20年ぶりの「マル外」勝利の凱歌と、頭をよぎった「たら、れば」。

気が付けばもう四半世紀を超えて今年が26回目になってしまったNHKマイルカップ

GⅠレースの中では、秋華賞とともに「第1回」から見続けている貴重なレース、ということもあって、このレースが回を重ねるたびに自分も歳をとったものだなぁ・・・と感じるのはいつものこと。

そして、長く見続けていることが勝負の巧さに直結するわけでもない、というのが、この世界のシビアなところでもあり、特にこのレースに関して言えば、未だに第1回のタイキフォーチュンの勝ちっぷりの鮮烈さが脳裏に焼き付いていたり、「マル外ダービー」と呼ばれていた時代の記憶が未だに冷凍保存されていることがかえって裏目に出ることが多く、たまに出走する外国産馬には騙されるし、内国産馬しか出ていないような年だとどこから勝負をかけたらよいのか分からなくなる・・・そんなことを毎年繰り返している。

近年での数少ない成功体験は、朝日杯FS組から指名したケイアイノーテックが豪快に差し切った3年前のレースだったりもするのだが*1、ダノンプレミアム以下、クラシックトライアルまでは「最強」と言われていたあの世代の朝日杯FS組とは異なり、今年の3歳世代の朝日杯組は、まさかのGⅢ戦(ファルコンS)でコケた、大将・グレナディアガーズを筆頭に今ひとつ安定感ないことこの上ない。

それでも皐月賞でステラヴェローチェ(朝日杯2着)が人気薄で3着に飛び込んだよなぁ・・・というのを思い出し、今回本命に指名したのが、浦河産のキズナ産駒、バスラットレオンだった。

今や押しも押されもせぬNo.1トレーナーになった矢作厩舎所属で、鞍上はケイアイノーテック以来のGⅠ勝利を狙う藤岡祐介騎手。

飛びぬけた逃げ馬がいないメンバー構成を考えると、先行してそのまま押し切れるこの馬の粘り強さは魅力的だったし*2、それでいてパドックでの気配もかなり良い、というレポートを聞けば、もう他の選択肢は考えられない・・・

満を持して当てに行った馬券の組み合わせを頭の中で反芻しながら発走を待ち、ゲートが開いたその瞬間までは、実に幸福な時間だった。

だが・・・

その次の瞬間、実況アナウンサーが伝えたのは「落馬」という悲報。

主役となるはずの先導役を失った残りの17頭は、押し出された逃げ切れない逃げ馬、ピクシーナイトを先頭に淡々と隊列を組んで進んでいき、最後の直線で”案の定”もたついたグレナディアガーズを横目に、前方に控えていたソングラインが鋭く抜け出す展開に。

そしてゴール手前、久々の牝馬V&池添騎手大金星か~ と思った瞬間、差してきたのがルメール騎手が操る「マル外」シュネルマイスター・・・。

結果、ハナ差の大逆転劇となり、クロフネ以来、実に20年ぶりの外国産馬優勝」という見出しがネットニュースに踊ることになった。

ドイツ産の「外国産馬」と言っても、生産者名の欄にあるのは「Northern Farm」で馬主もサンデーレーシング

先月発売の優駿80周年記念号には、吉川良氏が書かれた、

この馬の一口馬主*3の方が石和までわざわざ『紙の馬券』を買いに行った、というエピソード

なども載っていたりしたから、どちらかと言えば内国産馬的な雰囲気もある馬なのだが、血統表を埋め尽くすアルファベットを見ると、ああ「マル外」だなぁ・・・としみじみ思う*4

優駿 2021年 05 月号 [雑誌]

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  • 発売日: 2021/04/24
  • メディア: 雑誌

*1:やはり強かった「朝日杯」組。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*2:何といっても、デビューして間もない古川奈穂騎手の手綱で影も踏ませずに逃げ切ってしまった2勝目のレースのインパクトが自分には強く残っていた。

*3:といっても、サンデーレーシングの場合「40分の1」口だから、その辺のクラブとは一口の重みが違うわけだが・・・。

*4:実のところ「マル外」全盛期と言われた20世紀後半から21世紀初頭の時代は、ジャパンマネーが仔馬だけでなく「種牡馬」「繁殖牝馬」まで買いまくっていた時代だったから、「マル外でも血統表にはカタカナ混じり」という馬が結構多くて、これだけきれいな「マル外血統」を見るのは随分久しぶりな気がした。

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WTOがまだ生きている、ということに気付かされたことへの感慨。

昨年、COVID-19の世界的流行が始まって以来くすぶっていた問題が、米国バイデン政権の衝撃的な政策転換によって、今まさに世界的論争へと発展している。

「バイデン米政権は5日、新型コロナウイルスワクチンの国際的な供給を増やすため、特許権の一時放棄を支持すると表明した。ワクチンが足りない途上国が世界貿易機関WTO)で要請していた。製薬会社は反対しており、交渉の先行きは不透明だ。」
「米通商代表部(USTR)のタイ代表は声明で、WTO加盟国がワクチンの特許権を保護する規定を適用除外とする案を支持すると表明した。「コロナのパンデミック(世界的な大流行)という特別な状況では特別な政策が必要だ」と指摘した。」
日本経済新聞2021年5月6日付夕刊・第1面、強調筆者、以下同じ。)

