「時間」管理よりも、もっと大切なこと。

月曜日からこんな話題かぁ・・・と思いつつ、これがリアルな現実でもあると思うのでひとまずご紹介。

「大企業の残業に罰則付き上限が導入された2019年4月以降も月80時間超の残業をしている人が推計で約300万人に上ることが総務省の調査で分かった。労務管理の徹底でサービス残業があぶり出され、部下の仕事量が減ったしわ寄せで管理職の残業が高止まりしている。今後は画一的に残業を減らすのではなく、生産性の向上で収益を高め、働き手にも還元していく改革が重要になりそうだ。」(日本経済新聞2020年1月20日付朝刊・第1面)

既に大企業で昨年の4月から、新たな労働時間規制が導入されていることは、今さら改めてご紹介するまでもないだろう。

前記記事の中では、あたかも月100時間を超えなければ良い、かのような書き方になっているが、厚生労働省のスタンスはそんなに甘いものではないし*1、一部の”模範的企業”では、それを受けて「残業=悪」のレッテル張りをしてまで若手社員を無理やり会社から追い出している、という話もしばしば耳にするところ。

だが、それはあくまで非管理監督者の話である。

かくいう自分も、前の会社で10年近く管理職を務めていたが、実労働時間としては、法定労働時間を100時間以上オーバーする月がほとんどだった。

もちろん、管理職とはいえ、会社の勤怠管理システム上は、超勤時間が一定時間を超えると一般職と同じラインで入力制限がかかったりするものだから、タイムカードを意図的にひかずに労働時間をみなしで計算させたり、休憩時間を膨らませて入力したり、もちろん土日祝日は”いなかったことにする”等々のテクニックを駆使して、システムを騙しながら乗り切っており、公式の記録としては、多い時でも50時間超くらいに抑えられていたはずだが、万が一に備えて手元に残していたタイムログを見れば、「締め」に入っていた一年前でもまだ90時間超、さらに一年遡ると100~120時間超、という状況が一目瞭然である。


自分の場合、「労働時間をただガムシャラに抑制する」ことが労働者の心身の健康につながるとは全く思っていなかったし、特にここ数年目立っていた、

「昼間の生産性を上げて何が何でも定時で帰れ」

的な押し付けは、かえって働く者を疲弊させ、ストレスを増すだけじゃないか、と常日頃思っていたクチでもあった*2

特にホワイトカラー職場の場合、職場にいる時間の長さ以上に、職場にいる時間にかかってくる「圧」の密度こそが、心身異常を引き起こす決定的な材料だったりするわけで、自分が接した多くの事例も、労働時間だけを見ればそれほど突出しているわけではないが、(本人の能力に照らすと)限られた時間の中でこなすには業務の質・量がちょっと厳しかったかな・・・と思うようなケースが圧倒的に多かったから、連日タクシーで帰宅、という状況になろうが、自分のペースで仕事ができている限りは、心身ともそこまでダメージを受けることはないだろう、と思っていたし、実際そのとおりだったのであるが・・・

*1:「わかりやすい解説」参照。https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf

*2:これももう何度も言っていることではあるが、出さなければいけないアウトプットの質や量が同じなら、2時間残業してでも自分のペースでこなす人の方が、無理やり定時までにこなさなければならなかった人よりも、心身にかかる負荷ははるかに少ない。だから、労働時間上限規制が労働者の保護につながる、と手放しで喜ぶのは凄く危険なことだし、この種の話の裏には「人件費削減」という至上命題を達成しようとする経営側の思惑が常に絡んでいる、ということも看過すべきではないと思う(うがった見方をすれば、様々な手段で正確な労働時間を把握することが容易になり、大企業であればあるほど「残業代を払わない」という手段でコストを抑制することが困難になってきたことが、今般の「強制的残業抑制」法制を陰で後押しした、ともいえる)。

