変わりゆく世界地図と、これからへの備え。

10年くらい前にはもう予感があって、4,5年前の時点で個人的には「確信」に近い思いがあったのだが、こうやってそれが現実の世界の出来事になると、どうにもこうにもため息しか出てこない。

世界知的所有権機関WIPO)は2日、2020年の特許の国際出願件数を発表した。中国が2年連続の首位で、韓国もドイツを抜き4位に浮上した。新型コロナウイルスの感染拡大でIT(情報技術)サービスの需要が拡大し、アジア勢を中心に技術革新が進んでいる。」
中国は16%増の6万8720件と成長が加速している習近平(シー・ジンピン)指導部はハイテク産業育成策「中国製造2025」で企業に多額の補助金を投じ、知財強国としての地位確立を急ぐ。」
「一方、2位の米国(3%増の5万9230件)、3位の日本(4%減の5万520件)はなお高水準を維持しているものの、頭打ち感は否めない。」
日本経済新聞2021年3月3日付朝刊・第8面、強調筆者、以下同じ。)

昨年に関して言えば、新型コロナの影響の大小、という要素はもちろんある。・・・が、それを差し引いても、この数字が示しているのがまさに今の世界の現実なわけで、技術戦略だの知財戦略だの、という話を語るときに、この現実から目をそらすことは許されない。

もしかしたら、この国には未だに、

「日本が中国に抜かれ、差を付けられているのは、日本企業が知財経営をしていないからだ。もっと知財部を増強しろ!」

と叫ぶ人*1がいるのかもしれないし、あるいは、

「日本企業の特許出願のモチベーションが上がらないのは、日本国内で特許法の存在感が薄いからだ。特許訴訟を使いやすくして業界を活性化しよう!」

といったここ数年目にすることが多くなった素っ頓狂な世界観の方々も、前記記事に飛びついてこられるのかもしれないが*2、そういう話に持っていこうとすること自体が、現実を直視しないただの逃避的思考に過ぎないと自分は思っている。

そう、もはや、この国はとうの昔に「先端分野で新しい技術を生み出す」という根本的な部分で、隣国に追い抜かれてしまっているのだ。

そういうことを言うと、「いやいや日本には○○の技術がある、××の技術もある」等々、ニッチ分野の輝きをアピールしようとする方々も当然いらっしゃるだろうし、自分も、電子部品やデバイス、中間素材の分野で日本の優良企業が依然として高いシェアを誇っていることも、製造工程の品質管理に関しては未だに日本が周辺のライバル国よりも頭一つ抜けている、ということも承知しているつもりではある。

ただ、後者に関して言えば、まだ明らかに差があった10年前と今とでは状況が大きく変わっていて、今の日本国内の製造現場の疲弊と減退の状況を踏まえるなら、その「差」が縮まることはあっても再び開くことはないと思った方が良い。

また、前者に関しては、米国のここ数年の”制裁”が、中国国内でのイノベーションを逆に加速させているところはあって、「気が付けば日本メーカーの居場所がない」という事態も十分想定しなければいけない気はする*3

一方、

「国策で特許の出願数が増えているだけで、それだけで、かの国が技術的に優位に立ったと考えるのは妥当ではない」

という指摘なら、まだ理解することは可能である。

突き詰めて考えれば考えるほど、今の世の「特許制度」がモチベートしているのは「特許を出願することそれ自体」に過ぎないのであって、これによって「産業の発展」そのものが促進されるわけではない、という結論に行き着くことになるはずで、国際出願件数の差が、それぞれの国の技術的ポテンシャルや技術的成熟度の差に直結しているわけではない、という説明は十分できると思われる。

だが、このような考え方は、少なくとも日本国内ではこれまであまり顧みられることがなかったものであるような気がする。

そして、遅れてきた日本国内の「エンフォースメント強化」の波が世界最強の「特許立国」の企業の戦略とミックスしてしまえば、「たかが特許だけの話」だったものが「技術そのものの話」になってしまう可能性も十分あり得る。

ということで、日本国内の昨今の状況と、冒頭でご紹介した特許を巡る国際的トレンドを組み合わせて考えると、頭が痛くなることはあっても、前向きな気持ちになれることはない、というのが正直なところだったりもするのだけれど・・・。

*1:自分はこういう方々を内心では「平成知財立国時代の香り漂う無形重要文化財くらいに思っているが、本題ではないのでこの辺にしておく。

*2:この点に関しては、昨年のエントリーで書いたことに尽きる。「訴訟」は最善の解決策ではない。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*3:米国としては、かつて80年代から90年代初頭にかけて日本の勢いを抑えつけたのと似たような手法で再び自国企業のポジションを守ろうとしているのだろうが、米国への依存度も、政治的、経済的なしたたかさも日本とは大きく異なるのが隣の大国で、トランプ政権時代の政策には「やっつけたつもりが逆に世界のデファクトスタンダードをひっくり返された」ということになりかねない危うさがあった。政権が変わって方針がどう変わるか、というところはあるが、本当に自国の産業を守りたいのであれば、目指すべきは「相互依存による最適化=共存共栄」であって、不毛な経済戦争を仕掛けることではない。それでもなお、人権とか民主主義の価値観を最優先にしてスタンスを変えない、というのであればそれはそれで評価されるべき行動だとは思うけど(自分も本来はそうあるべきだと思っている)、そうではなく単なる目先の経済権益だけを追いかけてしまうと、その先には大きなしっぺ返しが待っているように思えてならないのである。

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そして再びの春へ。

そうでなくても短い2月で、最後の2日間が休日になってしまったためか、今日は本来であれば先月のうちに終わっていたはずのサブスク系の引き落としが続々・・・という感じで、何だか変な感じだった。

