「マルチョの女」

またしても大塚先生のブログからネタを拝借。
http://app.blog.livedoor.jp/hayabusa9999/tb.cgi/50330932


大阪地裁平成18年2月6日判決(山田知司裁判長)*1
JASRACこと社団法人日本音楽著作権協会が、
クラブの「大ママ」を相手取って起こした著作権侵害訴訟である。


被告の側がやっていたことは、

「午後7時から午後12時までの営業時間中、終始継続的に奏者を出演させ、奏者にエレクトーン又はシンセサイザーを演奏させて、この演奏を来店した不特定多数の客に聞かせたり、あるいは、これら楽器の演奏とともにカラオケ機器を作動させ、歌詞を文字表示させながら、客又は従業員に歌唱させている。」

といったことのようであり*2
演奏、歌唱させていた曲のほとんどが
JASRACの管理著作物だったというのだから、
これはほとんど自殺行為に近い。


「大ママ」こと被告・P1サイドの主張はたったの三行。

「被告は本件店舗を経営していない」
「本件店舗の経営者はP2である」
「したがって、原告の主張は全て否認ないし争う」

だが、ここで身代わり(人身御供?)となった「P2」は、
以前、JASRACとの間で成立した調停の当事者になっていたものの、
成立した調停や、締結した音楽著作物利用許諾契約に基づく使用料の支払いを
「全くしていなかった」という“前科”の持ち主であり、
その他の事情とあわせても、
P1が店舗を経営しているという認定は覆らなかった。


この時点で被告サイドとしては万事休す。
あとは、JASRACが“やりたい放題”である。


類型としては「クラブ・キャッツアイ」事件と同じく、
店舗側の侵害主体性を比較的認定しやすい事例だったのは確かだが、
裁判所はカラオケ法理を引くまでもなく、

①奏者をしてエレクトーン、シンセサイザーその他の楽器により演奏させる方法
②奏者による楽器の伴奏に合わせて客又は従業員をして歌唱させる方法
③カラオケ機器を操作して歌詞の文字表示を再生する方法
による、管理著作物の使用差止めの請求

を認めた上に、

④本件店舗へのエレクトーン、シンセサイザーその他の楽器類並びにマイク、アンプ、スピーカー及びモニターテレビ等の組み合せからなるカラオケ機器の搬入差止め

まで認めてしまった。


損害賠償については、将来給付請求も含めて認容している*3


そんなわけで、あまりにワンサイド過ぎて、
研究対象としてはさほど価値が高いとはいえないこの判決だが*4
ネタ的には非常に価値の高い判決となっている(笑)。


なぜなら、本件では「原告が依頼した調査員」が大活躍しているからである。


裁判所は、

①平成14年10月25日に原告が依頼した調査員が本件店舗に赴いて調査したところ、調査員が在店した約2時間45分の間に、26曲が演奏され、そのうち20曲が管理著作物であったが、そのうち2曲は調査員の求めにより演奏されたものであった。
②平成16年7月20日原告が依頼した調査員が本件店舗に赴いて調査したところ、調査員が在店した約2時間57分の間に、24曲が演奏され、そのうち18曲が管理著作物であったが、そのうち2曲は調査員の求めにより演奏されたものであった。
③平成17年2月10日に原告が依頼した調査員が本件店舗に赴いて調査したところ、調査員が在店した約3時間50分の間に、44曲が演奏され、そのうち26曲が管理著作物であったが、そのうち4曲は調査員の求めにより演奏されたものであった。
(太字筆者)

という事実を認定している。


また、原告は「調査員」2名を客として本件店舗に派遣していたようで、
その際に支払った代金は、
それぞれ、①5万円、②7万円、③7万円であることも認定されている。


冷静に考えてみよう。


ここで登場する調査員(おそらくは男性か)は、
高級クラブで綺麗(かどうか知らないが)なお姉さま方に酒をつがれつつ、
3〜4時間、ひたすら「演奏されていた楽曲」をチェックしていたのである。
彼らは「JASRACの者ですが〜」なんて間抜けなことは決して言わない。
あくまで客として振舞い、お姉さま方と艶やかなトークを楽しみつつ*5
JASRAC管理楽曲」が演奏されるたびに目をキラリと光らせて、
頭の中の記憶チップに曲目をインプットしていたのである*6