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東西でユタカが魅せた日。

新しい年になってもJRAの勢いは止まらない、というか、CMのノリだけ見ればますます絶好調な感じだし、先週の3日連続の中山・京都での開催に続き、今週からは3場開催、ということでレースの数もやたら多い*1

残念なのは、秋競馬で連戦していた馬たちがつかの間の休養に入っているこの時期に、中山で京都で小倉で、と、これだけ多くのレースを組むと、どうしても出走馬の層が薄くなってしまう、ということ。

特に京都、小倉の3歳1勝クラスの特別戦などは、こぞって少頭数になってしまっていたし、他の条件でも大負けでの連敗中の馬とか、夏以来の復帰戦となる馬くらいしか見当たらない、というレースは結構多かった。

おかげで、そうでなくても当たらない馬券がなおさら当たらない。

久々の出走でも、過去の戦績を見れば連には十分絡めるだろう、と思われた馬が人気をかぶって着外に飛ぶ。その裏で秋から年末にかけて大敗を繰り返していた馬が唐突に勝つ*2

そんなこんなで、打つ手打つ手が全て裏目に出て、個人的にはまぁまぁひどい感じ。

土曜日などは天候も荒れる中(小雪)、中山の障害未勝利戦で先頭を走っていた馬が故障馬の手当て中の係員に激突する、という大事故もあったりして、この「過密」スケジュールに対していろいろと考えさせられるところは多かった。


だが、それでも、明るい話はある。

まずは京都で騎乗していた武豊騎手。

51歳を迎える年になっても、年初からスタートダッシュに見事に成功して、今週も土日で4勝、12勝で全国リーディング3位に付けている、というのは、さすが名人!の一言に尽きるのだが、そんな中、日曜日の京都6レース、芝1800mのメイクデビューで市場取引価格6億2640万円のディープインパクト産駒、アドマイヤビルゴに騎乗して勝利を飾った、というのがまさに今週のハイライトだった。

馬名を見れば一目瞭然の故・近藤利一氏が所有していた馬(今のオーナーは近藤旬子氏)なのだが、前オーナーの逝去からわずか2か月で、因縁を超えて武豊騎手が”アドマイヤ”に再び騎乗する日が巡ってくるとは、当時それを期待するエントリーを書いた*3自分でも、さすがに想像はできなかった。

2着に入ったフラルのオーナーが近藤英子氏、と見る人が見たらドキドキするような展開ながら、久々の「復帰戦」できっちり結果を出すあたりが武豊武豊たるゆえんで、これが通算4140勝目。これからもまだまだやってくれそうだな、と思わせてくれるのは嬉しい限りである。

そして、関東に目を移せば、かつて「東のユタカ」と称されたこともある吉田豊騎手が、これまた日曜メインの京成杯で実に3年ぶりの重賞勝利。

吉田豊騎手は自分と全く同世代だから、”高齢化”が進む騎手の世界でも、数年前からは完全にベテランの域に入っているし、それだけに、2017年の年末に落馬事故で長期離脱を余儀なくされた時には、もう無理かな・・・と率直に思った。

だからこそ、かつて主役を張っていた中山の芝コースで、良血スカイグルーヴを出し抜く一気の差しを決め、新冠町の決して大きくない牧場出身のキズナ産駒で重賞タイトルを奪うとは何とも嬉しい話だったわけで。

戸崎騎手が離脱を余儀なくされ、栗東から移ってきたM・デムーロ騎手もさえない状況が続いていて、藤田菜七子騎手の見習騎手卒業くらいしか明るい話題がなかったのが関東勢の状況だっただけに、これが一つの起爆剤となることを願ってやまない*4

*1:しかも土日で重賞3レース、となかなかの大盤振る舞いである。

*2:これが見逃していた新星ならまだありがたく拝むのだが、勝ちタイム的にも展開的にも、ラジオ解説のコメントを聞いても、次走以降活躍しそうな気配はとんとないのでがっかりしか生まれない。

*3:k-houmu-sensi2005.hatenablog.com参照。

*4:土曜日の愛知杯を53歳の柴田善臣騎手がデンコウアンジュで制した、というのも嬉しいニュースで、ノーザンファーム勢の牙城を崩すとこういうドラマも生まれるのだ、ということを改めて知ったエピソードでもあった。

「違法ダウンロード」規制拡大議論の終着点?

