「同情」を超えた「共感」

日曜日の夜に飛び込んできた一つのニュース。
ただの芸能ネタ、と片付けることなかれ。
ここには、日本の多くの組織が抱える病巣と、それに直面した時にどうするか、という行動規範が明確に示されているのだから。

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この事件の特異性だとか、コメントの中にある「アイドル」とか「グループ」とかいったフレーズに目をとらわれてしまうと、どこか違う世界の出来事のように思えてしまうかもしれないけれど、個々のフレーズを変換して、「社長には」とその後に来るどうしようもない〝社長のセリフ”を、これを目にした人それぞれが、実際に上司等に言われたことのあるセリフに置き換えれば、途端に〝あるある”な話になる。

そして、

「この環境を変えなければまた同じことが繰り返されると思い、今日までずっと耐えて最善を尽くしましたが、私にできたことはほんのわずかなことでした。 」

とか、

「正しいことをしている人が報われない世の中でも、正しいことをしている人が損をしてしまう世の中ではあってはいけないと、私は思います。」

といった心にしみるフレーズ。

このコメントを発した人に比べれば、自分が受けた苦痛など、足元にも及ばないのだけれど、それでも、根底のところでは思いは共通している(と、自分は勝手に思っている)。

これから先、長い目で見た時に、「卒業」という選択肢が正しかったのかどうか、今の時点では誰にも分からない。
「アイドル」としてある程度名の売れた人であっても、フリーでソロになって苦戦する例はいくらでもある。
ましてや、我々のような、ステージに立つこともなくただひたすら組織の中で生きてきた、名もなき人間であればなおさらだ。

それでも、日本の組織にありがちな腐った体質、特に、「守り」に入った時の、理屈も客観的な周りの視線もお構いなしのどうしようもない対応*1に直面した時に、自分が前向きにその先の人生を生きていくための唯一の選択肢は、その組織から「Exit」することだ、ということを、彼女が改めて、世の中に広く教えてくれたような気がしている。

「たくさんの方が私のために自分の時間を削って、私のことを支えてくれました。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。今後は皆さんのご自身ために、楽しいことに時間を使い、幸せになってほしいです。みなさんが私に幸せになってほしいと願ってくれたように、私もそう願っています。」

という 美しい言葉を伝えられるほど、自分はまだ割り切れていないし、今もまさに戦いの渦中にいるのだけれど、「ほんのわずかなこと」でもできたと感じた暁には、悔しさを押し殺して、美しく去りたい。

今は、そんな気持ちで。

*1:これはアイドルグループだろうが、名の知れた、世間では比較的好感度の高い大企業だろうが、本質的に変わらない。残念なことではあるが。

つなぐ、ことの意味。

おかげさまで、というか何というか、いろいろとドラマチックな人生劇場を演じてしまった(しかもまだその渦中にいる)こともあって、毎晩、飲み会のオファーが絶えることのない幸せな生活(苦笑)を送っている。

行くたびに、前向きな話でも後ろ向きな話でも、その所々で来てくれた人たちを震撼させたり、共感してもらえたりする、というのは、それはそれでよいことだと思うのだけど、やっぱり自分としては、エグイ経験をしたからこそ、その場限りのネタで終わらせることなく、今組織の中にいる人たちには、自分の一種の自虐的な話を組織の「外」に目を向けるきっかけにしてほしいと思っているし、そうでない人たちには、組織の中にいる人間たちの苦悩に気づくきっかけにしてほしい、というのがあって・・・。

今は、内にどっぷり漬かりつつ、常に外に目を向けることは忘れずに生きてきた者にこそ、できることがあると思っている。
そして、ここで飛び出した自分の経験を通じて、「内」と「外」をつなぐことに、残りの人生を費やしていきたい。