月締めのエントリーは一応あげてはみたものの、そういえばカレンダーはまだ新しい月になってなかったり*1、と、「変わり目」の意識が今ひとつのまま、新しい月に突入してしまったような気がしないでもない。

だから、というわけではないのだが、昨日書きそびれた話を。

2月の最終週、ということで、中央競馬のカレンダーでは2月28日は旅立ちの日、だった。

引退する調教師は8名。その中には一時代を築いた松田国英調教師や角居勝彦調教師、といった顔ぶれもいる。

騎手の方では、これまたミレニアムを跨ぎ、関東の第一人者として活躍した時期も長かった蛯名正義騎手がこの日を持って引退。

こういう時は、大体、引退する騎手が騎乗する馬、引退する調教師の厩舎に所属する馬に実力以上の人気が集まるもので、自分もこれまでそういった”情”に流されて散々痛い目を見てきたから、最後の記念に・・・という気持ちを抑えて勝負に徹していたのだが、こと今年に関しては、中山で蛯名騎手が土曜日に人気薄の馬を2頭複勝圏内に連れてきたと思えば、日曜日はとうとう人気以上の実力を引き出して2勝。

調教師の方も、先週の西浦勝一調教師の重賞制覇に続き、元騎手(というか障害戦のレジェンド)である星野忍調教師が平地戦ながら最後の勝利を飾った、ということで(土曜日には松田国英師と西浦師も勝利を飾っている)、多少追いかけても良かったんじゃないか・・・と思った時には後の祭り。

小倉の最終レースで遅まきながら、西浦調教師のラスト出走の馬に手を出してみたものの、あえなく5着に敗れた時点で、今年も、個人的には、去り行く方々に対して、後々まで語り継げるような美しい見送り方はできなかったな、というため息しか出てこなかったのだが・・・。

*1:少なくとも28日までは曜日配列が変わらないから、そのままでも大きな支障はない、といえばそれまでなのだが・・・。

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2021年2月のまとめ

一年でもっとも短い「28日」の月・・・の割には、いろいろとイベントもあって、結構重い月になった感もあるが、それでも何とか2月が終わった。

去年のこの時期、ちょうど「新型コロナとの戦い」に突入していくタイミングで心穏やかではないところもあったことを考えると、「明け」る方向に向かっていく今は何となく落ち着いている、というのが世の中に共通する感覚ではないかと思うのだが、首都圏の足元の感染判明者数の数字は依然として1年前のそれを遥かに上回る水準に留まっている。

これで来週、一部業界の声に押されて緊急事態宣言を解除するようなことになれば、これまでと同じことの繰り返しで、ダメージを受けている業界はズルズルとそのダメージを引きずり続けることになるだろうし、五輪も良くて無観客開催、酷ければ中止、ということにもなりかねないだけに、ゴールデンウィークが終わるまでは「緊急事態」のままで結構、と、個人的には思っているのだが*1、現政権が選ぶのはどちらの声か・・・。

そろそろ、今年後半に襲ってくるであろうインフレの波に備えて、自分のポートフォリオの組み換えも考えないといけないな、と思いつつ、忙しさにかまけて傍観している今日この頃だが、新しい月も少しでも前の月より良いことがあるように、と願って、また新しいスタートを切れればと思っている。

前置きが長くなったが、2月のページビューは16,000件強、セッション11,000弱、ユーザー6,000強。

前半はアクセス数が伸びていたのに、後半めっきりブログに手を付けられなくなって失速、というここ数か月のパターンの繰り返しに2月も陥ってしまったわけだが、めげずにのんびり続けていければと思っている。

<ユーザー別市区町村(2月)>
1.→ 横浜市 832
2.→ 大阪市 599
3.→ 港区 374
4.↑ 新宿区 368
5.↓ 千代田区 366
6.→ 世田谷区 244
7.→ 名古屋市 244
8.圏外江東区 161
9.↓ 渋谷区 149
10.圏外中央区 124

住宅街からのアクセスが増えたのは、やはり緊急事態宣言の影響だろうか。上位にはそんなに大きな変動はないのだが・・・。

続いて検索ランキング。

<検索アナリティクス(2月分) 合計クリック数 1,538回>
1.→ 企業法務戦士 136
2.↑ 試験直前 勉強しない 27
3.↓ 企業法務戦士の雑感 27
4.圏外匠大塚 業績不振 13
5.圏外東京永和法律事務所 13
6.圏外知恵を出したところは助けるが、知恵を出さないやつは助けない 12
7.圏外企業法務 ブログ 11
8.圏外希望の法務 10
9.↓ 矢井田瞳 椎名林檎 10
10.圏外取扱説明書 著作権 10

上位のキーワードがかなり入れ替わる中、「勉強しない」が上位に来た辺りにシーズンだな、と思う。

新型コロナ下の受験生たちが無事力を出し切れたのかどうか、自分が心配しても仕方のないことではあるのだけれど、訪れる春が少しでも美しい春であることを願うばかりである。

なお、今月のTwitterのインプレッション首位は、文句なしに↓の記事だった。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

インプレッション32,064。

そして、その影響が如実に反映されたのがこちらのランキング。

<書籍売上ランキング(2月分)>
1.手にとるようにわかる会社法入門

手にとるようにわかる会社法入門

手にとるようにわかる会社法入門

  • 作者:川井 信之
  • 発売日: 2021/02/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