昨年からずっとモヤモヤした状態が続いていた「侵害コンテンツのダウンロード違法化」をめぐる問題だが、ちょっと目を離している隙に、どうやら検討会の報告書がまとまったようである*1

文化庁は16日、漫画などを海賊版と知りながらダウンロードする行為を違法とする著作権法改正に関する検討会の報告書をまとめた。スマートフォンの「スクリーンショット」(画面保存)への写り込みや、数十ページの漫画の1コマなど、軽微なダウンロードは違法としない方針を柱とする。海賊版サイトに誘導する「リーチサイト」を規制する方針も盛り込んだ。」(日本経済新聞2020年1月17日付朝刊・第36面、強調筆者、以下同じ。)

で、この記事を見て、ほうほうと思い、昨年から開催されている「侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会」のページに飛び、文化庁のプレスリリースも一通り眺めたのだが、そこには、まだ報告書の確定版は掲載されていなかった。

ただ、検討会の第3回では、「案」として、「「侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会」における議論のまとめ(案)」という資料が掲載されているので、それを眺めてみる。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/shingaikontentsu/03/pdf/91979301_01.pdf

「昨年2月時点の当初案に、少なくとも下記の3点の措置を追加的に講ずることについて、条文イメージ(別紙2:15~18 ページ)を含めて了承された。」
(1)改正案の附則に、普及啓発・教育等や刑事罰に関する運用上の配慮、施行状況のフォローアップについての規定を追加すること
(2)写り込みに関する権利制限規定(第 30 条の2)を拡充することで、スクリーンショットを行う際に違法画像等が入り込むことを違法化しないこと
(3)数十ページで構成される漫画の1コマなど、「軽微なもの」のダウンロードを違法化しないこと(判断基準・具体例は、別紙3(21 ページ)を参照)
(以上1頁)

これに関連して、以下のような判断基準の具体例や条文イメージも示されている。

例えば、キモとなる著作権法30条に関しては以下のような感じ。

(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
一・二 (略)
著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。次号において同じ。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画(以下この条において「特定侵害録音録画」という。)を、特定侵害録音録画であることを知りながら行う場合
著作権(第二十八条に規定する権利(翻案により創作された二次的著作物に係るものに限る。)を除く。)を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。以下この号において同じ。)(当該著作権に係る著作物のうち当該複製がされる部分の占める割合、当該部分が自動公衆送信される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものを除く。以下この号及び次項において「特定侵害複製」という。)を、特定侵害複製であることを知りながら行う場合
2 前項第三号及び第四号の規定は、特定侵害録音録画又は特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行う場合を含むものと解釈してはならない。
(17頁、19頁参照)

また、「軽微なもの」の基準・具体例として、「これら以外にも該当するものはあり得る」という留保の下、以下のようなものが示されている。

1.「分量」による基準・典型例(全般)
その著作物全体の分量から見て、ダウンロードされる分量がごく小部分である場合には、「軽微なもの」と認められる。
<「軽微なもの」の典型例>
・ 数十ページで構成される漫画の1コマ~数コマのダウンロード
・ 長文で構成される論文や新聞記事などの1行~数行のダウンロード
・ 数百ページで構成される小説の1ページ~数ページのダウンロード
<「軽微なもの」とは言えない例>
・ 漫画の1話の半分程度のダウンロード
・ 4コマ漫画や1コマ漫画の1コマのダウンロード
・ 論文や新聞記事の半分程度のダウンロード
・ 絵画や写真など1枚で作品全体となるもののダウンロード(※2.により「軽微なもの」と認められる場合もあり得る)