そんな思いで、一日一日を生きている。

「新卒一括採用」の呪縛から解き放たれるとき。

ここ数年の迷走を見ながら、いつかはこうなるだろう、と思っていたが、この国にしては意外と早く事が決まったようである。

経団連は新卒の学生の就職活動について、通年採用を広げていくことで大学側と合意した。春の一括採用に偏った慣行を見直す。能力を重視した採用の動きが強まるなか、大学を卒業した後での選考など複数の方式による採用へ移る。自由な採用活動が広がる契機となり、横並びの一括採用と年功序列を象徴とする日本型の雇用慣行が大きく変わりそうだ。」(日本経済新聞2019年4月19日付朝刊・第1面)

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以下のフォロー記事をはじめ、いろいろとキレイな理屈が並べ立てられているが、どちらかといえばこれらは単なる「口実」で、経済界側の事情を端的に言えば、もはや各社一斉にスタートを切って学生を取り合う「新卒一括採用」だと、どこの会社も求めている水準の人材を必要数採れなくなってしまっている、ということ*1

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自分はもともと、”学業に配慮して”採用活動の時期に縛りをかける、という思想自体が、「大学の都合ファースト、学生の事情二の次」ということで大嫌いだったので、今回の見直しによって、そういった縛りが解かれ、「どの会社も必要な時期に必要な人を採用する、学生もそれに合わせて自分の進路を決めたいタイミングで動く」ということになるのであれば万々歳だと思う。

もちろん、今も昔も、「自分から意欲的に勉強して、意欲的に進路を決める」という学生が、決して多数派ではない、ということは十分理解しているし、これまでの一括採用が、多数派の学生たちを「シューカツ」という人工的な波に乗せることで「進路未決定者」を減らす、という効果を発揮していたことを否定するつもりはない。

「雇用慣行の変化」だって、一朝一夕に起きるものではないだろう。

ただ、「群がってくる魚を、多少粗くても大きい網で一気に囲い込んで連れてきて、何年か池の中で餌をやって育てて、見事に育った魚だけ大海に放つ(他の魚は衰えるまで池の中で面倒を見る)」というようなやり方が通用する世の中ではなくなっている、そういう現実を踏まえるなら、しばしの混乱、路線輻輳期があったとしても、いずれは、新卒(&+α)採用に関しても、「必要な人材を必要な時に取る」というスタイルが定着するはずだし、才気溢れた学生たちにとっても、採用する学生を細かい網の目でじっくりと吟味したい企業側にとっても、それがまさにベストなのだと自分は思っている。

今予定されている「2022年春」というタイミングで、自分がどこで何をしているかはわからないけれど、社会人生活の振り出しから四半世紀近く経って、ようやくこうなる、というのは、非常に感慨深い。それだけである。

*1:この点については、混乱が続いていた時期のエントリーでも予言(?)していたとおりである。生々しく語られる就職戦線の混乱。 - 企業法務戦士の雑感

場違いな「独占禁止法適用」議論に思うこと。

最近は日本でも国際的な潮流に(一周遅れで)乗っかって、あの手この手でメガIT企業を叩く動きが活発化しているのだが、今日も華々しく1面に見出しが躍った。

「個人データ乱用を規制  政府、IT大手に独禁法で 中小事業者保護へ新法も 」*1

この「IT大手に独禁法を適用する」という話は、決して今や珍しいことではない。
様々なWebサービスのプラットフォームが世界的に限られた事業者に集約されている状況が変わらない限り、取引相手方との力関係の格差も開いていく一方で、どこかで法が介入しなくては、という思いに駆られる人々が増えているのは、当然に理解できるところである。

だが、この見出しにちょっとした違和感を抱いたのは、出だしに書かれているターゲットが「個人データ乱用」だったから。

「乱用」?、「囲い込み」とかの話ではなく・・・? と思って読み進めていくと、記事のリード文でより強い違和感を抱く表現にぶち当たった。

「政府は巨大IT(情報技術)企業が個人に不利な条件をのませることに対し独占禁止法を適用する方針だ。無料メールや情報検索などのサービスは便利だが、IT大手の言いなりの利用条件になりやすく、情報や知識の面で弱い立場にある個人を保護する。」(前掲記事、強調筆者)