2.改訂版 著作権とは何か 文化と創造のゆくえ

川井先生の会社法入門の今月の当ブログ経由での販売冊数は、実に40冊近くで、長くやってきた中でも1か月で一つの本がこれだけ売れた、というのはちょっと記憶にない。

当然ながら、書籍に対する称賛は著者と編集に携わった人々に対してのみ向けられるべきで、一読者、一紹介者に過ぎない自分がドヤ顔をするような話では全くないわけだが、それでも、その後の各所での本書に対する多数の好意的な反応を見るにつけ、最初に手に取って読んだ時の自分の感覚がズレていなかった、ということに、今はちょっと安堵しているところである。

*1:そして世論調査でも8割が再延長支持、という驚くべき結果が出ている。

ビジュアルは実に雄弁だ。

ここ数年、法律の世界でもいろいろと趣向を凝らした書籍が世に出る機会が増えていて、先日の川井弁護士の会社法の入門書などもまさにその一例だったのだが*1、今度は知財の分野で、興味深いコンセプトの書籍が刊行された。

図録 知的財産法

図録 知的財産法

  • 発売日: 2021/02/22
  • メディア: 単行本

知的財産法の総論から、著作権法特許法、意匠法、標識法(商標法、不正競争防止法)、不正競争防止法(営業秘密、パブリシティ)まで、知的財産法の主要な法分野を横断して解説する書籍なのだが、その名の通り、全てのページに「圧倒的点数」*2の図と写真が散りばめられている、というのが本書の特徴である。

そして、各項目の執筆を担当されているのが、知的財産法の世界の最前線で奮闘されている中堅、若手の研究者の方々である、というのも、注目すべきポイントと言えるだろうか。

入手して最初のページを開くと真っ先に目につく「顔真卿」の書に始まり、著作権の教科書には良く出てくる「裁判素材」の写真はもちろん、文化庁庁舎の写真あり、ムンク「叫び」あり、と素材の選択、配列にもそれぞれの項目の著者の個性が存分に発揮されていて、読み物としても十分楽しめるものになっている*3

もちろん、分担執筆だから、各項目のボリュームにしても、レイアウトにしても、それぞれの「個性」が色濃く出ているのは事実である。

また、本来は”脇役”かもしれない解説文の粒度や表現にも、(ある程度統一しようという意思は感じられるものの)項目ごとの微妙な違いはあって、ざっと読んだだけでも*4、「わかりやすいかどうか」、「当該トピックにおいて必要なことが余すことなく書かれているかどうか」という二軸で4パターンに分類したくなる衝動にかられたことは否定しない*5

ただ、体系書にしたら数百ページくらいのボリュームになる中身を、図表を織り交ぜつつ凝縮して分かりやすく伝えよう、という編著者の心意気は、全体を通じて十分に伝わってくるし、比較的ビジュアルを使いやすいとされる「著作権法」の研修資料ですら、実際に研修に向けて作るときにはかなり四苦八苦していた我が身を顧みると、本書の各項目のクオリティの高さは、類書と比べても群を抜いているように思える。

本書を通じて自ら学ぶ、頭を整理する、という本来の使い方はもちろんのこと、(あくまで本書の編著者の権利を尊重しつつも)、本書が示した「図解」のアプローチを、自分たちの会社の研修素材に生かす、といった使い方もできるだけに、特に知財系企業実務者の皆さまには、一度この本を手に取ってみることをお薦めしたい。

なお、多少細かすぎる指摘もあるかもしれないが、以下、気づいた点を若干・・・。

*1:これは「入門書」の究極型かもしれない。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*2:これは帯の宣伝文句のフレーズからの引用。

*3:ちなみに、「知的財産法」のテキストだけあって、各図表や写真には全て出典や作成者が明記されているのだが、public domainのものもあれば、各項目の著者が自ら走り回って撮ってきたと思われる写真もあったりして、新型コロナの禍中での執筆(作成)のご苦労がしのばれる。

*4:本書が手元に届いたのが数日前、ということもあって、本書の図表と欄外の○×問題には大方目を通したが、本文は気が向いた箇所しか読んでいない、ということは一応お断りしておく。

*5:個人的には、知財法の場合、どんなに分かりやすく説明しようとしても、正しく説明しようと思ったら自ずから難しいことを言わないといけない、というトピックはそれなりにあると思っているので、難しいことが書いてあるからNG、ということでは全くないのだが、これを最初から文章も含めて通読しようとした初学者は、おそらくジェットコースターに乗ったような気分になるのだろうな、というのが率直な感想だった。

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デジタル広告分野における「独占」の意味。

最近、公正取引委員会が、これまであまり切り込んでこなかった分野で、実態調査のアンケート結果を交えつつボリュームのある報告書を出す機会が随分と増えたような気がする。

今月の中旬に出された「デジタル広告分野の取引実態に関する最終報告書」もそう。
www.jftc.go.jp

報告書のデザインが洒落ているのは、まさに最近の公取委報告書のトレンドだし、何よりも内容がタイムリーということもあって、一週間経った今日26日、日経紙がわざわざ社説で取り上げるほどの注目度である。

公正取引委員会がネット広告市場の調査報告をまとめ、独占禁止法に違反するおそれがある行為について見解を示した。ネット広告でも寡占を強める巨大IT(情報技術)企業をけん制する狙いだ。取引の透明化につながる実効性ある取り組みを期待したい。」(日本経済新聞2021年2月26日付朝刊・第2面)