2.「画質」による基準・典型例(絵画・イラスト・写真など)
画質が低く、それ自体では鑑賞に堪えないような粗い画像をダウンロードした場合には、「軽微なもの」と認められる。
<「軽微なもの」の典型例>
・ サムネイル画像のダウンロード
<「軽微なもの」とは言えない例>
・ 絵画・イラストなどの鮮明な画像のダウンロード
・ 高画質の写真のダウンロード
(以上21頁)

一度法案化の作業まで終えて、国会提出直前まで行ったものがボツになった、という特殊な経緯ゆえ、だろうが、通常、この種の立法に関する議論において、審議会等で公式に「条文イメージ」が示されることは稀だし、「具体例」にしてもよほどのことがない限り、報告書等に明記されることはないことを考えると、実にサービス精神旺盛だな、というのが一見しての印象である。

また、報告書(案)においては、民事、刑事の両規定に著作権者の利益を不当に害することとなる場合」という要件を付すかどうかについて、以下のような記載がなされている。

「(2)著作権者の利益を不当に害することとなる場合に限定すること(民事・刑事)」については、賛否が大きく分かれており、未だ本検討会としての意見を一つに集約するには至っていない。議論においては、権利者側の立証の困難性及びユーザーの居直り侵害を懸念する意見もあったことを受け、権利者側の立証負担の軽減及びユーザーの居直り防止等の観点から、「著作権者の利益を不当に害しない場合を除く」や「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別の事情がある場合を除く」と規定してはどうかという折衷的な提案もあった。」(5頁)

前記日経紙の記事によると、結局この部分に関しては「両論併記」という形で収めたようで、最終的には”政治決着”に委ねることになったものと思われるが、これもこの種の審議会の報告書としては極めて異例の対応といえるだろう*2

まぁ、この検討会の第1回で配布された資料*3によれば、意見提出フォームを通じた「ダウンロード違法化」に関する個人意見3,261件のうち「反対」が3,050件*4となっている一方で、マクロミルを使った一般人向けのアンケートでは、「違法にアップロードされた漫画・書籍・雑誌・論文・プログラム・イラスト・画像等を,それが違法にアップロードされたことが確実だと知りながら,個人が楽しむ目的でダウンロードすることは現行の著作権法に違反する行為でしょうか」という問いに79.7%が「違反する」と回答している状況*5もあるわけで、何が正しい法意識 & 国民感情なのか、ということもなかなか見えてこない状況だけに、混迷を極めるのもやむを得ないところはあるし、それでも文化庁の事務方が苦労に苦労を重ねて話をここまで持ってきた、ということは素直に評価して良いと思うのだけれど・・・。

*1:検討会開始当初の状況については、どうせなら「枝葉」ではない議論を。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。議事録の方は追えていないのでどこまで骨太な議論が展開されたのかは分からないが、一年前の時点で文化庁の審議会が一定の方向性を示していたことを考慮すると、検討会でできることに限界があったという事情も容易に推察できるところである。

*2:個人的には「著作権者の利益を不当に害する」などという要件には、単なる修飾句以上の意味はないと思っていて、露骨な海賊版サイトからのダウンロードであればこの要件があろうがなかろうが違法となることに疑いはないし、逆に微妙なラインの事案であれば、この要件がなくても十分反論が可能となるくらい例外要件が整えられている、というのが今の状況だから、意見が「二分」されるほどのテーマなのか、と言われるとちょっと首を傾げたくもなるところなのだが・・・。

*3:侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会(第1回) | 文化庁参照。

*4:https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/shingaikontentsu/01/pdf/r1422992_06.pdf

*5:https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/shingaikontentsu/01/pdf/r1422992_08.pdf

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あの夏の記憶は、決して遠い日の花火ではないけれど。

歳のせいか、最近、回想エントリばかりで恐縮だが、さすがに自分も反応せざるを得なかったローカルネットニュースの記事がある。

地下鉄東西線早稲田駅前の喫茶店「コーヒーハウス・シャノアール早稲田店」が1月13日、閉店した。」
高田馬場経済新聞2020年1月14日配信記事「早稲田駅前の喫茶店シャノアール」が閉店 31年の歴史に幕、店頭でも惜しむ声」 https://takadanobaba.keizai.biz/headline/335/より)

