想像していたとおりの展開、とはいえ・・・。

「2019年6月21日」という日は、後々、日本のスポーツ界にとってエポックメイキングな一日として語り継がれることになるんじゃないか、というくらい、画期的な出来事が相次いで起きた日だった。

一つ目は、実質U-23の日本代表がコパ・アメリカウルグアイと引き分けて勝ち点1を獲得したこと。
しかも、試合を支配しスコアでも2度先行する、という互角以上の戦いを見せての結果だったから、刻まれた足跡としては非常に大きかった。

もう一つは、NBAドラフトで、八村塁選手がワシントン・ウィザーズにドラフト1巡目で指名されたこと*1
大学であれだけ活躍すれば、当然そういう評価になるのだろうが、指名したチームが1年目からレギュラーに食い込める可能性が高い弱小ウィザーズだった、ということも、彼のその後の人生にとってはプラスになるはず。

で、ここまでならとてもハッピーな気分で終われるところだったのだが、最後の一つがなんとも微妙な話なわけで。

「女子テニスで世界1位の大坂なおみ(21=日清食品)が、20日に行われたネイチャーバレー・クラシック2回戦で同43位のプティンツェワ(カザフスタン)にストレートで敗れた後、記者会見の出席を拒否した。ツアーを管轄するWTA女子テニス協会)は罰金を科す予定だという。」(日刊スポーツWeb2019年6月21日15時配信)
https://www.nikkansports.com/sports/news/201906210000445.html

曲がりなりにも「世界ランク1位」の地位にいる選手が、ウィンブルドンの前哨戦の大会で格下相手に完敗した、ということ自体がインパクトの大きいニュースだし、それだけ注目が集まっている状況で「会見拒否」という一番やってはいけないことをしてしまった、ということも輪をかけて事態の深刻さをうかがわせる。

日本のメディアは、一度頂点を極めた日本人選手に対して徹底的に優しいから、日本国内では大坂選手に関するネガティブな報道が流れる機会もそんなに多くはないのだが、彼女に関して言えば、サーシャ・バインコーチとの関係を解消した今年2月以降、基本的には下り坂で、あれ以来、WTAツアーではランキング2桁台の選手相手に星を落とし、1大会を除けば良くてQuarterfinalsどまり、という試合を繰り返しているし、全仏オープンでもRound32で敗退の憂き目にあった。

実力拮抗の今の女子テニス界では、上位ランキングの変動も日常茶飯事だから、今、「1位」であり続けることにこだわる必要はない、という指摘はあるし、実際そのとおりなのだろうけど、問題なのは「負け方」が良くないことで、これだけ不安定な戦いを続けていると、ランキング1位どころか、上位シード選手としてのポジションを保つのも正直難しいんじゃないか、と思えてならない。

*1:現地時間では「20日」だが、そういう細かい話は抜きにして・・・。

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すったもんだの末に・・・。~令和元年改正独禁法成立。

さすがに気付いてはいたものの、記事の扱いとしては非常に小さかったし(見出しも含めて雑件欄で僅か8行)、翌日の朝刊でのフォローもなし、と、1年前にまさかの”足踏み”の憂き目を見た割にはあっさりと可決成立してしまった感のある改正独禁法

公正取引委員会の課徴金減免制度を見直す改正独占禁止法が19日午前の参院本会議で全会一致で可決、成立した。談合・カルテルを自主申告した企業への課徴金について、公取委調査への協力度合いに応じて減免幅を拡大する。調査に協力するインセンティブを高め、違反行為の解明につなげる。2020年末の施行を目指す。」(日本経済新聞2019年6月19日付夕刊・第3面)

1年前に法案提出が「見送り」となった際の経緯もあり*1、今回の改正に関しては、いわゆる「弁護士・依頼者間秘匿特権」の観点から注目されている方も多いと思うのだが*2、この記事の書き方を見ても分かるとおり、公取委がオフィシャルなリリース*3の中で「改正法の概要」として紹介しているのは、以下の4点(実質的には3点)だけ。

(1)課徴金減免制度の改正
減免申請による課徴金の減免に加えて,新たに事業者が事件の解明に資する資料の提出等をした場合に,公正取引委員会が課徴金の額を減額する仕組み(調査協力減算制度)を導入するとともに,減額対象事業者数の上限を廃止する。
(2)課徴金の算定方法の見直し
課徴金の算定基礎の追加,算定期間の延長等課徴金の算定方法の見直しを行う。
(3)罰則規定の見直し
検査妨害等の罪に係る法人等に対する罰金の上限額の引上げ等を行う。
(4)その他所要の改正を行う。

