先週あたりから、会社に舞い込む弁護士の講演、セミナーの案内に
「震災となんたら」
とか、
「震災後のなんたら」
といったタイトルのものが激増するようになった。
中には、「クライシス・マネジメントの第一人者」なる大仰な肩書とともに講師が紹介されているものもあったりする*1。
惜しげもなくYouTubeでセミナーを流してくれるサービス精神旺盛な某大手事務所がある一方で、ちゃっかりセミナー代金を徴収するところもあるから*2、担当者としては真贋を見極める眼力が求められるところだろう。
とはいえ、この時期、どの会社も震災に伴うダメージを多かれ少なかれ受けているのは間違いないわけで、その辺のニーズを的確に拾って、(中身が伴うかどうかはともかく)これからしばらく法務業界で大きな比重を占めるであろう分野の第一人者たらん、という心意気を見せる弁護士(事務所)が出てくるあたりは、この業界もまだまだ強欲だな、もとい、まだまだ捨てたもんじゃないな、と思うわけで。
そんな中、どの会社にも転がっている法律雑誌、「NBL」が、4月1日号に早々と「NBL Square」欄*3に「震災対応」関連記事を掲載している。
締切間際か、締め切り後に押し込んだのであろう、一つひとつの記事は、そんなに厚いものではない。
だが、多くの読者が定期購読している雑誌に、こういった記事をリアルタイムに載せる、ということはそれ自体意義のあることであり、そこは編集部の英断を高く評価すべきだろうと思う。
なお、記事の中で、個人的に印象に残った部分を以下でご紹介するとともに、若干のコメントを付しておくことにしたい。
上谷佳宏弁護士「内部統制・BCP・CSRの観点からみた震災対応」*4より
「CSRの観点に基づく支援活動が取締役の善管注意義務との関連で会社法上どの程度許容されるかについては、CSRの概念についての考えが固まっていないことから、悩ましいところではある。しかしながら、今回の震災のような大災害に際しては、企業は、逡巡しないで各社独自の合理的判断に基づき、早期に積極的援助行動をすべきであると考える。」
「過大支出として株主代表訴訟が提起されるのをおそれて、様子見、横並びをする状況ではない。」
真面目な会社であればあるほど、義援金支出や支援物資供出を決定する際に、「手続きどうすんの?」と気にしたところは多いのではないかと思う。
個人的には、「この状況で、“過大支出だ!”と後に株主代表訴訟を起こすような株主が出てきたとしても、そんなもん、裁判所も社会も相手にしないだろう」と思ったし、結果的にも(最低限の手続きはとりつつも)イケイケで進めたところは多いと思うのだが、上記のようなコメントがあると、なお心強い。
村上公一弁護士「震災が原因となる契約不履行について」*5より
「阪神・淡路大震災の経験では、建物の損壊をめぐる紛争が多発したため、その種の法律相談や裁判紛争の件数も増加した。ところが、震災によって契約の完全履行ができないという事態は無数に発生したはずであるのに、その種の裁判例はきわめて乏しい実情にある。」
「建物の損壊をめぐる紛争とは違って、契約不履行の問題では法解釈が比較的安定しているがゆえに権利義務に対する共通認識が形成されやすかったことも考えられるが、そのほかに、被災地における実際の問題解決として、当事者間の協議に基づき、履行の猶予、契約内容の改定、契約解除などをして円満な解決を図った例も多かったのではないかと想像する次第である。」
裁判例が乏しい、というのは、自分も今回の震災を機に、いろいろと調べている中で思ったことである。
そもそも契約書が存在して円滑な取引関係にある会社同士で、契約の履行をめぐるトラブルが裁判所に持ち込まれること自体が稀だし、さらに、裁判を進める中で(和解で決着することなく)判決まで出ること自体が極めて稀だから、公開される「裁判例」が少ない、というのもある意味当然のこと。
それゆえ、上記記事で言及されている理由には概ね納得するところが多い。
ただ、「震災そのもの」によるダメージよりも、「震災その後」のダメージ(物流の乱れや部品の調達難、さらには停電による営業支障や原発の影響など)が、じわじわと広がってきそうな今回の「大震災」でも、同じように上手に片付けられるのかどうか。
その意味で、今回の「震災後の危機」が長期化すればするほど、契約紛争と向き合う法務担当者のセンスも問われてくるのではないかな・・・と思う次第。
今後も様々なアプローチから、「震災への対応」をテーマにした記事が各種法律雑誌で取り上げられることになると思うので、それらに期待しつつ、自分の仕事に邁進することにしたい。
*1:「この人がこれまで言ってた“クライシス・マネジメント”って、いわゆる「不祥事」の方で、自然災害の話をしているところなんて、今まで聞いたことなかったなぁ」というのは、皆思っていることではあるが、どこの会社の人間にもそれなりのしがらみがあるから、大きな声では言いにくい(苦笑)。
*2:それでも、通常のセミナーよりは多少割り引かれている印象はあるし、下手にこの時期に無料でセミナーを開くと一瞬で満席になってしまって、真にニーズのある会社が聴講できなくなってしまうから、多少は代金をとって敷居を上げてくれた方がユーザーフレンドリーなのかもしれないけれど。
*4:NBL950号(2011年)7頁。
*5:NBL950号(2011年)12頁。