独禁法改正案閣議決定

いよいよ正式に閣議決定、国会提出のはこびとなった独占禁止法等改正案。


「審判制度改正とセットで」という経済界のお願いもむなしく、大幅な制裁強化が先行する展開となった。


法案の概要は、公正取引委員会のサイトに掲載されているが*1、「法律案要綱」を抜粋すると、以下のような内容となる*2

第一 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部改正
一 課徴金適用対象の見直し等
1 他の事業者の事業活動を排除することによる私的独占について、公正取引委員会は、当該行為を行った事業者に対し、違反行為に係る売上額に百分の六(小売業百分の二、卸売業百分の一)を乗じた額の課徴金の納付を命じなければならないものとすること。(第七条の二第四項関係)
2 正当な理由がないのに、競争者と共同して、ある事業者に対し供給を拒絶し、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限する等の行為について、公正取引委員会は、当該行為を繰り返した事業者に対し、違反行為に係る売上額に百分の三(小売業百分の二、卸売業百分の一)を乗じた額の課徴金の納付を命じなければならないものとすること。(第二十条の二関係)
3 不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって、商品又は役務を継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるものについて、公正取引委員会は、当該行為を繰り返した事業者に対し、違反行為に係る売上額に百分の三(小売業百分の二、卸売業百分の一)を乗じた額の課徴金の納付を命じなければならないものとすること。(第二十条の三関係)
4 正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるものについて、公正取引委員会は、当該行為を繰り返した事業者に対し、違反行為に係る売上額に百分の三(小売業百分の二、卸売業百分の一)を乗じた額の課徴金の納付を命じなければならないものとすること。
(第二十条の四関係)
5 正当な理由がないのに、自己の供給する商品を購入する相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束する条件をつけて当該商品を供給する等の行為について、公正取引委員会は、当該行為を繰り返した事業者に対し、違反行為に係る売上額に百分の三(小売業百分の二、卸売業百分の一)を乗じた額の課徴金の納付を命じなければならないものとすること。(第二十条の五関係)
6 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、継続して取引する相手方に対し当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させる等の行為について、公正取引委員会は、当該行為を継続した事業者に対し、違反行為の相手方との間における取引額に百分の一を乗じた額の課徴金の納付を命じなければならないものとすること。
(第二十条の六関係)
7 不公正な取引方法に係る定義規定の整備を行うこと。(第二条第九項関係)
二 不当な取引制限に係る課徴金の算定方法の見直し
1 課徴金の納付を命ずる場合において、当該事業者が、単独で又は共同して、当該違反行為をすることを企て、かつ、他の事業者に対し当該違反行為をすること若しくはやめないことを要求し、依頼し、又は唆し、当該違反行為をさせ、又はやめさせなかった者等であるときは、納付を命じる課徴金の額の計算に係る売上額に乗ずる率を百分の十五(小売業百分の四・五、卸売業百分の三)等とすること。
(第七条の二第八項関係)
2 その他所要の規定の整備を行うこと。
三 課徴金減免制度の見直し
1 課徴金納付命令対象事業者(不当な取引制限等を行った者に限る。)が次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、課徴金の額に百分の三十を乗じて得た額を当該課徴金の額から減額するものとすること。(第七条の二第十一項関係)
公正取引委員会の調査開始前に、公正取引委員会規則で定めるところにより、単独で、当該違反行為をした事業者のうち四番目又は五番目に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出(既に公正取引委員会によって把握されている事実に係るものを除く。)を行った者であること。
公正取引委員会の調査開始日以後、違反行為をしていない者であること。
公正取引委員会の調査開始日前に公正取引委員会規則で定めるところにより単独で当該違反行為の報告及び資料の提出を行った者が五に満たないときは当該違反行為をした事業者のうち次に掲げる要件のいずれにも該当する者(当該違反行為の報告及び資料の提出を行った者の数の合計が五以下である場合であり、かつ、2のアの当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行った者の合計が三以下である場合に限る。)であるときは、課徴金の額に百分の三十を乗じて得た額を当該課徴金の額から減額するものとすること。(第七条の二第十二項関係
公正取引委員会の調査開始日以後公正取引委員会規則で定める期日までに、公正取引委員会規則で定めるところにより、単独で、当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出(既に公正取引委員会によって把握されている事実に係るものを除く。)を行った者
イ2のアの報告及び資料の提出を行った日以後、違反行為をしていた者以外の者
3 違反行為(不当な取引制限等に限る。)をした事業者(会社である場合に限る。)が、公正取引委員会規則で定めるところにより、その子会社若しくは親会社又は当該事業者と親会社が同一である他の会社(以下「子会社等」という。)と共同して、当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行った場合(一定の場合に限る。)は、当該報告及び資料の提出を単独で行ったものとみなし、当該報告及び資料の提出を行った事業者の数の計算については、当該事業者とその子会社等をもって一の事業者とするものとすること。(第七条の二第十三項関係)
四 排除措置を命ずる手続、課徴金の納付を命ずる手続等の整備
公正取引委員会は、違反行為が既になくなっている場合において、当該違反行為をした法人事業者が合併により消滅したときにおける合併後存続し、又は合併により設立された法人等にも排除措置を命ずることができることを明確化すること。また、違反行為が既になくなっている場合における排除措置を命ずることができる期間を、当該違反行為がなくなった日から五年とすること。
(第七条第二項関係
2 違反行為をした法人事業者が公正取引委員会の調査開始日以後においてその子会社等に対して当該違反行為に係る事業の全部を譲渡し、又は分割により当該違反行為に係る事業の全部を承継させ、かつ、合併以外の事由により消滅したときは、公正取引委員会は、当該子会社等に対し、当該違反行為に係る課徴金の納付を命じなければならないものとすること。(第七条の二第二十五項関係)
3 違反行為が既になくなっている場合における課徴金の納付を命ずることができる期間を、当該違反行為がなくなった日から五年とすること。(第七条の二第二十七項関係)
4 その他所要の規定の整備を行うこと。
五 事業者団体届出制度の廃止
(略)
六 企業結合規制の見直し
(略)
七 外国競争当局への情報提供に係る規定の整備
公正取引委員会は、外国競争当局に対し、その職務の遂行に資すると認める情報の提供を行うことができるものとすること。
2 その他所要の規定の整備を行うこと。(第四十三条の二関係)
八 審判手続に係る事件記録の閲覧謄写請求に係る規定の整備
公正取引委員会は、利害関係人から事件記録の閲覧又は謄写等を求められた場合において、第三者の利益を害するおそれがあると認めるときその他正当な理由があるときでなければ、当該事件記録の閲覧又は謄写等を拒むことができないこととすること。
公正取引委員会は、八の1において謄写をさせる場合において、謄写した事件記録の使用目的を制限し、その他適当と認める条件を付することができることとすること。(第七十条の十五関係)
九 侵害の停止又は予防に関する訴訟上の救済を円滑化するための規定の整備
1 裁判所が、侵害行為の立証に必要な書類(当該書類の所持者において提出を拒むことについて正当な理由があるときを除く。)の提出を命ずることができるものとするとともに、当該書類の所持者が提出を拒む場合には、裁判所が事前に当該書類を見て提出義務の有無を判断する手続を導入するものとすること。(第八十三条の四関係)
2 営業秘密に係る秘密保持命令について所要の規定の整備を行うこと。
(第八十三条の五から第八十三条の七まで関係)
十 罰則規定の整備
(略)