「秘匿特権」に関しては、その他の欄に「いわゆる弁護士・依頼者間秘匿特権への対応として,新たな課徴金減免制度をより機能させるとともに,外部の弁護士との相談に係る法的意見等についての秘密を実質的に保護し,適正手続を確保する観点から,改正後の独占禁止法の施行に合わせて,独占禁止法第76条に基づく規則や,指針等を整備することとしている。」と淡々と記載しただけで、その方向性については「別紙2」(「事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の取扱いについて」)のペーパーで一応示されているものの、あくまで「公取委の規則制定権の範囲内で善処します」というレベルの話であることに変わりはない。

もちろん、平成29年4月の「独占禁止法研究会報告書」をはじめ*4、これまで数々の場面で、当局が「秘匿特権」に対して極めて冷淡な対応をしてきたことを考慮すれば、まがりなりにも公取委自身が「秘匿特権」を考慮した運用を正面から認めた、というのは、ただの一歩どころではなく、大きな”進歩”であるのは間違いない*5

ただ、今回の改正全体を見ると、そうでなくても恣意的な要素が入っているように見えがちな手続の中で、課徴金に関する当局の裁量幅をより広げる*6方向での改正をする、ということのインパクトが大きすぎて、運用レベル、かつ、これまで実質的に大した問題は生じていない*7「秘匿特権」でいくら前進したからといって、プラスの効果は実感しづらいのも確かである。

実務の中で、どれだけやり取りをしても当局との見解の溝が埋まらなかった案件を担当した経験がある法務担当者であれば、公取委が作成した概要の資料*8の中で堂々と書いている、「事業者と公正取引委員会が,対立した関係ではなく,同じ方向を向いて協力して独占禁止法違反行為を排除」というフレーズが、どれだけ気持ち悪いものか、ということが実感できるはずだ。

一つの事象でも、それを見る立場、眺める角度によって、頭の中で描かれる「絵」は全く異なるものになる。
だから、それを噛み合わせて、同じ尺度の下できちんと評価できるようにするために、適正な手続の下、双方の主張と証拠に基づいて認定された「事実」の下で、処分の適否が判断される必要があるのに、ここで公取委が言っていることは、「我々が『クロ』と考えたものは、どうあがいても『クロ』なのだから、事業者に残された道は、真相解明のために積極的に協力することだけだ!」ということに等しい。

自分は、改正法が成立した今となっても、上記のような思惑をより強化するような改正は易々と認めるべきではなかったと思っているのであるが、せめて改正法施行後の運用だけでも、「事業者の白旗前提」の安易な方向に流れることがないように、今回「秘匿特権」の導入を押し進めた方々には、(秘匿特権以外の部分での)「防御権強化」のための方策を取り込ませる努力(二の矢、三の矢)を継続していただきたいと思うところである。

*1:当時の経緯については、公取委を足踏みさせた“神風” - 企業法務戦士の雑感参照。

*2:dtk氏のブログでも、その旨言及されていたのでご紹介しておく。最初の一歩? - dtk's blog(71B)

*3:(令和元年6月19日)「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」の成立について:公正取引委員会

*4:当該報告書の「概要」では、次のような整理がなされている。「○ 弁護士とその依頼者との間における一定のコミュニケーションについて,当該依頼者が調査当局に対する開示を拒むこと等ができるという,いわゆる弁護士・依頼者間秘匿特権(以下「秘匿特権」という。)が認められていないことにより,事業者に現実に不利益が発生しているという具体的事実は確認できなかった。○ 一方,今回の見直しにより,課徴金減免制度が拡充された場合には,課徴金減免申請を行うために弁護士に相談するニーズがより高まると考えられるため,新たな課徴金減免制度をより機能させる観点から,公正取引委員会は,運用において,新たな課徴金減免制度の利用に係る弁護士とその依頼者(事業者)との間のコミュニケーションに限定して,実態解明機能を損なわない範囲において,証拠隠滅等の弊害防止措置を併せて整備することを前提に,秘匿特権に配慮することが適当である。○ その場合でも,我が国の現行法体系上秘匿特権が認められていないこと等に十分留意する必要がある。」(強調筆者)https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/apr/170425_1_files/170425_1besshi2-2.pdf