まてまて、独禁法って、そういう法律だったっけ? という素朴な疑問がわき出てくる。
記事本文に差し掛かると、より具体的に「優越的地位の濫用」(法2条9項5号)の適用を示唆する記述も出てくるのだが、

独禁法は取引の相手方に対し、企業規模や取引関係などを背景に、不利な取引条件などを押しつける行為を「優越的地位の乱用(略)」として禁じている。これまでは企業同士の取引が対象で、企業と個人の取引に適用したことはない。」(前掲記事、強調筆者)

と、この記事自体、これまでBtoC取引に「優越的地位の濫用」規制が適用されていないことを認めてしまっているし、仮に、「消費者」まで「相手方」に含まれると考えても、本来事業者間の競争関係に与える影響が考慮されているはずのこの規制類型に、どうやって「個人データの乱用」の話が結びつくのか、というところがあまり見えてこない。

記事の中にもあるように、個人データの取得・利用に関する様々な問題は、一義的には個人情報保護法で規制すべきだし、「個人情報の取り扱いの説明で、わざと長文にしたり、専門用語を使ったりして理解しづらくするといった行為」(前掲記事)を問題にするのであれば、消費者契約法や景表法、あるいは、民法に新たに導入される約款規制を前面に出した方がはるかに筋の良い議論になる。

ましてや、「規約などは問題がなくても、個人が不利な扱いを受けるケース」(前掲記事)を規制する正当化根拠がどこかにあるのか、といったことまで考えだすと、ますます訳が分からなくなるわけで・・・。

記事の中でもちらっと紹介されているように、この記事は公取委が17日に公表した「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査について(中間報告)」(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/apr/kyokusou/190417betten.pdf)を受けて書かれたものであることは間違いない。

そして、この中間報告書の中には、確かに「③デジタル・プラットフォームサービスの利用者(消費者)に対するアンケート調査」という項目も存在し、それに対する以下のようなコメントも残されている。

「デジタル・プラットフォームサービスの利用者の多くは,無料のデジタル・プラットフォームサービスを一方的に受けているだけではなく,自らも経済的な価値のある個人情報や利用データを提供しているという認識を持っていると考えられる。また,デジタル・プラットフォーマーによる個人情報や利用データの収集,利用,管理等について,懸念を有しているサービス利用者が多く,不利益を受けたと感じたことがある者も存在するところ,デジタル・プラットフォーマーがデータの収集,利用,管理等によって,サービス利用者に不利益を与える場合があると考えられる。公正取引委員会としては,このようなサービス利用者の認識も踏まえつつ,対消費者取引に対する優越的地位の濫用の適用の考え方について,引き続き,検討を進めていく。」(中間報告書16頁)

なるほど、ここには、無償のサービスであっても「継続した取引」と位置づけ、プラットフォーマー側の行為を、相手方に個人情報等の「経済上の利益」を提供させるものとして捕捉しよう(その結果、法2条9項5号ロを適用する契機が生まれることになる)、という担当官の意図が滲み出ているのは間違いない。

しかし、同じ報告書の中に出てくる、①オンラインモール運営事業者の取引実態に関するアンケート調査や,②アプリストア運営事業者の取引実態に関するアンケート調査の結果を受けたコメントにおける論点整理の明確さ*2と比較すると、まだまだ生煮えだし、そもそも「対消費者取引に対する優越的地位の濫用の適用の考え方」から検討を進めていく、というところからして、まだまだガイドライン等で「具体化」されるまでの道のりは長い、と言わざるを得ない。

BtoCの世界で支配的地位を占めるプラットフォーマーに対し、消費者側に一定の負担を強いる民事的規律(民法消費者契約法)ではなく、公法的規制により公的機関が直々に介入できる手段を増やしたい、という当局関係者の思いは十分理解できるところではあるのだが、いきなり「消費者」そのものにダイレクトに生じる不利益を是正するために「独禁法適用」にまで踏み込むのは性急にすぎないか、というのが、自分の率直な思いである。

