権利侵害申告も簡単にはできない時代。

昔から同じように提供されているサービスでも、時代が経つにつれて運用がいつのまにか変わっていることもある。

昨年出されたYouTube著作権侵害通知をめぐる損害賠償請求事件の判決*1に接した時もちょっとした衝撃を受けたものだが*2、今度はAmazonのサイトをめぐってより衝撃的な判決に接した。

「アマゾンサイト上で販売されている商品等に知的財産権を侵害する内容が含まれている場合、当該知的財産権の権利所有者が、アマゾンに対し、権利侵害の申告をすることができる。」

という権利侵害申告の運用が争われたこの事件、以下、簡単に紹介しておくことにしたい。

大阪地判令和5年5月11日(令和3年(ワ)11472号)*3

原告:ANSON株式会社
被告:P1

原告は「韓流BANK」の屋号の韓国の芸能人に係る商品等を販売している会社、被告はアマゾンサイト上に開設している仮想店舗において、「P1」の屋号を用いて、韓国の芸能人に係る商品等を販売している者、ということで、判決の中にもパク・ソジュンとかBTSといった固有名詞が出てくるのだが、事は、「被告が、令和3年7月初旬頃、アマゾンに対し、被告サイトの商品ページと原告サイトの商品ページが重複している旨並びに原告サイトにおいて被告サイト上の商品画像、商品名及び商品の説明文が盗用されている旨を申告した」(PDF14頁)ことに端を発している。

被告はアマゾン側に誘導されて侵害通知用のオンラインフォームから何度かに分けて原告サイトを「著作権侵害」として通知、アマゾンもこれに応じて7月17日から10月25日までの101日間原告の出品を停止した。

これに対し、原告は被告に申告の根拠を問い合わせるメールや、取り下げを求める内容証明郵便を送付したが、被告は申告を継続し、その結果、損害を被った原告が不正競争防止法2条1項21号(虚偽告知)ないし不法行為に基づく損害賠償請求を行ったのが本件訴訟、ということになる。

原告と被告はいわば競合事業者であるが、本件以前に何らかの因縁があった、というようなことは判決文には全く出てこない。そして、原告から何を言われても被告がかなり強い姿勢で申告を重ねたところを見ると、原告サイトに掲載されている画像等は一見すると被告サイトのそれに相当似たものであったのだろう、ということが伺える。

そしてより驚くべきは、Amazon側の対応の早さ。前記出品停止期間がそのとおりだとすれば、被告の最初の申告からほどなくして原告は出品停止を余儀なくされているし、その後の被告からの問い合わせへのリアクションも早い。

かつてネットショッピング系プラットフォームの有象無象の出品に、どれだけ対応を依頼してもリアクションの遅さと”塩対応”に苦い思いをさせられてきた者としては、これを見て「時代は変わったなぁ」と思うところはあるし、当時の感覚からすれば、「これだけAmazon側が動くのなら、申告の筋も悪くなかったのだろう」とどうしても思ってしまう。

だが、大阪地裁は以下のとおり、被告の一連の対応を徹底的に断罪した。

まず、被告の「著作権侵害」という申告理由については、

「被告各画像のうち、写真集又は卓上カレンダーに係る画像である被告画像1、2及び4ないし10は、販売する商品がどのようなものかを紹介するために、平面的な商品を、できるだけ忠実に再現することを目的として正面から撮影された商品全体の画像である。被告は、商品の状態が視覚的に伝わるようほぼ真上から撮影し、商品の状態を的確に伝え、需要者の購買意欲を促進するという観点から被告が独自に工夫を凝らしているなどと主張するが、具体的なその工夫の痕跡は看取できない上、撮影の結果として当該各画像に表現されているものは、写真集等という本件各商品の性質や、正確に商品の態様を購入希望者に伝達するという役割に照らして、商品の写真自体(ないしそれ自体は別途著作物である写真集のコンテンツとしての写真)をより忠実に反映・再現したものにすぎない。 」
「単語帳に係る画像である被告画像3は、前記同様に商品をできるだけ忠実に再現することを目的として正面から撮影された商品全体を撮影した平面的な画像2点と、扇型に広げた商品の画像1点を配置したものであり、当該配置・構図・カメラアングル等は同種の商品を紹介する画像としてありふれたものであるといえ、被告独自のものとはいえない。」(PDF18頁、強調筆者、以下同じ)