自分のこの店の記憶は、夏の盛り、海の日の3連休の思い出にリンクしている。 

・・・と書けば、往年の関東地区の受験生だった読者の皆様にはピンと来るはず。

論文試験の1科目目が終わり、2科目目が始まるまでのちょっと長めの休憩時間に、食糧補給とつかの間の一服を兼ねて使っていたのがこの店だった。

試験会場自体は、早大本部キャンパスの奥の方だったから、ここまで来ようと思ったらそれなりに距離があるのだが、何せ、あの試験を受け始めた頃は、昼休みに校舎内の廊下が人であふれ返るくらいのブーム最高潮期だったから、キャンパスの中はどこに行っても同類ばかりだし、正門を出て少々歩いたところでまだ人波は消えない。

だったら、いっそのこと早稲田通りの方まで行ってしまえ、ということで、思い切って飛び出したのは、2度目か3度目の受験の年だっただろうか*1

もちろん、模試の時だとか、他の用事があった時などには1階の書店とともに、時々使ったことのあるカフェだったし、だからこそそこに足を運んだのだが、今あるのは、僅かな時間の中で、午後からの2科目のために気持ちを切り替えることに頭がいっぱいだったなぁ、という記憶のみ。

自分の習性(一度決めたパターンは、よほどのことがないと変えない)で、店に行った時にオーダーしたメニューは、常にトースト&アイスコーヒーだったような気がするし、毎回、周りを見回して、他に同類の受験生がいないことを確認して安堵していた、という記憶も微かに残っていたりするのだが、そこでどういうルーティンをこなしていたか、といった話になってくると、かなりおぼろげな記憶になってしまう。

答練や短答試験の前後のことは今でもそこそこ覚えているのに、あの海の日3連休のイベントに関してだけは、「会場に入ってから一日が終わって帰路につくまで」の記憶が本当に漠然としていて、それだけ無我夢中で立ち向かっていたのだろうし、それだけ熱に冒されていたということなのかもしれない。

受験回数を重ねている間に、合格者数が10分の1になる、という、後にも先にももう二度と経験することはないであろう貴重な洗礼を受けたおかげで、最後の年は、静かな、心温まる雰囲気*2の中で2日間を過ごすことができたのだが、それでも最後の日まで自分はあのカフェを使ったはずだし、そこで頭を切り替えて振り絞った最後の気力が、「あと一歩」を乗り越える幸運にもつながった。

それは、自分が過ごしてきたそこそこ長い人生の中では、ほんのちょっと前、の話でしかなかったはずなのだけど、冒頭のようなニュースに接すると、一気に遠い昔の記憶のようになってしまう*3

そして、「学生時代の思い出」が詰まった利用者とは全く別の世界でこの空間を共有した者だからこそ、”その瞬間”に立ち会えなかったことに、僅かの無念さを感じているのである。

*1:最初の受験の時は、2日間ずっと試験の間はキャンパスの中にいたのだが、周りの受験生の熱に圧倒されて何もできなかった苦い思い出しかなく、だからこそ、解放されたわずかな時間だけでもあの「熱」から離れる、というのが、翌年以降、自分に課していたミッションだった。

*2:とにかく殺伐としていた受験会場は、試験が始まるギリギリまでお子さんをあやしていた女性受験生が、サポートに来たご主人にお子さんを預けて会場に入る姿を皆が優しい目線で見守ったり、最後の科目が終わった直後にどこからともなくお互いを称える拍手が沸き上がったり、という世界に変貌を遂げていた。