第二 不当景品類及び不当表示防止法の一部改正
一 排除措置を命ずる手続の整備
公正取引委員会は、違反行為が既になくなっている場合において、当該違反行為をした法人事業者が合併により消滅したときにおける合併後存続し、又は合併により設立された法人等にも排除措置を命ずることができることを明確化すること。(第六条関係)
二 課徴金制度の導入
1 自己の供給する商品又は役務の取引について実際のもの又は事実に相違して競争者に係るものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示等について、公正取引委員会は、当該行為を行った事業者に対し、違反行為に係る売上額に百分の三を乗じた額の課徴金の納付を命じなければならないものとすること。(第六条の二関係)
2 その他所要の規定の整備を行うこと。

リーニエンシー制度のテクニカルな矛盾点の修正など、事業者側に優しい改正も一部行われているのではあるが、いろいろと議論のあった不当廉売や優越的濫用に対する制裁強化まで潜り込んでしまうなど、全般的に見れば、やはりいろいろと批判されるべきところはある中身だということができるだろう。


審判制度の見直しについては、

第三 その他
一 この法律の施行期日、経過措置等について定めること。
二 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の審判手続に係る規定について、全面にわたって見直すものとし、平成二十年度中に検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとすること。
また、この法律の施行後五年を経過した場合において、新法の施行の状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、必要があると認めるときは、新法の規定について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとすること。
農業協同組合法その他の関係法律について所要の規定の整備を行うこと。

と、一応見直すことが明言されているが、「一寸先はヤミ」の今の国会において、果たして次の立法機会がいつ訪れるのか分からない以上*3、産業界の不信感が募るのも故なきことではない。



なお、これまでほとんど取り上げられることはなかったが、独禁法にかかわる者にとっては極めて重要な改正も今回の案には含まれている。


再掲すると、

「不公正な取引方法に係る定義規定の整備を行うこと。(第二条第九項関係)」

のくだりで、制裁強化に対応してか、これまで一般指定に丸投げだった「不公正な取引方法」の条文中での定義が大幅に強化されている。

(9)この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
一正当な理由がないのに、競争者と共同して、次のいずれかに該当する行為をすること。
イある事業者に対し、供給を拒絶し、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限すること。
ロ他の事業者に、ある事業者に対する供給を拒絶させ、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限させること。
二不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品又は役務を継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの
三正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるも

四自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。
イ相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。
ロ相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。
五自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務購入させること。
ロ継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。
六前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの
イ不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。
ロ不当な対価をもつて取引すること。
ハ不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること。
ニ相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。
ホ自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。
ヘ自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は当該事業者が会社である場合において、その会社の株主若しくは役員をそ
の会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、唆し、若しくは強制すること。

今の国会に法案を出したところで何を議論するんだ? と揶揄する声もありそうだが、無駄なコストを費やさなくて良いように、きっちりと審議されることを願うのみである。

*1:http://www.jftc.go.jp/pressrelease/08.march/08031101.pdf

*2:全文は、http://www.jftc.go.jp/pressrelease/08.march/08031101-01.pdf

*3:この件に関して言えば、賛成しているのが民主党の方だけに、どう転んでも実施される可能性が高いとは思っているが。

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