として、被告各画像の著作物性を否定。さらに商品名や説明文についても著作物性を否定する説示をして被告の申告の法的根拠を完全に否定した。

さらに、被告側の証拠保全&提出が十分ではなかったのか、

「原告が、アマゾンから出品停止の連絡を受けた後、被告に対して2度にわたり原告サイトについて著作権侵害と判断した理由等を尋ねる旨のメールを送信するとともに、原告訴訟代理人に委任の上で本件通知書を送付していること、本件通知書には、原告を含む競業他社が同一商品を独自に撮影した商品写真を使用する場合には被告商標を付さない限り被告の商標権を侵害しない旨記載されていること(略)、少なくとも本件商品2、6及び8ないし10の商品名は原告サイトと被告サイトとで異なること(略)、そのほか原告各画像が被告各画像それ自体であることを的確に示す証拠が存しないこと等の事情に照らせば、原告が原告サイトに掲載していた原告各画像は、被告各画像を盗用したものではなかったと認めるのが相当である。」(PDF19頁)

として、原告が被告の画像を使用していた事実までをも否定し、被告が自らの対応の正当性の根拠としようとした「アマゾンの対応」については、

アマゾンにおいて権利侵害申告がどのように処理されているかは不明であって、前記認定を左右しない。」(PDF20頁)

と ばっさり切り捨てたのである。

かくして、被告の申告行為は不競法2条1項21号に該当する行為とされ、少なくとも過失は認められるとして原告の損害賠償請求権は認められることと相成った。

一連の判示のうち、「画像の著作権侵害」については、「著作物性」をあっさり否定する判断がスタンダードかどうかはともかく、商品写真の場合、被写体の同一性や構図が似ている、というだけでは侵害が肯定されにくいのは確かであり、被告側が「盗用」(デッドコピー)の事実すら立証できなかった本件では、被告側に苦しい展開となったのはやむを得ない面もある。

ただ、だからといって、殊更に明確な”加害意思”が顕出しているわけでもなく、かつ「それにプラットフォーム側が対応した」ことも「出品停止」の事態に大いに寄与している本件において、「申告」=「虚偽告知」として請求があっさり認められるとは・・・。

もちろん不競法2条1項21号該当性は、侵害警告に使った特許が事後的に無効とされたような場合にも認められるものだから、元よりそこまでハードルが高い話ではない、と言えばそれまでなのだが、取引先に対してダイレクトに告知した場合とは異なり、一定の意思をもって判断する(はずの)プラットフォームに対しての告知までこんなに緩く「不正競争行為」と認められてしまうのだとすると、申告の心理的ハードルは相当高くなる。

被告も当然、そういった要素を織り交ぜた反論をしていたようだが、以下のとおり裁判所の受け入れるところとはならなかった。

「被告は、権利行使の一貫として本件各申告を行い、やむを得ず著作権侵害という選択肢を選んだにすぎないこと、著作物性の判断を正確に行った上で申告することが求められるとすれば権利行使を不必要に萎縮させる等と主張するが、被告に本件各商品に関する知的所有権がないことは自明である上、原告からの問合せに対応することなく本件各申告を続けたとの事実関係のもとでは、採用の限りでない。 」(PDF20頁)

原告の請求が認められたといっても、金額としては「5万2492円(+遅延損害金)」という微々たる額にすぎないから(請求は73万4620円)、”萎縮効果”というのは大げさであるようにも思えてしまうが、通常の申告者であれば、相手から逆ギレされて訴訟に持ち込まれること自体に脅えざるを得ない*4

それが良いことなのかどうなのか、プラットフォーマー側の姿勢も変わる中でこの辺のバランスをどの辺に置くべきなのか、等々、いろいろと考えさせられる事件ではあるが、高裁での判断という続きもあることを期待して、ここはひとまず問題提起だけにとどめておくことにしたい*5

*1:阪高判令和4年10月14日、 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/484/091484_hanrei.pdf

*2:感想は以下のエントリーを参照のこと。k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

*3:第26民事部・松阿彌隆裁判長、https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/082/092082_hanrei.pdf

*4:しかも本件では当初の請求額が300万円弱という数字だったようだから、結果的に小さい数字に収まったとはいえ、最初の段階では訴えられた側がかなりのプレッシャーを受けることになる。

*5:なお、商標権侵害に基づく権利侵害申告を行った被告の行為が虚偽告知に該当するとして差し止めと損害賠償が認められた事例として、東京地判令和2年7月10日(COMAX)(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/629/089629_hanrei.pdf)があるが、本件はその事例以上に申告者側での判断が難しかった事例ではなかったのかな、と個人的には思っている。

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