*5:しかも、今回公表された「別紙2」によれば、対象となる場面も、研究会報告書の時点からは若干広がっている(少なくとも「課徴金減免制度の利用」の場面には限られていない)ように思われる。

*6:改正概要の説明を読むと、「減額」方向での裁量しか働かせる余地がなさそうに見えるが、(2)の「算定方法の見直し」のところで、実質的に従来と比較して当局が大幅な「増額」もできるような仕掛けになっているので、ここは十分に警戒する必要がある。

*7:JASRAC事件のように、被審人と弁護士との打合せ内容をわざわざ証拠で出されてしまったり、某ゼネコンの事件のようにわざわざ弁護士とのやり取りを含む法務担当者のパソコンを押収されたりするのは気持ちが悪い、という感情は容易に理解できるところだし、国際的な比較の観点から「海外諸国では認められるのに、日本で認められていないのはおかしい」というドグマティックな理屈も決して無意味だとは思わないのだが(ただし、規範として存在するかどうかはともかく、例に挙げられる海外諸国でどこまで現実に「秘匿特権」が認められているのか? とか、それが認められたことによって結論に差異が生じることがあるのか?といった点まで突っ込まれると、導入推進論者にも弱いところはあると思うが)、これが認められることによって事業者側の防御権が大幅に強化される、ということには決してならない、と自分は思っている。

*8:https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/jun/keitorikikaku/190619besshi1.pdf

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「過去」ではなく「今」を考えるための一冊。

某カネカ社の件をはじめ、世の中では、会社という組織の”闇”を窺わせる話が、時々局地的に出てきたりもするのだけれど、それでも、どちらかといえば美辞麗句で彩られる話の方がまだまだ多い気がして、そんな状況にちょっと辟易しているので、最近世に出た一冊をここでご紹介しておく。

暴君:新左翼・松崎明に支配されたJR秘史

暴君:新左翼・松崎明に支配されたJR秘史

本書の内容自体は、先行著作(小林峻一氏に始まり、西岡研介氏や宗形明氏などの著作)に依拠している部分が多いし、週刊誌等でも時々取り上げられていた内容も多々含まれているので、これまでこの手の話を見聞きしたことのある方にとっては、改めて読む意義は乏しいかもしれない。また、あくまで「主役」になっているのは労働組合側のあれこれなので、いわゆる労務問題に関心が薄ければ、タイトルのおどろおどろしさと合わせて敬遠したくなる方も多いだろう。

ただ、本書の中で描かれている事実*1を、上(統治者の立場)からの俯瞰的な視点ではなく、「会社の中の人」の視点、「その時自分が当事者だったらどう振る舞うか?」という視点で眺めたとき、多少なりとも労働法務に関する心得がある方であれば、本書の著者が意図するところとは全く異なる感想を抱くことになるはずである。

そして、会社の中で一定の経験を積んできた人であれば、2018年春闘での組合側の争議行為予告を機に「起きた」事実として、著者が淡々と記している以下のくだりに関し、「なぜそうなったのか?」を想像することも容易にできるはずだ。

「約4万7000人(2月1日現在)だった組合員数は3か月半後の6月1日には1万4000人まで落ち込んだのである。この間の脱退者数は実に3万3000人に上る(2018年10月末現在、脱退者3万4500人、組合員数1万2500人)。」(本書425頁)
「大量脱退はまず管理部門から始まる。その波は現場にも広がり、現場管理職組合員はもとより若手組合員も相次いで脱退を始めた。全員が脱退した職場も多く、職場は大混乱に陥った。脱退者は最初の一週間足らずで1万人近くに膨れ、以後も急ピッチで増え続ける。」(同432頁)

仮に、これがどんなに滅茶苦茶な組織だったとしても、これだけの規模で”自壊”する、ということは常識的には考えにくい。
そして、そこには、著者自身もおそらく分かった上であえて書いていない何かがあるし、本書にも書かれているとおり、この状況はまだ現在進行形で続いている。

*1:もちろん、ここに書かれている全てが真実である、と証明されているわけではなく、著者がタイトルになっている人物の毀誉褒貶をことさらに強調しようとしたがゆえに、記述にバイアスがかかっている可能性があることは、差し引いておく必要はあるが・・・。