既に多くの識者が指摘しているように、原語の「waiver」を「放棄」と訳してしまうと、本来のニュアンスからはズレてしまうように思われるし*1、医薬品に関してTRIPS協定上の義務をwaiverする、という政策自体は、TRIPS協定ができて間もない20年近く昔から存在する考え方で*2、それ自体はそこまで斬新、というわけではない。

ただ、自分が知る限り、ここ数年、医薬品の保護に関してはTRIPS協定に「上乗せ」する発想はあっても*3、その逆を提唱するような提案はついぞしてこなかった米国がこれを言った、ということは大きいし、それにもかかわらず、予想された製薬会社はもちろんのこと、欧州連合からも反対の声が上がった、というところに状況の複雑さを感じざるを得ない。

今求められているのが、「未だに一部の国・地域で続いているCOVID-19(変異種)の拡大を食い止めるため、いかに迅速にワクチンを世界中に供給するか」という”スピード勝負”のミッションであることを考えると、特許権云々の話をする前に、他にやるべきことがあるんじゃないか?」というのは自分もこのニュースを最初に聞いた時に思ったことで、強制実施権の下で後発薬メーカーにワクチンを作らせる、といった危うい戦略をとるくらいなら、既に開発に成功しているメーカーに積極的な輸出やライセンス供与を促す方が、格段に効果は上がるはず。

”waiver”ルールの適用を激しく主張している国々にしても、それを分かった上で、主要先進国の製薬メーカーに低廉な価格での販売、ライセンス供与を自主的に行わせるための交渉材料としてこれを持ち出しているのだろう*4

とはいえ、これまで、先進国側と新興国側が、それぞれのポジショントークを声高に唱えるだけで、そこから現実的な施策に発展する気配がなかなか見えなかったTRIPS協定の枠組みの下での論争が、米国の政策転換によるバランスのシフトを契機に合理的な施策へと結びついていくのであれば、実に大きな話なわけで、ここしばらく「機能不全」を指摘されて久しかったWTOを舞台にこうした動きが出てくる、ということにも、政権交代を契機とした時代の大きなうねりを感じずにはいられない*5

奇しくも、この話題が世界中で報じられるようになったタイミングで、ファイザーと独ビオンテックがIOCにワクチンをdonateする、というニュースも飛び込んできて、「政治に長けた人たちのやることは違うな・・・」と変なところで感心してしまったのもまた事実ではあるが*6、そういった様々な政治的駆け引きを経て、どういったところでこの話が落ち着くのか・・・。

いずれにしても、今世紀の初めに先人たちが世界中の叡智を集めて作った多国間知財権行使の枠組みが、この人類追い込まれた状況の下で日の目をみようとしていることに敬意を表しつつ、この問題の行方を見守ることとしたい。

*1:経産省の資料などを見ると「一時免除」という訳語が使われており、waiverの前提としてTRIPS協定上の強制実施権発動に伴う諸々の義務があることを考えると、「義務免除」とか「適用除外」という日本語を使う方が正確なのだろうと思われる。

*2:WTO | intellectual property (TRIPS) - Implementation of paragraph 6 of the Doha Declaration on the TRIPS Agreement and public health参照。この2003年8月の理事会決定の内容は、その後のTRIPS協定のAmendmentにも取り込まれている。

*3:同じ民主党オバマ政権下ですら、TPPでアジア新興国相手に米国が激しいバトルを繰り広げたのはまだ記憶に新しいところである。

*4:インドくらいの国になれば、自力でファイザーやモデルナと同レベルの製品を市場に供給することもできるのかもしれないが、それにしても自国だけでの取り組みでは自ずから限界がある。

*5:もちろん、あくまでこれは、これまでも機能してきたTRIPS Agreementの世界での話に過ぎず、WTOが本来果たすべき全ての機能を取り戻せた、ということにはならないのだが・・・。

*6:製薬会社としては、これも自分たちの立場の正当性を全世界にアピールするためのうってつけの材料になると思われ、何とも言えないしたたかさを感じる。こと開催国においては、ちょうど緊急事態宣言の延長や五輪の開催可否をめぐって世論が尖り始めた時期と重なってしまったこともあって、「最悪手」に近いリリースになってしまったところはあるが(これは日本に限った話ではないが、特にこの国では「特権階級」を生み出すかのように見える施策への評判は極めて芳しくない)、製薬会社側にしてみれば、アピールしたい相手は「日本」ではなく、もっと広いところに目を向けているはずだから、このような「寄付」も戦略としては合理的、ということになるのだと思われる。

パブコメは出せなくても、思いはどこかで・・・。

これくらいの歳になってくると、時間が過ぎ行くのもただただ早くなる。

新型コロナ禍下、どこかで見たような光景が繰り返される日々となればなおさらだ。

そんなわけで、パブコメの募集が始まった頃は、「まだまだ締切りは先だから、余裕があれば・・・」なんて思っていたあれこれも、GWの終わりとともにあっけなく期限を迎えようとしている。

特に、↓などは典型で、意見募集期間が3か月近くもあり、所属会でも各団体でも、もろもろ意見をまとめているのを横目で眺めていたにもかかわらず、結局、未だに補足説明に目を通せていなかったりする。

www.moj.go.jp

おそらく出てくる意見は百家争鳴。そうこうしているうちに、IT技術の進化や世の中のリテラシーの変化の方が先に行き、最後にまとまる案は、中間試案段階の原型をとどめないレベルにまで変わってしまう可能性もないではないから、今あれこれ物申す必要もないような気はするのだが、忸怩たる思いも多少はある。