「デジタル・プラットフォーマー」の話、というと、ともすれば、「個人情報を取られる一般ユーザー」対「巨大プラットフォーム」という二極構造でとらえられがちだし、前記日経の社説も、そういう議論の延長線上で書かれているようなところが垣間見えるのだが、今回の公取委の報告書に高い価値を見出すとすれば、「デジタル広告分野」というものをそういった単純な構図の中で論じるのではなく、広告主、広告代理店、媒体社、広告仲介事業者、といった様々なアクター、プレイヤーに着目し、しっかりとそれぞれの「市場」を意識しながら検討する姿勢を見せている、という点だろう。そして、複雑なデジタル広告の取引形態を類型化して極力分かりやすく説明しようとしている姿勢も、この手の報告書にしては非常に優れている、という印象を受けた。

自分自身、ここ1~2年の間にこの分野の案件に触れる機会は劇的に増えていて、特に広告主と媒体社の間でニッチに利益を上げに行く中間商流のあれこれに関わる機会が多くなっているから、一連の取引プロセスも一通り頭の中に入っていたつもりだったのだが、改めて読んでみるといろいろと新しい気付きもあったりして、ともすればプレイヤーも、それを結び付ける契約も、断片的な”パーツ”の組み合わせになっていることが多いこの業界で、こういう形で上流から下流までしっかり敷衍した資料が世に出ること自体が貴重だな、と思わずにはいられなかった。

もちろん、これはあくまで「実態報告書」であって、ガイドラインのように公取委の運用指針を示したものでもなければ、個別の案件への処分を念頭に書かれたものでもない。

だから、ところどころに出てくる「独占禁止法・競争政策上の考え方」の記述も、多くは仮定的な書き方にとどまっているし、それでいて「おそれがある」は随所で連発されているので、これを読んでちょっとどころではなく嫌な気分になった方もいらっしゃるかもしれないが、ことこの分野に関しては、今の段階では、実態をある程度オープンにして、(抽象的な「巨大プラットフォーマー悪玉論」で終わるのではなく)具体的な法の適用の可能性の思考実験を行う、ということだけで意味があると自分は思っているので、この報告書を出発点により議論が深まっていくことを願っている*1

個人的に非常に興味深く読んだのは、この報告書の中で所々に出てくる

「主な指摘とこれに関するデジタル・プラットフォーム事業者の説明」

というくだりだろうか。

”被害者”側だけでなく、”加害者”と疑われる側のコメントも載せて比較するのは、昨年末の「スタートアップ」に関する報告書や、コンビニのフランチャイズ契約に関する報告書などでも用いられていた、最近の公取委絡みの報告書でよく見る手法なのだが、今回印象的なのは、「デジタル・プラットフォーム事業者の説明」が、実に威風堂々としている、ということだろうか*2

例えば、「あるデジタル・プラットフォーム事業者との契約では,何らかの障害が発生して広告が配信できなかった場合,当該デジタル・プラットフォーム事業者に対して損害賠償請求はできないという免責規定が設けられている。一方で,当社に対してはデジタル・プラットフォーム事業者が補償を求めることができるという規定があり,不公平である。」(56~57頁)という媒体社、広告仲介事業者の指摘に対し、

当社の契約のいかなる規定についてのものであるか(そもそもそのような規定があるのか)不明確である。当社の媒体社に対応する広告仲介事業向けの利用規約における責任制限条項は,両当事者に同様に適用される。」
「当社は,上記の指摘は当社に該当するとは考えていない。当社のサービス上の広告キャンペーン,又は当社のサービス経由で広告配信される第三者のウェブサイト上の広告キャンペーンにおいて,同キャンペーンに影響が及ぶ事象(「バグ」)が当社サイドで生じた場合には,当社は,返金又は広告クレジットの形で広告主に対して金銭的補償を行っている。さらに,当社は,異常に多くのアプリのインストールや広告のクリック等の異常な事態や疑わしい行動をモニターする一連の社内ツールを整備している(こうした異常な事態は,不用意なクリックを誘発するように広告が掲載されていたり,人ではなくボットが「クリック」したりしていることの証拠となり得るためだからである。)。このように疑わしく無効と考えられ得る行為については,不正な媒体社や広告主を特定するための調査を行っており,当社では,現在,無効と判断した行為(クリックやインプレッション等)については広告主に対して課金していない。」
「当社の通常の約款においては,懸念されているような,何らかの障害がメディア側に発生して広告が配信できなかった場合にまで,デジタル・プラットフォーム事業者が直ちに補償を求めることができると解釈できる条項は見当たらないとの認識である。そのため,もしこうした懸念があるのであれば,具体的な契約条件を互いに見ながら,契約解釈の議論をするところから始めることが適当と考える。なお,当社の場合は,契約違反によって生じた損害について損害賠償請求ができる定めは,相互に対して規定されていると認識している。」
(57頁、強調筆者)

と、正面から指摘を受け止め、これでもか、というくらい「反証」をした上で、「文句あるなら議論しようぜ」という堂々たる切り返しで応えている*3

他にも、「デジタル・プラットフォーム事業者から開示される情報では,当社の媒体に掲載された広告の単価,広告主がどのようなターゲティングを行ったのかなどが分からない。情報開示が不十分であるため,ブランドイメージの維持が難しい。」(83頁)という媒体社のコメントに対して、

「単価やインプレッションなど基本的な情報は開示しており,媒体社から更なる情報提供を求められたことはない。個別事象の問い合わせに対しては,個別回答で対応している。広告主に対するデータレポートについても,現状特に提供の要望を受けていないため,現在実装の準備はない。もちろん,要望がある場合には検討することは可能である。」(83頁)