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過剰なまでの「介入」の果てに。

今の政権になってから、経産省がやたら元気よくあちこちに首を突っ込んでくるようになったこともあって、一部の政府機関(特に目立つのは総務省公取委だろうか・・・)が競い合うように存在感のアピールに走るようになったし、官邸は官邸で時々人気取りの「口先介入」をすることもあって、本来であれば「民」の領域を担う事業者の責任において決めなければいけない事業モデルの根幹にまで「公」が介入するケースが目立つ。

昨今やたらあちこちで話題になるコンビニエンスストアフランチャイズモデルに関する問題などはまさにその典型だし、もう一つ例を挙げるなら、昨年の「官製値下げ」発言以降、完全に政治的なイシューになってしまっている携帯電話料金・契約の問題もこの例に含まれる、ということになるだろう。

確かに消費者の目線で見れば、今の携帯電話各社の契約(約款)に、分かりにくく自由度が低い部分があることは間違いないのだが、それはあくまで事業者・消費者間の問題として、消費者庁に委ねるなり、司法的解決に委ねるなりすればよい話で、そこでわざわざ総理官邸サイドから「値下げ」のプレッシャーをかけるのは明らかなお門違いだろう、という怒りのエントリーを上げたのは昨年の夏のことだった*1

しかし、料金体系の変更等で自主的に対応しようとする事業者の努力もむなしく、介入はより深度化し、18日付の夕刊には、とうとうこんな記事まで掲載される事態になってしまった。

総務省は18日、携帯電話料金に関する有識者会議を開き、今秋からの新ルール案をまとめた。2年契約を途中で解約する際の違約金の上限を1000円通信契約とセットの端末値引きを2万円までとする。利用者が携帯会社を乗り換えやすくし、通信と端末それぞれで価格競争を促す。」(日本経済新聞2019年6月18日付夕刊・第1面)

携帯電話通信市場が寡占化している日本の場合、「競争政策」の名の下での介入が正当化されやすいし、かつて携帯大手3社に対して起こされた消費者訴訟でも明らかになったように、どの会社も約款に基づく契約条件として似たようなルールを導入しており、こと「契約条件のレベル」では事業者間の競争があまり機能していなかったことが、より「公」が介入しやすい状況を作ってしまったのは事実だろう。

だが、携帯電話が普及し始めた時代からかれこれ20年以上契約している者からすれば、現在の「2年縛り」のルールにしても、「セット値引き」にしても、合理的な理由はあると思っていて、特に後者は、端末のイニシャルコストを負担する資力がなかった人間(新入社員の頃の自分)にとっては本当にありがたかった。

上記記事にあるようなルールの見直しに踏み込むとなれば、当然、月々の料金にも、端末の初期導入時のコストにも影響が出ることになるだろうが、携帯電話サービスの性質(長期間同じ事業者との契約を継続することによる有形無形のメリットは多い)を考えると、これらの見直しによって直ちに競争促進効果が発揮されるとは到底思えず、結局は、制度見直しによって積まれたコスト分を消費者が負担することになるだけではないか、という気もするところである。

既に述べた通り、約款を用いたBtoCビジネスの場合、契約条件はどうしても”横並び”になりがちだし、サービスが成熟すればするほど、「品質」面で差を付けるのもどうしても難しくなる。したがって、ここまでの介入を招くことになってしまったことについて事業者側にも教訓とすべきところは多々あると思うのだけれど、統制経済下の国家ではないのだから、介入する側にも「民間事業者のサービスへの根幹への介入は例外中の例外」という大原則だけは踏み外してほしくないな、と思うところである。

「雨傘」から5年経ち、奇跡は起きるのか?

ここしばらく続いていた「逃亡犯条例」をめぐる香港の抗議活動だが、自分は、土曜日に林鄭月娥行政長官が会見で改正の「無期限延期」を表明した時点で、一つの区切りが付くだろう、と思っていた。

それが、日曜日になってまさかの展開に・・・。

「香港の民主派団体は16日、「逃亡犯条例」改正案の完全撤回や林鄭月娥行政長官の辞任を求める大規模デモを実施した。主催者は200万人近くが参加したと発表した。前回9日の103万人を大幅に上回り、1997年の中国への返還以降で最大のデモとなった。林鄭氏は15日に改正を延期すると表明したものの撤回には応じず、市民の反発が強まった。林鄭氏は市民に陳謝したが、事態が収束するかは見通せない。」(日本経済新聞2019年6月17日付朝刊・第4面、強調筆者)