あと、このブログでも取り上げた、「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの一部改訂に係る上場制度の見直しについて(市場区分の再編に係る第三次制度改正事項)」に対するパブコメに関しても言いたいことは山ほどあったのだが、こちらも期間が短かったこともあり、まぁ見送りで・・・。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

ちなみに、東証といえば、この改訂コーポレートガバナンス・コードのパブコメ締切りに先立って、昨年末に公表された「第二次制度改正事項」に対するパブコメ結果が先月末に公表されており、これがなかなか読み物としては面白い。

https://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/nlsgeu0000055nqm-att/nlsgeu000005j2ls.pdf

特に、中堅規模の会社であれば、今どこも気になって仕方がない「上場区分見直し」の話に関しては、

「プライム市場の基準について、現在市場第一部に上場している中小規模の企業に気を使い過ぎではないか。プライム市場には、日本を代表する限られた優良企業だけが上場し、上場維持のためには、大変な努力を続ける必要があり、その株価指数がTOPIXとしなければ、競争力のあるものにならないのではないか。」(4頁、強調筆者、以下同じ)

プライム市場の上場維持基準が緩すぎる。プライム市場に上場できる企業の割合を定め、たとえば流通株式数の上位から30%以内とすれば、上場企業が安穏に過ごすことなく競争し、常に企業努力を重ねていくのではないか。」(4頁)

というマッチョな意見が出ているかと思えば、

上場している企業に対する配慮が見られない。上場企業に対して市場区分の変更説明と理解を求めるためにどのような行動をしているのか。理解は得られているのか。上場維持基準を厳しくした場合に上場廃止になる企業が出ては問題、流通株式数の現行の考え方のままでよいと考える。銀行、保険会社及び事業法人等が株式を保有していても安定的に経営をしているであれば問題ない。それほどまでに海外の投資家に配慮する必要があるのか。」(14~15頁)

少数の所有者によって支配されている会社が上場会社として不適切であると判断すべきではない。先見の明のあるリーダーが支配権を有することが、まさに投資家が求めていることである可能性がある。パッシブ投資の増加などにより、流通株式比率が25%未満の株式をグロース市場に係る指数から除外することは適切な場合があるものの、流通株式比率として25%を求めることや、流通株式の定義見直しによる流動性基準の引き上げは過剰。資本市場へのアクセスを不必要に制限し、東証市場の流動性と幅を狭める。」(10頁)

といった、一部の界隈の人々が「よくぞ言った!」と喝采を挙げそうな正論も混じっていたりする。

「流通株式」の定義が分かりにくいとか、持ち合い先に「純投資」と書かせればクリアできてしまうのはどうなのか、といった指摘はもっともだと思うし、個人的には、既に連結ベースで企業集団が評価されている時代に、「親子上場」はもはや時代錯誤だろう、という思いも強いのだが、一方で、見栄えの良い会社だけを残して「日本市場代表」のように飾り立てるのもなんか違うな・・・という思いもあって、どちらか一方に与するような気分にはなりにくい。

そして何より、東証はどうしたいのか?」ということが、未だによく見えてこないところに、この問題が混迷を極めつつある最大の要因があるような気がする。

「プライム市場の上場維持基準は、多くの機関投資家の投資対象となりうる規模の時価総額流動性)やガバナンスを備える観点から設けている最低限のものであり、プライム市場の上場会社数や割合を限定することを目的とするものではありません。」(4頁)

「もっとも、ご提案のように、流通株式比率を50%超とすることは、特定の支配株主が存在する会社の上場を一切認めないとの考え方をも意味することとなりますが、諸外国の主要な取引所のうちに、そのような上場政策を採用している取引 所は存在しておらず、株式市場を通じた資金調達の機会を我が国の上場会社についてのみ過度に制約することになると考えられます。そのような制限を課すことにつき、現時点で、市場関係者による合意がある状況にはございませんので、ご指摘に基づく対応は見送らせていただきます。」(12頁)

といった回答を見ると、既存の上場企業関係者に配慮しているように見えるが、その一方で、「流通株式」の定義については、マッチョ派の意見を汲む形で、「最近5年間の売買実績があること」という要件を追加、さらに報道等のフィルタを通して、市場区分見直し=”ふるい落とし”であるかのようなアドバルーンを飛ばし続けているのではないか、と疑われるような状況も存在する*1

そして、そんなフラストレーションもある中で、

「今般の市場区分の見直しは、各新市場区分のコンセプトを明確にすることで、上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を支え、投資者から高い支持を得られる魅力的な市場構造を実現することを目的としています。」
各市場区分は、それぞれ独立しており、上下・優劣の関係にないものと整理しております。」(以上34頁)

といった建前論をぶっぱなされると、さすがに引いてしまう・・・。

純粋な投資家目線で言えば、「優良企業の株式」ばかりでは、投資対象として面白みがないのであって、「いつかは化ける(かもしれないし化けないかもしれない)クズ株」銘柄も上場している、きれいに言い換えれば「選択肢がたくさんある」市場の方が圧倒的に魅力的なわけだから、「プライムの基準を満たせないので市場から退場します!」なんて会社が続出する事態は避けられるに越したことはないと思っているし、ゆえに、東証の上記のような建前にかかわらず、