*3:そういえば、いつも初日が終わった後に疲れ切った頭で立ち寄っていたカフェも、昨年閉店となってしまったのだった。

早明決勝対決が蘇らせた遠い日の記憶。

昨年のワールドカップの勢いは年が変わっても依然続いているようで、ここ数年特に苦もなく確保できていたトップリーグのチケットも、今シーズンは手に入れるのにかなり苦労する状況になっている。その4年前、W杯直後のトップリーグの試合で空席が目立って大ブーイングが起きていたことを考えると、まさに時代は変わった、というほかない。

そして、その勢いは年が変わっても全く衰えることを知らず、全国大学ラグビー選手権の決勝戦、できたばかりの新国立競技場に押し寄せた観客は実に57,345人。これまでとはスケールの違う舞台で新しい歴史が作られることになった。

物事、うまくいっている時はいろんなめぐり合わせも付いてくるわけで、今年の決勝戦当日にこれだけの観客を集めることができたのは、決勝戦のカードが明大対早大、というオールドファンが泣いて喜ぶ組み合わせになったことも大きかったはず。

平成初期のラグビーブームの時代に、秩父宮を、そして旧国立競技場を、これでもか、というくらいに沸かせた「早明」の対決。

ユニフォームの色からチームのスタイルまで全く対照的な両チームが泥臭くぶつかり合う姿は、浮ついた時代への一種のアンチテーゼのようなところもあったから、久しぶりに両校が選手権の場で対決する姿を、しかも決勝戦という舞台で見ることができる、と知れば、ここもう何年も大学生のラグビーなんて見ていなかった自分でも、やっぱりチャンネルを合わせざるを得なくなる何かが湧いてくる。

前評判が高かった明大が大量リードするような展開だとさすがに見てもな・・・と思っていたのだが、どっこい、試合の方は何と逆に早大が31-0と大量リードして前半を折り返す、という展開に。それで、「お、これはもしかしたら・・・!」と思って慌ててテレビを付けたら、今度は31点差から明大が怒涛の3連続トライ&ゴールで10点差まで詰め寄る、という恐ろしい流れになって、到底試合から目が離せなくなってしまった。

最後は、ほぼノーガードの打ち合いのような展開になって早大がダメ押しのトライ&ゴールを決め、明大も一矢報いて点差を戻したものの、その時点でほぼタイムアップ寸前。それでもなお、最後の反撃をあきらめなかったところがいかにも学生らしかったが、最後はダブルノックオンで強制終了。

早大が見事に学生王者の座に返り咲くことになったのである。

で、試合後、ニュースを聞きながら思ったのは・・・

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「プラットフォームビジネス」構造転換の足音。

いわゆるサービスプラットフォーム型ビジネスを支えてきた「個人事業主」たちを「労働者」として保護しよう、という動きが、昨年くらいから全世界で劇的に広がってきているのだが、年明け早々、本場US西海岸から、ビジネスモデルそのものに影響を与えかねないようなニュースが飛び込んできた。

「米ウーバーテクノロジーズは8日、カリフォルニア州で一部のライドシェアサービスについて料金の前払い制を廃止すると明らかにした。今後は実際の移動距離やかかった時間に基づいて降車時に価格を決定する。ネットを通じて単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」らを保護する州法が1日に施行したのに伴う措置としており、規制の影響が表れ始めた。」
日本経済新聞2020年1月10日付朝刊・第12面、強調筆者、以下同じ。)

以前にもどこかのエントリーで書いたかもしれないが、他の配車アプリと比べた時のUberのメリットは、「予約時に価格が固定されている」という点にあった。

もちろん、どのアプリでも予約する時点で「おおよその料金」は提示されるから、日本で流しのタクシーを捕まえた時のように、降車時に「えー」と叫びたくなるような経験はしなくて済むのだが、ドライバーの側に「幅」の下限に近づけるインセンティブがない以上、Grabなどでは結果的には上限に近い料金になることも多く、そこがちょっと嫌な気分になるポイントでもあった。