Admiraltyエリアの大通りを埋め尽くす人の波を見ると、どうしても5年前の「雨傘」運動がラップしてしまうのだが、あの時は香港政府側が一歩も譲歩せずに事態が長期化した結果、マフィアまで出てくるは、地元で商売をやっている人たちにまで離反されるは、で、最後は運動の主力を担っていた学生たちが鎮圧されて終了・・・。

自分は、ウォン・カーウァイ監督が描いた90年代前半の生々しい香港の映像に取りつかれて青春時代を過ごした人間で、3年前、名画座で20年ぶりくらいにあの頃の映像を見たのを機に、衝動的に航空券を買って生まれて初めて香港の地に降り立ったのだが、まだ「雨傘」から1年半くらいしか経っていなかった時期にもかかわらず、90年代に撮影された映画の名残*1を見つけることよりも、「雨傘」運動の名残りを感じることの方が難しかった*2

しかも、2014年当時問題になっていたのは、まさに香港の自治権にかかわる「行政長官立候補資格」の話で、事の重大性は、今回問題になっている「刑事司法手続の一部ステップ」の話と比べても比較にならないくらい大きかったはず。

初めて訪れて以降、香港には毎年足を踏み入れていたのだが、「中国色」は年々強くなっていくように感じられたし*3、大陸側に直通する高速鉄道まで完成し、九龍駅の中に中国本土のイミグレが置かれるまでに至った状況を見た時、2014年に完膚なきまでに叩きのめされた香港の人々が再び立ち上がって中国大陸側の思惑に抵抗する日が来ることさえ、自分は想像できなかった。

今回、デモ参加者が「200万人」という規模に達し世界の注目を集めることになった背景には、5年前とは異なり*4、”抵抗”の舞台を「香港島の一番目立つところ」に絞り込んだ影響もたぶんにあると思っているし(そのため、各メディアでの「見え方」はすごいことになっているが、5年前よりも”熱”があるかどうかまでは、ちょっと分からない)、中国政府としても、この動きにこのまま手をこまねいたまま黙認するとは到底思えないから、今回の抗議活動の結末が、香港人にとって幸福なものになるかどうかは、何ともいえないところもある。

ただ、この先にどんな運命が待ち構えているとしても、自分たちがもっとも大事にしている価値を守るために自分たちで行動した、ということの意義が失われることは決してないし、それがその社会のDNAとして脈々と受け継がれることになるはず。

こういう時、異国の人間は外から固唾をのんで見守るしかないのだけれど、「ただの中国の一地域」になってしまうことのデメリットを一番よく分かっているのは、香港の人たち自身に他ならないのだから、たとえ今回もまた、「奇跡」が起きなかったとしても、大切なものは守られると自分は信じている。

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*1:重慶森林」などは、主舞台の重慶大厦だけでなく、フェイ・ウォンが通ったCentralの長いエスカレーターの雰囲気もまだ辛うじて残っているし、「墮落天使 」でカネシロ・タケシが疾走する地下トンネルとか、Tsim Sha Tsui のマクドナルドも基本的には変わっていない。

*2:目立つ看板は依然として出ているのに、お店自体は閉まったままだった「銅鑼湾書店」のように、大陸中国の怖さを感じる”史跡”はいくつか見たが、抵抗の跡をうかがわせるようなものは、当時は何も残ってはいなかった。

*3:それでも深圳側から「国境」を跨ぐと、街中の雰囲気からWi-Fiの通信環境に至るまで、「一国」というにはあまりに違い過ぎて、驚かされることの方が多い。自分は少々物価が高かろうが、電車の中が騒がしかろうが、圧倒的に香港の方が好きだし、自由が当たり前の国で育った人間なら、ほとんどの人が同じ思いは共有できるはず。

*4:雨傘運動の時は、香港島でもCentralからCauseway Bayまでの幅広いエリアが運動の拠点になっていたし、対岸のMongKok でも派手な占拠が行われていたと聞く。

「たかが1戦」ではない未検査飼料問題が落とす影

G1ウィークではなかったのが唯一の救い、だが、そういう”閑散期”こそ勝負時、と週末を楽しみにしていた者にとっては、実にショッキングなニュースだった。

中央競馬の競走馬に与えられる飼料添加物「グリーンカル」から禁止薬物のテオブロミンが検出され、開催中の東京、阪神、函館3場で2日間に計156頭が一括で競走除外とされた問題は、現在の競馬の薬物検査システムの信頼性に深刻な影を落としたと言える。」(日本経済新聞2019年6月16日付朝刊・第29面、強調筆者、以下同じ。)