「プライム市場において、ガバナンスや業績には問題がなく、流動性に関する上場維持基準のみに抵触する場合には、改めて上場申請して審査を受けるのではなく、そのままスタンダード市場に移行する制度を設けて頂きたい。」(2頁)

というご意見を圧倒的に支持するし*2、どうせなら、

「プライム、スタンダード、グロースの名称は分かりにくい。一部、二部、三部でよいのではないか。」(34頁)

という意見を採用した上で、毎年各カテゴリーの上位と下位が機械的に入れ替わる「Jリーグ方式」で運用すればよいではないか、と思ったりもするのだが、様々なところで本音と建前が交錯するこの世界で最終的にどういう形で制度が落ち着くのか・・・


ということで、パブコメを書くは難し、読むだけなら楽し」というロビー業界の格言(?)を自分への言い訳としつつ、締め切られてしまったあれこれの結果がまた公表される日を楽しみに待つこととしたい。

*1:この辺の記事のトーンに関しては、報じる側の勝手な解釈によるものである可能性もあるので、取引所サイドばかりを非難するのは合理的な対応とはいえないのかもしれないが。

*2:これに対しては、東証自身も検討を進めていく姿勢を明らかにしている(3頁回答参照)。

現実になりつつある悪夢を目の前に。

これまでと同じように押し寄せてきた波、だがそこに一抹の不安を感じたのは気のせいではなかったのかもしれない。

誰が言ったか「勝負のゴールデンウィーク」。だがそれを超えても一向に収まる気配がない新型コロナ感染症の波は、「変異」という新たな武器を手に入れて、容赦なくこの国に襲い掛かってきているように見える。

あと数日で解除されるはずだった「緊急事態宣言」は、地域をさらに拡大して続行することがほぼ決定的な状況。

ワクチン接種のスピードも一向に上がらないまま、今回はこれまででも一番のレベルで職場内クラスタの発生の報も上がってきている。

世の中には、一年以上経っても未だに「感染判明者数」の数字の見方が分かっていない人がまだそれなりにいるようで、連休中の数字を見て「減ってる」とか「落ち着いてる」などと評価するつぶやきも見かけたが、東京都内では普通の平日の3分の1も行かないような検査数でこれだ、ということを考えると、明日からの数字が東京都で1,000人をコンスタントに超えてくるのはもはや避けられないと自分は思っているし、全国での数字が1月のMAX時超えの8,000人台、さらには1日1万人ペースに乗るのも、おそらく時間の問題だろう。

そうなると思い出すのが一カ月前のちょっとした呟き。

別にこの通りになってほしいと思っていたわけでは決してないが、「2019」という年に起源を持つこのウイルスは、我々が想像しているよりはるかに環境適応力が高く、進化のスピードも速い。

このままいけば、「英国」だ、「インド」だ、と言っている間に 、世界中に”Japanese variant”と高らかに報じられるような変異種が蔓延する日も、そう遠くないうちに訪れる。ああ何たる不名誉・・・。


そんな状況でも依然として「パラレルワールド」は健在で、今日の東証は何がとち狂ったのか日経225が2%近い大幅上昇を記録した。

確かに続々と発表されている各企業の1‐3月期決算は、前年反動もあって見かけだけは軒並み良い数字になっているし、固めの予想が功を奏して上方修正、コスト削減で浮いた利益を時流に乗せて増配、と、景気の良い話が続いている。

月の第1営業日、ということで今日続々と発表された4月の月次を見ても、明らかに「異常値」と言えるような対前年比200%、300%超えの数字が続々と・・・。

もちろん、前々年比で見ればまだ全然取り返せていない、という会社は多いはずだし、これまで調子のよかったスーパー、ドラッグストアといった業種は逆に反動減で、22年2月期、3月期の予想も弱気になっているところがほとんどだったりするのだが、トレンドとしては明らかに上向き。そして緊急事態宣言が出た後も、ほんの一部の業種を除けば、仕事の流れも止まることなく、むしろ加速しているんじゃないか、と思えるような感覚すらある。

だから、金も動くし、人も動く。電車の本数を減らせば人がホームにあふれ、酒類提供しないカフェや定食屋は、お昼時も閉店間際の20時頃になってさえも、空席を探すのが大変なくらいに混みまくる・・・。

だが、今の変異したCOVID-19というウイルスには、そんな不可思議な「共存」すら吹き飛ばすだけの勢いがある。

一番危険なのはこの週末。そしてここからの一週間。

この一年を振り返れば、どの分野の利害関係者にも良い顔をしようとした「八方美人」的な政策が、結果的により多くの業界にダメージを与える、という悪しきスパイラルの繰り返しだったような気がしてならない。

そして、だからこそ、ここからの1,2週間は、権力を行使できる立場にある方々が、たとえ一つ二つどこかの業界が吹っ飛ぼうと、本気で、徹底的に、リスクをかわすためのありったけの手立てを講じてほしい、と思わずにはいられない。

そこまでやって初めて結果的に救われる人、会社、業界・・・というものも必ずあるのだから、外野からのノイズなど気にすることなく、速やかに新たな対応フェーズに移管してほしい、というのが、今の切なる願いである。