だから、最初の料金できっちり確定。あとは乗って目的地に届けてもらうだけ、というUberのシステムは、非常に快適だったのだが・・・。

記事によると、

「ウーバーは自社のサービスを担う運転手について、AB5の下でも従業員には当たらないと主張。前払い制を廃止して運転手らに対する報酬額の透明性を高めるとともに、どの業務を請け負うかを運転手が選びやすくすることで、彼らが独立した事業主であることを訴える狙いとみられる。」(同上)

ということ。

「ギグワーカー」の問題は、生活にも時間にも余裕があって”ボランティア”や”小遣い稼ぎ”で仕事をできる人たちだけが「担い手」だった時代ならともかく、サービスが普及・定着し、それを生活の糧とする層が増えれば増えるほど顕在化することは分かっていた話だから*1、法律までできてしまった以上、何らかの対応をしないといけない、というのは分かる。

だが、その対応の方向性がこれか、と思うと、何とも言えない気持ちになるわけで・・・。

*1:もちろん、一部の新興国では、それでもお金がもらえるだけましという人々がそれなりにいるので、成り立っていたところはあるのだろうが、それでも何年も続けていれば当初想定していなかったアクシデントに直面することもあるし、サービスの要求水準が引き上げられたり、報酬条件が切り下げられたりすれば、当然不満は爆発する。個人的には「ギグワーク」のような形態が成り立つのは、コンサルタントとか士業のような報酬単価が高い層の仕事だけだと思っていて、報酬単価が安い単純労働型の仕事をこのスタイルで請け負わせ続けるのは、”ボランティア”レベルのニッチサービスを除けばほぼ不可能だと考えている。

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「2019年JRA賞」の大波乱が示唆する新時代の幕開け。

いつも年が変わって早々に発表される競馬界の風物詩「JRA賞」。

騎手、調教師部門は、昨年の全開催が終了した時点の成績で有無を言わさず決まるのだが*1、記者投票の結果を見るまで分からないのが、「馬」の部門。

そして今年は蓋を開けてみたら、昨年までとは大きく傾向が変わる結果となった。

年度代表馬、最優秀4歳牝馬 リスグラシュー

昨年(アーモンドアイ)に続く牝馬の受賞。宝塚記念有馬記念の両グランプリレースを制した上に、海外でも豪州コックスプレート制覇をはじめ健闘を続けていたから、この受賞は決して「意外」とまでは言えない。

ただ、過去の年度代表馬が、(GⅠタイトルはともかく)少なくとも3つ、4つは国内重賞のタイトルを持って受賞するケースが多かったことを考えると、国内重賞のタイトルが前記GⅠ2レースだけ、しかも春先の金鯱賞では2着に入って善戦、と評価されていた馬がここでタイトルをとったというのは、何だか不思議な気もする*2

そして、2008年、牝馬として約10年ぶりにウォッカがこのタイトルを受賞して以来、牝馬が「12年間で7度」と牡馬を圧倒している状況にはいろいろ考えさせられるところもある。

一方、ホントにびっくりな結果となったのが以下の部門である。

最優秀2歳牡馬 コントレイル

これまでこの部門はほぼ100%、朝日杯FS馬が受賞していたのだが、ホープフルSのGⅠ昇格3年目にして、遂に定番の公式が崩れた*3レイデオロ、サートゥルナーリアと、クラシック馬も相次いで輩出できるレースになったことが記者の固定観念を打ち崩す結果になった可能性もあるが、次点のサリオス陣営としては脱力感が半端ないだろうな、と思う*4

最優秀3歳牡馬 サートゥルナーリア

このタイトルも、基本的にはダービー馬、あるいは古馬GⅠを制覇した馬、というのがそれまでの定式だったのだが、今年は混戦の末、皐月賞一冠にとどまったサートゥルナーリアが受賞*5

最後に有馬記念で2着に食い込んだとはいえ、香港マイルを制して年間GⅠ2勝のアドマイヤマーズとの比較で、この馬が受賞に値するのかどうか、というのは疑義も残るところだろう。
アドマイヤマーズの場合、国内での負け方があまり良くなかった、という問題はあったし、昨年の最優秀2歳牡馬のタイトルを、僅差でサートゥルナーリアから奪っていたことが今回逆効果になった可能性もあるが、やはりここは「意外」というフレーズが付いてくることは避けられないような気がする。