実際にレースが行われてから薬物検査で失格、ということにでもなれば、混乱は余計に大きくなっただろうから、事前に「一括で競走除外」にした、というJRAの判断を「英断」と評価する声は多い。

だが、土曜日の朝起きて、初っ端のレースから「競争除外」の表示とともに塗りつぶされた複数の馬柱を見た時のショックは大きかったし*1、1つのレースのためにローテーションを組んで調整してきた調教師や、貴重な乗り鞍を失った騎手*2、そして、自分が持っている馬を応援するために、遠方まで駆けつける手配をしていた馬主等、より密接な関係者にとっては「一度の週末」の話として片づけるには、あまりに大きすぎる話だったように思う。

「今回の件は、15、16両日の出走馬が確定済みの14日午後、添加物の発売元の日本農産工業から、販売先の各厩舎に、薬物が検出されたため回収したいとの申し出があって表面化した。競走馬の口に入る飼料やサプリメントは、検査済みでないと販売できない。検査は、「ロット」と呼ばれる単位で、製造のたびに競走馬理化学研究所での検査に付されるが、今回は昨年暮れから今年5月にかけて製造された製品が、未検査のまま4つの卸業者経由で流通。業者側は4月になって、今回のロットの検査を依頼した。卸業者も検査済みかを確認していなかった。」(同上)

ことの顛末は上記でまとめられているとおりだが、問題となった「グリーンカル」は、JRA売店で販売され、「(公)競走馬理化学研究所の検査を実施しており、
競馬法に指定される禁止薬物の陰性を確認しております。」という表示まできちんと打たれているいわばお墨付き商品*3

Webサイトで「三菱商事のグループ企業」であることを高らかに謳っている発売元の日本農産工業も当然ことの重大さは理解しているようで、15日付で早々にリリースを出しているが*4、購入した厩舎サイドに落ち度はないことは明白な事案だけに、今後は関係者に対する補償がどこまでなされるか、という点に焦点が移ってくることだろう*5

いわゆる「走り損」ではなく、レースに出す前の競走除外で、加えてJRAは今回の競走除外馬に優先出走権まで与える整理にしたようだから、「来週以降のレースで取り返せばよいではないか」というのが、おそらく正論なのだろう。

ただ、関係者が「これ」と決めていたレースに出せなかったことは、多かれ少なかれ、その馬の競走人生に影を落とす。
特に、「あと数か月以内に勝てなければ引退」というシビアな現実に置かれている3歳未勝利馬の場合、近い時期に最適な条件のレースがあるかどうか、相手関係がどう変わるか、という点も含めて、この一戦を逃したことによる影響は決して少なくない。

上記記事の中にも出てくるが、かつて、キャロットのピンクブーケ(父:メイショウサムソン×母:ピノシェット、小西一男厩舎)という馬が2歳新馬戦を快勝したのに、摂取した飼料の影響でカフェインが検出され、失格の憂き目を見たことがあった。
その後どうなったかと言えば、気を取り直して再度未勝利戦の勝利を目指していたところで「骨折」。
結局、3歳未勝利戦が開催されている時期には復帰が間に合わず、地方・園田競馬への移籍を余儀なくされた、という事例もある。

同馬は、地方移籍後3連勝して中央に復帰し、その後も2勝を挙げて1000万下条件で好走するレベルで踏みとどまったから、一口持っていた方も元は取れたはずだが*6、あの新馬戦の勝利がそのまま認められていれば、もっと上のレベルまで行けたんじゃないか・・・という悔しさは、この手の話には常に付きまとうわけで、「最終的に経済的にカバーされればよい」という話では本来ないはず。

最終的に、販売元とJRAがどう落とし前を付けるのか、はこれからの話になってくるが、願わくば、その結果以上に、「災い転じて福となる」エピソードが生まれてくれることを自分としては願うのみである。

*1:週末の天候があまり良くなかったこともあって、最初は、輸送手段が寸断されたのか?と思ってしまった。

*2:リーディングトップの川田騎手などは、土曜日に2鞍、日曜日もメインの函館スプリントSの騎乗予定馬(しかも有力馬と目されていたダノンスマッシュ)を失っており、気の毒としかいいようがない。