その物語には続きがあった。

連休中、ということもあって、見た目の数字は落ち着いたように見える「新型コロナ」だが、多くの医療機関が閉まっている時期ですら全国で4,000人超、重症者数は日々増加の一途を辿っている、ということで、連休明けの宣言解除など望むべくもない状況である。

そもそも、まだ緊急事態宣言真っただ中だった1年前の新規感染者の数字は、全国で100人台、というレベルで、それでもまだ当時は「予断を許さない」というムードが強かったことを考えると、今の足元の状況で緩む・・・なんてことはあり得ないはずなのだが、”感覚のマヒ”というのは実に恐ろしい。

もちろん、何でもかんでも大騒ぎすればよい、という話ではなく、こと株主総会に関して言えば、昨年のような「急に会場が使えなくなった!」という担当者泣かせの話は、今年はほとんど目にせずに済んでいるし*1、外野からの「延期しろ!!」等のプレッシャーも今のところ聞こえてこない。

きちんとした会社なら、招集通知で来場自粛を呼びかけ、ウェブでの中継やハイブリッドバーチャルでの開催を試み、さらに念には念を入れて、会場での厳重警戒態勢を敷く・・・という二重三重の対策を依然として行わないといけない状況ではあるし*2、そのために今まさに2月期決算会社の、そしていよいよ本番が近付く3月期決算会社の総会担当者の方々が汗と涙を流しているところなのは間違いないのだが、それでも昨年を乗り切った経験に加え、逆風が少しでも和らいだことで、一人でも多くの担当者が「昨年よりはマシ」という思いで本番に臨めるのであればそれに越したことはない、と自分は思っている。

だが、そんな中、そうはいっても・・・という会社はあるわけで。

昨年の総会集中日あたりに自分が書いた一つのエントリーがある。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

これは、言うなれば、春先からずっと続いていた「株主総会2020」の締めくくりのようなエントリーだったわけだが、そこでご紹介したのが、天馬株式会社の定時株主総会での一件。

前社長の外国公務員贈賄事件発覚に端を発した現役経営陣と元経営者(かつ大株主)の対立は、定時総会の取締役選任議案をめぐって会社提案、株主提案が乱れ飛ぶ、という事態を招き、会社が提案した8名の取締役候補者のうち次期社長候補者を含む業務執行取締役候補者3名の選任が「否決」される、という結末で幕を下ろすことになった。

他の会社でのケースとは異なり、株主から提案された候補者も誰一人賛成率50%を上回ることができなかったために、選任された業務執行取締役2名のうちのお一人が代表取締役社長となり、全ボードメンバー9名中、独立役員6名(監査等委員以外の取締役が2名、監査等委員の取締役が4名)という重厚な布陣で船出することとなったが*3、これにてひとまず落着、というのが、自分も含め、外野から見ていた者の多くが抱く感想だったのではないだろうか。

しかし、先月、会社が公表した一本のリリースは、「もしかしたら事態はより深刻になっているのでは?」ということすら窺わせるものだった。

2021年4月19日付「指名・報酬委員会からの『監査等委員である取締役候補者に係る答申書』受領に関するお知らせ」というリリース*4

詳細は実際に目を通していただくのが一番だと思うのだが、端的にまとめると、書かれているのは以下のようなことである。

取締役会の諮問機関である指名・報酬委員会が、本年の定時株主総会に上程する取締役候補者について検討し、取締役会に答申した。
・その内容は、監査等委員会から取締役(監査等委員)の候補者とするよう請求のあった候補者3名はいずれも不適切であり代わって別の3名(社内1(現・内部監査部部長)、社外2(他の会社の出身者1名、弁護士1名)の選定を推薦する、というものであった。

取締役会の諮問機関として「任意の指名(報酬)委員会」を設置する、というのは、ここ数年で雪崩を打つように多くの上場会社が取り入れ始めたトレンドであり、この会社でも昨年の11月18日に設置のリリースが出されたばかりだった*5

構成メンバーは、独立社外取締役2名(うち1名は監査等委員、もう1名は監査等委員以外の非業務執行取締役)*6代表取締役社長1名、ということで、過半数が独立社外取締役、さらに委員長もその中から選定する、というルールとすることがプレスリリースには記されており、これも最近の王道パターンに沿ったものといえる。

ただ、いかに様々な会社で制度が取り入れられているとはいっても、監査等委員会が書面で選任議案提出請求を行っていた取締役(監査等委員)候補者を全員「不適切」とし、別の候補者の選任を推薦する、という答申を「指名・報酬委員会」が行った、というのは、おそらく前代未聞のことではなかろうか。

ちょうど、最近ジュリストで連載が始まったばかりの「新・改正会社法セミナー」という企画*7が、冒頭から「監査等委員会設置会社というテーマで激烈に盛り上がっており、「任意の委員会が存する場合の(監査等委員会の)意義」についても、ちょうど取り上げられたばかりだったのだが*8、ここでもさすがに「指名・報酬委員会が監査等委員会の提案権を真っ向から否定したら?」などという、多くの会社にとって非現実的なテーマにまでは言及されていない。

会社側のリリースで「指名・報酬委員会の答申」の内容として書かれている、監査等委員会提案の個々の候補者に関する評価や、それを裏付けるエピソードについては、当否を判断できる材料を全く持ち合わせていない、ということもあり、自分が何らかのコメントすることは難しい。