と切り返しているあたりは、まさに横綱相撲だと言えるだろう。

さすがに、「デジタル・プラットフォーム事業者が契約の締結に当たって一方的に内容を定めている」という広告仲介事業者や媒体社の指摘(52頁)に対して、

「当社とユーザーの契約の中には,当社が裁量的に利用規約を変更できることが定められている場合もある。当社が常にサービスを変化させ改善させたり,法律上の理由やサービスのセキュリティ・整合性を維持するためである。当社が利用規約を変更できることが契約に定められている場合,変更前の利用規約に基づきビジネスユーザーがサービスの利用を継続することは,機能の変更によるサポート終了,違法となる可能性,又は当社のサービスのセキュリティ及び整合性を損なうおそれのため,可能ではない。ただし,ビジネスユーザーは,変更後の利用規約に同意したくない場合は,サービスの使用を中止することができる。」(53頁)

という切り返しをしているところなどは、「そんなに簡単に中止できるわけねーだろ」という国内の仲介事業者たちの怒りを買うことは必至のような気がして、もう少しマイルドな回答はできないものか、と思ったりもするのだが、「プラットフォーマーの横暴だ!」と陰で呟いている事業者の多くが、彼らの力を恐れている、というよりは、それを面倒と思うがゆえに特段アクションも起こさない、という現実があるのは確かだし、そもそもまことしやかに流布されていることが、確たる根拠のない、ただの噂話だったりするのもこの世界。

そこで、

「当社の明確な料金体型は,英国 CMA により,そのオンラインプラットフォームとデジタル広告に関する最終報告書の中でも認められて」いる(81頁)

と堂々と胸を張る相手と互角に戦おうと思ったら、法の適用以前に、あれこれと変えなければいけないことは多いような気がしてならない*4

あと、最後の章、「デジタル広告取引の伸長に伴う媒体者間競争の変化とその変化に伴う消費者への影響」(120頁)の中の、「デジタル広告においてコンテンツの価値が評価されにくい構造になっている」という指摘に関しては、なるほど、と思う一方で、なぜこの文脈で特定のプラットフォーマーが作り出した広告市場上での話だけを議論しなければならないのか?という疑問も湧いてくる。

要は、本当に価値のあるコンテンツ、価値のある媒体だと思うのであれば、他人が作ったアドネットワークに乗っかるのではなく、自ら広告主を集めることだってできるのではないか?という素朴な疑問である。それは広告の効果が(巨大プラットフォーマーのせいで)分からない、とぼやく広告主にとっても同じこと。

24時間、番組の隙間で切り売りされるテレビCMとは異なり、インターネット広告の場合、リソースはほぼ「無限」に存在する。

だから、あえて代理店をかまさなくても、効果的な広告のやり方を考えることはいくらでもできるはずなのに、「技術がない」「ウェブのことはよくわからない」「面倒だから全部任せる」みたいな流れで、インターネット広告代理店に諸々丸投げした結果、各プレイヤーのフラストレーションがたまることになっているのだとしたら、そのとばっちりを食らう「巨大プラットフォーマー」もたまったものではないだろう。

もちろん、「広告」の可能性は追及できても、「検索」は巨大プラットフォーマーに代わるものなし、というのが今の世の中の現実だから、両者が巨大プラットフォーマーによって作為的にリンクさせられない、ということは絶対条件なのだが(そして、この点こそが、各国の独禁当局がもっとも疑い、切り込もうとしているポイントでもある)、その部分の公正さえ確保されているならば、あとは競争法のエンフォースメントに過度に依存しなくても、問題を解決することはできるのではないか。

ということで、まだまだ生煮えの発想ではあるのだが、市場に対する細かい分析がなされてこそ、そういった発想も浮かんで来るわけで、このような形で有益な資料を世に出していただいたことには感謝しなければならない、と改めて思った次第である。

*1:正直言えば、技術の変化もトレンドの変化も極めて早い分野で、中間商流の事業者ともなれば、数か月単位で打つ施策も力の入れどころもガラッと変わってしまう世界だから、そこで「数年」スパンの独禁法の世界のエンフォースメントが威力を発揮できるかどうかといえば半信半疑なのだが、そうでなくても劣位に置かれがちな事業者にとっては、交渉の材料が一つ二つ増える、というだけでも意味はあると思っている。

*2:報告書によれば、ヒアリングを受けたのは「グーグル、フェイスブックツイッター、ヤフー、ライン」の5社のようだが、随所に出てくる「日本のビジネスユーザーからは・・・」という表現や、翻訳風の独特の言い回しからすると、回答の多くは外国に拠点を置き、かつ、世界中でこの手の問題と戦い続けている超巨大プラットフォーマーではないのかな、と思ったりもする。

*3:実際、この業界で生じる問題の多くは、プラットフォーマーそのものとの契約ではなく、その間に介在する代理店等が仕掛ける過剰なまでにリスクヘッジされた契約に起因する、というのも現実だったりする。

*4:ちなみに英国CMAの最終レポートはOnline platforms and digital advertising market study - GOV.UKで、一度読もうと思ってからかれこれ1年近くになるが、あまりのボリュームゆえにまだ手が付けられないのは遺憾の極みである。

これでも「侵害」になってしまうのだとしたら、それをリスクと言わずして何と言おう・・・。

最近あまり裁判例の紹介記事を書いていない、ということもあって、そろそろ型を忘れてしまいそうな感じでもあるのだが、これはちょっと、と思った事件なので久々に。

自分が、以前話題になっていた就職情報サービス絡みの商標紛争で第一審判決が出た、ということを最初に知ったのは、友利昴氏のブログでのご紹介がきっかけだった*1

subarutomori.hatenablog.com

これを拝見して、ん?と思い、さらに被告である一般社団法人履修履歴活用コンソーシアムのウェブサイト*2から判決文をダウンロードしてこれはちょっと・・・と思ったのは先月の後半くらいのこと。

