれだけの存在感を発揮する空間を作るのはそうたやすいことではない。

そして首尾よく2029年頃に皆が夢見た「IR」が完成したとしても、既にブランドを確立した諸外国のそれとの比較で、目の肥えた世界中の人々を引き付けるレベルに達するなんてことは到底期待すべくもないわけで、せいぜい「せっかく大阪に来たからカジノにでも寄ってくか」という人々に訴求できたら御の字、くらいの話だと自分は予想する。

それでも、何もなく、負の遺産として放置されてきた人工島に稼げる施設ができるだけマシ、というのは冒頭で述べた通りだが、それを観光の起爆剤にしようなんてことはゆめゆめ思うなかれ・・・というのが今一番言いたいこと。そして、そんな「IR」の完成まで5年、6年待たなくても、巨額の投資をしなくても、「観光」のために磨ける素材はこの国には無限に埋まっているのだから、くれぐれもこの先の政策の優先順位を間違えないでほしいなぁ、というのが、今の切なる願いである。

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