*1:日本経済新聞2019年4月18日付朝刊・第1面。

*2:①に関しては、「独占禁止法上は,例えば,①オンラインモール運営事業者が,オンラインモールを利用せざるを得ない利用事業者に対し,規約の一方的変更による利用料の値上げなどによって,不当な不利益を与えていないか②オンラインモール運営事業者が,運営者と出品者の立場を兼ねる場合に,出店・出品の不承認,オンラインモール運営事業者として収集した消費者の個人情報や販売データの不公平な取扱いなどによって,自ら販売する商品と競合する商品を販売する利用事業者を不当に排除していないか③オンラインモール運営事業者が,利用事業者に対し,オンラインモールでの販売価格又は品揃えを他のオンラインモールと同等又は優位にするよう求めることなどによって,利用事業者の事業活動を不当に拘束していないか,といった点が論点になり得ると考えられる。また,競争政策上の観点からは,オンラインモール運営事業者と利用事業者の間における取引条件の透明性が十分に確保されていることが望ましい。そのため,オンラインモール運営事業者による運用や検索アルゴリズムの不透明さなどといった点についても論点になり得ると考えられる。公正取引委員会は,今後,このような観点から,オンラインモール運営事業者側の事情も含め,更なる実態の把握を行い,独占禁止法・競争政策上の考え方の整理を進めていく。」(報告書7頁)、②に関しては、「独占禁止法上は,例えば,①アプリストア運営事業者が,アプリストアを利用せざるを得ない利用事業者に対し,規約の一方的変更などによって,不当な不利益を与えていないか②アプリストア運営事業者が,運営事業者とアプリ配信事業者としての立場を兼ねる場合に,アプリの不承認などによって,自ら配信するアプリと競合するアプリを配信する利用事業者を不当に排除していないか③アプリストア運営事業者が,アプリストアを経由しないアプリやサービスの提供を制限するなどして,利用事業者の事業活動を不当に拘束していないか,といった点が論点になり得ると考えられる。また,競争政策上の観点からは,アプリストア運営事業者と利用事業者の間における取引条件の透明性が十分に確保されていることが望ましい。そのため,アプリストア運営事業者による運用の不透明さなどといった点についても論点になり得ると考えられる。公正取引委員会は,今後,このような観点から,アプリストア運営事業者側の事情も含め,更なる実態の把握を行い,独占禁止法・競争政策上の考え方の整理を進めていく。」(報告書13頁)と、明確に独禁法上の規制の対象となりうる論点が明記されている。

ビジネスで生き残るための「手打ち」

昨日の時点では、「これから始まるよ~」という雰囲気で記事になっていたクアルコムvsアップルの特許訴訟。

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だが、今日になって一転、全くトーンの異なるニュースが配信されている。

スマートフォンスマホ)向け通信半導体の知的財産をめぐり米国内外で訴訟合戦を繰り広げていた米アップルと米半導体大手クアルコムは16日、全ての訴訟を取り下げることで和解したと発表した。」(日本経済新聞Web 2019年4月17日 4:34 配信記事、強調筆者)

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この手の特許がらみのドンパチに関しては、自分の見方はずっと一貫していて、

「本業で伸びしろがなくなかった会社が、窮余の策として手を出すもの」

だと思っているし、それはこのブログでずっと書き続けてきたことでもある。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

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どんなに強い特許や豊富な特許ポートフォリオを持っていたとしても、それを振りかざして訴訟まで突き進むかどうかは権利者の自由。
そもそも自分たちの商売が順調にいっていれば、訴訟を起こすまでもなく市場での優位性を保って利益も上げられるわけで、コストをかけてまで特許訴訟のような結果の見えないリスクを負う必要はない。

だから、2年前に、このクアルコム対アップルの紛争が始まった、というニュースを聞いた時も、ちょっと前までは一世を風靡していた世界有数の半導体メーカーが、伸びしろの小さい成熟産業になりつつあるスマホの分野で、それを主導してきた「老舗」企業に最後の消耗戦を挑んできたな・・・という感想しか出てこなかった。