その後、しばらくほっぽらかしてしまっていたのだが、他にもこの判決に言及するブログ等を拝見して*3、思い立ってここで・・・という次第である。

大阪地判令和3年1月12日(平成30年(ワ)第11672号)(第21部・谷有恒裁判長)*4

ということで、前振り(というか、ただの言い訳)が長くなってしまったが、判決のご紹介に移る。

原告:株式会社学情
被告:一般社団法人履修履歴活用コンソーシアム

原告はインターネット上で求人情報、求職者情報の提供を業とする株式会社、被告は一般社団法人だが「主に,インターネット上で就職情報サイトを運営し,あるいは就職,採用のあっせん等を業とする企業を会員として構成されている」ということで、「求職情報の提供」という点では両者は競合関係にあるといえる。

そして、被告が使用していた「リシュ活」という標章が、原告が保有している登録商標(登録第4898960号)「Re就活」(指定役務は第35類、第41類)と類似する、ということで、原告が被告標章の使用差し止めと1億円の損害賠償を求めて提訴した、というのが本件の始まりであった。

本件の最大のポイントは、「Re就活」と「リシュ活」が商標法上類似しているといえるのか? という点にあるのだが、それ以前に、両者が自己の商標、標章の下で提供しているサービスの違いは結構大きい、ということも目を向けておく必要があるだろう。

「Re就活」と「リシュ活」の業務態様の違いは本件係争が報じられた頃の報道でも取り上げられていたし、今回の判決の中にも出てくるのだが、

(対求職者)
「インターネットに接続して稼働するスマートフォン用アプリケーション等を通じて,無料で,会員登録した求職者に対し,大学等での履修科目に関連する先輩社員情報等の就職情報を提供し,また,自己の履修履歴を登録した求職者に対し,被告に加盟する企業(正会員,賛助会員)及びそのクライアント企業からのオファーメッセージ(アプリケーション上のメッセージ又は電子メール)を受領できるようにする」
(対求人企業)
「有償で,被告の正会員及び賛助会員(以下「加盟企業」という。)並びにそのクライアント企業が登録した企業名や採用情報サイトへのリンクを含む先輩社員情報等を,審査の上,会員登録した求職者にアプリケーション上でレコメンド表示されるように設定し,また,加盟企業及びそのクライアント企業に対し,インターネット上で,会員登録した求職者の履修履歴情報を検索可能な状態で提供し,求職者に対してオファーメッセージが送信できるようにする
(4~5頁、強調筆者、以下同じ)

というのが被告側が本件標章の下で提供するサービスであるのに対し、

「インターネット上に本件商標を掲げたウェブサイトを開設し,求人企業の依頼を受けて,第二新卒」と称される若年転職希望者を中心とする20代の求職者を対象とした求人広告や就職活動に関する情報を掲載するとともに,会員登録をした求職者に対し,希望条件等に合致する求人企業の求人情報等のメールを送信するサービス」(4頁)

というのが原告が本件商標の下で提供するサービスだから、同じ「求職情報提供サービス」といっても毛色はだいぶ異なる。

しかも、被告はあくまでプラットフォーマーであって、実際に求職情報の提供を行うのはそこに登録した別会社だから、原告商標の「職業のあっせん」や「求人情報の提供」といった指定役務を自ら提供しているわけではない、という反論も一応はできるから、そのような状況の下で、原告から一方的に名称の変更を求められた上に、提訴され1億円もの巨額賠償を請求されたら、それは当然、被告も徹底的に争わざるを得ないだろう。

だから、自分も以前この事件の報道に接した時は、「これはいくらなんでも原告にとっては無理筋だろう」と思ったものだった。

だが、大阪地裁は意外にも「原告勝訴」の判断を下している。

役務の類否に関して、

「被告は,被告役務として,スマートフォン用アプリケーションで会員登録した者に対し,求人企業があらかじめ作成し,被告が内容を審査して登録した先輩社員の出身学校名,学部学
科名,履修科目等,企業における仕事内容,企業名,本社所在地,企業のサイトへのリンク,採用情報へのリンクなどからなる「先輩社員情報」をレコメンド表示する役務を提供していることが認められる。上記役務は,求人企業のために,当該企業に興味を持ちそうな者に対し,当該企業の仕事の魅力等を伝達するものであるから,本件商標の指定役務である「広告」に該当し,求人企業の企業名や本社所在地等を表示するものであるから,同じく「求人情報の提供」にも該当する。また,証拠(略)によれば,被告役務のオファーメッセージ送信サービスは,求人企業があらかじめ登録したメッセージがアプリケーションあるいは E メールで会員登録した者に送付されるものであり,被告は,この機能について,「企業からオファーが届く」,「履修履歴でオファーが届く逆求人アプリ」などと宣伝していることが認められるから,この機能は,アプリケーションを利用しようとする者にとっては,本件商標の指定役務である「職業のあっせん」,「求人情報の提供」に相当する役務を受けられるものと理解させるものであり,被告において現実にオファーメッセージの内容に関与していないとしても,外形的には上記指定役務に類似するものといえる。」(21頁)

と判断されたことについては、通常、標章を使用している役務が(ビジネスの仕組みそのものというよりは)外観で認定されることが多いことを踏まえればやむを得ないと思われるのだが*5、問題は「類否」に関する以下の判示だろう。

