FC契約への現行法の対応は「限界」なのか?

最近、債権法改正の議論と平行して、いわゆる“非典型”契約に関する議論が湧いて出ることが多い。
17日付けの日経紙の法務面に掲載されていた記事も、その一つだと言えるだろう。

「FC契約、民法で対応限界」

という見出しで始まるこの記事*1は、

「小売店や飲食店などのフランチャイズ(FC)契約を巡る法整備の検討が必要だとの声が高まっている。」

というリードで始まり、商圏をめぐる問題や、情報提供義務をめぐる問題、更に契約終了時の解除、更新をめぐる問題等を取り上げながら、

「そもそも日本には、FC契約の法律上の定義や、内容に関する規定はない。」

と指摘し、

「契約の原則や単純な売買など基本パターンのルールを定めているだけの現状の民法では、適切なFC契約を促すことに限界があるとの見方が根強い」

という流れで、最後に「法整備を求める声が強い」ということを指摘してまとめられている。

確かに、今の民法には、「フランチャイズ契約」といった契約類型は、影も形も存在しない。
そして、記事の中でも指摘されているように、今の実務で用いられているフランチャイズ契約の多くは、賃貸借や売買、さらには準委任や寄託的な要素も含む、非常に複雑なものとなっているのは事実である。

だが、そういう状況であることをもって、直ちに「法整備」が必要、ということに果たしてなるのだろうか?

どちらかと言えば「現状維持」を求める声の方が強い一連の債権法改正をめぐる動きの中でも、自分は比較的“変化”を求めている方だと思っている。
非典型契約の典型契約化、という中間試案までは辛うじて生き残っていた論点に対しても、自分は当初、「やってもいいんじゃないか?」くらいなことは考えていた(特に、ライセンス契約などは、無体情報財の「利用許諾」という法的構成に関して、それがどういう性質のものなのかを明確に根拠づける規定が、基本的な法律の中に何も入っていないのはどうかな、という思いがあり、実際に具体的な条文案が出てくるまでは、賛成の立場だった)。

しかし、フランチャイズ契約に関しては、さすがにそこまでは無理だろうな・・・という思いがあったし、実際、中間試案に辿り着く前に改正の方向性が雲散霧消してしまったことを考えると、その判断は妥当だったのかな、と思うところである。

今回の日経紙の記事の中では、

「規制を懸念する産業界からの異論もあり、債権法でのルール作りは見送られた」

と書かれており、「規定設置見送り」が、あたかも産業界からの一方的な主張によりルール作りが葬り去られたかのように書かれているが、
仮に産業界が強く反対していなかったとしても、その後の議論で何らかの成案を得られるところまでたどり着けたか、といえば厳しかったのではなかろうか。

なぜなら、ひとえに「フランチャイズ契約」といっても、コンビニや飲食店など、業態によって基本的なルールは様々であり、それらを短期間のうちに全部取りまとめて法案を成文化しようとしても、どうしても“帯に短し、襷に長し”的な状態になってしまうと思うからだ*2

もちろん、「弱いフランチャイジーを保護したい」という思いから何らかのデフォルト規定を設けるべき、という考え方はありうるだろうし、それはそれで理解できなくはないのだけれど、それをいかに民法に設けたところで、当事者間の契約で修正されてしまえばそれまでの話*3

かといって、既存の独禁法等の競争法ルールを越えて、特別法で改めてルールを設けるほどの特殊性がこの契約類型にあるか、と言われれば、それもまた疑問なわけで、新たな規律を設けた場合の「副作用」等とも合わせて考えると、労力をかけて対応を講じる必要がどれほどあるのか・・・ということになるだろう。
それならむしろ、既存の法律の解釈をきちんと整理して、トラブル時に当事者が“武器”として使えるように磨き上げておけばそれで足りる話ではないか、と自分は思っている。

最近の全ての議論に言えることだが、「立法」を目指せ、という議論には、既存の法解釈や判例に対する議論を今一度きっちり見返す、という視点がどうしても抜け落ちてしまいがちなだけに、今回の記事も、そういった点は割り引いて読む必要があるだろうな、というのが、自分の率直な感想であった。

*1:日本経済新聞2014年2月17日付け朝刊・第17面。田中浩司記者担当。

*2:この観点だけ見ると、これは「約款」をめぐる議論とも、非常に関連性が強い問題のように思えてならない。

*3:フランチャイザーフランチャイジーの関係は、「消費者保護」のようなシンプルな話ではなく、あくまで事業者対事業者の関係なので、デフォルトルールを契約によって修正することに対して、直ちに外からの規制を及ぼすべき、ということにもならないはずだ。

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