「次世代通信規格「5G」の開発を主導してきたクアルコムとの関係修復によって、ライバルに出遅れていた「iPhone」の5G対応が前進することになる。」
「両社は16日に出した共同声明で、世界中で提起された両社間の全ての訴訟を取り下げると述べた。アップルは2018年9月に発表したiPhoneの最新機種で停止していたクアルコムからの通信半導体の調達を再開することでも合意。クアルコムが持つスマホ関連特許について使用料などの条件を定めた6年間のライセンス契約を新たに結ぶことも明らかにした。」(前掲記事)

幸いにも、1ステージ進んだ技術を世の中が受け入れる機運が進み、「5G」という新たな鉱脈になりそうな材料が出てきたことが、こういう実務者的には極めて美しい形での決着につながったことは間違いない。

ここで手打ちをして紛争に区切りをつけ、再び新世代端末を世に送り出すビジネスパートナーに戻ることで、低迷気味だった業績も上向きとなり、会社も再び成長を遂げる。実に美しいストーリー。

ただ、いつか「スマホ」にだって終わりは来る。

再び断末魔の特許訴訟が展開されるのが、3年後なのか、5年後なのか、それとももっと先なのか、はわからないし、その時の「主役」が誰になるのかは分からないけれど、歴史はきっと繰り返す。それだけは心にとめておきたい。

「平成30年度重要判例解説」より(その1)

タイガー・ウッズ復活優勝の話を取り上げようかどうか迷った末に、
今日は、こちらのネタで行くことにする。

年に一度、このタイミングで公刊されるこの「ジュリスト臨時増刊」号。
ちょっと前までは、ある程度フォローしている分野では、自分の中の過去1年の記憶と照らし合わせて、これは載ってる、あれは載ってない、みたいな、ささやかな楽しみもあったのだが、ここ数年は碌々裁判例なんぞフォローしていなかったから純粋に新鮮な気持ちで読める。

個人的には、「判例百選」等に比べると、元々解説の情報量は多めだし、年を経るにつれてさらに字数が増えているような気がして、久しぶりに評釈的なものを読む身にはちょっと辛いところもあるのだけれど、やはり、各章の冒頭の解説(「○○判例の動き」)で一年のトレンドを追える、という点でも、個々の判決に対する解説の手堅さから言っても、これに代わるものはなかなか出てこないだろうな、というのが率直な感想。

・・・で、すべてに目を通し切れたわけではないのだが、自分の関心ジャンルの中で一番面白いな、と思ったのは、

「知的財産法5 報道映像の引用 /東京地裁平成30年2月21日判決」(解説:蘆立順美・東北大学教授)*1

だろうか*2

事件としては、原告であるテレビ放送局(琉球朝日放送株式会社)が撮影したニュース映像(沖縄国際大学に米軍ヘリコプターが墜落した事故について撮影したニュース映像)34秒分を、映画製作会社である被告(株式会社シグロ)が沖縄の歴史を描いた148分のドキュメンタリー映画の中に、原告の名称を表示することなく使用した事件で、原告の上映権、頒布権、氏名表示件及び公表権侵害に基づく上映行為差止め、損害賠償等の請求に対し、被告が引用(著作権法32条1項)の抗弁等を主張して争った、という概要のものである。

蘆立教授の解説では、「本件の特徴は、著作権者の表示がないことを指摘して、公正慣行要件を満たさないとの判断が示された点にある」(265頁)として、「公正慣行要件」をめぐる学説の状況(「絶対音感事件控訴審判決」に対する学説上の批判が中心)と、本判決及び控訴審判決の判断内容(とその論旨の違い)を紹介することに多くの紙幅が割かれており、それだけでも非常に興味深いものになっている。

第一審、控訴審を通じて、判決において、

「広く引用の事案一般に出所表示が要求されるわけではない」(265頁)