これは、まさしく「プロの仕事」である。


JASRACの調査員といえば、以前名古屋の事件で、
ダンス教室に潜入調査する、という活躍を見せたのが記憶に新しいが(笑)*7
こうして、時々、活躍している姿を我々の前に披露してくれるのは、
何とも嬉しいではないか。


故・伊丹十三監督がご存命なら、
きっと、「マルサの女」に続く「マル著の女」のシリーズ化を
思いつかれたに違いない。


民事上の請求では飽き足らず、
刑事告発も含めて全国各地にJASRACが攻勢をかけている現在、
なんともタイムリーな企画ではないか。


主役が男捜査員二人、というのでは何とも味気ないので、
若干脚色して、捜査員がクラブのホステスになるという設定はどうだろう。


キャストとしては、篠原涼子仲間由紀恵あたりをお勧めしておく。
大ママことP1は、黒木瞳が適役だろう。
若めで攻めるなら米倉涼子あたりでも面白い。
身代わりのP2役には、小日向文世あたりが良く似合う。
JASRACの担当者役には大杉漣
原告代理人弁護士役には伊武雅刀
被告代理人弁護士役には・・・・(以下略


世間に対する啓発効果も抜群と思われるこの企画、
JASRACの皆様には、是非とも実現すべく、
本腰を入れて取り組んでいただきたいものだと思う(笑)*8

*1:http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/caa027de696a3bd349256795007fb825/718ecfd745abd07a4925710d00229c04?OpenDocument

*2:以上、「原告の主張」による。

*3:1ヶ月あたり約10万円。

*4:もっとも、差止範囲の問題だとか、損害賠償論を考える上では一素材になりうるかもしれない。特殊な事例ゆえ、一般化して考えるべきではないのは言うまでもないことであるが。

*5:時には自らマイクを握って「恋人よ〜」などと熱唱しつつ。

*6:テーブルでメモなど取っていれば怪しまれるだろうから、席を外した際に曲目をメモしたか、あるいは30〜40曲分記憶していたのであろう。

*7:名古屋地判平成15年2月7日・http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/E44213A22F95789549256D39000E301F/?OpenDocument、この事件では潜入調査員による調査報告書の「証拠能力」が争われている。

*8:著作権法改正に向けてのロビー活動に労力をつぎ込まれるよりは、国民の福利厚生にも資するだろう(笑)。

トリノ五輪実況(その2)

カミカゼ・ボーダー失速

スノボ男子ハーフパイプ
日本勢が予選で全滅。


一見個人技の争いのように見えて、
チーム全体のノリが大きく影響してくる競技だから、
2本目に国母選手が失敗したあたりで、
こうなることは大体予想はできたのだが・・・。


最近のこの競技の“進化”のレベルをよく知らないので*1
あまりはっきりとは言えないのだが、
これは戦略ミス?、という感想を抱かざるを得ない。


成田童夢選手の一本目や、中井孝治選手の二本目は、
ほぼノーミスのように見えたが、
外国勢がバシバシ派手に1080(三回転)決めてくる中で、
一番の大技が二回転半、といった構成では、苦しいだろう。


数日前に、「予選で大技を封印して、決勝に賭ける」
というチーム方針がメディアで流されていたが、
女子モーグルのように五輪での過去の実績があるでもないこの競技で
そうでなくても採点のアドバンテージが期待できない日本勢が、
“技を温存する”余裕があるのか、と不思議に思ったものだ。


蓋を開けてみれば、やっぱり・・・といった感あり。


成田選手の二本目のように、
攻めてミスしたのは仕方ないにしても、
それなら、追い詰められる前に、
一本目から思い切って飛びたいだけ飛ばせてあげれば
違った結果になったのではないか、と思うと少し可哀想な気もする*2


五輪直前になって、あまりに期待を浴びすぎたせいもあるだろう。
“新時代の申し子”のように見える彼らも、
流れている血は日本人そのものだった、
というと言い過ぎだろうか・・・。


それにしても、ショーン・ホワイトは役者が違うね・・・。
決勝の1本目で途轍もないスコアをたたき出して、
あとは他の選手の自滅を待つだけ、という展開に持っていく。
予選の1本目、わざと失敗したんじゃないか、って思いたくなるくらい*3


これで19歳っていうんだから・・・orz。

*1:5年くらい前に見たときは、とりあえず高く飛んで、一回転すれば大歓声、といったレベルだったと思う・・・。

*2:国母和宏選手にしても、どことなくよそ行きの滑りに映った。

*3:決勝の1本目の順番を有力選手より前に持ってくるために・・・。

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