「取引の実情を踏まえて検討するに,需要者である求人企業においては,前記認定のとおり,本件商標に係る役務についても,被告役務についても,役務利用に当たっては文書による申込みを要し,役務のプランを選択し,相応の料金を支払うものであり,新規に正社員を採用するという企業にとって日常の営業活動とは異なる重要な活動の一環として行われる取引であるから,求人に係る媒体の事業者が多数ある中で(略),どの程度の経費を投じていかなる媒体でいかなる広告や勧誘を行うかは,各事業者の役務内容等を考慮して慎重に検討するものと考えられ,外観や観念が類似しない本件商標と被告標章1について,需要者である求人企業が,称呼の類似性により誤認混同するおそれがあるとは認め難い。」
「しかしながら,求職者についてみると,前記認定のとおり,本件商標に係る役務も被告役務も,利用のための会員登録は簡易であり,無料で利用できる上,証拠(略)によれば,多数の他の求人情報ウェブサイトでも会員登録無料をうたっており,気軽に利用できるように簡単に会員登録ができることを宣伝しているところ,情報を得て就職先の選択肢を広げる意味で複数のサイトに会員登録する動機がある一方で,複数のサイトに会員登録することに何らの制約もなく,現実に多数の大学生が複数の就職情報サイトに登録していることが認められる。そうすると,求職者については,必ずしも役務内容を事前に精査して比較検討するのではなく,会員登録が無料で簡易であるため,役務の名称を見てとりあえず会員登録してみることがあるものと考えられる。」
「そして,本件商標も被告標章1も短く平易な文字列であり,発音も容易であること,本件商標に係る役務や被告役務はインターネット上で提供されているところ,インターネット上のウェブサイトやアプリケーションにアクセスする方法としては,検索エンジン等を利用した文字列による検索が一般的であり,正確な表記ではなく,称呼に基づくひらがなやカタカナでの検索も一般に行われており,ウェブサイトや検索エンジン側においてもあいまいな表記による検索にも対応できるようにしていることが広く知られていることからすれば,需要者である求職者は,外観よりも称呼をより強く記憶し,称呼によって役務の利用に至ることが多いものというべきである。そうすると,求職者が需要者に含まれるという取引の実情にかんがみれば,需要者に与える印象や記憶においては,本件商標と被告標章1とでは,前記外観の差異よりも,称呼の類似性の影響が大きく,被告標章1は特定の観念を生じず,観念の点から称呼の類似性の影響を覆すほどの印象を受けるものではないから,前述のとおり必ずしも事前に精査の上会員登録するわけではない学生等の求職者において,被告標章1を本件商標に係る役務の名称と誤認混同したり,本件商標に係る役務と被告役務とが,同一の主体により提供されるものと誤信するおそれがあると認められる。」
(26~28頁)

この判断に関しては、称呼以外の要素の相違点があまりに軽視されているように思われるし、「取引の実情」を踏まえたとしても、既に友利氏がブログで書かれているように、「需要者の通常有する注意力」のレベルを明らかに見誤っている、という指摘をせざるを得ないように思われる。

仮にこれが査定系の事件で、特許庁が称呼類似を理由に被告が出願した「リシュ活」商標の登録をなかなか認めてくれない、という話であればまだ分かるのだが*6

本件は侵害訴訟

である。

実際に商標、標章が使われる場面では、自社サービスを需要者に認知させ、識別させるための要素として、対象となる商標、標章以外の要素も加えていくことになるし、特に似たようなサービスが多くあふれているウェブ上の求職情報提供サービスのようなものであれば、なおさらそうしなければ、他の事業者と差別化することができず、下手をするとクレームの原因にすらなってしまう*7

だから、登録査定場面より侵害場面の方が、商標・標章間の「差異」がより需要者側の誤認混同の恐れを低下させる方向に機能することは自明の理なのであって、それがひっくり返されるとしたら、標章使用者側が悪意をもって第三者の商標への擦り寄りを狙ってきたような場合くらいだろう。

本件では、原告側のクレームを受けて被告が出願した「リシュ活」商標が登録され、原告の登録異議すら切り抜けた、という実績もある。

「だからどうした、それはあくまで特許庁の判断。裁判所はまた別の論理で判断するだけだ。」と言われてしまえばそれまでの話ではあるが、本件で侵害を肯定する、しかも「検索エンジン云々」という謎の法理(?)まで使ってそういった判断を導いたことに関しては、おそらく商標に携わる多くの実務者が違和感を抱くはずだ、ということは申し上げておきたい。

結論として、損害論の場面では、原告の「1億円」という無体な請求が退けられ、弁護士費用を含めても認容額は44万3919円に留まっているとはいえ、侵害が肯定されたことの帰結として、標章使用の差止め、標章を付した広告・取引書類等の廃棄、ドメイン名の抹消登録等といったものが認められてしまったことで被告が受けたダメージは極めて大きい。

認容された一連の差止・廃棄請求に仮執行宣言が付されていないことからすれば裁判所にも迷いがあったのかもしれないし、幸いにも被告側は戦意喪失することなく高裁で引き続き争うことを表明しているから、この地裁判決がこのまま確定することはなさそうだが、なぜ大阪地裁はここまで必要以上に話を”面白く”してしまったのか。

本件が様々なメディアで報じられたタイミングと、「日本の知財訴訟をもっと活性化させよ!」と叫ばれていた時期は結構重なっていたから、よもやそれに刺激を受けて・・・ということではないとは信じたいが、いずれにせよ、「訴訟の場で派手な侵害認容判決が出ることによって世の中にもたらされるメリット」よりも、「想定し難い場面で侵害を認定されて実務が混乱に陥るデメリット」の方がずっと大きいと自分は思っているので*8、次のステップで今回の結論が美しくひっくり返ることを願うのみである。