というスタンスが貫かれているのは間違いないだろうが、判決での理由付けが第一審、控訴審で微妙に異なっていて、どのような場合に「出所表示がなくても公正慣行要件を満たす」といえるか、を見抜くのはかなり難しいと思われるだけに、実務サイドとしては、やはり慎重に、「引用」を主張したい場面では「著作権者の表示」を徹底する、ということになるのだろう、と思ったところである。

また、本件では、結論として、第一審、控訴審ともに引用の抗弁の成立を否定し、原告(被控訴人)勝訴、となっているが、「4 残された問題」の中で蘆立教授が取り上げている「仮に字幕やエンドクレジットに著作権者名が記載されていた場合に、引用の抗弁が成立するか」という点についても、いろいろと想像力をかきたてられるところはある。

「報道映像については、事実の伝達のため、広く利用を認める必要性が肯定される一方で、著作権者に対する経済的影響も無視できないと考えられる。本件は、本件使用部分が合計34秒に過ぎないことに言及しているが、さらにどのような要素を考慮すべきであるのか、利用の必要性の高さや最小限の利用であること等を要求すべきかなど、なお検討すべき問題は残されている。」(265頁、強調筆者)

ちなみに、自分は、この解説を拝読して、事案そのものに関心を持ったので、最高裁Webサイトに公表されている判決*3にもあたってみたのだが、その中では、被告側が公開前に原告に対して映像使用許諾申請をしたにもかかわらず拒絶された、という経緯*4や、その後映像使用を発見した原告側からのクレームに対し、被告側が「本件映画における本件各映像の使用はフェアユースに当たり,映像を提供しない合理的な理由を原告が説明すべきである」と主張した、といった経緯も出てきて、実際にこの手の交渉を手助けしてきた者としては、いろいろ考えさせられるところも多かった。

今のところ、本件のステータスは「上告・上告受理申立中」となっており*5、このまま新しい判断が示されずに不受理で確定する可能性も高いのだろうが、もし最高裁で公正慣行要件について何らかの判断が示されるようなことがあれば、次の著作権判例百選では、「絶対音感事件」(東京高裁平成14年4月11日判決)に代わる、新たな「引用」のテーマの収録判例になるんじゃないかな、と思った次第である。

・・・ということで、まずは今年の重判より、「その1」ということで、記事をアップさせていただいた。
「その2」以降を書けるかどうかはわからないけど、他にネタがない日には・・・(笑)ということで、いくつかストックしておくことにしたい。

*1:ジュリスト臨時増刊1531号・264頁。

*2:タイトルには地裁判決のみが引かれているが、解説ではその後出された控訴審判決(知財高判平成30年8月23日)の内容にも言及されている。

*3:第一審判決http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/497/087497_hanrei.pdf控訴審判決http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/950/087950_hanrei.pdf

*4:原告による許諾拒絶の背景には、「原告が加盟するANN協定の第10条に「加盟社は,それぞれが取材したニュース素材を相互に交換するものとし,加盟社外には提供しない。」との規定があった、という事情もあったようであり、この点に関しては被告が反訴の中で「共同の取引拒絶(独占禁止法2条9項1号イ)」に当たる、という主張まで行っている。

*5:http://www.ip.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail?id=4981参照。

気が付けば、もう10年だもの。

今日の感想は、「長いお付き合いのある方と飲むお酒は美味しいね。」の一言に尽きる。

ちょっとした出会いから始まって今日に至る。
これまでも決して平凡な道のりではなかったし、
今まさに険しい道を歩いているのが自分の状況ではあるのだけれど、
それでも、また頑張ろう、と思える勇気をくれる人たちには、心から感謝している。

そして、きっと、新しい命が生まれるのと同じくらいのタイミングで、
自分の新しい人生も始まるのだろう、と思ったら、
他人事なれど、あと20年+αくらいは頑張らないと、という気持ちになったのであった。

いろんな意味で、心からのお礼をこめて。