最優秀3歳牝馬 グランアレグリア

この部門も桜花賞一冠の馬がオークス馬に競り勝って受賞。

確かに桜花賞での勝ち方は圧倒的だったし、年末に阪神カップを勝った勢いも買われたのかもしれないが、三冠レースへの出走はその一度だけ。シーズンの間、休んでいた時期も長かっただけに、”不思議”という感覚はどうしても残る。

最優秀4歳以上牡馬 ウインブライト

もしかすると、今年一番のサプライズはこの馬かもしれない。

何といっても、国内のGⅠ勝利が一つもない馬で、勝った国内重賞は中山金杯中山記念というマイナーなものだけ。その代わりに香港でGⅠ2勝しているから、海外遠征して結果が出せなかった他の馬に比べると受賞に一歩近かった、ということなのかもしれないが、春秋のマイルGⅠ制覇という偉業を成し遂げたにもかかわらず次点となってしまったインディチャンプ陣営としてはいろいろ言いたいこともあるだろう。


・・・ということで、昨年までとはガラリと傾向が異なる結果となった。

雑に総括するならば、これまでのような「このタイトルをとれば部門賞受賞」というしがらみがなくなり、さらに「海外タイトル」の重みがかなりのレベルで重視されるようになったのが今回の結果ともいえる。だとしたら、これこそが、これからJRAと競馬関係者が目指すべき方向を示すもの、といえるような気もしている。

思えば、「牝馬3冠」の価値が素直に評価され、3歳牝馬ジェンティルドンナ年度代表馬に輝いた2012年は、それまで長年下降の一途を辿っていたJRAの売上が15年ぶりにプラスに転じた、という点で、ある種のターニングポイントとなった年でもあった。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

その後、JRAの売上は、それまでの低迷が嘘のように年々増加を続け、2019年まで8年連続で前年比プラスという上昇カーブを描いている*6

だから、自分は、今回の結果も、さらにもう一段上のレベルに向けた起爆剤になることを願ってやまないのである。

*1:2019年は最多勝利、最多賞金の2部門でクリストフ・ルメール騎手が受賞、川田騎手も最高勝率部門で一矢報いて気を吐いた。最優秀障害、最多勝利新人騎手部門から、安田隆行中内田充正矢作芳人の3調教師が仲良くタイトルを分け合った調教師部門まで栗東勢が全てのタイトルを独占した、という極端な”西高東低”となってしまったが、新人からベテランまで、今の東西の勢いの差を考えるとやむを得ない気はする。

*2:最近では、2014年にドバイと有馬記念のタイトルだけで年度代表馬に輝いたジェンティルドンナのケースなどもあったが、彼女には「牝馬三冠」で一度年度代表馬をとっていた、という”格”もあったから、それと比べてもちょっと雰囲気は異なっている。

*3:朝日杯FS勝ち馬のサリオスは77票を獲得したもののコントレイルの197票の前には歯が立たず・・・。

*4:デビュー2戦目で重賞制覇、3戦目で無傷のGⅠ勝利を飾ったコントレイルが逸材であることは間違いないが、サリオスもほぼ同じような過程で無傷の3連勝、GⅠ制覇を成し遂げているから、こんなに差を付けられる馬ではないはず。こうなったら直接対決で来年決着を付けてくれることを願うほかない。

*5:サートゥルナーリアは僅か124票、僅差でアドマイヤマーズが107票で続き、次にダート古馬混合GⅠを制覇したのクリソベリル24票、ダービー馬・ロジャーバローズ15票、菊花賞馬・ワールドプレミア3票、該当馬なし1票、と続いた。

*6:さらにその余波は地方競馬にまで波及し、一度は絶滅寸前と思われたローカル競馬も息を吹き返しつつある。

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