ただ、そこに書かれていることの多くが昨年の定時株主総会までの様々な動きと密接に関連する出来事であること、そして、その一部は、昨年3月の第三者委員会報告書で描かれていた一部の監査等委員の動きとも整合することを考えると、これも一種の「延長戦」なのだろうな、と思わざるを得ないのが正直なところだったりもする。

そして何より、会社がこの「指名・報酬委員会の答申」の内容を公にしたことで、「監査等委員の独立性」を担保するとされる会社法344条の2の規定との緊張関係が一気に顕在化したことは、紛れもない事実であろう*9

(監査等委員である取締役の選任に関する監査等委員会の同意等)
第三百四十四条の二 取締役は、監査等委員会がある場合において、監査等委員である取締役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査等委員会の同意を得なければならない。
2 監査等委員会は、取締役に対し、監査等委員である取締役の選任を株主総会の目的とすること又は監査等委員である取締役の選任に関する議案を株主総会に提出することを請求することができる。
3 第三百四十一条の規定は、監査等委員である取締役の解任の決議については、適用しない。

現在監査等委員会を構成しているのは社外取締役3名*10で、このうち2名は指名・報酬委員会に「不適切」とされた候補者だから、会社が指名・報酬委員会の答申どおりの取締役(監査等委員)選任議案の総会提出を取締役会で決議しようとしても、その2名が翻意しない限り監査等委員会の「同意」を得ることは難しいだろう。

そうなると、取締役会としては、法廷闘争覚悟で監査等委員会の同意なき選任議案を総会に付議するか*11、あるいは他の策を講じるか、いずれにしても胃がキリキリと痛むような判断とオペレーションをしなければならなくなるわけだが・・・。


この手の話には概して筋書きなどなく、時に思いもつかないような結末になることも稀ではないから、来月の終わりに何がどうなっているか、なんてことを予想することも全く不可能ではあるのだけれど、そうでなくてもコロナ禍の下の売上減で苦戦を強いられているこの会社の方々、特に縁の下でコーポレート周りを支えている方々に思いを寄せるなら、「37.5℃以上の発熱がある株主様」への対応オペレーション上の悩みとか、「総会のウェブ中継で回線が途切れたらどうしよう?」*12なんて悩みは些末なことのようにも思えてくる。

そして、稀少価値のある論点への好奇心より先に、できることならこの「論点」が6月までに雲散霧消して、かの会社の方々が、年に一度の総会を、少しでも前向きに会社の未来図を語れる場にすることができるようになることを、今は願わずにはいられないのである。

*1:これは会場側がやみくもに”ロックダウン”しなくなった、ということもあるし、会社側で予め自衛手段を講じているということも大きいと思われる。

*2:しかも3月期決算会社の場合、本年3月施行の改正会社法に合わせて議案から事業報告まで、記載内容をかなり動かさないといけない状況だったりもする。

*3:昨年の定時株主総会直後のコーポレートガバナンス報告書がhttps://www.tenmacorp.co.jp/dl/?no=1639である。

*4:https://www.tenmacorp.co.jp/dl/?no=1685

*5:「指名・報酬委員会の設置に関するお知らせ」https://www.tenmacorp.co.jp/dl/?no=1658

*6:なお、4月19日付の前記リリースの直後に監査等委員だったメンバー1名が一身上の都合により辞任し、代わって監査等委員以外の独立社外取締役がメンバーに加わることが発表されている。 https://www.tenmacorp.co.jp/dl/?no=1688

*7:司会の藤田友敬教授を筆頭に田中亘教授、松井智予教授という文句なしの研究者が名を連ね、実務界からも、お馴染みの澤口実弁護士に、産業界で長く法改正プロセスにも関与してこられた第一人者、新日鉄(現・日鉄エンジニアリング㈱法務部長)の長谷川顕史氏が加わるというメンバーの豪華さもさることながら、取り上げられている個々のトピックが、実に”かゆいところに手が届く”ものになっている、というのが素晴らしいと個人的には思っている。

*8:ジュリスト1558号53~56頁(なお、Amazon上のタイトルはなぜか「3」月号になっているが、以下のものがこのトピックが掲載されている最新号である)。

ジュリスト 2021年 03 月号 [雑誌]

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*9:なお、前記答申が公表される前日に、元々再任される予定ではなかった監査等委員である取締役1名の一身上の都合で辞任したことも発表されており、この辺も様々な想像が働くところである。

*10:最新のCG報告書(https://www.tenmacorp.co.jp/ir/pdf/20210318.pdf)参照。

*11:監査等委員会の同意なき監査等委員の選任議案を決議した場合の効力がどうなるか、ということを正面から論じた文献等をまだ自分は見つけられていないのだが、一連の背景事情等も踏まえると、決議方法に法令違反あり、として争われることは避けられないように思われる。なお、監査役選任議案に関する会社法343条1項に関して、監査役(の過半数の)同意を欠くとして争われた事例は散見され、それによって決議取消となった事例もあるのだが(東京地判平成24年4月25日など)、多くの事例は監査役選任議案の話以前に総会の招集手続からしてグダグダだったような事案であり、監査役(監査等委員)選任議案だけが法令に違反する、という事例は見つけられていない。

