タイム・リミット

久しぶりに宇多田ヒカルの歌詞から引用。

賞味期限の過ぎた後の 夢の味は苦めですか
そうなる前に投げ出そうとはしないで
That's not what I'm saying
〜♪「タイム・リミット」作詞・Utada Hikaru

願ってもいないことに「願」の一文字が添えられた紙を出さねばならない皮肉。
20代も終わろうとしていたある秋の日からずっと、紡いできた「サクセスストーリー」に、自分自身の手でピリオドを打つ無念。


どう表現すればいいのだろう。この空しさを。



絶望にさいなまれたまま、ただ真っすぐに目指してたどり着いたその街で、空から降り注ぐ世界で一番美しい結晶を見て以来、いつかこの街で生きてやろうと心に誓った。


時間をかけて、身辺整理もちょっとずつ進めて、目標に向けての第一歩を踏み出すためのパスポートも手に入れて・・・、と、全てが順調に進んでいたはずだった・・・。



古くさい因習や権威主義は蹴飛ばしたいくらい大嫌いな自分にも、五分の人情はある。


窓際で定年までの日を指折り数えていた上司がささやいた一言。

「君の代わりはどこにもいない」

本当は、自分の代わりなんて、どこにでもいることくらい分かってた。赤紙一枚で、どこに飛ばされたっておかしくない身の上であることも。


だが、毎度毎度、襲い掛かる仕事の山に埋もれそうになる年度末、その一言は、たとえ小さな一歩でも躊躇わせるに十分な毒饅頭



物事にはすべからく、タイミングというものがある。


一歩目で躓いたことで生じた焦燥感は、二歩目の躓きで加速度的に胸を焦がし、最後の三歩目に向けての助走すら阻もうとした。

「今年もダメだろう・・・」

去年の秋くらいから、年が明けてもずっと自分を苛んだ諦めムードの中、それでも心のどこかでは飛べると信じてた。


でも、所詮はそれも幻・・・。



踏み出せなかった理由は、一言では説明できない。踏みとどまった理由もまたしかり。


足りなかったのは勇気なのか、根性なのか。
自分に取り憑いていたのは、将来に向けての漠然とした不安感だったのか、それとも無意識のうちに抱いていた、何かを失うことへの恐怖感だったのか、今は分からない。


職業人としても学徒としてもさしたる実績のない自分に、過分なまでの評価を授けてくれたこと、砂漠の向こうの漠然とした蜃気楼に過ぎなかった自分の夢に形を与えてくれたこと、そして、ともすれば慌しい日常の中に埋もれてしまいそうな、雪夜の誓いを希望の灯で照らし続けてくれたこと・・・・


そんな全てに感謝している。


だが、遠く離れたかの場所にたった一枚の紙切れが届いた瞬間、目の前に開けていたはずの一本道は閉ざされる。

たとえどんなに自分を取り巻く環境が変わっても、自分自身は決して変わらない。


常日頃から言い続けているその仮定が揺るがない限り、希望を捨てる必要はないはずだ。


いつかまたチャンスは来る。半年後かもしれないし、5年後かもしれない。10年後か、20年後か、はたまた定年後のライフワークか・・・。


それにやるべきことは目の前にたくさん溢れてる。倒さなければならない敵も、超えなければならない壁も、うんざりするくらい待ち構えている。ゆえに退屈な日常に飽きることはないし、この選択を悔いることも、恥じることもないはずだ。


それでも、空っぽになってしまった宝箱を目の前にして、呆然と立ち尽くしているような気分に襲われるのはなぜだろう・・・。

今日選んだアミダくじの線が どこに続くかは分からない
怠け者な私が毎日働く理由
ああ 両手に空を 胸に嵐を 
ああ 君にお別れを
ああ この海辺に残されていたのは いつも置き手紙・・・
〜♪「Letters」作詞・Utada Hikaru


最後に電話した時のやりとりが、始まりの時とはうってかわったような事務的なものだったのが、今の自分にとっては、唯一の救いである。

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