*3:https://www.nosan.co.jp/business/lifetech/pdf/green_cal.pdf参照。

*4:https://www.nosan.co.jp/information/pdf/00000107_1.pdf

*5:最初は、製造物責任法の範疇の話にもなってくるのでは?と思ったのだが、今回の件に関して言うと、実際に競走馬の競走能力に影響を与えたり、禁止薬物が検出されたりしたかどうかにかかわらず、「疑わしきは競走除外」という判断で一律に対応がなされているので、法的な観点というよりは政策的な観点からの補償の話になってくるのではないかと思われる。

*6:何といっても、一口35,000円というリーズナブルな売り出し価格の馬だったので。

受け継がれる「天才」の系譜と、そこにある一抹の不安。

彼の名は、もちろん、バルセロナの下部組織に入団した時から知っていたのだけど、日本に復帰してまだ4年。
雌伏の時を経て、ようやくJリーグでも代表でもトップのカテゴリーに顔を出せるようになってきた・・・というくらいの状況で、まだしばらくは日本を舞台にするのだろう、と思っていただけに、このタイミングでの発表は大きな衝撃だった。

「サッカーの日本代表MF久保建英(18)がJ1のFC東京からスペイン1部リーグのレアル・マドリードに完全移籍することが決まり、14日に両クラブから発表された。関係者の話では5年契約、年俸は2億円超とみられる。Rマドリードの公式サイトによると、来季は2部B(3部相当)のBチームに所属するが、世界一の名門クラブでトップチームに昇格し、活躍できるか注目される。」(日本経済新聞2019年6月15日付朝刊・第33面)

正直に告白すると、自分は、まだ彼のプレーを、スタジアムではおろか、テレビ映像を通じてすらほとんど見たことがない。
今季に入ってからのJリーグでの活躍ぶりや、先日の代表、エルサルバドル戦でのプレーは、あちこちで絶賛されているのだけれど、自分の持っている知識は、あくまで文字ベースのものでしかないから、どれだけ凄いのか、という実感もまだ持てていない。

前号の特集になるが、久保選手が表紙を飾ったNumber誌の特集タイトルが「日本サッカー天才伝説」だった。

久保選手の特集記事も掲載されているし、彼と近いU-20くらいの世代の選手たちも紹介されているのだが、同時に取り上げられているのが、小野伸二中村俊輔中田英寿前園真聖といったかつて一世を風靡した選手たち。

そして細かい記事の中には、菊原志郎選手とか、財前宣之選手といった、Jリーグ創設直後の日本サッカーに熱狂していた者にしか通じない「天才」たちも登場する。

その後数々の実績を残したにもかかわらず、1999年夏のシドニー五輪予選での負傷・長期離脱を「あれを境にすべてが変わってしまった」と評する小野伸二選手のコメントにはかなりのインパクトがあるし(北條聡「史上最高の天才の回想/小野伸二」Number979号42頁)、「天才肌で、人一倍努力をする選手を、ほとんど見たことがない」という槙野智章選手が「そういう選手って、壁にぶつかると脆いんですよね」と評するくだり(飯尾篤史「僕がヤラれた天才たち/槙野智章」Number979号64頁)もなかなか辛辣で身につまされるところはある。

ただ、共通しているのは、天賦の才能で名声をほしいままにしていた選手も、努力で「天才」と評される域に駆け上がっていった選手であっても、欧州の大舞台では真の意味でのトップにまではたどり着けなかった、という現実。

元々スペイン、それも名門バルサカンテラで育まれた素地があり、しかも国際移籍解禁のタイミングで名門クラブに移籍する機会を得た久保選手は、これまで欧州リーグに挑戦した日本人選手たちの中では、最も恵まれた形でスタートを切ることができるわけで、当然、周囲の期待もこれまで以上にヒートアップすることになるのだろうけど、クラブ内での競争に加え、この先、A代表U-23でもフル稼働することが予想される状況で、彼の伸びしろがどこまで発揮されるのか・・・?

一つの怪我で選手生活が大きく暗転した選手は枚挙にいとまがないし、監督との相性一つで活躍できる旬を逃した選手も決して少なくない、そんな厳しい世界をくぐりぬけて、彼が欧州サッカーの頂点にまでたどり着けるのであれば、日本サッカーを愛する者にとって慶事であることは間違いないのだが、今はとにかく、まず久保選手のスタートが平穏無事に切られることを願うのみである。