*1:余談だが、一時期、かなり経過報道がなされていた割には今回の判決自体の報道は少なかった気がする。

*2:「リシュ活」の商標権侵害訴訟に関するお知らせ | 履修履歴活用コンソーシアム この判決文だけでなく、これまでの経緯が詳細に記載されている。

*3:特に恩田弁護士の記事は、この判決だけでなく商標を巡るリスク全般にも言及されていて、実務者にとっては参考とすべき内容が多いのではないかと思う。商標使用の「たかが」「されど」Vol.1~「Re就活」 ⇔ 「リシュ活」前編~|Toshiaki Onda|noteなど。

*4:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/994/089994_hanrei.pdf

*5:もっとも、判決が、被告自身の商標登録出願において第35類、第41類が指定されていたことも被告の主張を退ける理由の一つに挙げているのは、被告の出願が原告のクレームに対する防御的なものだと思われる(被告自身による「リシュ活」の商標出願は2018年10月27日に行われており、同年10月3日の原告からのアプローチを受けてなされたことは明らかである)ことを考えると、いささか酷な説示といえなくもない。

*6:実際、特許庁の審査段階では「取引の実情」が出願人が考えているほどには考慮してもらえないことが多い上に、未だに”称呼第一主義”が徹底されていることもあって、登録に至るまでの間に難儀することも多い。

*7:そして、製造者の手を離れた後は流通に委ねるしかない「商品」とは異なり、需要者の手に届くまできめ細やかにフォローできるのが「サービス(役務)」の特性でもある。こういうことを言い過ぎると、「そもそもサービス(役務)の世界で商標取っても意味ないのでは?」という話にもなりかねないのだが、それはさておき。

*8:これは商標の話に限らず、ではあるのだが・・・。

一回りした暦と刻まれた新しい歴史と。

早いもので、2021年も今年最初の東京開催が最終週を迎え、今年最初の中央GⅠが行われるタイミングとなった。

そして、そう聞くと思い出すのが、ちょうど1年前のこの開催日が、

「観客が普段通りに入場してレースが開催された最後の日」

だったのだな・・・ということ。

2020年2月23日、総入場人員50,985名。

次に東京競馬場に開催が戻ってくる頃には、少なくとも入場人員「ゼロ」ではないことを信じたい。

日曜日のレースの方は、「地盤沈下」が指摘されるフェブラリーSで、”大物”と言われて久しいカフェファラオが初のGⅠタイトル獲得。

また、個人的にはそれ以上に嬉しかったのが、来週に定年を控えた西浦勝一調教師が7歳馬・テリトーリアルで小倉大賞典を獲った、というニュース。

これまで長らく、「引退する調教師」といえば、「昔、騎手だった人」というのが自分の認識だったのだが、西浦師といえば、自分の年代からみれば「ヤエノムテキの主戦騎手」であり、騎手引退の時のエピソードも記憶にあるくらいの存在だから、「もう定年になられるんですか・・・」というのが正直なところ*1

どこかのWINSで眺めていた引退式からまさに四半世紀、それは自分自身のどっぷりとつかった「歴」ともリアルに重なるわけだが、その最終盤のタイミングで、長年手塩にかけて育ててきた馬が初めての重賞を掴んでくれた、というのは、実に嬉しいことだろうな・・・と思わずにはいられなかった。

来週になれば、さらに様々な思い出が胸をよぎるであろう「卒業」ウィーク*2

月が変わればルーキーたちが華麗にデビューするはず*3

観客こそまだ戻らないものの、暦が着実に一回りして、新しい歴史が毎週生まれ続けているというのは、ありがたい限り。

そういえば、昨年、「無観客突入」の週に行われ、”ドバイの悲劇”の布石にもなった「サウジカップデー」も再び順調に行われ、日本勢はサウジダービー、リヤドダートスプリントの2レースを制す、という昨年以上のフィーバーに湧いたし*4、その前日には昨年アクシデントで参加できなかった国際騎手招待レースに藤田菜七子騎手が参戦して好成績を収めてもいる。

いずれドバイで、オーストラリアで、と次々に海外でもビッグレースが組まれ、少なくともグリーンチャンネルの中では、名実ともに「平時」が戻る、ということになるかと思うと、何とか追いかけていく術はないものか・・・という気分にさせられるわけだが、才能ある馬と、それを支える人々だけでも我々の代わりに自由に国境を超えて飛んでくれ!というのが、今の切なる願いである。

*1:それは3年前に小島太調教師が勇退された際にも感じたことだが、騎手時代から「大ベテラン」の印象が強かった小島師とは異なり、同じ時期に調教師に転向された「西浦騎手」には「中堅」の方、というイメージも持っていただけに(あくまでイメージで実際の年齢はそんなに変わらなかったのだが・・・)、なおさら驚いたところはあるのかもしれない。

*2:時に蛯名正義騎手の引退、というのは、自分にとっても結構大きな節目かな、という気はする。ダビスタでも結構お気に入りで使ってた「海老正」。

*3:特に新人女性騎手が2名デビュー、というのが目下最大の話題になりそうだが、それが年の終わりにどうなっているか、というのもちょっとした見ものである。

*4:もっとも、欧州勢が目の色を変えて臨んできた歴代最高賞金レース・サウジカップには、日本GⅠ覇者のチュウワウィザードが参戦しても昨年の日本勢同様、全く歯が立たなかった。勝ったのが前年フルフラットの2着に甘んじたミシュリフだと聞くと非常に複雑な気持ちになるが(しかもそのフルフラット自身、帰国後は鳴かず飛ばす感があるだけに・・・)、これもまた「世界の壁」の一つなのだろうと思っている。

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