人口減は「悪」なのか?

ここ数年、年がら年中「少子化対策を・・・」という声が飛び交うのを聞きながらふと思うことがある。

「この国の人々は、いつから人口が減ることをこんなにネガティブにとらえるようになってしまったのだろう」と。

今朝の朝刊の記事も、そんな何だかなぁ、に輪をかけるようなものだった。

「国立社会保障・人口問題研究所は26日、長期的な日本の人口を予測した「将来推計人口」を公表した。2056年に人口が1億人を下回り、59年には日本人の出生数が50万人を割る。人口規模を保てなければ国力は縮みかねない。人口減社会でも経済成長の維持を目指す施策を急ぐ時期にさしかかっている。」(日本経済新聞2023年4月27日付朝刊・第1面)

記事の書き出しはいつものようにセンセーショナルだが、この後に続くグラフを見ると拍子抜けする。

人口が1億人を割るのは今から30年以上も先の「2056年」、さらに50年近く先の2070年になっても8700万人もの人口が残っているとは・・・。

もちろん、この予測を示したのが国立の機関であることからすると、大なり小なり”楽観”が入り込んでいる可能性はあるし、東日本大震災級の自然災害や新型コロナ級の感染症禍がこの先訪れない保証はないから、人口減のピッチがもっと早まる可能性も当然あるとは思う。

だがそれにしても、この狭い国土に今世紀末まで8000万人以上の人々が残る、という想定で”悲観”するなんて・・・というのが自分の率直な感想である。

なぜそんなことを言うかと言えば、自分がかつて興味をもって調べていた1960年代後半という時代が、まさに日本の人口が1億人を超えようか、という時に重なっていて、そして少なくとも当時の新聞各紙の論調には悲観的なものが極めて多かった、ということを記憶しているから。

当時、世にあふれたベビーブーマー世代が大学で過激な闘争を繰り広げ、街中の凶悪犯罪も多かった、という世相も影響していたのだろうが、これ以上人口が増えたら都市部が過密化して住めるところがなくなる、といった話から、環境汚染、食糧危機といった話まで世論は警鐘に満ちていた。

その後、この国の経済が順調に成長し、都市開発も一気に進んだのと歩調を合わせるように、人口増加のペースも落ち世の中が安定したために、自分が生まれた頃には国内で人口増に警鐘を鳴らす声もほとんどなくなっていたようだが、世界を見渡せば、際限なく増える人口が新たな貧困を生むことへの警鐘はずっと鳴らされ続けていた*1

それが今や(滑稽なほど)真逆である。

このような傾向が、経済低迷の原因を人口動態の変化に求めた藻谷浩介氏的思想の浸透によってもたらされたものなのか、はたまた「少子化対策」を商機と捉える勢力の飽くなきロビイングによってもたらされたものなのかは分からないが、いくら何でも極端に振れすぎだろう、と自分は思う。

もちろん、生産年齢人口と「高齢者」層のバランスが崩れることによって生じる痛みはあるだろうし、ありとあらゆる生産活動の現場で今と同じだけの「人手」を求めようとすれば「足りない」という声も当然出てくるだろう。

だが、前者は一時的な歪みを超えれば解消する話で*2、後者は現在既に多くのホワイトカラー職場で人員の「余剰」が生じている現実をあまりに看過しすぎている*3

そして、シンプルに考えれば、この狭い国土が抱えるにしては「1億人」という人口はあまりに多すぎるのだ。

昨今の状況を見れば、人口減=悪、という風潮がやむことは当面ないだろうし、↑のような、都会で暮らす人間が抱くシンプルな感覚が顧みられる日もしばらくは来ないだろう。

ただ、冒頭で取り上げた記事のように「人口」の増減をGDPの数字の増減と並べて論じるのであれば、その前に「一人当たりGDP」の指標も確認しなければフェアな考察とは言えないように思う。

「世界3位の経済大国」といったところで、一人当たりの数字に直せば、フィンランドやベルギー、ニュージーランドにすら及ばず、隣の台湾、韓国とも大差ないところにまで落ち込んでしまうわけで、その状況を変えずして、「人口」にいくらこだわったところで片腹痛し・・・。

ということで、まだまだしばらくは飛び交うだろう雑音に顔をしかめつつ、いつか”常識”で語れるようになる日が来ることを静かに待つことにしたい。

*1:最近は、「一人っ子政策」を取った結果、人口が頭打ちになりつつある中国と、未だ猛烈なペースで人口増が続くインドを比較して、後者を賛美する論調もよく見かけるが、伝統的な人口政策の観点からいえば、(かの政策が強制されていたことの当否はともかく)つい最近まで成功とみられていたのは中国の方で、インドは長らく「失敗」した国、とされていた。

*2:そもそも今の60代、70代の人々の推定余命を考慮すると、現在の政府の推計ほど「高齢者」層が分厚くなることはない、と自分は確信している。戦争の時代を生き延びた今の80代、90代(&それ以上の世代)と、その下の世代とでは、生物としての「生きる力」が明らかに違うのだから・・・。

*3:要は、今顕在化しつつある「人手不足」は、人材リソースの配分の不効率性に起因するのであって、「人口減」と直接関係する話ではない、ということである。仮にこの先、少子化対策が効を奏して人口が増加に転じることがあったとしても、単純労働の現場に人が戻ることは決してないし、その分野での「労働力不足」を補うためには、外国人労働者受け入れ施策をはじめとする別の手立てを講じることが不可欠だと自分は思っている。

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