*12:これが「バーチャル出席型総会」のオペレーションとなると、これまた総会自体が飛びかねないリスクを孕むだけに、もしかしたら互角の緊張感を味わうことになるのかもしれないが。

勝負を分けたのは”血の濃さ”か。

ここ2年ほどは、メンバーの薄さが指摘されてきた春の大一番、天皇賞だったが、この一年続いたコロナ禍が「海外遠征」を狭き門にしたこともあってか、今年はずらりと揃った17頭。

先月の大阪杯に比べると少々見劣りするとはいえ、2年前の菊花賞馬・ワールドプレミアを筆頭に*1、カレンブーケドール、アリストテレス、ウインマリリンといった「クラシックあと一歩」組が主役の座を伺い、さらに前走の阪神大賞典で序列を急上昇させたディープボンドが割って入る、というなかなか面白いメンバー構成になっていた。

京都競馬場が長期改修工事の真っただ中で久々の阪神コースでの開催、しかも天気がくるくると変わる状況の中、1番人気に支持されたのは何とディープボンド。

一方、自分は、牝馬にこの条件(芝3200m)はさすがに厳しいか・・・と半信半疑ながらも、昨年から続いている「牝馬こそ最強」の流れを信じてカレンブーケドールに願いを託し、展開を見守った。

北村友一騎手の負傷で急遽坂井騎手に乗り替わったディアスティマがそれなりに速いペースで引っ張り、先行させればとにかくしぶといカレンブーケドールが途中から2番手に浮上、他の有力馬たちも軒並み前に行く中、長く続いた開催と直前まで降っていた雨が荒らした最後の直線で底力勝負、という形になったのだが・・・。

終わってみれば、昨秋から不完全燃焼感のあるレースが続いていたワールドプレミアが、この究極の消耗戦で「待ってました」とばかりに力強く伸び、堂々の優勝。追いかけたディープボンドも、人気を大きく裏切ることなく2着に飛び込む。

そして、直線の半ばくらいまでは、あわや、と思わせるくらいしぶとい粘りを見せていたカレンブーケドールが、アリストテレスの追撃を頭一つ交して3着、という結果に。

かくして、5着のウインマリリンも含めて、1~5着はまさに「格」どおり、という実に順当な結果に収まったのだった。

個人的には、こんな状況の中でも、1~3着を占めたのがここ2年フィエールマンで牙城を守ってきたディープインパクトの血統だった、というのは実に示唆的だと思っていて、昨年コントレイルをあと一歩のところまで追いつめたアリストテレスエピファネイア産駒)ですらその壁は破れなかった、というところにかの血統の圧倒的な底力の違いを見た気がする。

そして、「ディープ」から一世代挟んだキズナ産駒のディープボンドではなく、ディープ直仔のワールドプレミアが勝った、というところに、「血の濃さ」如実に現れていたようにも思うところで・・・。

種牡馬界の勢力図がじわじわと変わりつつある中で、この流れがいつまで続くのかは分からないけれど、まだあと1,2年は、タフな長距離レースになればなるほどディープインパクト産駒・・・という法則で良いのではないか、と思った次第である。

*1:本当は5年前のダービー馬を真っ先に挙げないといけないのかもしれないが、さすがにいけないのかもしれないが、さすがに8歳だと・・・ということで。

覆った結論と、それでもなお残る懸念。

相手方の元社内弁護士が所属していた、というただその一点をもって、他の所属弁護士が当該特許権侵害訴訟の訴訟代理人となることを「排除」した決定が知財高裁から出されたのは昨年の秋のことだった。

そして、自分は当時、この決定を

「企業内弁護士の将来のキャリア展開にも大きな支障を生じさせかねない事例」

というコメントとともに紹介した。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

幸いなことに、先月最高裁が下した決定は、知財高裁の原決定を破棄した上で、抗告人の訴訟行為を排除しなかった東京地裁の原々決定に対する抗告を棄却する、というもので「訴訟行為からの排除」というドラスティックな結論は覆されることになったのだが、一方でニュースでの速報を見た限りでは、今回の決定も原決定に対して抱いた危惧を払拭するようなものではなかったように思われたし*1、その後遅れて最高裁のウェブサイトに公表された決定文に改めて目を通してもその印象は変わらなかった・・・ということで、ここで改めて最高裁決定を眺めつつ考えてみることにしたい。

最二小決令和3年4月14日(令和2年(許)第37号)*2

最高裁は、弁護士職務基本規程57条を引いた上で、高裁決定で認定された事実関係を元に、以下のように述べた。

「基本規程は,日本弁護士連合会が,弁護士の職務に関する倫理と行為規範を明らかにするため,会規として制定したものであるが,基本規程57条に違反する行為そのものを具体的に禁止する法律の規定は見当たらない。民訴法上,弁護士は,委任を受けた事件について,訴訟代理人として訴訟行為をすることが認められている(同法54条1項,55条1項,2項)。したがって,弁護士法25条1号のように,法律により職務を行い得ない事件が規定され,弁護士が訴訟代理人として行う訴訟行為がその規定に違反する場合には,相手方である当事者は,これに異議を述べ,裁判所に対しその行為の排除を求めることができるとはいえ,弁護士が訴訟代理人として行う訴訟行為が日本弁護士連合会の会規である基本規程57条に違反するものにとどまる場合には,その違反は,懲戒の原因となり得ることは別として,当該訴訟行為の効力に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。」
「よって,基本規程57条に違反する訴訟行為については,相手方である当事者は,同条違反を理由として,これに異議を述べ,裁判所に対しその行為の排除を求めることはできないというべきである。」(3頁)

以前のエントリーで当ブログでもコメントしたとおり*3、高裁の決定を覆せるかどうかは、「会規」を根拠に訴訟行為排除の申立てまでできるのか?という論点での攻防にかかっている、というのは自分も思っていたことだし、実際、最高裁はこの点について、実にシンプルに

「会規違反が懲戒原因になることはあっても、(法で認められた)訴訟行為にまで影響を及ぼすものではない」

ということをズバリ言い切っている。

その結果、抗告人側は、代理人を失う、というイレギュラーな事態を回避することができ、基本事件の訴訟代理人の(かつ、本件の抗告代理人でもある)弁護士たちも、万が一原決定がそのまま確定していたら降りかかってきたかもしれない様々なリスクを辛うじて交わすことができた。

とはいえ・・・である。

本決定本文には、最近すっかり”第二小法廷名物”となった草野裁判長の「補足意見」が付されているのだが、そこには、

「本件に関する私の見解は法廷意見記載のとおりであるが,これは○○弁護士*4らがA弁護士(筆者注・相手方の元社内弁護士)の採用を見合わせることなく本件訴訟を受任したことが弁護士の行動として適切であったという判断を含意するものではない。」(4頁)

という評価が記されている。

あくまでここに書かれているのは、「適切だったと言っているわけでない」ということだけで、「不適切だった」とまで明言されているわけではないが、これに続く

ある事件に関して基本規程27条又は28条に該当する弁護士がいる場合において,当該弁護士が所属する共同事務所の他の弁護士はいかなる条件の下で当該事件に関与することを禁止または容認されるのかを,抽象的な規範(プリンシプル)によってではなく,十分に具体的な規則(ルール)によって規律することは日本弁護士連合会に託された喫緊の課題の一つである。」(4頁)

というくだりを読む限り、「A弁護士が基本規程第27条に該当する」ということは、所与の前提とされている、と言わざるを得ないように思われる。

そして、そこからは、「訴訟代理人」とは似て非なる「社内弁護士」という立ち位置への配慮は見えない。

補足意見は、さらに続く以下のような言葉によって締めくくられている。

日本弁護士連合会がこの負託に応え以って弁護士の職務活動の自由と依頼者の弁護士選択の自由に対して過剰な制約を加えることなく弁護士の職務の公正さが確保される体制が構築され,裁判制度に対する国民の信頼が一層確かなものとなることを希求する次第である。」(4頁)

ここまで言われてしまえば、日弁連も何らかの応答はしなければならないように思われるところだが、このセンシティブなテーマに関して「ルール」を具体化しようとすればするほど、「弁護士の職務活動の自由」や「依頼者の弁護士選択の自由」との関係では緊張が生じることは覚悟しなければならないだろう。

そもそも職務基本規程第27条自体、解説に10頁以上の紙幅が割かれている一大論点である上に、第57条は共同事務所における「他の所属弁護士」の話で、特に「移籍」の話が絡んでくるとより難しい判断を強いられることになる、というのは、公式解説でも言及されているとおりである*5

ここに主観的な要件などを入れようものなら、いざ何か起きた時の攻防が泥沼にはまることは避けられないが、外形的な事柄だけで線を引こうとすれば理不尽な制約を受ける者が出てきても不思議ではない。それだけ繊細な話でもあるだけに、安易な線引き論に陥ることなく、「そもそも第27条は、第57条は何を守ろうとしているのか」というところにまで遡って議論が進められることを、筆者自身も”希求”する次第である*6

*1:利益相反の同僚弁護士、裁判から「排除」できず 最高裁: 日本経済新聞日本経済新聞2021年4月16日19時00分配信。

*2:第2小法廷・草野耕一裁判長、https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/257/090257_hanrei.pdf

*3:2020年9月5日付エントリー及びその脚注7(https://k-houmu-sensi2005.hatenablog.com/entry/2020/09/05/233000#f-0d01b381)参照。

*4:最高裁が公開した決定文では、訴訟行為からの排除が争われた弁護士の名前が実名で掲載されていて、もしかしたらそこに最高裁の何らかの「意思」が働いているのかもしれないが、一応、ブログ上では仮名化措置を施しておくことにする。

*5:日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説弁護士職務基本規程第3版』165~169頁。なお、同解説では57条ただし書きの「職務の公正を保ち得る事由」に関し、「一種の規範的要件であるから、一律の基準をもって解釈することは硬直化するおそれがあってかえって適当ではなく、その事由の有無は具体的事案に即して実質的に判断されるべきである。」(169頁)という見解も示されている。

*6:相手方の代理人となることが禁止される理由が、単に「一方しか知り得ない情報を多く持っているから」というだけなのであれば、それは守秘義務の問題ではあっても、重ねて27条で職務を禁止することまで正当化するには弱い気がするし、社内弁護士の場合、社内で知り得たこと全てに職務基本規程第23条の規律を及ぼせるか、ということも議論になり得る、ということは再度申し上げておくことにしたい。

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